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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第7章 魔王編 -へらへら男とくそったれの地下街-
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第109話 宿探し

「まさか、幻術ってやつがそんなにパッと掛けられるもんだとはなァ……」


 ミッドレーヴェル市街にて、俺は同行者の手際の良さに舌を巻いていた。


 フェリスとツインテイルの幻術によって、指定された人物――つまり俺たち以外の人間達――にはナイドは普通の馬に。レイスやカーリー、ツインテイルは普通の人間に見えるらしい。


 なんか、おどろおどろしい装丁の本を読みあげながら、謎の粉を対象に振り掛けていた。


 魔術というらしい。イメージ的には、魔法の下みたいなものなんだと。もっといえば、魔法とは明確に異なるものでもあるらしいのだが……。


「そこまで普通の人間とちがう外見をしてないから、幻術に必要な準備がほとんどないんだと思います、よ」


 新しい街に緊張しているのか? 俺とレイスの陰に隠れるようにしながら、リバイアが言った。


「角とか耳とか、触られないようにしてくださいよ? 術が解けちゃいますんで」


「うん」


「わかった」


 注釈をつけるようにツインテイルが言うと、レイスとカーリーが頷いた。


 触媒? を節約するために、レイスとカーリーには弱い幻術を掛けることにしたってとこだろうか。


 さて、それよりも、だ。何だこの街。


 建物やばくね?


 俗にいう豆腐建築ってやつか。いや。豆腐の実物を見たことないんだけどさ。ジドウシャ……の姿は見えないけども、それが通れるようにお行儀よく区切られた地面。露骨に守られた、人が歩くための道。


 んでもって、四角い建物が所狭しと天を突く。灰色だったり白だったりするが、その殆どが“代わり映えしない”といってしまっていいものだし、注意しないと自分が街のどの辺にいるのか、すぐに分からなくなってしまいそうだ。カクカクしてんだよ、全体的に。


 ……そんな印象。


「技術力は分かるんだけどさァ、何なんだよこの街。不気味っつーか……」


「や、入って早々に文句かよ」


 ダクトの呆れ声。


「なんか怖くないか?」


「別に。自分の知らない街の第一印象なんてそんなもんじゃね?異質は不気味に通じるところあるし」


 つまり口に出してなかっただけでお前も俺と同意見ってことだな?だったら初めからそう言え。


「それはそうとレンドウ、はい、じゃんけん」


「は?」


 聴こえなかった訳じゃない。なんだよだしぬけに。すぐ振り返るが、ダクトは待ってくれなかった。


「さーいしょーはグー、じゃんけんぽん」


「ぽ、ぽん」


 反射的にグーを突き出してしまう。確かこうなると、負けるんだよな。なんかいきなりじゃんけんふっかけられると人はグー以外出せないとかなんとか。


 ああ憎し、満足気に広げた掌を落ち始めた太陽にかざすダクト。


「よっしゃ、勝った」


 だろうな!


