第156話 テンペスト、怖ッ!!
◆レンドウ◆
……それが、この世界の成り立ち。この世界の、真実だっていうのか。
謎の上位存在に、それから力を与えられた金竜。
知的生命体が棲む、こことは別の星……チキュウ。
この世界に元から棲んでいたのは、今となっては人間に押されかかっている、魔人の方だった。
いや、俺の知る世界の外にもこの惑星には大陸が残っていて、そこには人間しか暮らしていない。
名実ともに、ここは人間の星になったのだと。
にわかには信じがたい話だが…………それでも、信じなければ始まらないのだろう。
これから始まる人間たちとの和平条約に向けて。……もしくは、それが失敗した先に待つ、劫火との決戦に備えるために。
俺たちはこの世界のことを正しく知り、龍を理解し、備える必要がある。
「その、俺と同じ名前の魔人がいたってのも気になるけど……」
「それは全くの偶然だろうって話だったでしょ? 今言ってもしょうがないよ」
俺の呟きは、レイスにやんわりと潰されてしまった。
……あのなァ、そこしか言葉にしなかっただけで、他にも色々と考えてたんだぞ、俺だってなァ。
拗ねてずっと黙っちまうぞちくしょう。
レイスはそんな俺の様子を見てため息をついた後、魔王に向けて手を挙げた。
「魔王様、気になる点があるんですが……」
「何だろう?」
「先程の話であなたは、原初の能力者であるその龍は、現在の金竜である……ドールさん? の祖先だと仰いましたね」
「うむ、そうだね」
「ということは、その初代金竜さんは亡くなっていて、かつ新しい金竜さんが生まれているということですよね。初代金竜さんがどのように亡くなったのか。また、新しい金竜さんはどのように生まれたのか。それを教えていただきたいです」
魔王は、手をポンと打った。劫火に腕を斬り飛ばされた関係で、青白い肌が露わになっているのが少し滑稽な感じがするな。
「とてもいい質問だね」
……というか、衣服は焼かれてボロボロだし、左足も膝上から露出している。魔王サマよ、新しいお召し物にお代えになった方がよろしいのでは……?
「初代金竜は……自死を選んだよ。自分の能力が発端となり、世界を混乱に陥れてしまったことを悔やんで。それに、自分が死ねば……テンペストやルノードの気が、少しは晴れると思ったんだろう」
それは……悲しい話だな。魔人……ワールド人の科学者たちに利用された挙句、自責の念に駆られて自殺してしまったなんて。
やっぱり、サイエンティストって碌なもんじゃないな。いや、そいつらがマッドサイエンティストだったってだけなのかもしれないけど。
「龍という存在は……そう簡単に自殺できるものなんですか?」
「……いや、そう簡単にはできないね」
レイスの言葉を、魔王は否定した。
「今の私と同じさ。龍脈エネルギーが残存しているうちは、そう簡単には死ねない。だからこそ、長い時間を掛けてエネルギーを消耗させていくのさ。その先に、ようやく自刃の意味が生まれる」
「なるほど……」
「それで、どのように次なる金竜が生まれたかだね。――二代目の金竜に選ばれたのは、初代金竜が創り出した、眷属の一人だった」
眷属……つまり、劫火で言うなら……アニマの立場にある者ってことだな。
俺だって、劫火に何かあれば龍になる可能性が無い訳でもないってことか? それが“里の後継者候補”という意味なのだろうか?
「あぁ、勘違いして欲しくないのだが。選ばれたと言ったけど、恐らく上位存在に選ばれたのだろう……という意味で、初代金竜が次なる後継者を指名していた訳ではないよ」
そもそも私や初代金竜を含めた全員が龍に対して無知であり、全てが手探りの世界だからね、と魔王は付け加えた。
そりゃあそうだろう。なんたって、自分たちが初めての龍という存在になった連中なんだもんな。色々予想して試して、間違ってたり、合ってたりして。少しずつ、自分の手に入れた力について調べ上げて行ったんだろう。
俺もつい最近、自分が炎を操れると解った後から色々試してるからな。ちょっと分かる気がするんだ。
まぁ、俺の場合はワクワクしながら調べてて、対する龍たちは恐る恐る調べてたんだろうけど。
「金竜は長い間、人間に……元地球人に対して、償いをしたいと考えていた。……果たして、その考えが龍の力とともに眷属にまで継承されたのかは定かではない。だが、今日まで代々の金竜は、一貫して人間に味方し続けている」
……途方もない話だな。1000年近く経った今でも尚、人間に対しての贖罪を、種族ぐるみで続けているって……種族ぐるみ?
