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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第7章 魔王編 -へらへら男とくそったれの地下街-
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第119話 暗転

 ◆アザゼル・インザース◆



 両開きの扉を開放すると、すぐ右上に監視カメラが設置されていることに気付いた。右腕を振り払い、“ピック”を飛ばしてレンズを破壊しながら前へ。


「この部屋とか、その部屋とかをよろしく」


 振りかえらないまま、背後にいるヴァリアー隊員たちへ告げた。この周辺の部屋だけを担当してくれれば充分だ。


 すぐに終わらせる。


 監視カメラを次々に潰しつつ廊下の突き当たりまでたどり着くと、建物は左へと続いていく。「コの字」の側面に沿った部屋のどれかに重要な機械があるだろうから、ここからの部屋は全て目を通すべきかな。


 そこまで考えたところで、斜め左のドアが音を立てて開かれた。


 悪いけど、君らの手は待ってあげないよ。そこから何者かが現れるより早く、右腕を突き出し“黒葬”を……いや、すぐには見つからないな。発声を抑えたい、ここは()()()()()で代用するべきだ。


 大量に仕入れたこれは、外の世界に喜ぶかのように爆出する。


 不死鳥の炎が荒れ狂い、悲鳴すら上げられないまま、現れた人影は倒れ伏した。それを踏みつけながら部屋へと侵入すると、「あいつだ!」「アザゼル・インザース!!」複数の敵の存在を確認できた。


 医務室……のような場所だろうか? 何かの薬品が火を強めた気がする、と、部屋を焼き払いながら考えた。急いでことを為す必要があるとはいえ、やはりこの容赦のなさはヴァリアーの面々に見せるべきではないだろう。


 恐らく彼らの精神構造……仁義……善悪の観念とは相容れない部分が多いだろうから。


 でも、俺だって好きで彼らを無慈悲に惨殺している訳じゃない。


 かといって嫌いでもないんだけど。


 部屋を火事場へと変え、その場を離れ――後ろから殺気を感じた――、「バーミィ」体勢を低くしつつ振り向きざまに生ける鞭を伸ばし、相手の胴体に巻きつけた。


 誰だか知らないけど、君がこれを対価にする価値のある相手だったことを願うよ。


「な、きさま――――」


「バイバイ、バーミィ」


 白い巨体。紛争地帯であらゆる魔人、人間を区別なく喰らって異常な成長を遂げていた怪物、≪ワァバミ≫。その頭部より髪のように生えていた触手だ。使い勝手はよかったんだけどなぁ。無傷で終わらせるには道具を使い捨てる思い切りが必要だ。


 相手と位置を入れ替えるように振り回し、胸部に蹴りを放ちながら“バーミィ”を吐き出した。4年ほど連れ添ったそれに目礼を送りつつ、未練を断ち切るように扉を閉めた。炎の中で苦しむ誰かさんの声も、聴くに絶えないしね。


「ヒ、ヒィィィッ」


 そこら中の部屋から白衣を着た人間が何人も飛び出してきていた。


「なんだ、そんな簡単にここを捨てちゃっていいの?」


 別な場所にも基地があるというなら、そこまで案内して欲しい気もするが……、


「時間も余裕も無いからね、ピック」


 一目散に出口を目指す背中を投擲具で穿ち、うめき声で満ちた廊下を()()()()()()()


「さて、と」


 唯一誰も逃げ出そうとする人間がいなかった、閉ざされたままの扉がある。


 確信めいた予感を感じつつ、その扉へと炎を放った。放ち続けた。そして扉が朽ちる音を上げ始めた時、身体ごとそいつをぶち破る。


「黒葬」


 やはり、向こう側では戦力が待ち構えていた。燃え盛る扉の残骸から身を守るように顔を庇っている人物。その腹部に漆黒の槍が突き立っている光景は壮観だ。素早く、美しい勝利だ。


 槍を引き戻す時間が惜しい。“黒葬”をそのままに、周囲を見渡しながら炎を振りまく。焦りながらも何かの機械を操作する白衣の男がいる。それを守るように、2人の護衛がいる。そして俺の背後に回ろうとしているもう一人――――、


「アザゼルゥゥッ」


 鋭い呼気と共に飛び掛かってきた人物。まるで蛇のようだ。


 後退すると、先ほどまで立っていた場所にナイフが突き立って、まずいと思う間もなく顔面にもそれが迫り――咄嗟に左腕を上げて防いだ――突き立った。防げてはいないじゃないか。激痛だ。


「んっ――――……」


 それに目を向けた時には、右手にもナイフが深々と刺さっていた。あれ、結構手練れの人……?


