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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第9章 魔王編 -博愛の魔王と暴虐の炎王-
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第147話 ミッドレーヴェルでの出来事

魔王ルヴェリス登場までに、もう少し仲間たちとの情報共有フェイズが入ります。




 ええと、どっから話したもんかな。


 まず、アザゼルと合流するためにティス、アシュリー、ベニーが先行していたから、それに追いつこうと急いで宿を出たんだ。


 そしたら「レンドウさんを見極める」とか言ってシュピーネルも着いてきたんだよな。


 俺たちのことを遠巻きに監視してくる奴らの視線を感じつつ、シュピーネルの嗅覚の助けもあって、アザゼルたちとは問題なく合流できた。


 そうして、今はアザゼルだけが知っているっていう秘密の入り口から、ミッドレーヴェルの裏の顔である、地下街に侵入したんだ。


 とんでもなく広いところでさ――、


「とんでもなく広いって、具体的にはどんくれぇなん?」


 そこまで説明したところで、ダクトに突っ込まれた。


「そりゃ……上の街と同じくらいだよ」


 あれだけ大きな地下街を、上でまっとうに暮らしている子供達には隠し通せているってんだから、悪い大人どもの情報統制には舌を巻くばかりだ。


 アザゼルの目的は、悪い組織の施設を破壊することと、その組織に洗脳されている幼馴染を助けることだった。


 秘密の入り口から俺達を追ってきていた二人組を気絶させてから、俺達は真下に見えていた施設に降り立った。


 その組織は、普通の人間でも魔法的な力が使えるようになる魔道具、ザツギシュを開発しているんだと。


 んで、それが闇ルートで取引されたり、上の街にも少しずつ流出しかけていて、近々社会問題になることが懸念されてるらしい。


 元々はティスの父親も開発に携わっていたらしいんだけど……親父さんが亡くなっちまってから、引き継いだ奴が屑野郎だったみたいだな。


 アザゼルもザツギシュを持っていて、あいつの右腕にそれは宿っていた。


「えーと、ごめん。全然ついていけないんだけど……。宿るってどういうこと?」


 申し訳なさそうに大生が挙手したが、ぶっちゃけそれは仕方ないだろう。俺だってスペシャリストって訳じゃないし。


「あー……もう少し話を先に進めてからザツギシュの概要を説明するべきか、それとも今しておくべきか、俺としても悩んでるんだよな」


 悪いけど、少しだけ後回しにさせてもらう。


 アザゼルの右腕の能力は、物質を取り込み、保管し、望んだ時に取り出すというもの。


「エスビィポートで、不死鳥の炎を取り込んでいたのがそれか」


 大生は手をポンと打った。何かに納得できたようで何よりだ。


「この後詳しく説明するけど、ぶっちゃけアザゼルの持ってるザツギシュはべらぼうに強かったんだよ。どうも特別製らしい」


 崖から下に降りる為にロープと杭を取り出したり、施設の内部を不死鳥から奪った炎で焼き払ったり。


 俺は見てないけど、他にも色んな……というより、無限の攻撃方法を保有してるんだよな。


 アザゼル・インザースという男は、間違いなく俺達一行の中で見てもトップクラスの戦闘能力を有していた。


 賭けてもいいが、俺なんかがもし戦ったら、何が起きているかを理解する前にやられてしまうだろう。


 それは所謂“初見殺し”とでも言うべきものかもしれないが、あいつの場合はその“初見殺し”が何度でも狙える。


 手の内が多いということが、そのままあいつの強さになってるんだ。


「……ま、そんなこともあって、施設の中ではそれはもうアザゼルはド派手に暴れまわったってワケさ」


 これ俺達いる意味ある? ってちょっと思っちゃったもん。


 だけど、行った意味はあった。


 ザツギシュに関する資料を手に入れてきたし――、


「ああ。俺が持っている」


 アシュリーが自分のカバンを持ち上げてみせた。


 俺は頷いて、話を続ける。


「ザツギシュ持ちとは、きっとこれからも戦うことがあると思う。あんまり考えたくは無ェけど、何年か後には人間にとって当たり前の兵器になってるかもだしな」


