第98話 憧憬の虜囚
◆レンドウ◆
「さて……これかっ……ら。どうすえ、けほっ……きだろうね」
喋れるタイミングで喋ろうということだろうか。詰まりながらも早口で言い切ったランス。当然だ。彼女は怪我人なのだ。怪我人が仕切り出した。腹に穴空いてるんだぞ。誰か代わってやってくれよ。合間に挟まる荒い呼吸音が聴いている者達をやきもきさせる。
「そんなことより、まずは応急処置をしないと……!」
フェリスがランスに駆け寄りながら叫んだ。エイシッドが故エイシッドになってすぐ、フェリスとツインテイルが合流していた。
現在の状況を正しく把握できているのだろうか。……ああ、俺も出来て無いかも知れねェな。
情けない話だが、俺が意識を取り戻したときには、戦闘は既に終結していた。
アルフレートが止めをさしてくれたらしい。さすがリーダー。魔王城遠征メンバー集めの折、俺に付いていきたいとか下手に出てた割に今となってはリーダーの座についているだけのことはある。いや、リーダーを決めたのはアドラスだし、その采配に文句は無いけど。
「……?」
大生から奪い取るように自らを抱き起こし、シャツをめくり上げたフェリスに向け、「どうにかできるの……?」とでも言いたげなランス。やっぱ、人外に任せるのは不安なんだろうか。
血に塗れてこそいるが、女性の肌だ。大生は露骨に目を背けた。アシュリーは多分、興味無いか、無いふりをしている。
あのさ、そういうこと考えている場合じゃないと思うんだよね。アルなんかほら、副リーダーの状態をきちんと把握するために、すぐ傍らにしゃがみ込んでいるじゃないか。
え、俺? 普通に見てるけど? いや、だって俺様ァほら、人間の女になんて何も思わないし? 何らかの感情を抱いたこと一回も無いし! ……うん。駄目だ、絶対嘘だ。誰も信じないし、俺も俺を信じない、はは。
とか考えていると、フェリスがこちらを振り返った。な、なんだよ。……何か言いたいことでも?
「レンドウにもできると思うよ、これ」
考え過ぎだったか。彼女が示す先を見る。
「……どれさ」
フェリスはランスの腹部を撫でるように、しかし直接触れてはいないようだった。まあ、衛生的にな。触れちゃまずいよな。その手が纏っているのは……緋翼?
いや、違うか。彼女の言うところの“本物の吸血鬼”が持つ力。
「黒翼。特性は、熱を持たないことを除けば……緋翼と同じと言っても差支えないわ。こうして対象に浸食させ、支配権を握れば――、」
おいおい、浸食とか支配とか、結構ヤバイフレーズ出てきましたけども。
人体に対して使っていい言葉かそれ? ランスもぎょっとしてるじゃん。フェリスの手を払いのけるまでは行かなかったようだけど、信頼と疑念の狭間で揺れ動いてんぞ。フクザツなランス心が。
「――傷跡の縫合が瞬時にできるの。半日も立てば自然に空気に溶けるし、かなり便利」
おお、ずっと覆いっぱなしにできるのか。それは凄ェ。
……というか、えっと、凄すぎないか?
「いや、俺やレイスの場合だと、自分の手を離れた瞬間支配権? 失って消えちまうけど」
フェリスは目をぱちぱちと瞬かせた後、首を小さく傾げた。
「きちんと意識できてれば、そうはならないと思うけど……でも、この話は後でいいわね。……とにかく、応急処置は終わりました」
労わるような顔でランスに向き直るフェリス。ランスはと言うと、顔色が随分楽になったように感じられた。
「……フェリスさん、素晴らしい腕前だね。感謝するよ」
二人の会話を聴きながら、俺は言われたことを反芻していた。きちんと意識できていれば。言わんとすることは解る。
要は、使いたい力の傾向をイメージできているかどうか、ということなんだろう。俺が普段武器を強化しようと緋翼を纏わせている時、予期せぬ衝撃によって手を離れた武器が力を失うのは、それを自分の一部だと認識できなくなっていたからで。
……いや、でも空中に緋翼の縄を留めたり、今日だって大量の市民に対して拘束具として機能させたりしていたよな。それはどういうことだ。“この場所に罠を残さなければならない”とか、“この人間を拘束し続けなければいけない”という確固たる意志の元振るわれた力だったから、ってことか? あー、よく分からん。
当初こそ緋翼は吸……アニマの生命維持の為に有る力だと思っていたけど、どうやらそれだけに留まりそうもないな。癒しの力を、他人にも向けられるっていうのか。この俺が、まさかのヒーラー化か。
……嬉しいな。
できることが増えるというのは、単純に嬉しい。
「重傷者の処置が終わったなら、話を戻そう」
アルがそう言うと、皆は頷いて集まった。
「まず、病院に控えている連中と合流するんだろう」
「その前に、街の中に残っているモンスターがいるだろうし、その討伐に手を貸した方がいいんじゃ……」
アシュリーと大生の案。ふむ、確かにどちらも重要だ。でも、病院に残っているのは怪我人と戦闘に不向きな奴らなんだし、やっぱ直ぐにでもモンスター討伐コースがいいんじゃないか。
