表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
番外編1 デルからの使者
42/264

化けの皮

 ◆???◆



「――こんな時間にどこへ行くんだい?」


「ッ!?」


 ヴァリアー本館を壁伝いに、こそこそと移動している。そうとしか表現しようがない怪しい人物を、全身真っ黒の装束の、こちらも同等以上の怪しさを誇る人物が呼び止めた。


 呼び止められた人物は最初こそ驚き固まりかけたものの、しばらくすると平静を取り戻した。


「……いやぁ~、散歩ですよ散歩。そういうあなたこそ……って」


 呼び止められた人物の瞳が見開かれる。安心したように被っていたフードを脱ぐと、その赤毛が露わになった。


「あれっ、ヒガサさんだったんですか! もうっ、びっくりさせないでくださいよ~」


 アンナは砕けた口調で以前のように話しかけるが、一方の闇に紛れていた人物――ヒガサは静かな態度を崩さない。


 その眼が言っている。――安心するのはまだ早いよ、アンナ。


「こんな時間に散歩なんて、皆さんに心配かけるんじゃない?」


「てへへ。大丈夫ですよ、こっそり抜けだしてきて、こっそり戻りますから」


 フゥ。ヒガサはため息をアンナにも聴こえるようについて、わざと相手にプレッシャーを与えようとしているかのようだ。アンナは一歩後ずさった。


「君は国の名前を背負ってここに来ているんでしょう? 見習いだとしても、いや、見習いだからこそ。振る舞いはちゃんとするべきじゃないかな」


 反論を許さない正論に、アンナは俯く。「……そう、ですね」


「私も君を見つけた以上、ヴァリアーの隊員として責任が生まれてしまうんだ。君を皆さんの元まで送り届けないと」


 その言葉に、アンナは取り乱す。


「いやっ、それは……!!」


 ヒガサは黙って次の言葉を待つ。それは、何が来ても、それを打ち壊す準備をしてきている故だ。


「…………ダメです」


「どうして?」


「……………………」


「部屋に戻っても、お仲間さんは誰もいないから?」


「……!?」


 雷に打たれたように、アンナは顔を上げて、ヒガサの顔を見つめた。


 ――なぜ、それを。


 頭の中が混乱でいっぱいになる。――もし。もし、このヒガサという女が私の事情に精通しているとすれば、今まで自分が取ってきた行動にどれだけの不備があっただろうか。


「デルから来た技術者たちは皆、体調を崩しているんだよね」


「……どうしてそれを」


 どうにかそれだけを絞り出す。完全にこの女にペースを握られている。


 まるで蛇に睨まれた蛙だ。笑えない状況だ。


「10人全員がってことらしいけど。アンナ、どうして君はその“全員”から漏れているのかな?」


「……………………」


「単刀直入に言うけど、君はデルの人間じゃないね?」


「…………」


 ――全然単刀直入じゃないよアンタ。散々こっちの逃げ道潰しておいてよくもまぁ。


「君は外から入ってきた人間じゃない。元からこの壁の中にいたんだ」


「…………」


 何もせず無言でいる訳じゃない。覚悟を決める。


 ブーツの安全装置を解除する。目の前の女を倒すための準備を。


「ヴァリアーの中に不穏分子がいることは分かっていたけど、まさか君みたいな子が……」


「――いやぁ、こっちこそ夢にも思いませんでしたよ」


 覚悟を決めると、心に余裕が出てきて、私は反撃を始める。


「ヒガサさんがまさか、そんな高い地位の人だったなんて」


 初めて会った時から、第一印象から本当は気に食わなかった。余裕ぶりやがって。大人ぶりやがって。今にして思えば、その情報通、ヴァリアーの特権階級のものだったということじゃないか。けっ。


 ヒガサは、意外そうな顔をする。先ほどまでの消沈していた少女が、今や爛々と瞳を輝かせているのだから。


「ん、まあね……」


「でも、あなたが貴族だろうと王族だろうと」


 ――命がかかっている以上、止まれないんですよ。


 最期まで言う必要は無い。言葉をそこで切って、私は行動に移る。


 袖に仕込んでいた短刀を逆手に持ち、ヒガサに斬りかか、か、か。


 ――いつの間にか、私は地面に転がされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