疑問が出てきたので、俺も訊いてみることにする。
「あの、魔王サマ。その金竜が創った眷属はどれくらいの数いるんですか? そいつらにも、アニマみたいな種族名があるんですか?」
「種族名は……オーロスと呼ばれていたね。だけど、数はそこまで多くはなかった。10人程度だったかな。人間をモチーフに、金竜の因子を持って生まれた生命体……彼らは、人間との親和性が高かった……ふむ」
魔王は、俺達一行の顔を見渡して、口元に手を当てた。
「純粋なオーロスはすぐ歴史から消えたけど、彼らと人間の間に産まれた子の血筋は、イェス大陸全土に広まっているはずだ。……けど、君たちの中には金竜の気配は感じない、かな」
なんだ、誰もいないのか。人間との間に産まれた子、というフレーズを聴いた時点で、てっきり金髪のダクトあたりにはその血が入ってるんじゃ? と少し思ったんだが。
「純粋なオーロスでなくなっても、彼の血を引くものであれば龍の資質を持って生まれる可能性はある。憑依体となるにも、その資質は必用だ。つまり――、」
魔王は、自分の考えに自分で頷いた。俺とは比べ物にならない速度で頭を回転させて、色々考えてるんだろうなァ。
……色々考えてるんだろうなってフレーズ、最高に頭悪いな。
「――ルノードの言っていた、ヴァリアーのピーアさんという人物は、恐らくはオーロスの血を引いているんだろう」
「なるほどなぁ。でも、別にオーロスの血を引いてるってこと自体は、別に凄ぇことでも何でもないんですよね?」
と質問したのはダクトだ。魔王は頷いた。
「うん、それ自体は何でもないね。血を引く者の中で、たまたま金竜の力に適性を持っていた場合のみ、世界にとって重要な意味を持つ」
ま、そんなもんだよな。英雄の血を引いているってだけで、その子孫が全員英雄になる訳ないもんな。
「ダクト、お前もしかしてさっき、自分がオーロスの血を引いてるかも……とかちょっと思った?」
思い付きで言ってみると、ダクトは嫌そうな顔をした。
「……悪ぃかよ」
「いや、別に。俺もお前がそうかもしれねェなって思ってただけだよ」
きちんと最後まで説明すると、ダクトははにかんだようだ。……やっぱり包帯のせいで分かりづらいけど。
誤解されないように、自分の考えをきちんと言葉にするって大事だな。
こういうところを気を付けていけば、俺はもっと沢山の他人と仲良くなれそうな気がする。
「初代金竜が自殺してから、そう時間を置かずに新たな金竜が発生したことを踏まえても……同時に同じ属性の龍は複数存在し得ないのだろう。上位存在は、この世界に龍を生み出すことにより、何かを調整しているのかもしれないね」
こんなところかな、と魔王は言った。
「あ、じゃあ……次の質問、俺からいいですか」
「勿論だよ」
次に声を上げたのは大生だった。
「……先程の話だと、同時期にテンペストさん、ガイアさん、ルヴェリスさんの3人が一度に龍になって戦った、という感じでしたけど。その場合、竜門はどうなるんですか? その場に一気に3つも重なって出現して……?」
あァ……? そうか、この地下深くにある空洞のような空間が、龍になった瞬間に生成されるのだとすれば……初代金竜がテンペストに襲われた現場は、穴ぼこだらけになってそうだよな……くくっ。いや、笑っちゃダメなところか?
