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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第9章 魔王編 -博愛の魔王と暴虐の炎王-
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第153話 暴虐の炎王

魔王と炎王に、決着がつくまでやり合ってもらいます。



「構えろ、ルヴェリス」


 そう言いながらも、劫火は魔王が構えるまで待ちはしなかった。迷いの無い足取りで、魔王に向けて歩みを進める。


(おれ)とは比べ物にならないほど()()()()()んだろう? 年月がお前をどう変えたのか。それとも、変わっていないのか。見せてみろ」


 劫火が右腕を払うと、黒い塊が――緋翼だ――魔王に向けて放たれた。


 それは魔王に衝突することなく弾けて、左右に散らばった。そのまま虚空へ溶ける様に消えていく……のではなく、空気中を移動して、少しずつ劫火の元へ還っている……のか?


 今まで自分や他のアニマ、吸血鬼が能力を使用した際、こんな風に感じたことは無かった。


 劫火の緋翼の使い方が上手いのか、それとも、俺が()()()()()ようになったのか。


 劫火はそのまま二度、三度と右手を振った。その度に緋翼が放たれ、同じように弾かれる。


 どうやら、魔王の周囲に円形の防護壁のようなものが張られているらしい。


 と、そこまで考えた時には、劫火は魔王に肉薄していた。


 劫火の左足による蹴りが、魔王の防護壁に防がれている。いや違う、左足は防護壁を抑えつけているんだ。


 魔王の背後には漆黒の壁が屹立していた。高質化させた緋翼だろう。


 ……俺も、エスビィポートでトロールと戦った時に緋翼を分離させ、空中に縄のように伸ばして設置することで、罠として利用したことはある。だけど、それは自分の手でその場に設置したというだけだ。


 劫火は、離れた場所にも自在に緋翼を発生させられるのか。


 魔王の防護壁は、漆黒の壁と劫火の左足に挟まれて、軋んだような音を立てた。


 パキ、という音と共に、魔王の防護壁が光を反射した。そこで初めて、防護壁の形を視認できた。


 が、次の瞬間には劫火の右腕が防護壁を貫いていた。魔王は首を右に倒し、その右手を回避していた。劫火の右手は魔王の頭部ではなく、外側へ向かった。


 防護壁に密着するように身を乗り出し、左手をも防護壁に突っ込む。内側から破裂させるように、両手を広げた劫火。魔王の防護壁は粉々に砕けて、周囲に飛び散った。


 その欠片がここまで飛んでくるような気がして、慌てて顔を庇おうとする。だが、その欠片たちは俺達に飛来するより先に消失した。


「お優しいことだなァ! 余裕かァ魔王!?」


 劫火が怒声を上げたことから察するに、俺達を襲いかけた防護壁の欠片を、魔王が消し去ってくれたのか。


 劫火は左手を魔王の胴に向けて伸ばした。


「……いいや、息も絶え絶えだよ」


 魔王が右手でそれを上から掴むと、そこを起点に()()()()が立ち上った。


 あれが魔王の持つ、翼の力か!?


 ――だけど、あの動きはまるで。


 自分自身の右手ごと劫火の左腕を包み、連結したように侵蝕する灰色の翼。すぐさまそれに亀裂が走り、その隙間から炎が飛び出した。劫火の緋翼による反撃だろう。


 両者の翼の力がせめぎ合っている。


 それは、俺とレイスの力がぶつかり合った時の光景を思い起こさせた。……最も、俺とレイスが力比べをしたなら、緋翼による反撃の部分は無くなるのだが……。


 劫火は右手を頭の後ろにやると、何かを……自分の髪の毛を毟り取ったのか!?


 お前、それはアルフレートの身体だぞ。文句を言葉にする前に、息を呑む。


 劫火の右腕に、漆黒の剣が握られている。……まさか、毟り取った髪の毛が、剣に変わったってのか?


