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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第8章 魔王編 -背信の軍師と氷の竜-
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第130話 燻る想い

 しばらくして戻ってきたアンリによると、どうやら俺達を出迎えるのにはもう少し時間が掛かるということらしい。


「ということで、私が皆様の行きたい施設へとご案内する役目を賜りました!」


 えっへんと胸を張るアンリだが、俺たちが本当は一刻も早く出発したいのだということを分かっているのだろうか。


「多分、フェリ姉を逃したぶんまで私達をもてなすつもりなんでしょうね」


「なんで? どうしてそうなんの」


「元々、貴族には通りがかった町の指導者に挨拶する義務があるんです。また、それを町が持て成すことにも。本命に断られたとはいえ、その後続に私たちがいると解ったら……全力でおもてなしをしないと、むしろこの街の面子が立たないんですよ」


 かーっ。格式高いもの同士の気遣いかよ。くっだらな。


「ホンモノの代わりに俺達なんかを相手にして気が晴れるもんかね」


 シュピーネルも面倒だとは思っているのか、俺の失礼極まりない発言をただ流すだけに留めた。怒られなかったわ。


「いつか、姫様や他の部族なんかにつつかれないように、隙の無い振舞いをしなければならないんですよ」


「その程度の事でフェリスは怒んの?」


 それ、俺もう手遅れじゃね? 今まで何度となくあいつに非礼な口を利いてる気がするんだけど。もう死刑じゃね?


「怒る訳ないでしょ!」あうっ。シュピーネルに肘で脇腹を突かれた。


 お前が怒ってるじゃん!


「じゃあ、とりあえず鍛冶屋に案内してくれ」


「承知いたしました!」


 アシュリーの要請に、アンリがびしっと敬礼した。


 一人の男性が進み出てきて、ナイドたちの手綱を預かった。馬小屋(?)へと連れて行ってくれるそうだ。


 歩き出したアンリに一行が続いて、俺も踏み出しかけた時、背中をつつかれた。


 ――ジェットだ。


 いや、気づいてはいたんだ。お前が物言いたげに俺を見つめてることには。


 だけど、何となくこっちからは話しかけづらくて、放置していた。


「何だよ」


 背中をつつかれたものの、立ち止まるでもなく俺は歩き出す。勿論、ジェットを引き離すために早歩きしたりなんてことはない。


 皆から遅れないように歩きつつも、最後尾に回る。ジェットはそんな俺の右に並ぶように歩いた。


「あんた……レンドウ、はさ」


「ああ」


 なんだ。何の話が来る。背中に、首にじわりと汗が滲む。俺はまるで、何かを恐れているかのようだ。


「随分ネルと距離が近いみたいだけど。どういうカンケイなんだよ」


 …………そういう話かよ。めんどくせーな。


 くそが。


 人殺しの悪魔の分際で、よくもまぁそう人間らしい感情を持って生活できるもんだ。


 駄目だ。こいつを相手にすると、どうしても汚い感情ばかりが浮かんでしまう。


 ――自制しろ、レンドウ。


 …………要はアレだ、愛しのシュピーネルに悪い虫がついていないか確認したいってんだろ?


「別に。どんな関係でもねェよ。ただ、俺がフェリスの傍にいても問題ないかどうか、あいつが見極めてるってだけで。つまり監視だよ。あいつが俺を気に掛けてんのは」


 何か嫌がらせでもしてやろうかと思ったが、素直に事実を述べることにした。嫌がらせっつーか策謀っつーか、こいつに対してそういった労力を掛けることすら煩わしい。


 俺の感情を動かさないでほしい。目障りだ。一生会いたくなかった。消えろ、クソガキ。


 死ね。死ね。死ね……なんて、駄目だからな、直接こいつに言えるわけがない、言うなよレンドウ。そうしたら、終わっちまう。我慢だ。


 …………あァ、本当に俺はどうしちまったんだ。


 感情を上手く整理できない。こういう時は、いつもレイスに相談していたんだ。レイス。今なら恥ずかしげもなく言える。俺はお前に頼っていた。自分が暴走することが怖い。心情を吐露する相手が欲しい。


「なんだ、そう……なのか」


 それで納得したのかどうかは分からないが、もしかするとジェットも俺と同じように、俺との距離を測りかねているのかもしれない。


 なんとか会話の糸口を見つけようとして、それがシュピーネルだったのかもしれない。ハッ、俺と会話してどうなろうってんだよ。仲良くなろうってか?


 そんな必要ないだろ。この世界には沢山の人がいて、どいつとつるむかは自分で決められる。どうして一度殺し合った俺とお前が、大切なものを壊された俺が、お前と仲良くなれると……!!