「え、いや、そう……ではないよ。ふふっ……」
魔王もその場面を想像して、少し笑ってしまったようだった。じゃあ、いいのか。
「龍はそれぞれ竜門を一つ持つものだ、と言ったね。でも、竜門というのは、龍になった瞬間から持ち合わせているものではない。自分の意思で、自分の命を削って生み出すものなんだ」
そう言って、魔王は竜門の根を指さした。
「命を削ってと言ったけど、それでも必須のものだね。これを作らないと、龍脈エネルギーを摂取できず、身体を維持できなくなってしまうから。……と、ここら辺は龍としての力を得た時から、感覚で分かっていたことなんだけど。竜門は、おいそれと創り直したり、移動させたりできるものではない。私なんかは、かなり無理をしてこの島まで竜門を運んできた訳だけど……」
――まぁ、間違いなくそれは無茶の類だよな。
引っ越そうって思った時、元の自分の家を頑張って運んで行こうなんて……普通考えねェぞ。
「まぁ、私とガイアに関して言えば、テンペストによって大陸西部に追い込まれた際に元の竜門を捨て、新しく作り直すことになった訳だけどね。それによって、大分力を消耗させられたよ」
もしかすると、それによって魔王ルヴェリスと地竜ガイアは弱体化しているのか?
「なるほど……解決しました」
大生がそう言うと、しばらく沈黙がその場を支配した。
魔王は次なる質問者が現れないかと、黙って待っていたんだと思う。
俺だって疑問が無くはないけど、どれも他の人からすればくだらないものな気がして、じゃあ別にいいか、って感じだ。
「うむ、では、次は私が聞き手に回る番かな。……大生君、君が知る、地竜ガイアについての話をお願いできるだろうか?」
「あ……はい、わかりました。んんっ」
大生は咳払いしてから、この場では彼だけが当事者となる物語を語り始めた。
「まず、俺は冒険者ギルドの指導者である、エサイアス団長に拾われて――、」
サンスタード帝国の援助を受け、土神の塔というダンジョンに挑んだ、冒険者ギルドの話を。
不思議な力を持った、最愛の師匠と地竜ガイアの物語を。
「あの時、『10年前、イーストシェイドと帝国を襲ったテンペストも。5年前、塔の頂から世界へ宣告したガイアの声も、誰も話題にしなかった。もう、この世界に私以外に竜を視て、聴ける人はいないと確信したんだ』と。師匠はそう言っていました。……これはどういうことなんでしょう」
大生の質問に、魔王はううむと唸った。
「……恐らく、悲しい行き違いがあったのだろうね。それは4年前の出来事だから……14年前のテンペストによる帝国への襲撃については、隠蔽の魔術の元に行われたものだろう。竜に親和性を持つイデアさんには見えていても、周囲の人間には竜巻などの天災にしか見えなかったのだろうね。また、9年前のガイアによる宣告もそうだ。ガイアの言葉は、音では無く念によるものだった。世界に混乱を招かぬよう、サンスタードをはじめとする各国の王家にのみ伝えるつもりだったのだろう。王家の人間には、基本的に龍の声が聴こえる者がいるものだからね。イデアさんはそれに気づけず、自分以外に誰も龍の存在を知覚できるものがいないと思い込んでしまった。それ故に、歪んでしまったのだろう」
「なる、ほど……わかりました」
念話……か。そうなると、マリアンネと同じ街で暮らしていた頃、記憶を失う前の俺は。……その地竜ガイアが世界に向けて放った言葉とやらを聴いていたんだろうか?
余談だが、と魔王は続ける。
――14年前のテンペストによるサンスタード帝国襲撃は、親魔人派の人間が皇位を継承することを嫌い、殺害するためのものだったという。
「また、9年前のガイアについてだが。彼女は人間と魔人が手を取り合っていける世界を目指している人物だ。あの時は、人間が力を持ち始めていた時期だったからね。新兵器の開発を中止させたかったのだろう。行き過ぎた兵器を手放すよう、各国の王に忠告した形だ。だけど、それを聴いたテンペストの怒りに触れた。テンペストは“嵐の海域”の管理を眷属に任せると、自らガイアの元を訪れて雷を落とし、彼女を骨だけの姿に変えてしまった」
怖ッ……! テンペスト、怖ッ…………!!
