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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第7章 魔王編 -へらへら男とくそったれの地下街-
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第117話 地下都市

 どれだけ階段を下りただろうか。先頭を行くアザゼルの持つぼんやりとした明かり意外に光源は無く、皆が緊張の面持ちで後に続いていた。


「じゃあ、覚悟だけはしておいてね」


 やがて行き着いた先で壁に手を当てて、アザゼルが言ったんだ。そうして彼はそのままその壁を強く押したようだった。


 小さくカチッ、という音が聴こえた後、壁が横に移動を始める。自動ドアってやつか。途端に向こう側から明かりが漏れ出てきて、アザゼルは手に持っていたライトを消した。


 けど、この向こう側の明かり……なんだろう、何か違和感がある。


 地下空間って言ったらさ、やっぱ電気で照明を賄うもんだろ? いや、その建物の規模にもよるかもしれないけどさ、大抵は白とか黄色のライトで照らすもんだ。それか逆に、炎でこじんまりとした明度で暮らすか。


 なんなんだ、この……青白い明るさは。そうした異質さの中に、どこか既視感を覚えている自分にも困惑した。


「ビックリして声をあげないように」


 壁が開ききると、正方形の入り口が出来上がった。アザゼルは躊躇なくそこへ足を踏み入れる。怖いもの知らずか。いいだろう、俺だって気になってるんだ。


 俺たちが足をつけている場所から広がる足場は常に平らで、整備されている。本当にこれだけしっかり作られた場所に誰も来ないなんてありえるのか。もったいな。


 暗さのせいでひどく暗い足元だが、20メートル程進んだところで足場は途切れているようだ。その下から不気味な光が立ち上ってきているってことは、唯でさえ地下にいるのにまだこの下があるってことかよ。


「進む道はこっちなんだけど」アザゼルが指差す先は入口から見て左だった。「先に下を確認しておいた方がいいだろうね。……落ちないでよ」


「誰が落ちるか、バーカ」


 言いつつ、途切れた足場まで近づいて、それを見下ろした。


 ――――――――――――――――…………!!


 熱い。なんだこの熱気は。


 いや、分かっている。眼下に広がる光の波。音を立てて蠢くあれは……。


「エーテル……流……?」


 あれはエーテル流だ。エイリアの≪アンダーリバー≫で見たものと同じ……はずだ。でも、なんだってこんなところに。もしかして、どの国にも地下にはこんなもんが流れてんのか?


 こんなに熱を持っていたとは知らなかったけど、以前見た時は確かにここまで近くでは無かった気がする。もしここから落ちたら数秒と経たずに“爛れ続けるレンドウ”になりそうだ。絶対グロいボスモンスターだな。御免被るわ。


「エーテル流? アレはここでは≪龍脈≫って呼ばれてるものだけど」


「龍脈……か」


 見た感じ、ここも自然にできた流れには見えないな。何者かが造ったルート(溝?)に沿って、ゆっくりと流れている。


「いつ見ても不気味だな」


 隣でそう呟いたのはアシュリーだ。


「お前も見覚えあったのか。やっぱりアラロマフ・ドールで?」


「恐らくお前が見たのと同じ場所……というより、繋がっている場所だろうな。というより……」


「というより?」


「ここも、あの場所と地続きなんじゃないか。この光景を見て、なんとなくそう思ったんだが……」


 ふぅむ。


「でもよ、≪龍脈≫って言葉はよく作り話でも聞くけど。あれってなんかそれぞれがそれぞれに影響を及ぼすみたいなイメージがあるけど、こいつは何か一方向に向かってしか流れてないように見えるけど」


「知るか。そんなの名前を付けたヤツに訊け」


「へいへーい」


 段々とアシュリーの喋り方にも慣れてきたぞ。こっちを気遣って喋ってはくれないけど、別に不機嫌な訳ではないんだろう。


「この熱気で分かると思うけど、落ちたら助からないから注意してね」


 俺たちの身を案じているなら、もう少し早く言った方がよかったんじゃないか。まぁ、ヤバそうなのは見てわかるか……。


「現在の技術ではエーテル流を抽出、加工することは不可能だと思っていたが……」


 ティスが興味深そうに言った。それに反応できる奴は多分多くない。俺は無理だし。


「や、ここの人間たちもそれは諦めてるよ。ただ熱量を貰ってるだけ」


「そうか」


 ティスはどこか安心したようだった。やっぱり自分の国の技術力が他国に負けているかどうかとか気になっちゃうもんなのか?


