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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第2章 吸血鬼登場編 -アンダーリバーの黒ウサギ-
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第27話 それがレンドウなのだと

 いざ目覚めるとなると、俺は結構早い方だと思うのだ。パッと瞼を持ち上げると、至近距離にリバイアの顔があった。


「わっ」言いながら、驚いたように飛び退る水色に苦笑しつつ、身体を起こす。


 夢というのは不思議なもので、地面を踏みしめる感触も痛みも何もかも、覚めるまでは“もっともらしい感覚”に感じているものだ。


 そして、目覚めてみて身体を起こすと、「ああ、でも、やっぱり、こっちが現実だなぁ」と思うのだ。


 ――あの夜に、一度は破られてしまったルール。


 吸血鬼の里と治安維持組織≪ヴァリアー≫の関係修復の為、兄貴分であるゲイルや幼馴染のクレアと離れ、人間社会にて担保(たんぽ)……人質としての生活を送ることを選んだ。それがレンドウなのだと。


「――おはよう。ここはどこだ?」


 辺りを見渡す。直射日光は浴びていない。俺は今、古い木製の建物の中にいるらしい。背後には太陽が照りつけていて、この埃っぽい建物の出入り口だということを伝えてくる。


「こっちからも訊きたいんですけど……レンドウさん、何にも覚えてないんですか?」


 立ち上がると、最初とは反転してこちらを見上げる格好になったリバイアが問いかけてくる。


「えっ……っと。ちょっとまってくれ」


 まさか問い返されるとは。もしかして相当心配されてる?これに答えられないと医療班に緊急面談でもさせられちゃうの?


 ええと、ふむ…………思い出してきたぞ。


 確認のためにも、口に出して振り返ってみよう。


「エイリアに≪潜伏魔人≫がいるって通報があったから、番外隊で向かうことになったんだよな」


 エイリアというのは、ヴァリアー周辺の俗称だ。ヴァリアーの持つ力にあやかろうと、守ってもらいたい人間たちがこぞってこの周囲に住み着いたらしい。


 そのせいでいつからか大きな一つの町のように栄えてしまった一帯だが、名前が無かった。そのままでは不便なので、皆エイリアと呼んでいる。


 エイリアの語源は多分エイ語の「エリア」だろうし、そう考えると皆相当テキトーなんだな。


 リバイアは頷いた。


「合ってます。それで怪しい人たちが住みかにしているっていうこの建物に突入したんですけど、私たちが来ることが分かっていたんでしょうね。待ち伏せされていて、レンドウさんが魔人さんに何かされてしまったんです」


 ≪潜伏魔人≫ってのは言葉の通り、人間のテリトリーにて、自分が人間では無い種族であることを隠して生活している連中のことだ。


 俺個人の意見としては、迫害されることを恐れて大人しく生活しているというなら……彼らはどうでもいい存在なのだけども。どうやら人間たち――ヴァリアー――はそういう連中にも首輪を付けないと安心できないらしい。ビビりか。


 殺そうとまでは考えていないようだけど、ひっ捕らえてヴァリアーの中に一回連れてきて、個人登録をしたいんだとか。勿論、それなりの能力を持った魔人なら、ついでに勧誘もするんだろう。


 ……あと、弱みも握っておきたいだろうな。身内の命とかな。けっ!


 まるで自分たちの組織以外、力を蓄えた存在を許さないかのような体制だ。ったく。人間至上主義にもほどがあんだろ。


「そいつは一撃で俺を昏倒させたってのか? どんだけヤバい奴なんだよ……レイスは?」


「レイスさんは魔人さんを追って、奥の部屋に行っちゃいました」


 リバイアが指さす先を見ると、開きっぱなしの扉があった。そんなに広い建物に見えないんだが、どうしてこんなに静かなんだ。その奥の部屋とやらに、レイスと魔人さんがいるとは思えないぞ。いや魔人さんって。思考がリバイアにつられたわ。


「あいつ一人で太刀打ちできんのかよ」


 俺を一人で倒せる奴がいるなら、レイスもやばいんじゃねーのか。どうして一人で行かせたんだ……と言いかけて、やめる。


 大方レイスが魔人を追う時に「リバイアちゃんはレンドウを看てて!」とでも言ったんだろうな。俺の為に二人が動いてくれていたんだ。感謝こそすれ、悪態をついていい理由は無い。


「俺はどれくらい気絶してたんだ?」


 言いつつ、俺は腕を回したり、その場で軽く跳んで身体に傷が無いか探したが、全く問題なかった。というより、俺の身体のどこにも怪我はみられなかった。


「20分くらいですかね」


 少し離れたところからリバイアの声。奥の部屋を覗き込んでいる。「地下への入り口があります!」


 ふぅむ、随分と長い夢を見ていたような気がするんだが……現実時間はそんなもんなんだな。段々と夢の内容を忘れてきてるけど。


 急げばレイスに追いつけるか。いや、仮に戦闘になっていたとすれば、もう決着がついていてもおかしくない程度の時間経過な気もする。


 それよりも、地下への入り口か。なるほどな。道理で近くに誰の気配もしないはずだ。


「これはもしかして、結構凄い奴らのアジト見つけちゃったんじゃないか?」


「そ、そうですね……」


 リバイアの顔が青ざめているのが分かった。敵……じゃない。別に敵じゃない。でも向こうはこっちを敵だと思ってるか。とにかく、潜伏魔人達が徒党を組んで地下を拠点に生活しているのは不思議なことじゃない。


 一口に“人間社会に溶け込む”とは言っても、千差万別なのだ。


 角を帽子で隠しただけで人間のフリができるような連中は、別に日の当たる場所でも生活できるだろう。


 だが、一目で人外と分かる異形の連中は、地上ではより強い迫害の対象となる。そのため、薄暗い下水道に隠れ住み、盗みや強盗といった褒められない手段で生計を立てる者も多い。


 そういう意味では、レイスが今頃複数人にフクロにされている可能性はかなり高いと言える。リバイアは随分レイスにご執心のようだし、心配なんだろうな。


「ヴァリアーへの応援要請は?」


 俺らの所属する対策班番外隊は、リーダーであるレイスのみが携帯端末を所持している。そのため、俺の質問には「果たして今、応援要請を送れる状態にあるのか?」という意味も含まれていた。


 幸いなことに、リバイアはポケットから携帯端末を取り出してみせた。別れ際にレイスから投げ渡されでもしたか。


「もう済んでいます! もうじき到着されるはずです!」


 その言葉を聴いたとき、もう俺は次にどうするかを決めていた。


「よし、じゃあリバイアはここで応援を待ってろ」


 言うと、リバイアは「レンドウさんは?」と目で問いかけてくる。


 俺はそれにありったけの自信を込めて頷くと、地下への入り口を潜るのだった。


 ――さっきは不覚を取ったけどな。もう一切の油断はしねェ。


 吸血鬼の俺サマがまるっと解決してやるから、期待して待ってろ。

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