第116話 合流
◆レンドウ◆
「さて、と。……いや~、俺なんかの為に集まってくれてありがとね。まさかこんなに沢山の人がついてきてくれるとは思ってなかったから、嬉しいよ。感無量」
平然と嘯くアザゼルに、怪訝な目を向けざるを得ない。
「何人かは集まると思ってたってことかよ。どっからどこまでが演技なんだ、お前?」
問うと、いやいやと彼は手を持ち上げ、首を軽く振った。
「まっさかー、演技だなんてあるわけないよー」
……そういうことにしておいてやろう。納得はできないが、そうでないと話が進まないというのなら。
「ティスから俺の目的はもう聞いているのかな?」
「かつての裏切り者を殺したいんだろう。ラファエルとかいったか」
答えたのはアシュリーだった。しかし、アザゼルはそれに否定で返す。
「いや違うよ。うん……まあ確かに、最終目標はそれなんだけど」アザゼルは驚くほどすんなり、殺人に抵抗が無いかのようにそれを認めた。「今日一番の目的は……この街にある施設の設備を破壊することと……一人の人間を連れて帰ることなんだ」
一番の目的が二つあんのかよ?
あ、違うか。
……ははあ、ピーンときたぞ。
最後に言った方が“本当の一番の目的”なんだろ、どうせ?
建物の壁に背を付けたまま、左手を挙げて小指を立ててみる。
「さては女かァ?」
そう茶化すように言ってやるが、結果として空気は全く和まなかった。
「そうだね。で、」
アザゼルの感情はそれでは動かないようだった。……機械みたいなやつ!
「これからの段取りを話しておきたいんだけど。まず前提として、ここにいるメンバーは全員戦えると思っていいのかな」
口を開こうとして、やめる。俺は何も言う必要がないと思ったから。
それはアシュリーも同じだろう。分厚い小手のようなものを装着した腕を回している。回してるのは肩か。
「うちは結構やりますよ!」
胸を張ってそう答えたのはシュピーネル。「後衛なら任せてください」彼女が右手を鳴らすと、その指先で小さく光が弾けた。
「うおっ」水色の光だったと思う。思わず驚いて仰け反った。暗闇だったからかもしれないし、その光の色にあまりいい思い出が無かったからかもしれない。
「あ、ごめんなさい。眩しかったです?」
「レンドウだけだろ。光に過剰反応するのは」
詫びるシュピーネルをアシュリーが諌めた。
「いやうっせェわ。正常だわ。っていうか過剰反応とか言うな」
まるでガキみたいに聴こえるだろ。
「それは攻撃魔法が使える……ってことかな?」
「はい。マナを純粋な魔力エネルギーに変えて放つ技です」
「よく分からないけどまぁいいや」
「そ、……ソウデスカ」
俺とアシュリーの攻防をスルーしたアザゼルも、やはり魔法(魔学?)については説明されても分からないらしい。
「そこの赤い髪の子は?」
赤い髪……いや、俺の事じゃない。ベニーだ。
彼女は何も言わずに両腕でバッテンを作った。割と大きくジャスチャーするんだな。
何なのこの子。本当に読めないんだけど。恥ずかしいから縮こまっているのかと思ってたが、そうでもないのか?
「――――、――――」
俺のイケイケで良すぎる耳だからこそ、かろうじてとらえることができた小声だった。
「怪我人なら任せろーって言ってるぞ……多分」
「ふむ」
アザゼルがちらりとティスに目を向けると、ティスも次は自分の番だと分かっていたようで、懐から何かを取り出していた。
「大した戦力にはなれないが、これがあれば自衛くらいはできるはずだ」
それは片手に収まるくらいで、白い色をした機械……か? なんだろう。
「あー、しまって。実演とかしなくていいよ。今も見られてるだろうし」
そのアザゼルの言葉に、シュピーネルはばつが悪そうな顔になった。さっきの指パッチンは別に実演ってほどじゃないから気にするほどでもないんじゃね。
「っていうかさ、奇襲しようとしてるんだろ? 今も監視されてるなら何にも意味なくね?」
バレバレじゃねェか。
アザゼルはにやりと笑った。
「それがそうでもないんだ。今から俺たちが侵入するのは、言ってみれば秘密の抜け道ってやつでね。監視任務に当たっている末端たちもそれを知らないんだよ」
「……そりゃアすげェな。でも当然敵の中にもその抜け道を知ってる奴もいんだろ」
というか何でお前はその抜け道を知ってんだよって感じなんだけど。
「それが面白いことにいないんだよね。博士……ティスのお父さんと俺だけが知っていた、今は俺だけが知ってる抜け道なんだ」
「でもお前がここからいなくなった後に周知の事実になってるかも知れなくね?」
「そうだね、怖いなら仕方ないね。じゃあ君はここで待ってる?」
ぶん殴りてェ!!
なんだそれ、最早脅しか。
「行くわボケ」
許されるなら、こいつに気を使ってしゃべる必要はないのかもしれない。そう思ってしまうほどに飄々とした、腹の立つ男だった。