「これで器用さがマイナスだなお前はァ!!」


 俺の腹部を踏みつけて跳躍しようというのだろうか、迫りくるその右足を、俺の右腕ががっしりと掴んだ。


「――――何ィィッ!?」


 俺の名前を呼んでいることから考えて、きっと彼は俺を知っているのだろう。


 そう、彼。


 男だ。じゃあ、思い出す必要も、感慨も無い。彼は俺の人生に不必要な輩だ。


 両腕を封じれば、近づいても大丈夫だ。そう考えたのだと思う。だとすればそれは大きな間違いだ。俺の貯蔵庫には義手がいくつも含まれている。人間のように動かせるものも、また、人ならざるものも。


 代わりの腕なんて存在しないという油断が敗因みたいだね。


 駄目だよ、敵が普通の人間だと決めつけちゃあ。


「ぐ、ぐっ が ああああああああああああ ああ  ああ あ あ ああぁぁああぁあああああああああああああああああああ!!」


 右足を“鉤爪”となった俺の右腕に握りつぶされ、悲鳴を上げる彼……そのまま後方へと投げ飛ばし、再び右腕を前に向けた時には、


「ガトリング」発声することで管理している物質の中から目当ての物を現出させていた。


「や、やめたまえ!」白衣の男が何か言いそうだけど、恐らく聞く価値はないだろう。


 こいつは巨大昆虫の尾針だ。大森林に住む集蟻(タカリアリ)は、これを飛散させることで鳥すら獲物にする。カルシウムを主とする銃弾だ。


「私を殺していいのか!? お前の仲間たちは今頃――――」


 ぐにゃり、と蠕動運動をしたグロテスクな異形は、目を疑う速度で死を連射した。


 白衣の男ごと機械に穴が開いた。不快な音の後に、視界が真っ白に染まる。


「――――、」


「…………!!」


 背後の爆発音にかき消され、護衛役であろう二人の叫び声は聴こえなかった。あとは激昂した二人をどう処理するか考えながら、ふぅっと息を吐き出した。


 あれ、仲間が……なんて言って逝った? まいったな。


 殺しちゃったから、当然もう聞けないけど。



 ◆レンドウ◆



 アザゼルは、素早いとまでは行かない速度、しかし無駄と迷いのない足取りで進んでいった。周囲を完璧に警戒しつつ出せる最大限の動きがあれなんだろう。そう考えると、彼の戦闘レベルの高さが窺える。


「俺たちもやることをやらないとな」


「ああ。この部屋、開けるぞ」


 アシュリーが入口から最も近い扉の前に立って言った。


「オッケー」


 俺はと言うと、そう言いつつ反対側の扉の脇に待機することにした。向かいの部屋から敵が出てきたら困るし、廊下の様子も監視しておきたいしな。


 ドアを開くと同時に素早く室内へと駆け入り、構えを解かぬまま周囲を警戒していたアシュリー。誰もいなかったのか。


「あっ」


 シュピーネルが声を上げ、その後に手の平も上に掲げた。すると、魔力で構成されたガラス片?水晶?みたいなものがそこから飛び出した。薄青に発光する刃だった。続けて響く破砕音。


 ここからじゃ見えないけど、監視カメラを破壊したんだろう。もしかして全部の部屋に監視カメラが設置されてんのか? 徹底してんな。


 それに全く臆した様子もなくぐいぐい進んでいくアザゼルってやっぱり凄いんだろうな。あいつが消えた方を見ながらそう思った。例えばの話だけど、俺だったら単身で敵対したヴァリアー基地に潜ろうなんて思えないからな。まぁあっちは建物の規模からしてデカすぎるけど。