「はやく進みませんか? うち、正直あんまり見ていたくないんですけどこれ」


 シュピーネルが自らを抱くようにして言った。


 確かに、不気味だよな。特にアレに触れたら一瞬で焼けただれるなんて知識を得てしまったら余計に。頷いて、アザゼルに――――待て。


「足音がする」


 警告を発すると、皆の反応は早かった。各々が武器に手を伸ばし、黙って俺を見た。


 その期待を裏切るわけにはいかないな。目を閉じて、気配を嗅ぎ、また音を聴く。


「…………2人、だと思う。俺たちの後をつけてきた奴らじゃねェかな」


 目を開けると、アザゼルがグッジョブのジェスチャーをしていた。


「待ち伏せしようか」


 言いながら、アザゼルは入り口の横に張り付いた。俺は反対側へと周る。


「手加減は?」


「あー…………」


 アザゼルは俺たちの顔を見渡して、一瞬で何かを考えたのか。


 こいつは“人を殺し慣れている人間”の気がする。


 飄々としていて明るいようで、どこか冷めている。心の底が凍てついている……そんなカオだ。


「――しよう。無力化だけしてくれれば、俺が眠らせるよ」


 だけど、何かに――恐らく俺たちに――配慮するだけの良識を保っているんだ。不思議な男だ。だから信じてみようと思ったんだけど。


 壁に手をつくと、それは別に冷たくもなかった。夏だしな……地下だから関係ないか。生暖かい空気が緊張感を刺すように漂い、酷く不愉快だ。はやくおうちかえりたい。緋翼を壁に這わせて、入口を覆うように伸ばしておく。地面には特に念入りにしてみよう。


 追っ手が俺たちがいる空間に足を踏み入れるのと、影に足を取られて空中に投げ出されるのは同時だった。広げた緋翼をそいつらが踏みしめた瞬間、俺がそれを思い切り引き寄せたんだ。


「――――ッ!?」「なッ――――」


 いいぞ、静かだな。もしかすると、あまり声を出さないように教育されているのかもしれない。いい教えだ。


 そのおかげで静かに事を終えられた。


 空中に投げ出された二人の人物に、それぞれアシュリーの拳、シュピーネルの回し蹴りが入って吹き飛んだ。ついでに、緋翼を纏わせて手足の拘束を狙う。


 シュピーネルが蹴りを入れた人物にアザゼルは素早く跨って、どこかから取り出した布を顔に押し当てているようだった。何かの薬で眠らせようってことか?


 アシュリーの方は、既に自分でぶっ飛ばしたやつを組み伏せて拘束していた。あ、もう気絶してるんじゃないのかそいつ……。


「ワァオ。なんにもすることなかったよ」


 両手を軽く上げてティスが茶化した。隣ではベニーがそれを真似している。ちょっとなんか、かわいいな。


「お前らに戦わせる方が不安だっつゥの」


「それもそうか。しかしレンドウ、もしかすると君は……後衛でサポートに徹した方がいいんじゃないか?」


「……言ってくれるな」


 レンドウ後衛適任説だと。


 ――いや、待てよ。


「でもまァ確かに。示し合わせる時間も殆どなかったってのに、妙に上手くいったな。というか、負ける気がしないんだけどこのパーティ」


 初見で俺の緋翼を見切ることは不可能だろう。攻撃力は然程ではないとはいえ、副局長アドラスでさえこいつを見誤り、斬り伏せようとして絡めとられた。


「索敵、妨害を俺が担当するってのもアリなのか」


 俺が動きを止めたところを、安全に攻撃してもらえばいいんだ。


「お前ひとりで張り切って、倒れられても面倒だからな」


 アシュリーのやさし~い言葉は聞き逃そうっと。それか脳内で「あまり無理はするな(イケボ)」に変換して楽しんでおく。くくっ。


「それにレンドウさん、今は敵を攻撃するのに躊躇がありますもんね~」


 とシュピーネル。


 ぐ……やっぱり隠し通せてはいな……あ、もしかして皆カーリーから聞いてるなちくしょう!?