 ぎし、と軋んだ床の音で我に返る。冷たい空気が熱くなった頭を冷やしてくれる。


 ……階段を上るんだ。余計なことを考えてると転んで大変なことになるぞ。


 そうやって自分を宥めていると、ジェットはいつの間にか俺の傍から離れていた。それでいい。


 二階部分の壁が掘られていて、そこが鍛冶屋になっている。熱を扱う関係上、木製の足場の上では作業ができないわな。


 奥にはグツグツと煮えたぎる金属(?)も見える。溶鉱炉というものだろうか。


「あんなもん別に用意しなくても、エーテル流に突っ込めば簡単に金属とか溶かせるんじゃねェのって思うんだけど」


 何の気なしに言ってみると、アシュリーが反応した。


「溶けはするだろうが、そのまま駄目になるぞ。未だエーテルを直接持ち運びするような技術もないんだ。あれはあらゆる物質を破壊するものだと言っても過言じゃない」


 さっすが暴力インテリ。


「じゃあ、あのエーテルを運搬してたパイプとか、あれを支えてる地面ってどんだけ頑丈なんだよ……って疑問を感じてしまうのは、俺がバカだからか?」


「いや……着眼点は悪くない。結論から言えば、分からない。エーテル流の下を支えているものがどんな材質をしているのかを知る術は、未だない」


「パイプは?」


 俺はエイリアの地下、カーリーが住んでいた場所で、それを見ているんだ。


「それも分からん。今よりも進んだ技術を持っていた、古代文明の遺産だろうと言われているが……言われているというより、そう言うしかないというか」


「便利だもんな。大体古代文明のせいにしとけば解決するし」


 投げやりに言ってやると、アシュリーが少しイラッとしたのが分かった。


「いや、違うからな。別にお前を馬鹿にした訳じゃ……」


「気にするな。分からないことがあるのが悔しいだけだ」


「あ、そう……」


 意外だった。アシュリーが俺を気遣うようなことを言うなんて。前なら無言だったぞ?


 ――結局、今ある武器をメンテナンスしてもらうのには時間が掛かり過ぎるだろうとのことで、新品の武器をいくつか購入する事にした。


 ……購入といっても、ヴァリアーでの電子通貨は使える訳がないし、俺たちが魔国領の通貨なんて持ってるはずもなく。結局シュピーネルとジェットが交渉することになった。


 まぁ、“姫様一行への持て成し”という名目で、タダで色々な物を押し付けられそうになった訳だが。そのどれもをシュピーネルは断り、また金銭を支払うことを認めさせていた。「うちらはお姫様じゃないんで!」だそうだ。


 そんな硬くならないで、貰えるもんはもらっときゃいいのにな。最終的にヴァリアーの面々は「後で払ってくれればいいから」という店主の好意に甘えることにした。シュピーネルがどれだけ意固地になろうが俺達には関係ない、という訳だ。


 彼女のポリシーを無下にするようで少々悪い気もしたが、あいにく俺もアシュリーも……多分ベニーも、自分の命が掛かっている状態で遠慮なんかしないタイプだった。アルフレートもきっと、それで正しい、そう言うはずだ。


 ――だよな、ヴァギリ?


 短剣へと問いかけるが、やはり答えない。聴こえていないフリだと思うんだが……。日常生活の中で隙を見て話しかけていれば、ポロッと返事しちゃうとか、ない? ないか。


 結局、ロングソードにショートソード、ダガー数本をいただいた。


 俺の左腰には、ヴァギリとピアスが下げてある。どちらも軽量で、取り回しがしやすい武器だ。緋翼を絡めれば武器を肥大化させることもできるし、これぐらいが丁度いいと思っている。


 だけど正直なところ、ピアスにガタがきていることも分かっていた。なまじ思い入れがあるせいで今日までメンテナンスも疎かに酷使してしまっていたが、いざ戦場で壊れましたじゃ洒落にならない。


 なので予備として、右腰にショートソードを吊るすことにする。


 アシュリーは愛用している小手を鞄にしまい、慣れない手つきでロングソードをさわっている。大盾使いの大生(おおぶ)もそうだったけど、特殊な武器を愛用している奴って、それを失った時が大変だよな。


 ポピュラーな武器を使えると、こういう時に役に立つ。……レイスみたいに、得意な武器が定まっていない奴もいるけど。あいつはいつもその場にある武器を使っている。というかあいつの場合、戦いに適性がある訳じゃないんだよな。ただ、あの不思議な力のおかげでゴリ押しが通用しているってだけで。


 腕力なんてまるでないあいつに、ゴリ押しという言葉を当てはめるのはなんだかおかしいけど。ははっ。


 その後再び一階に下りて、今度は食料品を調達した(調達とはつまり、大部分を譲ってもらったってことだ)。


「あ、もういい時間ですね。これくらいの時間になったら来ても大丈夫だと、長が言ってました」


 それが済んだ頃、アンリがそう促した。


 それに従って、いよいよ長の屋敷の敷地へと足を踏み入れた俺達。


「どんなメシが用意されてるのかな~、地味に楽しみだな~」


「ちょっと、あんまり品の無い態度とらないでよ!」


 頭の後ろで腕を組んだジェットを、シュピーネルが叱る。


「まぁ、俺も吸血鬼の長がどんな人物なのかはちょっと楽しみだよ。俺達と似た種族が、なんでこんなところで生活してるのかも気になるし」


 あっけらかんとしたジェットの言葉に、同調したのがよくなかったのかもしれない。


「……調子に乗るなよ、灼熱の申し子(フランアニマー)


 静かな怒りを乗せた低い声と共に、衝撃が俺を突き飛ばしていた。


「が、はっ……!?」


お読みいただきありがとうございます。


実際に甚大な損害を被っているため、レンドウ君からのジェットへの感情はどうにも整理し難いものがあります。例えもう敵対していない関係になったとしても、恨みつらみは残ります。


そう簡単に解決する方がおかしいと思っているので、もしかしたらこの先ずっと、荒んだ関係性のまま生きていくことになるのかもしれませんね。

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