「この部屋は何にもなさそうだ。次の部屋に移らないか?」ティスがそう言うと、皆同感だったのか、すぐに廊下へと戻ってきた。


「まぁ入口近くの部屋にそんな大事な書類とか置かないですよね」


 シュピーネルが言うことも尤もだった。


「この部屋にも誰もいないと思うぜ」


 何もせずに廊下に突っ立ってるのも悪いし、つーか所在無ェから扉に耳を当てて気配を探ってたんだ。


「よし」


 先ほどと同じようにアシュリーが真っ先に部屋に入っていく。シュピーネルがそれに続き、やはり監視カメラを破壊する。


 ルーチンワークになってくると危ない気もするんだよな。慣れは油断を生む。次の部屋にも何もないだろうと高を括ってしまう。


 廊下の曲がり角の先から、何者かの悲鳴が聴こえてきて心臓が高鳴った。アザゼルの声ではないから、大丈夫なんだろうとは思うけど。


 無言でアシュリーが3つ目の部屋に取りかかろうとした所で、その手を掴んで止めた。


「……何かあるのか」


「わからん。でも、俺に先に入らせてくれ」


 薄く緋翼を展開させて、両腕に纏わせておく。ドアノブを回し、左肩から押すように開け、素早く右側に跳んだ。


 …………何もない…………のか?


「なんだー、拍子抜けですね」


 そう言いながらすたすたと室内へ足を踏み入れていくシュピーネル。ヒュンッ、と風切り音を立てた水晶片が監視カメラを穿った。確かに、今までと同じに見える。


 なんだ、俺の思い過ごしかよ。少し恥ずかしいような心地にもなりながら、いやいやと思い直す。警戒するのは別に悪いことじゃないんだから。


 両腕の緋翼を開放すると、それらは空気に溶けるように霧散した。


「おお、危険は無かったけど、書類はありそうだぞ」


「…………」


 ティスとベニーも部屋に足を踏み入れて、箪笥やガラス棚、机の引き出しなどを調べにかかる。


 これは、誰かの書斎……かな。本棚もあるし、伏せてあるマグカップに……あれはコーヒーか。いつかヴァリアーで見た……アドラスとピーア、それにヒガサの生活空間にどことなく似ている。格式高い人物が利用している部屋なんだろう。


 机の上にそのまま放っておかれてるような紙束が重要な書類だとは思えないよな……と思いつつもそれを手にとってみた。


「んーー」


 駄目だ。全然頭に入って来ねェ。いや、決して俺は馬鹿キャラではないと思うんだけど。


『霊的エネルギーの定着率を高めることにおいて、自然界でのそれらの供給を担う植物の――』『人体に存在しない臓器を取り込むことによる弊害と対策』『長期実験体の体内霊素の異常濃度が引き起こした奇形化、また部位欠損についての――』


 知らない世界の言葉ばかりで、最早共通語とは思えない。でも少しだけ分かった気がするのは、なんかグロい実験結果が出てそうな内容だなってこと。


 え、これザツギシュ関連の話なの? それとも、この施設では他にも何かの実験をしているのだろうか。


「意味不明な紙束だけど、これアザゼルが言ってたように焼いちゃっていいんだよな」


 渡されていたライターを手に言うと、アシュリーの手が伸びてきた。


「うおっ」「ふむ……」


 素早く目を通したアシュリーは、それを無言でポーチに突っ込んだ。


 え……?


「アシュリー、お前」


「アザゼル・インザースを信用していない訳じゃない。だが俺たちは圧倒的に情報不足だ。重要そうな資料ほど、この手に確保しておきたいと思っただけだ」


「あァ……そう」


 お前が武闘派学者だってのはもう分かってたけどさ。てか机の上にほっぽり出されてたそいつ重要書類だったんかい。


「そういうことなら、私もこれを回収しておくかな」


 ティスが手にしたファイルを見せびらかしてきた。


「それは?」


「伝説の“3大ザツギシュ”についてのファイルらしい。何が伝説なのかは分からないが」


「裏世界の住人の中では伝説なんだろう」


 アシュリー、おまえ会話めんどくさくなって適当に終わらせようとしてない?