 驚く間もなく、それは振るわれていた。劫火の右腕が振り上げられ、上にある。


 その更に上に、二つの物体が浮かんでいる。


 魔王の……両腕だ。


「魔王様ァッ!!」「魔王様!」


 ジェットと近衛騎士長の叫び声が重なった。


 劫火は、やつが剣を手にしたと思った次の瞬間には、自らを拘束していた魔王の右腕を切り飛ばしていた。ついでというには重すぎる、反対側の左腕までも。


 そのまま右足の靴底が魔王の腹部へと吸い込まれ、魔王の身体は向こう側の壁へと激突していた。いつの間にか、漆黒の壁は解除されていたらしい。


 壁に背中を預けていた魔王だが……既に両腕が復活している!?


 そうだ。宙に浮いていたはずの両腕が落下するところを見ていないし、音も聴いていない。


 斬り飛ばされた自分の腕を素材として、素早く修復してのけた……?


 だとすると、尚更レイスを髣髴とさせる。剣氷坑道の戦いで俺は……妃逆離の洗脳から逃れるために、自分で自分の左手を斬り落とした。それを治療してくれたのが、レイスの力だった。


 偶然なのか? それとも……。


「……どこを避けりゃァいい。首と心臓だけ避けて、腕と足を斬り飛ばし続けりゃあいいか?」


 空いた距離をすぐには詰めず、劫火は魔王が起き上がるのを待ちながら話しかけた。


 何となくだが、この劫火という男は、不意打ちの類に及ぶことはないんだろうな、と思った。


 それは武士の誇りのようなものというより、圧倒的な力を持つ、強者故の余裕からくるものだろう。


「……そうだね。まだ、今日ここで死ぬわけにはいかないからね。身体を再生できなくなった時が、僕の負け。そういうことにしておこうか」


 劫火は、クカカッ、と嗤った。


「殺しちまったら本末転倒だろうが。俺はお前を死なせないために、こうして戦ってるんだからな」


 一切の容赦なく両腕を斬り飛ばしておいて、その台詞はどうなんだ。


 いや、それしきのことでは魔王が死ぬはずないと。そう確信を持っているからこそ、思い切り剣を振り抜けるのかもしれないが。


 ……それにしたって。「間違えて急所を攻撃してしまったらどうしよう」とか考えるだろ、普通は!



「オラ、再開すンぞッ」



 ――劫火が右の靴底で床を踏みしめると、そこを起点として炎が立ち上った。


 襲い来るそれらを、魔王の背中から生えた灰色の翼が払いのける。先程までと違い、魔王の翼はしっかりとした形を保っている。有翼人(ゆうよくじん)然とした格好だ。


 遠距離攻撃を放ち、その隙に接近するのが劫火の常套手段らしい。単純だが、効果的な戦い方だ。


 勿論魔王もそれは分かっているだろう。だが、攻撃の起動が読めていたとしても、正面からそれを受けていては分が悪いのだ。


 迫りくる劫火の右手に握られた髪製の剣を、鳥類の翼を思わせるそれで受け止めようとした魔王だが、それは一瞬で断ち切られた。


 劫火の剣は止まらず、魔王の左腕がごとりと地面に落ちる……寸前に、元の場所にて再生する。魔王は左半身を後ろに引きながら、右手を左腰あたりにやると……、何かを掴んだような……だけど、そこには何もないぞ。


 何もないはずなのに、何かを引き抜いた。――翠玉(すいぎょく)色をした武器か。長い柄を持ち、尖った先端と、片側に刃をも備える武器。槍だ。いや、斧槍(ふそう)と呼ばれる類のものだろうか。


 武器に明るくない俺であっても、ハルバードという名称が思い当たる。だが、それはずばりハルバードではなく、むしろもっとグレードの高いものだろう。魔王の所有する武器なんだ。


