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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第7章 魔王編 -へらへら男とくそったれの地下街-
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第105話 寝所へ

 ――ナイドを手懐けた者から順に就寝するべし。


 そう面と向かって宣言された訳ではないが、大体そんなかんじだろうと踏んでいた。明日(もう今日になっちまったが)、いざ出発するという段階になって「乗れませんでした」じゃ話にならないからな。


 俺はもう大丈夫、だと思う。一応チャパと名付けたナイドは俺を乗せて走ってくれた。……数時間後に再会した時、関係がリセットされていないことを切に願う。


 ナイドから降りて本館の方へ向かおうとすると、ナイド小屋の脇でしゃがんでオオカミっぽい魔物――フイラという種らしい――を撫でていたレイスが立ち上がった。


「じゃあまたあとでね、ローム」


 ロームという名前なのか、フイラは名残惜しそうに「フーン」と鳴いた。完全に堕ちてるな。即落ちオオカミだったな。


「なんだお前、待ってたのか」


「できるだけ揃った状態で訪ねた方がいいでしょ? 案内する人が大変だろうと思って」


 別荘って聞いたけど……かなり立派な屋敷だし、恐らく、使用人の類がいるんだろうな。本館の入り口はいつでも「お客様のお越しをお待ちしております」状態なのか。大変だよなァ。


「そりゃそうだ。……俺も眠くて限界なんだ、さっさと行こうぜ」


 レイスに同意し、周囲に声を掛ける。フェリス、アル、大生、ダクト、アシュリー……あれ? アザゼルはどこへ消えた。


「またしてもアザゼル・インザース消失してねェか……?」


「ほんとだ。どこにも……見当たらないね」


「……放っておけ」


 呆れながら言う俺にレイスの同意、アルは不機嫌そうだ。こいつも眠いのかも。


「どうしようもない放浪癖があるか、大人数でいると息が詰まるとか、そんなところだろ」


「そうに違いない」


 アシュリーが挙げた理由でいいやもう、とばかりに投げやりに同意した大生の目は充血していた。怖い。今の皆、些細な刺激でキレそうで怖いんだけど。俺も適当に頷いて納得しておくことにする。


 なんか、今床についたら半日くらい目覚めないんじゃないかって気がするんだが? いや、だからって眠らないとかありえないけど。


 丁度フェリスも小屋の施錠を終えてこちらへ合流した。これで全員ってことで。


「行きましょうか」


 アザゼルもまさか小屋の中に取り残されてたりはしないだろう。そうだとしてももう気にしてやれそうにない。夏だし……死にはしないだろ。臭いが気になるかもしれないけど、藁草の中で我慢して眠れ。


 綺麗にタイルされ磨かれた大理石の上を歩く。屋外なのに、ここまで補整された平面を歩くと違和感がある。外に気を使える資産って凄いな。


 こちとら生きてくだけで精いっぱいだったよ。……さすがに掘っ建て小屋しか存在しない程じゃなかったが。


「今何時? いや、質問変えるわ。どんだけ寝れる?」


 誰が答えてくれてもいいけど、時計を所持していると確信できるのはアルだけだ。誰でも所持できるほどありふれたアイテムじゃないし、アルのそれだって私物じゃないだろう。今回の遠征にあたって、リーダーのみに支給された装備のはず。


 ……戦いの最中に壊れたりしなくてよかったな。アルが胸元から引き出したそれを見て、しみじみと思う。いやマジで。


 あァ、でもアルは強いし、別段苦戦したシーンが無かったか。合流したタイミングもあったのかもしれないが。


「5時間……は取れないかもな。9時には出発したい。……今は4時半過ぎだ」


 言われて、くらっする。


 この世は……地獄だ。


 天は裂け大地は嘶き、瞳孔は開いて足先はあったまるわ。眠いとあったまるよな。何故かは知らんが。


「……そんなに、寝れねェのかよ」


 死ぬわ。


「死ぬわ……」思ったことがそのまんま口に出た。アシュリーがため息をついて、何らかの行動に出ようとしたのかは分からない。その前に大生が軽く肩を叩いてきたからだ。


 大生による熱いアシュキャンだ。


「それこそ、仲間が死なないためだから、さ。死ぬ気で頑張ろう」


「解ってるよ」


 そうだな。問題は魔王城に到着するだけでは終わらない、らしい。エスビィポートに残ったランス、平等院、ジェノの身が危険なのだそうだ。俺たちの旅程は切迫している。


 人生で最も切迫した一週間とちょっとになりそうな気がする。


「休むべき時に休むのも戦士としての務めだぜ。ちなみに俺はいつでもどこでも、立ったまま寝れる」とダクト。


「寝てる時に襲われた場合はどうなんだよ」


「瞬時に起きて対応できる」


「それ寝てるって言えるのか……?」


 またしても新しいスキルを披露するんじゃねェ。なんなの。いつでも寝てるけど戦えもするのかよ。常時回復状態かよ。


 最終的に寝ながらにして戦ってのける流派を生み出すんじゃないか?


