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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第8章 魔王編 -背信の軍師と氷の竜-
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第142話 一つの消失と、再会

第8章、最終話です。

 一目で分かった。ニルドリルに俺たちを攻撃する意思は無く、また、これから先も無いだろうということが。



 その深い悲しみに――――いや。



 ――――絶望に彩られた瞳を見れば。



「……お前さ、本当は……こんなこと望んでなかったんじゃないのか?」


 髪を巻き上げる強風が吹き荒ぶ崖際に立ち、ぼうっとこちらを見つめるニルドリル。



「なァ…………オイ、歯ァ砕いて話そうぜ」



 急激に老け込んだように見えるその男の立ち姿は、痛々しい。


「そこは「腹を割って話そうぜ」だよね? 噛み砕いて話すとごっちゃになっちゃった?」


 後ろでレイスが俺の言葉の誤りを訂正しているが、どうでもいいだろう。「いや、歯に衣着せぬかな」だからいいっての。お前はホントにレイスだな。


「あの刀がお前を狂わせたんじゃないのか? あの刀が……全ての元凶だったんじゃないのか。だったら、一概にお前が悪いという訳でも――」


「――確かにそれはその通りだが」


 それは、静かすぎる言葉だった。まるでそれが、俺に響かなくても問題ないというよ様な。


「それによって私が引き起こした事態は、もう……取り返しがつかない」


 俺の言葉なんて、届く筈がないんだと思わされる様な。


「は? お前――」


 こいつの中で、明確な答えが既に出てしまっている様な。


「こんなもの」ニルドリルは出し抜けに崖外へとその歩を進めた。「耐えられる訳がない……」


 そのまま――後ろ向きに、空中へその身を躍らせた。



「ふッ――――ざ――」



 ふざけんなよ。ふざけるな。



 死んで逃げようなんて、許さねえぞ。


 例え重罪に問われようが、重い刑罰を――死刑を――科されようが。人は償わなきゃなんねェ時がある。やらなきゃいけねェことがある。


 お前はマリアンネと話すべきだろうが!


 命を狙ってすいませんでしたと。あれは決して本心なんかじゃなかったんだと。


 そういうこと、全部済ませるまで、死ぬなんて。


「――許さねェぞッ!!」


 絶望した表情のまま目を瞑り、自由落下を始めるニルドリルの顔が見える。


 右手を伸ばし、その先にあらん限りの力を込める。ベアクロウッ! あいつを掴んで離すな。絶ッ対にだ!!


「届けッ」


 巨大な腕の指の先から、更に小さく、幾条もの触手を伸ばして――――届け――――そのいくつかがニルドリルに触れ、巻き付く!


 奴の自由落下の速度がほんの少し落ちたところでクロウ本体が到着し、全身をがっしりと支えた――その刹那。


 眼前を、黒い影が高速で横切る。


「はっ――?」


 クロウが半ばで千切れた。消失する。消失してしまう。


 するとどうなるか。


「――――ッ」


 再びニルドリルが落下を開始する。その時にはもう、俺は崖外へと身を躍らせていた。


 この手でニルドリルを直接掴んでやる。ある程度落下したっていい! エーテル流に近づいて、多少火傷したって構わねェ! 俺の滑空技術があれば、きっとどうにかなる!


「ニルドリルッ!!」


 生きようとする意志が感じられない奴に、伸ばした俺の手を取ってもらうのは不可能だろう。俺が掴まないといけないんだ。


「アドラス……」


 小さく聞こえた呟き。


 それが、俺が記憶するニルドリルの最後の言葉となった。


 ガクン、と全身を揺らす衝撃が走り、俺の身体は一瞬空中に固定された。


 違う。崖下へ出ようとする動きを阻害され――反対側に力強く投げ飛ばされているんだ。


 何者かに、邪魔されている。


「ぐッ……がッ……」


 回転する視界の隅で、ニルドリルが落下していく様を見てしまった。それは死の瞬間では無かったが。


 ……助け、られなかった。


 それが本当に正しい選択だったのかなんて分からない。


「がァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 だけど、俺は助けたかったんだ。あいつと話がしてみたかった。


 …………なのに!