 不意打ちで喜ぶな。


「……で、これにどういう意味があんだよ」


 なんか面倒事を引き受けさせるつもりなら普通に断ろう。


「今から宿探しするだろ。通行人にお勧めの宿を訪ねる役目をお前に任せようかなと」


「絶っっっ対イヤだ。すぅ~、……さいしょはグーじゃんけん――!!」


 人生最大の早口でじゃんけんを宣言したかもしれない。


「――ぽーんォァァ!!」


 広げた右手を突き出した俺だが、それに呼応するように大敵もまた広げた右手を宙へ差し出していた。


 もはやここは戦場だった。二匹の獣が睨みあう。


 ……つーか何なんだお前。いつ何時じゃんけんを仕掛けられても頑なにパーしか出さねェのか。……パーしか出せねェのか。


 あれ、同士討ち……じゃない、相打ちになった時ってどうすんだっけ。ド忘れした。


 眼前の獣が口を開く。鋭い牙を光らせ、呪いの言葉を……ケホン。


「あいこで、」


 ――ああ、それそれ。あいこ、ね。


 あ、ヤベ。はやくなんか出さなきゃ。


 えっと手の形どうすればいいんだっけ、とりあえず腕だけ前に出さなきゃ、出しながら考え……られるわけねー。


「…………」


「っしゃ、また勝った」


 ……だからなんでそこでグー出しちゃうかな、俺。


 ……もう負けでいいわ。



 * * *



「コホン。えっほん、ケホケホ」


 道行く人々の流れを見ながら咳払いしていると、さっそく背後からニヤニヤ笑いの気配が迫ってきた。


「レンドウ、咳払いしすぎるとドツボにハマるぞ。具体的には大縄跳びにいつまでも合流できなくて周りから白い目で見られてるのが今のお前」


「人間界だと解りやすい例えなのかも知れねェけど、生憎ちょっと分かんねェわ」


 だが、これ以上パーティーメンバーに情けない姿を見せ続ける訳にもいかんだろう。意を決して、一番近くにいた人間に声をかけてみる。


「おい、そこのあん……そこの人!」


 もうどうにでもなれ、という投げやりさがあったことは否定しない。相手を選ぶでもなく、口調すら取り繕うことを忘れかけてた。幸先悪いな。


「……? 私でしょうか……、えっ」


 それに対して振り返り、敬語で対応してくれたのは俺より10は上かという男性だったのだが……俺を見た瞬間、まるで警戒するように身を引いた。


 …………なんか、結構ヘコむんだが。


 完全に“うわ、ガラの悪いガキに絡まれた”って顔してらっしゃる。


 俺の顔の造形ってそんなにいかついかな……。表情がダメなのか? 固いのか? 顔を揉みしだきたくなってくるが、そんなことしてたら不審度は天井知らずに上がり続けるばかりだろう。実際、今天井ないし。


「あ、突然すいません。実は俺たち、今この街に到着したばかりで……」さりげなく、仲間たちの存在をアピールしてみる。


 俺単体ではいかついガキだとしても、素晴らしい仲間たちが一緒ならどうだ? ちょっとは安心してもらえるんじゃないか。


「……おいしいご飯が食べられると評判の宿でもあれば、是非紹介していただけるとかなり有り難いと思うんですが」


 これ言葉遣い合ってるのかな……。と思いながら言い終えるや否や、「なんかすごいグルグル回ってるような喋り方……」後ろの方でフェリスが小声でぼやいてるのが耳に入ってしまう。「長くこねくり回して喋れば喋るほどぉ、頭がよく丁寧に聴こえると思ってるんじゃなぁい?」とはアストリド。ついでにティスが「耳が痛いな……」と勝手に流れ弾を受けていた。


 で、対面のおじ――ギリ20代だよな――お兄さんはというと。


「や、宿かぁ。そうだね……ううん、」


「…………」


「…………」


 や、別にさ。そこまで悩みに悩んでくれなくてもいいんだが。もし紹介された宿の飯がまずかったとしても、わざわざあんたの家を特定してお礼参りになんかいかないって。


 って言う訳にもいかないしな……。


「そんなに難しく考えなくてもいいですよ。じゃあ、こういうのはどうでしょう。あなたは仕事帰りで疲れている。心に安らぎが欲しいそんな時……一杯の美味い酒とつまみ、そしてなにより休息を求めてたどり着く場所は、どこが相応しいですかね?」


 ――今のは俺が言ったんじゃない。見かねた様子で大生が口を挟んできたんだ。


 というか、なんでちょっと詞的なカンジにしようとしてんだ。詩人か。弦楽器は引けるのか。


「ああ、それなら≪アンヴィーエンド≫ですかね。あそこの一階は酒場として解放されてるし。むしろ宿泊施設として利用している旅人よりも、酒を求めてくる地元民の方が多いくらいなので」


 が、それが意外にお兄さんにはウケがよかったらしい。意味不明すぎる。


「それは素晴らしい。是非、場所を教えていただきたい」「ええ、この通りを真っ直ぐ言って、あの赤い看板、見えますかね。そこを……」「ありがとうございます!旅は一期一会と言いますが、私はこの出会いも大切にさせていただきたい。もし宜しければ、お名前をお伺いしても……」


 なんなんだ、結局、顔なのか? 大生の柔和な雰囲気のする、そのマスクのせいか。イケてるとかどうとかじゃなく、デカい図体してるくせに人を安心させる何かがあるよな。


 お前らは一生楽しく詞的な会話してろ! 今回の旅が終わった後もお互いの家に手紙送りあってろ! ちっ。


「レンドウさん」


 すっかり意気投合して好きな酒の銘柄の話をしている二人を恨めしげに見つめたまま、視界にいないリバイアに返答する。


「なんだよリバイア」


「ドンマイです!」


「…………はい、どうもね」


 すると背後から、


「レンドードンマイ、レンドンマイ」


「……黙っとけ、ダマックト」


 くだらな過ぎる煽りが飛んできたので、反射的にそう返していた。


 ううむ、『ちがっよ』とでも呼んでやった方がダメージを与えられただろうか。


 いや、もう忘れてるか……。

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