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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第1章 吸血鬼登場編 -吸血鬼と出会いの春-
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第15話 日傘

 ――魔人。


 そう呼ばれる、おとぎ話に出てくるような異形の生物がいる。


 彼らの中には人間にとてもよく似た生態の者もいれば、似ても似つかない者もいる。


 ただ一つ言えることは、彼らも人間と同じように生きているということだ。



 ◆レンドウ◆


 ああ、ったく。イライラする…………。


 ヴァリアー隊員憩いの場、大樽(おおたる)噴水広場。ヴァリアー基地外周にある、≪黒の牢獄≫と基地を挟んで真逆にある場所だ。間に基地があることによって、あの息が詰まるような外観の監獄が目に入る心配はない。


 中央に大きな壺を抱いた女性の像があり、その壺から水が滴り落ちている。その水の受け皿は円形の窪みで、全体を見ればすり鉢状の形をしており、中央へ集まった水は像の付け根から再び壺の中へ循環していく。見えない部分でろ過は徹底されているらしく、今日も水は綺麗だった。 


 外周部にある照明は夜になれば像をライトアップするし、その横にセットで置かれている噴水装置が、受け皿の中へ向けて水を飛ばし続けている。夜になるとその飛んでいく水にも色がつくので、中々にロマンチックだ。昼間は子供たちが無邪気に水遊びをする需要もあるため、水深は浅い。


 水回りだけでなく緑も管理されており、プランターに咲いた花や綺麗にカットされた植木も茂っているので、特殊部隊の訓練生がよく隠れに来ることでも有名だった。それを真似して子供たちもかくれんぼに使うようになったので、隠れ場所としてはお粗末になってきていた。が、逆にありきたりすぎて「え、まさかそこに隠れるとは思わなかった。探しとけばよかった」となるポイントでもある。あるよね~。とりあえずいないだろうと思っても確認しておくべき場所。王道。隠れ鬼なら尚更。



 噴水の前方にある四人掛けのベンチを単独で占領しているレンドウは、ストレスをためていた。いつものことだ。


 …………くっだらな。


 こんなどうでもいいことを延々と考えている、俺自身が一番くだらねェ。


 道行く人間が多すぎる。こいつらが全員魔物と戦う訓練を受けているって言うのか。冗談じゃねェぞ。


 いや、ぶっちゃけこの中の何人が俺サマの相手になれるかって話だが、中には“あの金髪”級のバケモンが紛れ込んでいるかもしれねェからな……。


 くそっ、考えても考えても憂鬱だぜ。何よりのストレスの原因が、今も俺の後ろに控えていやがるってのがぶっちゃけほんとにありえないと思う。


 何でいるんだよこのストーカー。


 レンドウはベンチにだらしなく肩を預けたまま、首を後ろにガクッと倒して後ろにいる人物を見やる。


 そいつは白い。白い髪の人物だ。まァ俺と同じように人間じゃないみたいだが。女たいなツラしやがって。ヴァリアー隊員に支給されるコートのうち、白いコートを好んで着る奴にロクな奴はいない。


 ってテキトー言ったわ。今のところこいつのせいでいい印象が無い。それだけ。


 俺の挙動に、不思議そうに首をかしげて見返してくるこいつは、あの夜、血みどろの戦いを繰り広げた相手にはとても見えない。戦える人間ってのは、もっとこう……。


「どうしたの、レンドウ?」


 そいつ――レイスが――あまりにも呑気に話しかけてくるもんだから、こっちとしても気が削がれちまう。お前、本当に殺しあった相手に恨みとか引け目とか感じないワケ?