 あと、銃だ。拳銃。あれはヤバかった。


 あの脅威から皆を護るのに、俺は結構役立ってたと思う。それだけでも行く価値はあった。


「――銃だと?」


 アルフレートが目を見開いた。そうだよな。お前でも驚くラインかもしれない。


「デルでもないのに、その組織の構成員は拳銃を当たり前のように所持していたってのか」


「あァ」


「それは……その地下街は油断ならないな。それで、拳銃持ちと戦って、無事で済んだのか?」


 アルに向けて首を振る。


「いや、そんなことはねェ。ズタボロの勝利だったよ」


「レンドウさんの緋翼の守りを、貫通してましたもんね」


 シュピーネルの言う通り、拳銃によって放たれた銃弾は、俺の緋翼を貫通してきた。


 あんなもので部隊を編成されたら、最早人間に対する魔人の優位性なんて存在しない。そう思わされる武器だった。


 主に俺がボロボロにされつつも、緋翼の壁を押し出すことで人間どもを拘束して、なんとか押し切った。


 そう思った時だった。施設内の床には仕掛けがあったらしくて、いきなり床が抜けて――あ、開いたのか――俺とベニーは真っ逆さまに落下したんだ。


 体感だけど、100メートル以上は落ちた気がしたな。


「それで、どうやって生き残れたんスか。……あ、わかった、緋翼でしょ」


 便利ッスねー、と俺に向けて羨まし気な視線を送る貫太に頷きかけ、俺はベニーを見る。


 この先は、お前のことを隠しながら話すのは難しいと思うんだけど……?


 そう視線に込めたことはすぐさま伝わったらしい。というか、予め予想していたのか。ベニーはため息を吐きつつ、首肯した。


 話していいってことだよな?


 俺とベニーを包むように、ありったけの緋翼を出して球体を形成させたんだ。それでも、着地の衝撃は凄まじくて、俺はとてもじゃないけど動ける状態じゃなかった。


 それを治してくれたのがベニーなんだ。


「いくら医療班だからって、いきなり魔法みたいに傷を治すなんて……」


 不可能でしょう、とマリアンネは続けた。


「……それが可能だったんだよ」


 ベニーは人間じゃなかった。アドラス、アルフレート両名の監視下の元、ヴァリアーで働いていた……ヒトだったんだよ。


 ついでに言うと、無口なキャラは造られたもので、本性は自分勝手だしかなり口が悪い女なんだぜ。


 そこまで説明した時点で、一同の視線が彼女に向くのは必至な訳で。


「――何を期待してるのか知らないけど、本性を知られたって、あたしはあんたらと仲良くお喋りしたりしないから」


 しかし、全員から視線を向けられて尚、彼女はブレなかった。


「今まで通り静かにしてるから、必要以上に話しかけないで」


 おおう、結構メンタル強いんだな。俺も見習わないと……。


「えぇ……」


 同じ医療班だったからか、普段はボケてばかりのアストリドが右隣のベニーを驚きの目で見つめているのが少し面白かった。


 で、実はベニーはサキュバスだった訳なんだけど(悲しきかな、サキュバスと聴いた時点で少年たちがビクッと反応してしまったことには……まあ触れないでおいてやるのが優しさだろう)、それによって生命操作の魔法が使えるらしいんだよな。


 俺の身体の自然治癒力を促進させたり、自分の生命力を分け与えたり。魔力消費して生命力を補完することもできるらしい。


 本当ならベニーは“眷属契約”だったかを俺と結んだ上で治療したかったみたいなんだけど、俺がベニーの秘密を誰にも漏らさないことを約束して、傷を治してもらったんだ。


「当たり前でしょう。サキュバス相手に契約を結ぶなんて、人生を捨てるようなものだわ」


 おーーーーいフェリス・マリアンネ。


 そんな人を不安にさせるようなことを言うな。


 話の中ではまだ契約してない段階だけど、現在の俺はもう契約しちゃってるんだけど?


 ……ということを今言っても、なんだかマリアンネにキレる理由を与えるだけのような気がするし、少しでも先延ばしにしよう……。


 ……気を取り直して。


 落下した場所は、ゴミ捨て場というか死体置き場というか、とにかくあまり気分のいい場所ではなかった。


 大事なものを落としたとか、落下させて殺した相手の荷物を奪いたいだとか、とにかく組織の連中が物を拾いに来るためにも、出口は必ずあるはずだ。そう考えて、俺達は移動を開始した。