 と、その瞬間だった。俺の耳が近くで扉が開く音――そして何者かの足音――を捉えたのは。


「どぅっ――、」動揺しすぎて、焦り過ぎて、発声に手間取ってしまった。「誰か来てるッ!」


 アシュリーの動きは素早かった。俺の声を聴くや、放たれた矢のように部屋の出口へと走った。


 何者かが入口に現われ、何かをこちらに向けた時には、アシュリーの蹴りがそいつを吹き飛ばしていた。ナイスだ。きっと飛び道具を放ってくるところだったよな。危なかった。


 だが、安心するには早かった。アシュリーの右肩で血が弾けた。


「ぐ、がっ」


 まだ敵がいるんだ!


「撃たれたのか!?」ティスが叫んだ。


 撃たれた。撃たれたってなんだ――!? あれか、拳銃……か? そんなもん、実物見たことなんかねーし対処もしたこと無ェぞクソが……!!


 毒吐きながらも身体は動いていた。ありったけの緋翼をかき集めながら部屋の外に飛び出して、アシュリーの前に転がりながら銃弾が飛んでくると思われる方向へ緋翼の壁を展開した。


 瞬間、緋翼に異変が起きた。小さな爆発みたいな音がいくつも響いて、緋翼に何かが突き立って……穴が開きそうになる。包み込んで、殺せ、ない――――!?


 なんだこれ。なんだこれ。なんだこれなんだこれなんなんだこれは。うるせェ。耳が破裂しそうだ。向こう側がよく見えない。アシュリーを守れ。身体が……熱い。


 右腕と右のももに……穴を開けられたのか? 焼けるように熱い。痛い。


 意識は……あ……ル。俺はまだ、生きている。けど、痛い。何が――、


「レンドウ、そのまま緋翼を前に押し出せるか!?」


 ハッとした。このままじゃ死ぬ。防戦一方じゃダメだ。行動しないと。反撃しないと。なんだ……っけ? この緋翼の壁を……前に? やってやる。


「グ……アァァァアアアアアアアアアアアアァアアアアアアッ!!」


 思いっきり叫ぶと身体のリミッターが少し外れて、力を出しやすいんだって。ダクトに言わせれば隠密性に欠ける減点対象だろうけど……どの道いまは正面からのガチンコバトルだから許してくれ。


 これで何がどうなるのかまでは頭が回らなかったけど、とにかく言うとおりにしようと思った。


 敵を捕らえられれば御の字ってことか?できるだけこの廊下全てを覆うように緋翼を広げて、敵を捕らえるネットのように収束させたつもりだ。


「よくやった、あとは緋翼を維持することだけ考えていればいい!」


 ティスの叫びに安堵して、緋翼を解除……しないようにしないと。床に崩れ落ちながら、それだけを強く考えていた。


「なんだこれは……」「銃が――」


 敵が何人いるのか分からないが、少なくとも銃弾は飛んでこなくなった。緋翼を放ったことと関係あるんだろうな。


 やるじゃんレンドウ。へへ。……誰も褒めてくれないから自分で褒めちゃったよクソ。


「ぶっ倒れろ!」


 シュピーネルの声が響いて、頭上を魔法が通過したんだと思う。すぐに敵の声は聴こえなくなった。


「どうする? 一旦部屋に戻って体勢を立て直した方がいいか」


 右肩を抑えながら立ち上がったアシュリーが言った。俺はと言うと、いつの間にか傍にきていたベニーによって、壁にもたれかからされていた。傷の具合を見てくれているんだろう。「いや、俺ヒトだからさ。怪我なんてすぐに――、」「……――――」銃弾が体内に残るとよくないよ。ベニーはそう言ったのか。確かに、想像したらちょっとどころじゃなく怖いな。俺の右足、右腕と確認した彼女がグッドのハンドサインを送ると、ほっと一息だ。