「はぁ。お前がいつまでストーキングしてくるのかと、思ってこちとらナイーブなんだよ」


「いつまでかは分からないなぁ。しいて言えば上層部が、君が絶対に人間を襲わない信頼に足る人物だと認識したら、僕も任を解かれると思うけど」


 ……そんな日が来るとは思えないな。それにしても、人物と来たもんだ。こいつは自分自身も、そして俺のことも、人間だとでも思ってるのかね。


「君こそ、いつまでそこでだらだらしてるの? はやくここでの生活に慣れなきゃいけないんだし、ちょっとは施設を見て回ったりしようよー」


「眩しィンだよ!」


 叫びながら、腕を回すように周囲に指を突き立てる。


 そう、ただいまの時刻は午前10時すぎ。運悪く気持ち悪い快晴だ。これからどんどん日差しが強まってくるだろう。


 今俺が座っているベンチは、鉄筋に支えられた格子状の屋根と、それに絡みついたツタ植物の作り出す日陰にある。というか、だからこそ、ここでだらだらすることを選んだのだが。


「つーか、通り過ぎる奴らがチラチラこっちを気にしてくんのがイラつく」


「それは君がその髪色を選んだからだと思うよ……」


 レンドウは顔にも肩にも腕にもかかってくる自らの真っ赤な長髪を撫でた。


「髪を染めるなんて初めてだったが、俺的には割といい色になったと思うがなァ」


 ――人間組織の中で生活するにあたって、相応の身なりをしていただきます。


 またムカつく奴の台詞が脳内をよぎった。俺の天然の黒髪は、どうやら人間ウケが良くなかったらしい。人間たちからすれば魔人に特徴的な色は危険色ということなのか。


 提示された色の中で、妥協点として俺が選んだのがこの血色だったわけだが、これでも十分奇抜で目立ってしまうということらしい。くそったれ。オススメは水色とか言われたけど、死んでも嫌だね。


 治安維持組織ヴァリアーが俺につけた監視役のレイスは、どうやらこの組織内でも微妙というか、少々特殊な立ち位置にいるようだ。


 まず第一に、人間じゃない。それはこいつの両側の側頭部上にある小さな突起を見れば一目瞭然だ。簡単に言えば角が生えてらっしゃる。俺と同じで、こいつにも監視対象が必要なんじゃないのか。だって魔人だぜ?……そのくせ、上層部と強いコネクションを持っているらしい。


 しかも俺との戦い以降、“吸血鬼を無力化できる人材”として更に気に入られたようで、「対策班番外隊員Aのレイス」と言えば、もはや知らないものはガキしかいないってレベルの存在らしい。


 まぁ、一般のその他大勢の隊員や民間人、万人から好かれているかって言えば、必ずしもそういう訳ではないようだが……まぁ、魔人だしな。


 それなのに、こいつは「毎日生きてて楽しいです」って顔で過ごしやがるもんだから、俺としては不可解極まるってもんだ。


「僕も退屈なんだよね。君から離れる訳にはいかないんだし。ねぇ、僕の為だと思って商店街の方に行ってみようよ」


 それが本音かい。お前が買い物行きたかっただけかいな!


 ……なんでお前の為だと思えば俺が動くと思った?


「こうも日差しが強くなけりゃあなァ……」


 俺が怠惰な性格をしているというより(それもあるが)、天気が悪すぎるのだ。大体、吸血鬼が太陽大好きだと思ってんのか。


 断りを入れたつもりだったのだが、レイスは顔を輝かせ、ならば、「太陽さえ遮れればいいんだね!?」と攻め立ててきた。


 それに対し「ああ」と言うと碌な展開にならなそうだとレンドウは無言を貫くことにしたが、当のレイスは既に快諾(かいだく)を得たという体で辺りをキョロキョロ見渡し始めた。


 そして、興奮したようにまくし立てる。


「レンドウ、少しだけだから! ちょっとの間だけでいいから、ここでじっとしててね! すぐ戻ってくるから!」


 そう言い残して、小走りに駆けていく。


 いや、言われなくてもずっとじっとしてるつもりだし。すぐ戻ってこなくていいし。というかお前少しの間なら俺を野放しにしていいのかよ。少しってどんぐらいやねん。管理不行き届きじゃん。


 ……あいつがいないからって、別に暴れたりしないけどな。


 どうしてこんなことになったんだかなァ。


 吸血鬼の里にも居場所が無くなり。人間組織で実験材料として飼われることになって。大体、吸血鬼の里総出でも人間組織に勝てないからってどんな理由だよ。長があんな腰抜けだとは思ってもみなかった。いや、だが里の大人たちもそれを承知で従っているということなら、むしろ真に未熟なのは……。


 思索にふけっていたせいで、レンドウは目の前で立ち止まっていた人影に気付くのが遅れた。どうやら、「起きていますかー」というニュアンスの手の振り方を先刻よりされていたらしい。


「あン?」


 子供か。というか、この水色には見覚えがあんぞ。


「おはようございます」


「あァ……」


 礼儀正しいな。育ちがいいのか。この人間組織には教育機関があるのか?


