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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第8章 魔王編 -背信の軍師と氷の竜-
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第127話 青い髪のアニマ

 ◆ジェット◆



 やっとわかったんだ、自分にとって一番大切なものが何なのか。


 オレはもう、見失わない。魔王様のためにも。


 ――それが約束だから。



 ◆レンドウ◆



 おいおい、お二人さん。いつまで抱き合ってんだよ。いい加減にしろブチ殺すぞ。


 ……とは直接言った訳じゃないが、さすがに周りの視線に耐えられなくなったのか。


「~~~~っ!!」


 シュピーネルが無言のまま、ジェットの背中をガンガンと拳で叩いて抗議した。


 ジェットは目をぱちくりさせてからシュピーネルを開放すると、フゥと息をついてから、俺たちの方へと向き直った。シュピーネルは顔を真っ赤にして、服のしわを伸ばしている。


「なんなのよ……」


 まんざらでもなかったろお前。


「……失礼しました。オレは【(セント)レムリア十字騎士団】所属、魔王城警備隊のジェットです」


 ……こいつ、丁寧語使えたんだな。背筋をピンと伸ばし、右手を曲げて水平に胸の前に置いたジェット。拳は握られて、目も瞑っている。


 聖レムリア十字騎士団とやらの敬礼だろうか。しかし、目を瞑るとは結構珍しいんじゃないか?


 まぁ、相手に対して攻撃する意思が無いことを示すという意味では、相応しい所作だと言えるか。


 2秒ほどで目を開けたジェットに、俺はどう返すべきだろう。


 考えるより先に、口が開いていた。


「俺はレンドウ。吸血鬼じゃなくて、アニマだ。治安維持組織ヴァリアーの魔物対策班15番隊に所属してる……。……ッ……」


 お前がイオナを殺したんだ。死に晒せクソガキ。そう自分の口が零さなかったことを、今は評価したい。


 こいつの、この腕が……あの時槍を投げなければ! 今だって、彼女は生きていたはずなんだ。


「アニマ? ……ジェノと同じ、か」


 わざわざ言われなければ気づかないということは、魔王軍の目から見てもアニマと吸血鬼を見分けるのは難しいってことか。


「同じく15番隊所属のアシュリーだ。こっちは医療班のベニー」


 俺がそれ以上何も言わないことを察してか、アシュリーが言った。紹介されたベニーは軽くを頭を下げた。


「レンドウ……さん、にアシュリーさんにベニーさんね。で、ネルにナイドたち……か。フェリスはいないんですか? 他の皆さんはどちらに」


 こいつ、俺にさんをつけるのを一瞬躊躇わなかったか。


「うちらはヘマしちゃって置いて行かれたの。逆に訊くけど、ジェットは道中でフェリ姉とすれ違わなかったわけ?」


 訊かれて、ジェットは顎に手を当てて思案した。


「会ってないな。オレは坑道を最短ルートで突っ切ってきたから、もしかするとフェリスが里の方に寄ってた時だったのかもな」


 こいつ、馬も使わずに一人で走って来たってのか。とんでもない体力だな。魔王城からの正確な距離が分からないけど。


 俺も似たような経験が無くもないが、幼馴染を探して半日走り続けるという苦行は、正直に言って二度と御免だ。


「待て、里って言ったか? なんだそれ」


「あー……実は……言ってなかったんですけど、剣氷坑道を人間が廃棄した後、そこに吸血鬼が住むようになったんですよ」


 答えてくれたのはシュピーネルだった。というか、そんな衝撃的な事実をあっさりと。


「え、それが吸血鬼の里? 俺の故郷と名前丸被りじゃね?」


「レンドウさんの故郷は実質アニマの里だからいいじゃないですか」


「別段文句とかはねェけど、紛らわしいことこの上ないな」


「それはそうですね。とにかく、残り少ない吸血鬼たちにとってあまり広めてほしくない話なので……吸血鬼の里の話はそこら辺でしないでくださいね」


「……ああ、そういうことか。わかった」


 そこの吸血鬼たちだって、混血……なんだよな?だからこそフェリスはピュアブラッドって呼ばれてる訳だし。


 吸血鬼の所在が明らかになったら、やっぱり人間は吸血鬼狩りとか画策しちゃうんだろうか。分からない。ヴァリアーならそんなことはしないと思うが、国によっては駆逐を望むだろうな。帝国とか。


「あれ? でも確か、剣氷坑道に手強いモンスターが住みついたからこそ放棄されたって話じゃなかったか?」


「それに関しては、もう8年も前に吸血鬼さん方が駆除しちゃいました。人間は未だに近寄っても来ませんけどね! だからこそ剣氷坑道の向こう側に魔王城を用意した訳ですし」


「なるほど……」


 じゃあ人間が採掘場として使っていた場所が、今や吸血鬼の楽園ってワケだ。人間を力ずくで追い出したわけでもないっていうなら、吸血鬼にとってはラッキーだったな。


「フェリスの故郷だから立ち寄ったってことか」


「いえ、それもありますけど。ナイドを里に預けて、トロッコに乗ったんだと思いますよ」


「トロッコって?」


「乗り物の種類です。レールの上を滑る箱なので……人間界でいう電車に似てるかもしれませんね」


 うん、デンシャもわっかんねェからもういいや。ふんふんと頷いて、分かったふりをしておく。


「あいつらもそこで休憩を取っているなら、今移動すれば追いつけるかもしれないか」


「距離的にはそうですけど、あの歩く辞書さんはお堅いですからね。『休憩はとらん。眠い奴はトロッコの上で寝ていろ』とか言って出発を強行してそうじゃないですか?」


 めちゃくちゃ言いそうだ……。


「そうだな」


 アシュリーも頷いたが、それでも諦めるつもりは無いらしい。


 というより、“大事な場面”に間に合わないことを恐れているのかもしれない。


 あの時、俺がそこにいれば。……そんな風に後から後悔したくないよな。だからこそアザゼルを助けに行った訳だし。


「すぐに移動するってのは俺も賛成だ。というか、気絶させたアニマがいつ起きるか気になって休憩なんてできねェよ」


「そうだ、結局こいつらは何であんたらを襲ってたんだ? ……ですか?」


 ジェットの口調が崩れた。まぁ、難しいよな、丁寧語はな……。


「それは俺達にも分からない。あと、無理に丁寧語使わなくていいぞ……ジェット」


「そ、そっか。……あぁそうだ、外で3人気絶させたんだけど、一人だけ逃がしちゃったんだよ。青い髪のやつ」


 しれっと3人のアニマを無力化させたと告げるジェットの戦闘能力はさすがというべきか。


 しかし、


「青い髪のアニマ……か」


 ジェットが逃したというそいつこそが、俺の緋翼と拮抗するほどの緋翼を持っていた人物だと思えてしまう。こういう嫌な予感ってのに限って当たっちまうもんだ。


「なら、やっぱりそいつが戻ってくる前に移動しよう。これ以上仲間を引き連れてこられたら溜まったもんじゃねェ」


「ですね」


 ――こうして、ジェットとどう接するべきか定まらないまま、俺達の旅路は再開したんだ。


お読みいただきありがとうございます。


現在Pixiv版の最終更新部分であるこの第8章は、自分で読み返しててもかなり面白い出来だと思ってます。ご期待ください。


初期と比べて見違えるほどに成長したレンドウ君を見て欲しい。いや、見せつけます。

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