「てめェ、何なんだよ…………」


 地面に手をついて、起き上がる。俺を投げ飛ばした闖入者を睨みつける。


「昨日から……ちょこまかしやがって……!!」


 そこに居たのは、黒ずくめの人物。フードが強風に煽られて背中ではためいているが、それによって顔が露わになっているかと言えばそうでもない。


 そいつは仮面を着けていた。顔全体を覆うのっぺりとした、黒く、目だけが空いている仮面だ。


 間違いなく、アニマだ。気配で分かる。


 ジェットも言及していた、青い髪のアニマ。


 俺に比肩する緋翼を持つ、アニマ……。


「…………不確定要素であった故に、潰したまでだ。逆に生かしておく理由の方が少ない」


 長い沈黙の後、仮面の下から零れたのはそんな言葉だった。


 くぐもった歪な声は、そいつの本当の声とは言えないのかもしれない。だが、きっと男だ。


「……お前がどう思ったかなんて関係ねェんだよ。俺たちが倒して、俺たちが助けようとしていた相手だ」


 奥歯をギリギリと噛みしめる。歯が砕けてしまいそうだ。怒りが脳を支配しかかっている。


「そこに急に横入りしてきて、何言ってやがんだてめえ…………!!」


 思わず、仮面野郎に近寄って、その顔面に殴りかかっていた。


「悪人にトドメだけ刺しに来て、随分とイイ気分だろうなァ!?」


 が、俺の拳は左手で受け止められていた。


「別に最後だけじゃないさ」


 ……っ。顎を殴られて、吹き飛ばされたのか。


「レンドウっ!」


 カーリーの悲鳴が聴こえる。


「わたしは先ほども手だしをしている。気づかないのか」


「なんだと……?」


 ……そうか、あの時。


 突如として俺の緋翼が復活したのは、こいつが自分の緋翼を俺に受け渡したから……か?


 だが、その時はこいつの気配に全く気づけなかった。


「お前は一体、誰の味方なんだ。どの勢力なんだよ」


 とりあえず、ニルドリルに対して害意があったようだが……ミッドレーヴェルの地下で謎のアニマと相対してからというのも、こいつらは俺たちを追ってきているようだし。


 こいつ……ら……そうだ、他のアニマはッ。


 そう思い至った時には既に、周囲を濃厚な気配が覆っていた。


「なっ」



 ――――4人。仮面野郎を含めれば、5人のアニマがそこに現れていた。



 レイスの、カーリーの、ナージアの後ろ、そしてアウルム姫の傍らに。


 黒ずくめのアニマが、それぞれ立っている。


「……っ」「……!!」「…………」


 三者は驚きつつも、行動を起こそうとした。


 ナージアは疲弊した身体を動かそうとしたようだが、首に手を当てられた時点で静止した。


 レイスは右手を押さえ、そこに左手で傷をつけようとしたのか……というところで動きを止めた。相手が攻撃を仕掛けて来ない以上、自分から仕掛けるのも憚られたのかもしれない。


 カーリーが反射的に右足で放った回し蹴りは、アニマの右腕に阻まれていた。彼女の足に相手の緋翼が纏わりつき、それは距離を取った後も残っている。カーリーはそれを気持ち悪いものを見る目で見降ろした。


 今のところ、それがカーリーの身体に何か悪さをしているようには見えないが……いつでも攻撃に転じることが可能だろう。


 爆弾を埋め込まれたようなものだ。地雷、って言うんだったか。


「なん……だ、お前ら。脅しのつもりか? ……何か、交渉したいことでもあんのか」


 拘束止まりということは、何らかの意図があるんだろうが。


 待て、これは本当に絶望的な状況なのか?


「交渉、できる気でいんのか」


 ナージアこそまともに動けない状態だが、俺は万全の状態まで復活してる上に、こっちにはレイスがいるんだ。


「動くな」


 低い声と共に小突かれたのはレイスだ。大人しくしているように見えて、何らかの行動を起こそうとしていたのか。


 ……たとえ戦ったとしても、俺たちが負けるとは限らないんじゃないか?