 無統治王国ってことは、暴力を生業とする腐ったような人間しか育たないのかと思っていたが、そういえばここの人間に限っては大分まともな気がしないでもない。


「私、リバイアって言います。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるリバイア。その礼儀正しさの裏には、怖れがある。


「レンドウ」


 それが分かっているから、そっけなく名乗り返すに留めた。言葉が出てこなかった。


 ビビられてるってのは、もはや俺にとってはいい気分じゃないんだな……。


 吸血鬼の里から切り離された自分は、想像以上に他人との繋がりを求めているのではないか。レンドウは自らの変化に驚いていた。


「あの、レイスさんは一緒じゃないんですか?」


 そういう用か。


「さっきまではいたけどな。すぐ戻ってくるとか言ってどっか行っちまったよ」


「そうなんですか……」


 リバイアは、言おうか言うまいか逡巡(しゅんじゅん)する様子を見せたが、結局言うことにしたらしい。


「じゃあ、レイスさんが戻るまで私があなたを監視してもいいですか……?」


 それには、思わず吹き出しちまった。


「ぷっ……くくくっ……あはは」


「ど、ドウシタンデスカっ?」


 驚いて、まさかなにか失言をしたのかと硬くなるリバイアに対し、レンドウは隣を勧めることにした。


「いいぜ、ここ座れよ」


 足を広げるのをやめ、左にずれながら、心の中でまだ笑っていた。


 監視してもいいですかってなんやねん。くくくっ。誰が許可すんだよ、そんなの。


 こんなに小さな子供が、勇気を出してレイスの代わりを務めようとするとは、全く偉いこったな。果たして代わりが務まるのかどうかは……置いておくとして。


 さすがにこんな子供一人じゃ俺は止められねェよな。


 まてよ。そういえば最初に人間どもに捕まったあの日、俺に超威力のビリビリを発射したのは今思えばこいつじゃん。そういう意味では、充分な実力者ということなのか。


「お邪魔します」


 俺との間に、一人分隙間を空けてちょこんと座ったリバイア。


 特に向こうから話を振ってくるでもなく、しばし時間が過ぎてゆく。


 ……レイスの奴、全然すぐ戻って来ないじゃねェか。


「レンドウさんは」


 だしぬけに、リバイアが口を開いた。


 遠慮がちに下を向いたまま。なんか喋んなきゃ的なアレか。


「コードネームって決めました?」


 ふぅむ。コードネームか。


 ヴァリアーの隊員は、みなコードネームという、ヴァリアーの中で生活するときに使う第二の名を持っているらしい。それは局員のデータベースにも登録され、ここで生きると決めた人間にとってはもはや本名と変わらない役目を持つと言うが……。


 吸血鬼の里から切り離され治安維持組織預かりの身分となっている今の俺も、その例に漏れずデータベースに登録するコードネームとやらを早急に決め、提出しなければならないらしい。具体的には、今週中に。


「いや、まだ。絶賛考え中だよ」


 本当は半分忘れていたが、それをわざわざ相手に伝える必要はないだろう。


「お前はのリバイアってのはコードネーム?」


「はい、でも本名でもあるんですよ」


「本名とコードネームは、一緒でも構わねェのか」


「はい。昔の名前を隠したい人もいれば、何の負い目もない人もいますからね。皆の自由ですよ」


 リバイアの発光する髪と、そこから発せられた力を思い出しながら、レンドウは質問する。


「だけど、お前は人間じゃないよな。その名前は……」


「私が教育を受けたのはここに拾われてからですよ。この名前は、副局長様につけていただいた、とってもお気に入りの名前なんです」


 嬉しそうに口元を綻ばせながら言われてしまっては、口を挟む余地は無い。


 それにしても、副局長様ときた。


 副局長アドラス。俺はあいつにいい印象が無いんだが……。慇懃無礼(いんぎんぶれい)というか、底が見えなくて不気味というか。まぁ、部下から慕われてるってのはステイタスなのかね。