 斜め上へと振り抜かれた斧槍の刃は……劫火の髪製の剣を砕くと、返しの一撃で左腕の付け根に喰らいついた。つまり、劫火の左肩に突き刺さったんだ。


 初めての劫火へのダメージ。魔王は喜ぶ様子も見せず、すぐさま槍を引き抜くと、今度は劫火の胸のド真ん中目掛けて突き出した。


 こっちも中々容赦ないな。いや、()()()()()を避けている分、劫火の攻撃の方が優しいのかもしれない。


 対して魔王は、まるで「当たるはずも無いか、防がれるだろう」と確信しているとでも言うかのように、迷いない一撃を急所に向ける。


 劫火は素早く左にズレた。地面を蹴って、僅かに横にステップしたんだ。スレスレの回避は、見てるこっちを不安にさせるものだった。


 劫火の右の袖が薄く裂かれるが、肉体には到達していない。


「そいつァ……バーティカルか!! なるほど、なッ」


 左腕は傷の影響かだらりと垂れ下がったまま、右腕を懐に突っ込んで、取り出したのは――ヴァギリだ。


「借りるぞ、アルフレートォ!」


 劫火に握られた象牙の短剣は、すぐさま漆黒の炎を纏い、長剣へとその姿を変えた。


「君が嫌がるかと思って! できれば使いたくなかったんだけどっ!」


 魔王は申し訳なさげに叫びつつ、斧槍――バーティカルというのか?――を振り下ろす。


「何も気にする必要はねェ! 全力で来やがれェ!!」


 髪製の剣は一瞬で粉々になったが、ヴァギリは斧槍を受け止めた。……いや、ヴァギリが粉々になるところなんて、絶対に見たくないが。


 斧槍と長剣が打ち合い、火花の代わりに緋翼が飛び散る。


 ……というか劫火! お前、それはアルフレートの身体だろうが! なんで魔王と同じように、左肩の傷をすぐさま修復しないんだよ!


 と、怒りに拳を握るが、その後に冷静になって考える。


 ――もしかして、そこに関しては魔王に分があるのか?


 劫火は、傷を再生するのが苦手なのだろうか?


 いや、だがこの俺にだって傷を再生する能力はあるんだぞ。あまり言いたくは無いが、俺の……親玉にあたる存在? である劫火の再生能力が、まさか俺以下なんてことがある筈ないよな。


 だとすると……その傷を与えた、魔王の振るう武器こそが特殊だと見るべきか。


「さっきの横にズレて回避する動き、レンドウそっくり……!」


 後ろでレイスがそう呟いたが、無視無視。喋ってる暇があったら、少しでも目の前の光景を目に焼き付けておきたかった。


 全てを見届けなきゃいけない。そんな思いがあった。見逃したくない。俺は、この戦いを。


 さっきから、飛び散っているのは緋翼ばかりになっている。


 それもそのはず、劫火の振るう長剣は緋翼を纏ったヴァギリであるのに対し、魔王の振るう斧槍ヴァーティカルは、何らかの魔法的な力を纏っているようには見えない。


 俺が見ても分からないだけで、実は何かの魔法が宿っているのかもしれないが、少なくとも、魔王は灰色の翼の力をあれに通してはいない。


 ヴァーティカルとかち合ったヴァギリは、表面にある緋翼を削り取られている。劫火の内部から溢れてくる緋翼がすぐさまそれを補填しているため、分かりづらくはあるのだが。


 初めと違い、劫火の使用した緋翼が劫火の元に還ってきていない……!


 だとすると、このまま武器による打ち合いを続けていけば、劫火ばかりが消耗するのか。形成は魔王に傾くのだろうか?


 劫火に焦ったような様子はなく、相変わらず戦いを楽しむようなそぶりも見受けられる。だがもう、決して余裕では無い。そう見える。


「――じゃらッ!!」


 左腕から血を流したまま、劫火はヴァギリを振り抜く。魔王のバーティカルを受け止めず、回避することに成功したからこそ、間隙を縫うように攻撃を放てる。


 それは魔王の左足を薙いだが、魔王の左足に変化は見られない。


 直感だが、ヴィクターさんが見せた“先行する治癒”だと思った。


 足を斬り飛ばされると体勢が崩れてしまう。だからこそ、それを避けるために魔王は腕よりも足を重点的にケアしているんだろう。


 それにしても、バーティカルは凄まじい。緋翼を紙のように斬り裂き、傷の修復をも許さないそれは……なんだか、俺の緋翼を断ち切ってのけた妃逆離に似ているか?


 まさか、あれも魔法剣だったりするのか。いや、剣じゃないけど。魔法槍?