 そんな考えがふと鎌首をもたげる。


 少なくとも緋翼の出力で言えば俺とこの青髪のアニマこそ拮抗していたが、他のアニマは俺以下だったじゃないか。


 その考えを読まれたのか、俺の態度が気に食わなかったのか。


「少し、王子様の驕りを叩いておくべきかもしれないな」


 王子様というのは俺のことだろう。だとするとこの仮面野郎の言葉の意味は――ッ。


 徒手空拳で俺に挑もうってのか!? 眼前に現れた青髪の拳を躱し、足を踏みつけて砕きに掛かる。が、躱される。


 二手三手の攻防の末に、俺の左手の甲が青髪の両手を払い、体勢を崩させることができた。後ろに飛んで距離を取ろうとする青髪……それを追いかけながら、右手で練り上げた緋翼をド真ん中に叩きつける。


 青髪の反応は早かった。青髪が身体の前で両手を回転させたかと思れば、一瞬でそこに漆黒の長い棒が生成されている。


 それを回し続けて、奴は……奴に叩きつけた俺の緋翼が、捻じれ、吸収されていく!?


「驚いたか。勢いさえ殺せば、その出力の緋翼を吸収することも可能だ」


 呆然と立ち尽くす俺に、青髪は言う。


「わたし達はおまえ達を害するために現れた訳ではない。危険分子は排除した。……あとはそれを渡すだけだ」


「それ……?」


 そう問いかけた時、俺の足元に何かが突き刺さっていることに気づいた。


 それは、俺が心の底から求めていたもので。


「ヴァ、ギ…………リ……………………!?」


 だからこそ、分からなくなった。


 一体このアニマ達の目的が何なのか。何故、俺にこんな施しをするのか。


「ヴァギリ……なのか」


 跪くようにして短剣を拾い上げる。鞘ごと刺さってたのかよ。


『――我も投げ捨てられた際はいよいよ終わりかと身構えていたが、龍脈に飲み込まれる寸前、あの者に拾われたのだ』


 ――――本当にお前なんだな。無事だったんだな。


『ああ、心配をかけたな』


 ヴァギリは本当に危機に瀕していた自覚があるのかと問い詰めたくなるほど、今まで通りの口調だった。


 お前がいなかったら……お前と会話していた2日間がなかったら、きっと俺は妃逆離の洗脳から帰って来れなかったよ。


 顔を上げて、青髪の方を見ながら「これに関しては礼を言うぜ。ありが――」礼を言おうとしたのだが、


「は?」


 そこに仮面野郎は既にいなかった。


 振り返ると、皆の後ろに立っていたアニマ達も消えている。この一瞬で、もう去ったのか。早すぎるだろ。まだ訊きたいことがいくらでもあるってのに。


 いや、一人だけ残っていた。


 フェリス・アウルムの傍に佇んでいた一人だけはまだそこにいた。


 そいつはアウルムの顔に自分の額を付けるようにして、何やら文言をブツブツと唱えているようだった。


「おい、一体何をして――――」


「――状態を見て、気力を分けていただけよ。すぐに目を覚ますわ」


 女の声だった。青髪と同じような黒い仮面を身に着けているが、その髪は青ではない。


 黒く、長い艶やかな髪。


「レンドウ、あなたが正しい道を選ぶことを祈っているわ」


 は? なんだよその、別れる寸前の台詞みたいなのは。


 そりゃ、他の奴らを同じようにお前も一瞬で消えるタイミングなのかもしれないけどさ。


「待てコラ、言いたいことばっかり吐き捨てて消えてくんじゃねェ!お前、また記憶を失う前の俺の知り合いとかかよ!?」


 俺の叫びに、女は、


「別に、それほど面識があった訳ではないわ。ただ、あなたは私と同じ種族な訳だし、不幸になって欲しいとは思わない」


 直後に、女の姿も掻き消えた。


「――それだけよ……」


 という言葉だけを残し。


 チッ。地面を強く蹴り飛ばすが、気持ちは全く晴れなかった。


「……結構、アニマの人達って癖が強いんだね」


「全くその通りだと思うぜ」


 レイスの言葉に同意しておく。というか、結構で済むかよ。


 里の外のアニマって、結構気性が荒いタイプが多いのか。暴力慣れしている雰囲気をバリバリ感じたぞ。


 穏健な里の皆とは合わないからこそ、独立して生活しているということなんだろうか……?