 フェリスが俺たちを率いるように入口の扉の前に立つ。何をやっているんだ? ……いや、やってというか、何もしていないんだ?


 すると、すぐに答えが明らかになる。その扉は、なんとひとりでに開いた! なるほど、自分で開けなくてもいいと。驚いたぜ。電気で動くという自動ドアはティスの研究所でも見たけども。


 っておい、こっちに向かって開いた扉、その向こう側に人影があるぞ。自動ドアじゃなかったじゃねェか。俺の関心を返せ。


 ……おお、初めて見た。


 メイド服ってやつじゃん。いや、もう一人の方も初めて見たけどさ。


 そこにいたのは、使用人であろうメイドと執事。メイドはこの世界における普通の黒髪だった。アニマほど漆黒ではない。凛とした表情で礼をしてみせるその様子は、なるほどメイドだと思わざるを得ない。というよりそれ以外の感想が出てこない俺の感性よ。


 長身の執事の方も元は黒髪なんだろうが、初老故、白髪だ。人間は年輪を重ねると色素が失われていく。その辺はまァ、生命力の違いなのかね。かっこいいじいさんだな。


 両者ともに年齢まで含めて俺のイメージ通りで驚くぜ。礼儀作法も雰囲気も完璧に見える。メイドは成人しているかいないかといった外見だが、このくらいの年齢でも女性には気品が身につくってことなんだろうか。若い執事のイメージが無いのは、どこまで行っても若い男は馬鹿だからってことなんだろうか?


「フェリス様、こちらへ」


「その他の皆様は、私めがご案内致します」


 メイドが言い終えると執事がこちらに話しかけてきた。それに従って歩き出そうとしたのだが……何故か執事は立ち止まっていた。


「フェリス様、いかがなされましたか?」


 持ち前の気配り能力で気付いたのか、フェリスが微妙な表情をしていることに。いや、俺は全くだった。後ろ頭をポリポリ掻きながら様子を見る。


「えっと、私も皆と同じ部屋に案内されるわけには……」


「客室にでございますか」


 執事は思案するような顔つきになった。ちょっと困ってるっぽいな。


 お姫サマの扱いってのは、結構面倒なのかもしれないな。おざなりに扱ったという事実が知れ渡れば、後で彼の立場に影響があるのかもしれない。誰が怒るんだか知らんけど、やっぱ父親とかか。魔王キレルヴェリス降臨か。


 仕えるものたちに余計な気苦労を掛けるんじゃねェよ。あと、そんなことで俺たちの睡眠時間奪うなよな。


「や、せっかくだし、用意した奴の気持ちも考えろよ。姫サマ用の部屋があんなら、そこで寝た方がいいに決まってん……でしょう」


 やべェ、いつも通りの喋りでッ! やっちまった。最後ばかりは取り繕うように丁寧な語尾をとってつけたが、メイドは驚愕の視線を俺に向けていた。何も言うな、言わないでくれ。失敗したって解ってるから。絶賛後悔と反省の日々だから。日々ってなんだ。


 結論からいうと、御咎め無しだった。


 フェリスはため息を吐くと、「そうね、ご厚意に甘えることにするわ」と言って改めてメイドについて歩き去った。


「レンドウ君、さすがに……うん」


「わざと冷たくしすぎじゃない?」


 大生は言葉を濁したが、レイスは最後まで言った。


 それに対して降参だとばかりに両手を挙げてみせる。


「……自覚はある。俺が悪ィとは思ってないけど、嫌がらせが過ぎたかもな。ちょっとだけだけど。まァ……寝ながら考えてみるよ」


 嘘だ、多分爆睡する。何も考える暇もなく。


 ……つっても、向こうからこっちへのあたりも結構キツいからな?


「仲間と喧嘩している場合じゃないよ」


 レイスはそう言うが、俺はお前ほど人と仲良くなるのが得意じゃないんだよ。ついでに言うなら顔も怖いらしいし。


「こちらです」


 執事に案内された扉の前に立つと、俺の耳に話し声が滑り込んできた。声はとても小さく発せられているようだが、得てして内緒話というものは、聴かないようにしようと思っても聴こえちまうもんだ。



「フェリスさんはレンドウさんに告白したんですか?」



「いや、えっと、フラれたわけではないんだけど」


 ――あ、まさかの俺の話でしたか。


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