「そいつァ良かったな。なら、俺も本名でいいかな」


 軽い気持ちでそう言ったのだが、どうやらリバイアは賛成でない様子で、「あまりオススメできません」と言った。


「なんでだ?」


「ずっとここで生活して、ここに骨を埋めるつもりならそれもいいと思います」


 15歳かそこらの少女の口から、そんな言葉が出るとは思わず、ハッとした。


「でも、あなたがいつかここを出て故郷に帰ることを望むなら、本名で生活しない方がいいと思います」


 ……どういうことだ?


 いや、なんとなくわかるさ。


 この小さな女の子が大分頭がいいのは分かったが、何故俺が“ここを出る”だとか、出た後のことを心配してくれるってんだ?


 その時が来たなら、要するに俺は治安維持組織預かりの身分ではなく、再び人間の敵に戻るということだ。何故そんな人間にとって望まない未来の心配をリバイアがするのか、それが分からない。



 ――あ。



 そうか。



 ――人間じゃないからか。



 リバイアを見る。いつからか、少女もまた俺を見据えていた。


「私、考えたんです。自分なりに、魔人と人間が仲良くできる方法を。でも、どうしても吸血鬼さんと人間が犠牲なしに仲良くできる方法が浮かばなくって……」


 後半につれ声を震わせるリバイアに、なんと声を掛けて良いのか分からない。


 やめてくれ。


 最近気づいたんだが、他人の為に心を痛める奴を見ると、俺の胃がキリキリ痛むんだよ。


「……俺も頭良くねーから分かンねェよ。でも、他人のことでそんなに悩む必要ないんじゃねェか……」


「そんなこと言わないでください。レンドウさんは、人間と仲良くしたいって思わないんですか?」


 その一言は、少なからず俺に刺さった。刺さらなかったとは言えない。


 里の仲間と離れ離れになり、心細くなった今の俺に、他者に対する承認欲求が無いとは言えない。むしろ、こんな自分がいたのかと、驚きっぱなしの毎日だ。


 ともすれば容易く籠絡(ろうらく)されてしまいそうな薄弱な意思を辛うじて留めているのは……罪悪感か。


 俺が今ここに存在するために、消費されただろう人間の数を思えば……今更人類の友達面などできようものか。


 人間だって、吸血鬼と仲良くしたいと思ってるやつがどれだけいるか。皆無だろ、そんなの。


 そんなの、もう俺だけの問題じゃない。人類と吸血鬼の問題だ。俺一人に背負い込ませんじゃねェよ、そんな難題を。


「……………………」


 だが、もし。


 もし俺個人として考えて良いなら。他の吸血鬼たちのことを全部忘れて、全ての人間との間にあるしがらみを全部取り払えたなら。


 その時俺は、どんな結論を出すのだろう。


 俺が黙ってしまったためか、リバイアも黙したまま、別な方向をふいと向いてしまった。


 手持無沙汰になって、天を仰いだ。


 俺はこれからどうやって生きていくんだろう?


 気まずい雰囲気の中、考えるのも嫌だが考えざるを得ないことを悶々と頭の中でかき回していると、急に視界が暗くなった。元から日陰にいたのだが、一気に、ガッと暗さが増した。


 どうやら、俺の上に日傘を被せた人物がいるらしい。


「キミが最近入った吸血鬼だね?」


 一度聴いたら忘れられないような、よく通るハキハキとした声だった。


 女性にしては少し低めだが、性別の誤認は多分ないだろうな。「そうだな」と返答しながらそちらに目を向ければ、ウェーブがかった紫色の髪が目を引く、妙齢の女性が立っていた。後ろ髪を縛っていて、黒いドレス(?)を着ており、手には真っ黒い日傘。


 どこの貴婦人ですか何帰りですかアナタという出で立ちだった。


 というか、こいつ下手すれば俺より目立ってるんじゃなかろうか。むしろ俺なんて大したことないんじゃ……。


「はじめまして、私は≪ヒガサ≫。よろしくね」


 ヒガサ…………コードネームか?