 バーティカルを手にしてから、最初とは一変して魔王が攻め立てる側に回っているようにも見える。だが、結末は予想できない。


 劫火は傷の治療を許されない身だ。肉体の損傷は身体を動かすほど悪化していく。バーティカルによる攻撃を防御では無く、回避した時のみ反撃することができている。


 その反撃を受けるたびに、魔王の腕や脚は確実に落とされる。そして、即座に元通りになる。こちらは、とにかく能力の貯蓄が切れたその時が敗北となる。


 世界の命運を握るという指折りの実力者同士の戦いは、どこまでも泥仕合だった。


 達人同士の果し合いは、むしろそう長引かないものだとダクトは言っていたが、この二人にそれは当てはまらないらしい。


「――だらしねェんだよお前は! 長い時間を掛けて作り上げた、お前の国なんだろう!? “幻想”如きに引っ掻き回されやがって!」


「――君だったとしても! きっと、同じことだったさ! 精神操作や呪いの類に、君なら対抗できたとでも言うのか?」


「――やってみなきゃ分かんねェだろォがよ! オラッ、観客どもを護りたきゃ気張れや……!!」


 劫火が叫び、背後へ飛び退った。魔王の斧槍は地面を抉るに留まる。


 両腕を左右へ伸ばし、それらが握られると、途端にとてつもない悪寒に襲われた。


 いや、これは、嫌な予感がして血の気が引いているとか、そういうんじゃない。


 ――実際に、この空間の温度が一瞬で下がったんだ。


「……………………!!」


 言葉が出てこない。口が、身体が動かない。地面に這いつくばることすら、もうできない。


 上半身を支えていた俺の腕は崩れ落ち、頬が冷たい床に打ち付けられた。真横を眺めていることしかできない。


 戦況を確かめることも……できない……!!


 そのまま、身体の芯まで冷え切り、凍り付くんじゃないかと思った頃、急激に全ての悪寒が消え去った。慌てて顔を上げると、魔王が消耗した様子で汗を流しながら、膝をついていた。


 ――気づかなかったが、俺以外の面々も全員が倒れ込んでいたらしい。皆、困惑した様子で体勢を起こしている。


 劫火の口ぶりから察するに、劫火が俺たちごと巻き込む位置で何らかの魔法を発動させていたのか。


 それを無効化するために、魔王は一気に力を消耗してしまった?


 だが、本当に恐ろしいのはここからだった。


「――今のは別に、攻撃じゃねェからな?」


 …………攻撃じゃ、ない?


 この場にいた全員の身体から感覚を奪い、倒れさせた力が、か。


 身体を起こして、右手で左の手首をぎゅっと握って、自らの脈拍を感じる。


 先程の凍えるようなあの感覚は…………精神系の攻撃だとは、どうにも思えない。


 だが、それがこれから始まる攻撃の前触れだというのなら。



 ――周囲の熱を、根こそぎ集めたのか?



「まさかっ――」



 俺の言葉は、紅蓮の炎に焼き尽くされた。



 真っ赤、なんてもんじゃない。


 白く強烈な光に照らされ、同時に強風に煽られたように、俺たちは壁に叩きつけられていた。


 それが収まった時、俺達の目の前、数歩先までの床は轟々と燃えていた。


 ――また……魔王が護ってくれているのか?


 俺達全員、とんだお荷物じゃねェかよ…………!!


 苛立ち、「俺達ごと攻撃するつもりなら、反撃も織り込み済みだろうな!?」と炎の向こう側の劫火を睨みつけて、


 ――呆然とした。


 広範囲の床を炎上させたこの現象もまた、おまけでしか無かったというのか。


「ガァァァァアアアアァァァァァアァァァアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「ぐっ……うっ…………かはっ……………………」