 それで……あァ、その場所はとんでもなく暗かったんだけど。壁の向こう側から、光が漏れ出てきてる場所があったんだよな。


 それが正規の出入り口なのかは分からないけど、とにかくそこから何とか這い出たんだ。


 そうしたら、そこには俺達を待ち受けている人物がいた。


 アザゼルの探し人だっていう、その組織に洗脳されて使われてるっていう女だったんだ。


 確か名前は……サーレニ、とか言ったっけ。


 四肢を義手と義足にしていて、とんでもない威力の打撃を繰り出してくるんだ。というか、腕にも足にもザツギシュを宿していたんだよな。


「……足にギシュを、ですか……」


 アンリがふーむと呟いたが、重要じゃないからスルーさせてもらうぞ。


 右腕を剣にしたり、左腕を銃にしたり。足で空気を蹴って跳躍の方向を途中で変えたり。あれも中々常識知らずな相手だった。


 なんとか気絶させて、サーレニを担いで通路を進んだんだ(通路というよりは不思議な雰囲気の洞窟だったけど、まぁそこまで事細かに説明してやる必要はないだろ)。


 通路を抜けると、そこはもう組織の施設じゃなくて、地下街の一部だった。


 崖下の分かりにくい場所だったし、その組織は地下街の中でも、更に人目を避ける必要がある選りすぐりのワルなのかもな。


 丁度そこにアザゼル、ティス、アシュリー、シュピーネルが迎えに来てくれていて、無事合流できたワケだ。


 だが、その後にまた油断のできない事態になるんだ。


 地上の……ターミナル? に出れば勝ちだってアザゼルが言ってて。


 見張り……というよりは、警備かな。警備の目を盗んで、地上へ向かうエレベーターに乗り込もうとしたところで、アシュリーが。


 そこで俺が言葉を切ると、アシュリーが引き継いで口を開く。


「最後尾にいた俺が、後ろから不思議な力に捕まっていたんだ。黒く、粘りつくような……レンドウと同種の力に」


 いや、その表現のあとに俺と同種の力とか言われるの、さすがに嫌なんだけど?


 なんだよ、粘りつくようなって。


 俺そんなベタベタしてねェから。


 ……不名誉なイメージを取り払えるのは、やはり自分しかいないだろう。


「闇の中を駆ける、強靭な鎖。間違いなく、あれはアニマの力だった」


 ……キマった。闇の中を駆ける、強靭な鎖……っ!


 脳内で反芻しても、素晴らしい表現だ。と思うのだが、仲間たちの反応は薄かった。……馬鹿にされなかっただけマシだろうか。


 どうして人間の街、それも裏の世界である地下街にアニマがいたのかは分からない。


 だけど、確かにそこに奴はいて、俺達に敵対する意思があった。


 そんな時……そうそう、俺はアルフレートから貸与された短剣を使っていたんだけど。そいつがいきなり俺の脳内に話しかけてきたんだよ。


 王の資格がどうのこうのって。


「あの短剣、魔法剣だったのか!?」


 ダクトが急激に食いついてきた。ちょっと意外かも。お前もそういうのに興味があるんだな?


 アルフレートが手を振り払って、「後にしろ。レンドウ、続けろ」って言うからさ、悪ィなダクト。


 とにかく、その時は全然意味が分からなかったけど、短剣の声に従って力を振るって、なんとかそのアニマを追い払ったんだ。


 そのまま俺たちはエレベーターに乗って、地上に出た。


 そっからは宿に戻って……お前たちが先に出発していたことを知ったんだ。


 傷の包帯を変えたり、荷物を纏めたりしながら、ザツギシュの資料を読んだりした。


 アザゼルにも色々と質問してさ。……そう、アザゼルとティスはそこで離脱するって話が出たから。訊けるうちにってことで、アザゼルから色んなことを聞いたんだ。


「ここで、ようやくザツギシュの話に移れるって訳よ!」


 と俺が言うと、「いや、本当に長かった……」と大生がしみじみと呟いた。


 だけど、この話を一番真剣に聴くべきは、大生じゃないんだよな。


「貫太」


「…………へっ?」


 俺が名を呼ぶと、少年は自分を指差して不思議そうな表情を浮かべた。「俺ッスか?」とでも言いたげだ。


 確かに、あまり話の主題にされることに慣れて無さそうなツラしてるよな。


 だけど、今度ばかりは違うんだぜ。


「アザゼルが言ってたんだ。お前の右腕、ザツギシュが宿ってるんだろ」


 ――それも、普通のザツギシュじゃない。


「三大ザツギシュの一つ……≪ヘル≫が」




実はアザゼル&ティスと別れる前に、色んなことを話し合っていたという設定がありました。

それをようやく説明できそうなので、作者としては非常にスッキリした気持ちです。

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