 アシュリーが気絶させた人物の顔にもまた、アザゼルは布を当てていた。


「これで半日は起きないよ」


「オッケー。じゃあ、今度こそ進もうぜ」


 そうして俺たちは、エーテル流の胎動がこだまする部屋を後にした。


 暗く狭いトンネルのようなものだったけど、あの熱気に晒されているよりはマシだ。ポーチからボトルを取り出して、水を一口。喉を潤すと、なんだか頭が冴えた気がした。


「レンドウさん、もしかして喉が渇いてるんですか? さっきので」


 シュピーネル俺の腕をつついて、小声で問いかけてきた。


 もしかして、俺がさっき緋翼をつかったから心配してるのか。あの程度じゃさすがに疲れないけど。


「そんなにひ弱じゃねェって。大丈夫だって」


「いえ……血が足りないのかな~って」


「そこまで効率悪い身体はしてないと思うからさ」


「あの、レンドウさん」


「なに?」


 シュピーネルは俺の目を真っ直ぐに見ていた。その真剣な視線を受け止めて、俺も真剣に聴こうと思った。


「この際だからハッキリ言いますけど、あなたの……というよりアニマの本当の力はそんなものじゃないと思います。際限なく新鮮な血液を摂取し続ければ、もっと」


「あー、いいって」シュピーネルを手で制す。


「本当に、いいんだよ」


 俺はこれで大丈夫なんだ。きっと、これが最善なんだと心から思えてる。


「他人を血液タンクみたいに見るなんてできねェし、なりたくない。それに……俺一人で暴れなくたって、お前らと協力すりゃ……きっともう、間違えない」


 シュピーネルはぽかーんと口を空けていたが、それは数秒にも満たない時間だった。慌てて手を振って、


「あ、いえいえ、すみませんでした! うちこそ子供でした! ……変なこと言っちゃってすいません」


「全然いいって。またなんか思いついたらさ、ガンガン言ってくれよ」


「い……いえ~す……」


 と、シュピーネぶっ。いつの間にか立ち止まっていたアシュリーの背中に激突していた。


 俺たちを見下ろしてくる視線が痛い。


「内面の変化とか、そういうのは喜ばしいけどな……」


「私はレンドウの本気の能力も見たいんだが」


「関係ない話は後にしようって流れじゃなかったのかい」


 アシュリーが俺を叱ろうといたようだが、それを引き継いだティスがちょっとおかしかった。最後のはアザゼルだ。


「すいません……」「ごめん、なさい」


 トンネルを抜けると、今度こそ眼下にはマトモな空間が広がっていた。が、それはちゃんとしすぎていて、それが何よりも恐ろしいことだった。



 ――――居住空間……いや、研究施設……か……知らんけど、広すぎだろ――――!!



 大きさを測ることすら容易ではないが、これもしかすると“上”と同じくらいあるんじゃないか。


 まず目を引くのは、エーテル流。龍脈でもなんでもいいけど、とにかくあれが街の中央を流れている。まるで大河だ。


 いくつもの橋が伸びている。渡るときに熱気で嫌な気分になること間違いなしだな。


 丁度中心部にある、エーテル流を覆うように屹立した長い建物がある。それこそさっき言ってた「熱量を利用する」施設だろうか。


 エーテル流の周囲にある建物は総じて立派で背が高く、どの窓からもマトモな白い明かりが漏れている。恒久のエネルギー源をフル活用できているってことか?


 一方で、そこから離れれば離れるほど明かりが灯っている建物は無くなり、また質素になり、まばらになっていく。地下空間をくり抜いて造られた街に見えるが、隅っこの方は随分と慎ましいな。恐らくそっちが寝泊りする場所だったりするんだろう。


 それぞれの建物の位置に、随分と高低差があるな?中心部の街に対して、質素な居住区のほうは意図的に低い位置に造られているようにすら見えるが……そんなのは俺が考えても仕方のないことか。


「なんで闇の組織が、こんな……巨大な」


「ここを根城にしているのは、何もザツギシュ関連の組織だけじゃないんだよ」


 アザゼルが指した先には、一際大きなドーム状の建物がある。あれも岩をくり抜いて造ったもんなのか。とんでもないな。


「あれは裏闘技場。まぁ表なんてないんだけど。あっちは賭博場。地上ではできない黒い遊びがお盛んなのさ」


「……学徒の国じゃなかったのか」


 アシュリーのぼやきはもっともだ。俺もそれ言おうと思ってた。悔しいけど結構同じこと考えるよな。


「身寄りのない子供達を清く正しく育てるのが目的だって……」そういう理念だって話だったよな?「クソかよ」


「クソだよ。まぁ、どこの国にも多少なりともこういう面はあると思うよ。別に子供達を無理やりこういう世界に引き込んだりはしてないと思うし、悪い大人たちが勝手に遊ぶ分にはいいんじゃない」


 アザゼルは飄々とした風を装って入るが、目は笑っていない。


「いいと思ってたらぶっ潰しには来ないだろ」


「何もこの地下都市を全て破壊しようとは思ってないよ」


「へいへい。で、目的の組織とやらの建物はどこら辺? てかどれ?」


「これ」


 指示された方向は、なんとすぐ真下だった。


 遠くの建物ばかりに目が行っていたが、こちらも中々大きな建物じゃないか。ここから見て丁度“コの字”の建物だ。


「入り口は両端にあるけどね、内部の様子まではさすがに分からないから、近い方から入ろうか」


「いや待てよ。そもそもこっからどうやって降りるつもりなんだ?」


 下まで50メートルくらいあるぞ。


「あー、それは大丈夫」


 そう言い終えるや否や、アザゼルの右腕が発光し始めた。


「わっ」


 シュピーネルは思わずといった様子で跳び退り、ティスは興味深そうに覗き込んだ。


 どこか蠱惑的な紫色の光。俺もそれに惹かれ……いや、普通に目が痛ェわ。いつまで光ってんだボケコラとしか思わなかった。


 そうして、俺はやっとアザゼルの能力を知ったんだ。


 それを明かしてくれたってことは、少しは信頼された証拠だと思っていいんじゃないのか。


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