「そうだな。2番目に覗いた部屋がいいだろう。寝具が畳まれていたようだし……布さえあれば応急処置はできるだろう」


 ティスがそう言って、2番目の部屋へ入っていった。アシュリーがそれに続いた。


「レンドウさん、大丈夫ですかっ?」


「ああ、これぐらい平気だって」


 差し出されたシュピーネルの手を優しく払って、壁伝いに歩く。今だけだ。ほんの数メートル……力を入れたら脚から血が噴き出す程度、大したことない。はっはっは。腹に大穴空けてたこともあるし、なんとかなる。そう思わないとやってられねェっていうかイタイイタイ痛い。


 その時だった。


「廊下……落としちゃってくだ……さい」


 背後より響いた、その微かな声。


 倒れていた敵たちの中の誰かが喋ったんだ。やばい。意識が残ってる奴がいたのか。


 攻撃されてしまう。


「ちっ……」左向きに振り返った時。俺が目にしたのは、倒れながらも拳銃を手にした男……ではなく。


 なんだ、それは。何かのコントローラー? 違う、電話だ。さっきの声は、誰かに何かを要請していた。廊下を落とせ。廊下を落とすってなんだ。意味不明だぞ。


 その答えはすぐに明らかになった。


 遠くで、死にかけの男がニィと嗤った気がした。


 あまりにもあっけなく、足元の感覚が消失した。


「はっ?」


 先ほどまで踏みしめていた筈の床はそこにはなく、ただ奈落が顔を露わにしているかのような、真っ黒な闇が眼下にあった。


 落ちる。落ちてしまう。


「キャアッ」


 横でシュピーネルが悲鳴を上げた。何かに縋ろうとした手は虚しく空を切り、俺たち3人はそのまま――落下、させてたまるか。


 シュピーネルの体を掴んで即、扉へと投げる。大して力は入らなかったけど、それでいい。こいつで後押しすれば。


「っ!? レンドウさんっ!!」


 緋翼を放出させて、彼女の体を押しやった。神業だろ!これは褒められてもいいはずだ。シュピーネルは消えた廊下を脱出し、なんとか部屋の床を掴むことに成功した。


 よし、後はベニーと俺だけだ。だけってなんだ。どうすればいいんだ。もうどうしようもなく落下している。上に戻ることは不可能だ。というか、この勢いのまま落下して地面に叩きつけられたらどうなるんだ。


 当たり前に死ぬだろうな。そう考えた瞬間、あれだけ熱かった痛みも何もかも消えるような寒気に襲われた。


 やめろネガティブ。やめるな、考えることを。俺一人で落下した時は、いつも緋翼で勢いを殺して滑空していたけど……目線を上に上げると、少し上にベニーがいる。俺の方が体重が重いから、落下スピードが速いんだ。


 ベニーを助けないと。抱きかかえる? 届かない。緋翼で触手を生成して彼女を掴んでこっちに持ってきて手に持ち替えてもう一度緋翼を展開しなおして翼に……している時間があるか!? そもそもこの腕じゃ力が入らなくて彼女を抱えられない!!


 ああ、そしてこのクソみたいな暗闇だ。次の瞬間には地面に叩きつけられてジ・エンドなんじゃないのか!?


 全てが怖くて、他人を見捨てることすら怖くて、でも何もできないまま死ぬのは嫌で。俺が持ってる力なんて結局緋翼(これ)しかなくて。


「クソがぁぁあああぁああああああああああああああああああああああああああ!!」


 考えることを放棄するように、俺は真下の暗闇に向けて緋翼を放出した。



 ありったけだ。



 ありったけの緋翼を、出して、広げて、自分とベニーまで包むほどの緋翼の檻を……球体を形作る。できるだけ穴が無いように。でも大きく広がるように。


 緋翼には重力がほぼ掛からない為か、それは容易く広がった。それがベニーの身体に触れたと確信した瞬間、捉えて、俺の元に引き込んだ。彼女を抱きしめると同時に、展開していた緋翼を引き戻す。


 収納するんじゃない。俺たち二人を包む防護壁にするんだ。そこまで考えたところで、凄まじい衝撃を感じて俺の意識は飛んだ。


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