――だが、ランスの意見は違うようだった。
目を瞑って首を振ると、
「いや、私は……動けるメンバーだけでも、すぐさまミッドレーヴェルに向かうのもありだと思う」
ミッドレーヴェル。俺たち魔王城遠征メンバーが次に向かう、学徒の国エクリプスの街の名だった。
だけど、どうしてだ。
「理由を頼む」
アルが先を促し、彼女は頷いた。
「ヴァリアーを名乗ったという集団……それがエイシッドなる男たちなのは確定でいいとして……、」そこでランスは横目で凄惨な最期を遂げた男を見た。
「そいつらを降ろしたという船の出自は不明。解らないということは脅威だと私は思う。……敵に私たちの旅程は筒抜けだと考えた方がいいし。奴らにこれ以上の妨害の機会を与えるより、先に目的地に到着することだけを考えた方がいいのかもなって。そうできれば……?」
その疑問符は、フェリスに対してのものか。
「はい。ルヴェリス様の膝元では、何もできない筈です。過激派にとっても、もう私たちをどうにかできるチャンスは少ない」
実際、今日は勝った訳だからな。一勝だ。一勝というか、できればもう、戦いたくねェけど。
まぁ、ヴァリアーでも戦ったけど……。
「なるほどな。ふむ……」アルは条件を頭の中で組み立て、一番いい策を考えているようだ。
あれは……大敗北だったよな。犠牲が多すぎた。犠牲が……。
そうだ、犠牲。
「どれくらいなんだ。……今回の犠牲者は」
話を反らすことになってしまったのに気付いたのは、言葉を放ってからだった。悪い、でも思い立ったら止まれなかったんだ。
だからだろうか。アシュリーが「そんなの分かるはずあるか」と言って、鼻を鳴らした。
まあ俺が悪いんだろう。
俺が蹴り倒し、張り倒した人間達を見て悲しみやがっている、そう、グズでバカなレンドウが愚かにも悲しみくさりやがっていると……その視線の理由を、きっとフェリスは勘違いした。
「……そうね、話し合いを続けていて下さい。私は周辺の怪我人を見てきます」
小走りに駆けていく途中で、彼女は振り返ると、
「レンドウも来て! 縫合の練習しよう!」
俺を呼んだ。
違う、違うんだフェリス。
そちらへと歩き出しながら、俺はなんと言ったものか考えていた。
そこで倒れている人たちは、斬った斬られたの傷じゃないんだ。傷口を塞いで治る類の怪我じゃない。
ぶん殴られて気絶、骨折しているんだ。
……それに。
それをやったのは、敵じゃない。
――俺なんだ。
◆アザゼル・インザース◆
「どちらにせよ、僕は君たちの旅には動向できない。モンスター討伐に向かいたいと思うんだけど」
「了解しました。……ご協力、ありがとうございました」
リーダーを務めるというこの男、≪歩く辞書≫。こいつが敬語を使うのが意外で、俺の目も少しは開いた。
「武運を」
ツギヒト・モトシロ・ウルフスタンは別れの言葉を短く済ませると、風のように去って行った。彼がいればこの街の警備隊にとって、掛け値なしに百人力であろう。
だが、俺はもしかすると千人力……いや、それ以上の力の持ち主なのではないか……? と疑念の篭った視線を≪歩く辞書≫なる男に向けざるを得ない。この男、仲間内にもそれを隠しているらしい。
俺は、俺だけは見ていたんだ。
――この男が不死鳥を無力化するのを。
「……あんたが本気を出せば、連中が何度襲い掛かって来ようが関係ないんじゃないのか」
そんな俺の呟きは、口の中だけで消える。その程度の音量だった。
迷ったのだ。日和ったのだ。
直接それをこの男にぶつけることはできなかった。俗にいう「見~た~な~」というヤツになりそうな気がしたから。
「ランスの言いたいことは分かった。だが、まずはダクトの怪我の様子を直接見てから判断させてほしい。奴と言う戦力を失うのは避けたい。多少無理してでも動けるようなら、拾っていきたいと思う」
「オッケー。でも、まだ問題はあるよ。私たちは敵の首魁を捕らえられていない。アロンデイテルは、ヴァリアーに事の詳細を求めるだろうね。誰かが事情説明の為に、この街に残らなくちゃならないことは確定してる」
さすがに全員で逃げるように出立するのは印象が悪すぎるでしょ、とランスは付け加えた。確かにその通りだろう。
だが、≪歩く辞書≫の心配事はそれだけに留まらない、むしろそれに付随する問題のようで。
何らかの苦言を呈そうとしたらしい。
「だけどそれで――、」
その時だった。ぱちんという、大きな音が響いたのは。≪歩く辞書≫は言葉を止めた。
あー……この音はもしかして。
振り返る。
そこにいるのは、長い金髪の女子と、赤髪の男児。
金髪の女子はどっから出てきたのか、なんて言うまでもない。頭部をすっぽりと覆っていたフードを取り、その下に隠れていた顔が露わになったフェリス・マリ……なんたらだ。
レンドウ少年の方はと言うと、頬を赤く腫らしている。
これは……修羅場ってやつ、か?