 そのまんまだな。いつも日傘持ってますよってことか。


 え、そういうつけ方なのか、大体の人は。


 そんな単語一つがコードネームの奴があふれかえったら、日常会話の中でややこしい事態が増えそうな気がするんだが。「おーいそこの3人、≪今日は≫、≪いい天気≫、≪だなあ≫、集まれ!」みたいな。キョウハさんとイイテンキさんとダナアさん。


 嫌すぎるだろ、そんな世界。


「……レンドウだ。よろしく」


 くだらないことを考えすぎて、返答のタイミングを逸してしまうところだった。危ねェ。


「レンドウ君ね。うんうん」


 俺の返答に満足そうに頷くヒガサ。「やあ、リバイア」「おはようございます、ヒガサさん」


 と、そこで何も考えずナチュラルに本名を教えてしまったことに遅ればせながら気づいたワケだが……まァ仕方ねェか。


 とか考えていると、いつの間にかヒガサが俺の顔に手を伸ばしていた。薄く長い手袋をしている。これまた黒で統一しやがって。うらやましいなクソ。


 反射的に、その手を払って相手を睨みつけてしまう。


 しまった!と思ったが、


「おっと」


 ヒガサは素早く手を引っ込めて、それを避けていた。


 反射的な動きだったので、必要以上に相手を傷つけてしまうかもしれないと思いヒヤっとしたが、こいつは……できる奴なのか。とても戦うタイプには見えないが……。


「いや、頬の傷が気になってね」


 と弁解したヒガサ。


 そうだ、身体に傷はつけなくても、心に傷をつけてしまった可能性はある。


「ワリィ……クセで」


 言いながら、自分の頬を触る。また少し血が出ていたのか。傷口が開いていたようだ。金髪野郎(ダクト)の靴の踵に仕込まれていた、刃の置き土産。


 ヒガサはむしろ、吸血鬼である俺が殊勝な態度を取ったことに驚いた様子だった。


「こちらこそ、人間慣れしていないだろうに、いきなりすまなかったね」


 どこからか絆創膏を取り出すと、それを“剥いてから”レンドウに手渡した。


 剥いてから渡すことで、「無駄にするな、絶対使えよ」という意味を加えているのか。やり手だな、と思った。あと、剥いたゴミは彼女が持ち帰ってくれるらしい。やさしいかよ。


「私はもう帰るから、この日傘は貸してあげるよ」


 ナヌ、と言う間もなくヒガサは俺に日傘をグイッと押し付けると、ヴァリアー基地入口の方へ歩き出した。「沢山持っているから、返すのは全然急がなくていいからねー」振り返らずに手を振ってきた。


「お、おう……」


 かっこいいな。あの振り返らずに手を振るっていう行為、俺もやってみたことあるけど結構勇気いるよな。キザだよな。一番やってて思ったのは「これちゃんと後ろの人見てくれてるかな?」だった。あと前方にいる人が「俺に向けて手ェ振ってる?」っていう顔してくると顔から火が噴くほど恥ずかしくなるよな。


「レンドウさん」


「なんだ」


 リバイアが手を差し出してきた。


「自分じゃ貼り辛いでしょうから、貼ってあげます」


 ありがたい申し出だ。今俺は両手がふさがっているしな。右手に日傘、左手の人差し指に絆創膏がぷらーんとぶら下がっている。


 ううむ。


 ……リバイアと二人きりで気まずい雰囲気だったのを助けてくれたという意味でも、ヒガサには感謝しないといけないな。


 ともかく日傘を手に入れ(ああ、紛らわしい!)、これで日光対策は完了した。


 残念ながら、外出する準備が整ってしまった訳か。


 ……早く、レイスさえ戻ってくればだが。

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