 ヴァギリが戻ってきてくれたのはとても喜ばしいことなんだが、アニマの登場にはドッと疲れた。


 それに、ニルドリルだ。あいつを助けられなかったし、それだけじゃない。


 それが引き起こす問題にも目を向けなければならない時が来る。


 マリアンネも悲しむだろう。自分を殺そうとした男の行動が、本心でなかったと知れば。


「――そうだ、レイス」


 いつまでも暗くなっていても仕方がないと思い、話題を変えようと思った。


「なに?」


「そもそもお前、どうやってここまで来たんだよ」


「ああ、そっか……」


 レイスは俺に巻き付けたマントを指さしている。暗い赤色のマントだ。


 これがどうかしたのか? と目で訴えれば、


「それ、魔王様から貸し出されたマントなんだよね。レンドウは見てなかったから分からないと思うけど、ヴァリアーが襲撃された時にジェノ君が着ていたものと同じなんだ」


「おま…………魔王に会ったのか?」


「え? ううん、街の入り口に着いてすぐ、魔王様の使いって人に渡されただけだよ。伝言と一緒に」


 伝言……。魔王は、俺たちの到着タイミングまで予期していたってことか。


「剣氷坑道の高地で、レンドウがピンチだって。このマントに能力を通せば飛行が可能になるから、すぐに助けに行くようにって伝えられたんだ」


 俺の状況まで読めるのか? そんなの、人の心を読んだニルドリルを超えているじゃないか。世界そのものの、未来まで見ているかのようだ。


 気になることは他にもある。


「飛行だって? ……これで」


 うん、とレイスは頷くと、「試してみたら?」と促してきた。


 腕から……いや、背中でいいか。背中で翼を形作り、滑空する時のように広げようと意識すると……すぐに足が軽くなった。


「うお……ぃ……ッ!?」


 赤かったマントは俺の緋翼を吸収したように漆黒に染まると、それ自体が浮力を持つかのようにふわりと広がった。


「……相当慣れがいるだろこれ!?」


 慌てて緋翼を吸収すれば、自由落下が始まる。


「ぐうっ」


 尻を強打してしまった。


「だ、大丈夫……?」


 気の毒そうな顔で問いかけてくるカーリーに「大丈夫だ」と頷いた時だった。



「……………………ここ、は…………」



 俺の耳が、初めて聴く声を拾い上げた。


 これは――――眠り姫のものだな。


「やっと目覚めたか」


「あ、起きたんだ。……そういえば訊き忘れてたけど、この子は?」


 そうか、レイスとカーリーには紹介して無かったな。


「フェリス・マリアンネの妹だよ。フェリス・アウルム。ニルドリルに人質にされてたんだ」


 自分の名前が呼ばれて、アウルムはビクッとその身を震わせた。


 そりゃ、さっきまであんな目に合ってればな。顔が怖いらしい俺もあんまり近づかない方がいいだろうか?


 そう思っていたのだが。


 レイスは人好きのする笑みを浮かべてアウルムに近づくと、しゃがんで目線を合わせた。


「よろしくね、アウルムさん。僕はレイス。あっちはレンドウに、カーリーさんに、ナージア」


「よろしくお願いします。……えと、」


 アウルムはレイスの後ろを覗き込むように、俺を見たのか。


「レンドウってことは…………もしかして、レン兄?」


 そんなことを言い出すものだから、驚いた。


 いや、でも、そうか。


「フェリスの……マリアンネの妹ってことは、そうか。俺と面識があってもおかしくないのか」


 言うと、アウルムは悲し気に目を伏せた。


「まだ、記憶は戻ってないんですね……」


 君の瞳の輝きを奪ってしまってごめん……。


 俺まで深い悲しみに襲われそうになるこの気持ちは、ああ、一体なんなのだろう。庇護欲をそそる? 違う。


 ……先天性の魅了だ。なんとなく、そう思った。もしかすると姉よりもこの妹の方が、種族としての特性を強く持っているのかもしれない。もしくは、それを隠すことが姉より下手なのか。