何なんだよ、災害竜テンペスト。お前ラスボスかよ。
ヒステリック過ぎるだろ。
「テンペストはそれ以外にも時折、嵐の管理を眷属たちに任せ、遠出する場合があるようだが……その際には“嵐の海域”の強度が確実に薄まり、内と外の距離が少しだけ縮まるようだね。時々外界から漂流者が入ってくるのは、その関係なのだろう」
ヒガサやミンクスをはじめとした、レピアータ本国で暮らしていた人達のことだな。
例え一時的に嵐が収まっているとはいえ、どんな乗り物に乗っていれば無事にこちらの世界にやって来れるというのか、疑問は尽きないが。
嵐で乗り物が大破しないことも不思議だし、その乗り物を見かけたテンペストの眷属たちとやらが、みすみす見逃してるってのもなんだか不思議な話だよなァ。
……いや、もしかするとテンペスト勢力は、こと外の人間に対しては……優しかったりするのだろうか? いや、ともすれば、中の人間にも。
「大生君の師匠が言った、『自分が地竜を降ろすことで人類が滅亡する。少なくとも、君の知る人間という種族は』という言葉についてだが……。これは、言葉そのままほど乱暴な意味ではないだろうと思う。恐らく、全ての人間に魔人の因子を刷り込み、両者の区別をなくすことを指しているのだと思う。人間を殺すのではなく、変質させることで魔人だけの世の中にしようということだね。まぁ、これでも乱暴に思う人もいるかと思うけど。……純粋な人間でなくなったとして、今まで通りに生きられなくなる訳でもない。あまり悪くない未来なのかもしれないね……と、私個人としては思う」
もっとも、と魔王は前置きして、
「――昔肩を並べて戦った相手故に、少し贔屓目になってしまっているかもしれないけどね」と付け加えた。
正直でいいな、魔王サマ。確かに、昔の仲間の意見には同意したくなるかもしれない。
「さっきからお話を聞いていると、魔人と仲良くしようとする勢力はテンペストに叩かれてるように思うんですけど。その理論で行くと、“名無しの種族”をまとめ上げ、人間との和平条約を結ぼうとしている魔王様は、真っ先にテンペストに狙われそうな気もするんですが……?」
新たな疑問が生まれたので、訊いてみることにした。
大丈夫? 今にも怒り狂ったテンペストが、魔王を骨だけの姿にしに来るんじゃないのか。
それとも、以前に既に殴りこまれたことがあり、退けたのか。
「それに関しては……私は、彼女に対しては強いからね。問題無いんだ」
彼女に対しては強い。自分の能力に自信が無いような物言いをしていたが……能力の相性が良いということだろうか?
「ただ、私の死後が心配ではあるね。ベルナタの軍が、彼女によって攻撃されかねない……。一応、自衛のために対竜兵器の開発などもしているのだが、効果のほどは不明だね」
対竜兵器というと……外壁の上に設置された、翼穿杭のことだろうか。ヴァギリが言ってたやつだ。
「……先程も言ったように、ほとんどの国の王族には龍の素質があり、龍の姿が見えやすく、念話が聴こえる。更に、憑依体の候補ともなるんだ。その手の才能を持つ者たちを、≪ドラグナー≫と呼んでいる。ただ、ドラグナー、すなわち王族という訳では無いから、留意しておいてくれ」
親がドラグナーでなくとも、その子供がドラグナーである場合もあるからね。と魔王は注釈した。
「今の世界では、家系図のどこかで龍の血が混じっている者は非常に多い。誰がドラグナーであっても不思議は無いんだ」
そういえば、さっき魔王は「この中にオーロスの血を引くものはいない」って言ってたよな。見ただけで分かるものならば、
「じゃあ、この中にドラグナーがいるかも分かるんですか?」
魔王は果たして、首を縦に振った。
「レンドウ君とナージア君は勿論として、貫太君もそう感じるね」
「……俺ッスか!?」
貫太は「また俺ッスか!?」と言いたげな表情だ。確かに、なんだか最近、よく議題に上るようになったなお前。
薄々そんな気はしていたが、やっぱり俺もか。
アニマだから、か?
「レンドウ君に関して言えば、予想だけどね。アニマは鎖国をしていたから、かつての血が薄まっていないんだ。ほぼ間違いなく全員が、劫火の憑依体となれるだけの素質を持っているだろう。氷竜たちもまた同じく、だね」
アニマという種族であることがイコール、ドラグナーってことなのか。それじゃあ、貫太は?