 劫火は両手を前に突き出している。そこから光線のように魔王に向けて伸びているそれは…………青い、炎なのか。


 青い炎の起点となっているのは、ヴァギリだ。更に、劫火の背中から正面へ回り込むように、幾条もの燃え盛る緋翼が、螺旋を描きながらヴァギリへと収束している。


 魔王は両手で持ったバーティカルの先端でそれを受け、同時に、幾つもの防護壁を次々と正面に生成することで耐え忍んでいる……のか。


 炎が床や壁を溶かす音に、防護壁が割れる音が何度となく響き渡り、そこは地獄の様相を呈していた。


 魔王はなんとか受け止めているが、俺は……あの劫火という男が、心底恐ろしい。


 俺なんかがあの攻撃を受けたら……塵一つ残らないだろう。いや、魔王でも大丈夫なのか。あの防御姿勢が少しでも崩れたなら……。


「――この部屋はっ……()つんだろうな!?」


 アシュリーの怒声だ。それは確かに心配だが、魔王の作る光の階段が無ければ、そもそも俺達は上の部屋に戻ることすらできないんだぜ!?


 劫火にはそのつもりが無いとしても、攻撃の余波だけで俺たちは死んじまいそうだ……!


 ――だがその時、俺の身すらも焦がすようだった熱を、突如として感じなくなった。


 まさか、魔王。


 あんたは……あの青い炎を受け止めながらも、未だに俺たちの身を案じているのか。


 それは馬鹿だと言わせてもらうぞ。そんな場合じゃないだろ。


 あんたは……あんたの戦いをするべきだろうが。


 先ほどまで、劫火の放つ青い炎を見て震えあがっていたはずなのに。


 魔王に対する苛立ちが、俺に活力を与えていた。



 こっちは…………俺が引き受けるべきだろうが…………!


 この、グズレンドウ!!


 ――俺は、魔王と劫火、どちらの味方をするべきなんだろう。二人のどちらが正しいのだろう。


 そんなの、知ったことか。


 ゆっくりと立ち上がる。膝が震えるが、それでも身体は動く。


 どうせ、本人にしてみればどっちも正義なんだろ。正義と正義がぶつかり合ってるからこそ、こんなに悲しくて、痛ましい喧嘩になってんだろ。


 ……お前らの因縁とか、世界の命運とか。そんなのは全部どうだっていい。


 ――俺と俺の仲間が暑がってンだよ!! いい加減その炎、どうにかしやがれッ!!


「来やがれ炎ッッッッッ!!」


 叫んで、周囲の炎に命令する。紅い炎は、意外なほど素直に俺の命令に従った。ヴァギリが俺の中に残していってくれた感覚のおかげだろうか。


 炎の操り方が、手に取る用に分かる。勿論、それを劫火に向けて放ったりすれば、先ほどと同じように吸収されてしまうだけだろう。


 劫火の真似をするんだ。周囲の熱を、炎を体内に取り込んで……そうして俺は、吐き出さない。それを俺のものとする。


「――――――――何ッ?」


 自分の背後で、紅蓮の炎が掻き消えたことを察したのか。劫火が驚いたように、首だけを曲げて右眼で俺を見た。


「レンドウ、お前が――――」


 ケッ、強者の余裕かよ。戦いの最中に目を逸らすとは……馬鹿が。それがお前の弱点だ。


 青い炎は全く俺に靡かなかった。だが、問題ない。


 そっちは魔王の担当だ。


「――もらった」


 魔王がその極大の隙を見逃すことはなかった。


 攻撃を受け止めていた体勢のまま、魔王は我が身が焼かれるのも厭わず前進した。


 バーティカルで青い炎の奔流を斬り裂いている形だが、勢いを完全に殺せてはいない。近づけば近づくほど、魔王は側面から焼かれていった。


 だが、それはさして長い時間では無かった。むしろ、一瞬だった。青い炎は消失した。


 魔王の斧槍の先端は……劫火の腹を貫いて、背中へと抜けていた。


 そして、両者の動きは、その時点で止まっていた。


「……………………僕の勝ちで……………………いいよね?」


「……………………ガハッ……………………」


 劫火の……アルフレートの口から赤い血がぼたぼたと流れ落ち、バーティカルの柄と魔王の両腕、そして白い床を染めていく。


 魔王の問いに、劫火は呆然とした様子のまま立ち尽くし……だがいつか、力なく頷いた。



お読みいただきありがとうございます。


自分より格上の実力者たちが戦っている場面を見て、主人公が圧倒されるシーンがとても好きです。

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