 ――いかん、気をしっかり持て、俺。こんな子供に魅了されてたまるか。


「悪ィな、正直あんま気にして生きてないんだわ。思い出すことに関しては期待しないでくれ」


「分かりました。でも……あまりにも変わり過ぎでキモいです」


「…………」


 昔の俺は大層優秀で、好青年だったらしいからな。そう言われるのも仕方ないか。


「起きれるか?」


「は、はい……」


 アウルムの手を掴んで引き起こすと、突如として、緊張の糸が切れたようにアウルムが倒れ込んできたものだから、反射的に抱き支える。あれ、なんかさっきの俺に似てないか?


 さっきは支えられる側だった俺が、今度はこうやって他人を支える側になると。


 なるほど、こうやって善行は回っていくんだなあ。れんどう。


 ……なんとなく後ろのカーリーの視線が気になるが、別にこれくらいで怒ったりはしないだろう。しない……よな?


「うっ……ぅ……ひ……っく……」


 ……だって、泣いてる少女だぞ。


「なんで、どうして…………あたしばっかり…………お姉ちゃんばっかり……」


「フェリスだって……あ、マリアンネだって結構苦労してるっぽいけどな」


 アウルムの背中をさすりながら、泣き言に……これ苦言を呈しちゃってるか? もっと全肯定してあげた方がいいんだろうか。


 いーや、あんまり甘やかすのは俺の性に合わないね!


 そのせいでアウルムが泣いている時間は多少長引いたかもしれないが、彼女が落ち着くまで待って、それから俺たちはこの後の動きについて相談し始めた。


『グローツラングと戦っていた者たちの心配は良いのか?』


 とヴァギリにつつかれたが、「さすがにあそこに残ったメンバーなら問題なく勝ててるよ」本心からそう答えてやることができた。


 攻略法も解ってた訳だしな。むしろ、グローツラングへの有効打を持つ吸血鬼があそこには集まっていたんだ。


「それよりも、問題はどうやって向こう側に抜けるかじゃないか? 坑道が崩落しちまってるって話だろ」


 ここまで足になってくれていたナイドは勿論、俺たち自身だって通れないだろう。


「僕がカーリーさんにしたみたいに、一人一人抱えて飛ぶとか……?」


 レイスがそんなことを言い出すものだから、俺は「抱えたって、どういう体勢……? お姫様抱っこ……?」とか少しだけ想像してしまった。


 違う違う、なんだ俺。レイス相手に嫉妬したってしょうがないだろ。どうせこいつ恋愛とか、その手のこと考えたこともないだろうし。うん。


「そんな何回も行ったり来たりするつもりか? どんだけ時間掛けるんだよ」


「そうだよねー……」


 と、途方に暮れていた時だった。


 じっと動かず、黙っていたナージアが身体を起こすと、口を開いた。


「どうやら、それは解決しそうだ」


「え? ……どうやって?」


 レイスの問いに、ナージアは「上を見てくれ」と言った。


「長たちに頼めばいい」


 俺はその時ようやく、自らの頭上に滞空する巨大な存在を認識した。


 いや。ナージアに言われるまでは、魔法的な障壁により知覚できなかったのかもしれない。


 ――それほどの存在感だった。


 真下にいる俺たちに影が掛かっていないということは、それはかなりの高度にいるはずで。だというのに、あの大きさ。


 まるで、ヴァリアー級の建物そのものが浮かんでいるかのようだ。


 ヴァギリがほうっ、と感嘆の声を上げた。


『これはまた、よくこの時代にここまで立派な氷竜が育ったものだ』


 あれが。あれこそが…………氷竜。



 ――――竜なんだ。



【第8章】 了

お読みいただきありがとうございます。


これにてPixiv版の最終更新部分です。結局、全てをなろうに移すだけで半年も掛かってしまいましたね(汗)。しかし、中々の達成感です。


第9章ではいよいよ魔王ルヴェリスが登場し、この世界の秘密が沢山語られることになります。ずっと書きたかったシーンがてんこ盛りなので、モチベーションは高いです。そう遠くない内に更新を開始できると思います。


……では、その日までお元気で!

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