という俺の疑問(俺よりも貫太の方が疑問に思っているだろう)を、勿論魔王は分かっているだろう。
「君は……どの龍の血だろう。分からないな。複数の龍の血が混じっているのかな……? だとすると、相当珍しいかもしれないね。確かに素質は感じるのだけど、詳しいことは分からない」
「そう……ッスか……」
大生は恐る恐る自分の両手を見て、拳を握ったり開いたりした。いや、そんな急に化け物に変わる訳じゃないんだから、別に良くないか?
と思えるのは、元々俺が緋翼という特別な力に慣れ親しんでいるせいだろうか。人間からしてみれば、ある日突然手から炎を出せるようになったりするのって、嫌なことなんだろうか。
それより、不思議な白い力を使うレイスについては何も触れないんだな、魔王。
……レイスの力は、俺の血液を体内に取り込んだことから来ているのだとすれば……龍の血とかは関係ないのか。
あまり気分のいい考えではないけど、フェリス・アウルム姫の力を取り込んだ、ニルドリルと似たような状態なのかもしれないな。
「……話は変わりますけど。そのドラグナーっていうのは……例えば劫火の血筋であるアニマは、劫火以外の龍からは憑依されることはないって考えていいんですか?」
そう質問したのはアシュリーだった。
……そうか、それは滅茶苦茶重要だな。その答え如何によっては……。
「いや、そうとも限らない。勿論、その時になってみないと分からないが……金竜が、アニマに憑依できないと決まった訳では無いね」
……ええーッ!!
――それ、凄まじく嫌な予感しかしねェんだけど!?
俺の心配は即座に仲間にも伝わったのか。
「それ、いざ龍と戦う場面になったとしたらよ……レンドウはいねぇ方がいいまである?」
「ダクトォ! 言いたいことは分かるけど、それは少し厳しすぎねェか!?」
レンドウの精神力は弱すぎることで有名だし、龍に速攻で憑依されて敵になるのがオチだよな、って言いたいんだろ! バカヤロー! でも俺も正直そう思うわ……。
俺の弱さは、俺自身がよく知っている。
「うーむ、大丈夫じゃないかな。龍の憑依は無理やりするものではないからね。アルフレート君だって、劫火を拒否する選択肢もあったはずだけど、最終的に自分の意思で受け入れたのだと思うよ」
「な、なんだ……そうなんですね」
脅かさないでくれよ。
「……なるほど。各国の王族がドラグナーなんじゃ、龍がその気になればどの国家も簡単に乗っ取れちゃいそうだな~ってさっき考えてましたけど……」
そう言ったのはステイルさんだった。魔王は頷いた。
ステイルさんも、龍について詳しいってほどでは無かったんだな。近衛騎士長とステイルさんは、世界の真実を聴いていた際も冷静だったように感じたが……それは元から知っていた話だったからではなく、ただただ冷静であれる性格だったってことか。うらやましいな、おい。
「まぁ、中には半分脅してだったり、騙して憑依する場合もあるかもしれないけどね」
……魔王にそのつもりは無いんだろうけど、脅すようにそう付け加えられたら、また怖くなってきたぞ。
む……そういえば。
「そうだ、魔王様は……いつからアルフレートが……アルフレートの中に劫火が入っているって気付いていたんですか?」
あいつが乱暴な口調になった時に驚きもせずに許していたし、その時には気づいていたんだろうと思うけど。
「最初から、になるかな。龍ほどの情報量……私を脅かすほどの力を持つ存在の接近は、感覚で分かるからね。それに、ヴァリアーの紅き鬼を呼んだ今回の謁見に、もう一人アニマが混じっているなんて……偶然ではあり得ないと思っていたよ」
「なるほど……」
龍は、他の龍へのセンサーの役割を担えるんだな。
こりゃ一家に一人、龍が欲しいところだ。……世界が滅ぶか。
「――では、次はそれぞれの龍の現在地と、目的についてまとめて行こうか」
そうして、魔王による世界の情勢講座は、次の段階へと進んでいった。
災害竜テンペストの、魔人に対する憎しみの深さに震える回でした。