◆レンドウ◆
――熱い。熱いというか、痛い。
左の頬を平手で打たれたんだ。なんというか、女子女子してる攻撃だな、とか、ぼうっとした頭で考えた。
顔の位置を戻すと、彼女はわなわなと震えていて、その目には……涙を浮かべているのか。
「え、なに。なんなの? 冗談にもならないよ……レンドウ」
「――言った通りだよ。ここにいる人たち全員、俺がやったんだ」
お前だって、冗談じゃないって分かっているから俺の頬を打ったんじゃないのか。そうじゃなかったら打たれ損だろ。どういう状況だろうと俺は痛みを喜んだりしないと思うが。
彼女の背中越しに、肩を怒らせてこちらへ歩み寄ろうとしたカーリーと、その肩を掴んで押しとどめるレイスの姿を見る。大丈夫、こんくらい、俺はなんともないよ。
というか、レイスお前もう立ち上がれるほどまで回復したんか。さすがだぜ。
二人の様子に和み、苦笑したい気分に少しだけなったけど、この状況でポジティブな表情を浮かべること……それ自体がフェリスの気を悪くするだろうと思い、感情を殺す。
俺を射抜くように見据えて、道徳を説くフェリスによる弾圧が続いていく。
ああ、荒れる時はかなり荒れる女なんだな……。
俯きながら、彼女の語る理論を心に刻み込んでいく。それはどれも理想主義で、ともすれば幼稚とも形容できそうな内容な気もしたが、それこそが“正義の心”を持つ証拠だと思ったし、フェリス・マリアンネの考え方は物語の花、若き主人公そのものだと思った。
今の俺が取るべき行動は、自分の罪から逃れることじゃない。
俺の行動を謗る声をしっかりと聴き、殴られても我慢し、相手の溜飲を下げるために反省したり落ち込んだりと言った様子を見せることだ。例え、「何度同じ状況に置かれても俺はこういう行動を取る」と思っていてもだ。
「どうして、こんな……。無関係な一般人を攻撃したら駄目だって、あなた勿論解ってるわよね? それとも、私との約束を忘れてたの?」
約束。
『操られている人は一般人だから……。あんまり傷つけないようにね』
そうだ、約束をしていた。市街で、操られた人間達に襲われていたフェリスとツインテイルを助けた時だ。
完全に失念していた。いや、でもきっと、覚えていても行動は変わらなかっただろうな。
「すまん、忘れていた。無我夢中だった。あの時はそれが正しいと思って行動していたんだ。今になってみると、どうしてこんな選択を取ったのか分からん」
嘘を吐くと、自分の中の大切なものが黒ずんでいくような感覚がするのな。
一番大切な“仲間達”を、そして一般人の“命”を守るためなら、いくら黒ずんでも構わないけど。
むしろ、フェリスという太陽のような正義が存在すればこそ、俺のような悪人が必要になる機会もあるんじゃないか。太陽が太陽であり続けるために。
太陽から感謝などされなくとも。
月にも成れなければ、しかし虫けらでもなく。正義に代わり、汚濁のようなクズの命を躊躇なく刈り取る、そんな必要悪に。
――どうせもう、人殺しの手だし。
と、そこまで考えたところで、今度はグーパンチを左頬に頂いた。急に男気のある攻撃になったな。
左ばっかダメージ受けて、バランス悪ィよ。まあ、衝動に駆られた時って大体は利き手で攻撃するか。というか相手のダメージのバランスを考えて、左右交互に攻撃するやつのほうが頭おかしいか。
痛みはばっちりと感じるが、俺にとって耐えきれない攻撃では無く、一応心構えもしていたので心を乱すことなく顔を戻せた。
向こうではレイスが唸るカーリーの口を回した右手で塞ぎ、左手も使って彼女を後ろから拘束していた。最早殆ど攻撃の域だ。男性が女性を拘束するという状況にやましさを一切感じさせないのは、レイスの情けないとも形容できる必死の形相ゆえか、ひとえに人徳か。というか他の誰もカーリーを止めようとしないのか。レイス一人で大丈夫ってことか。能力面でも評価されてんだな。あ、些末な出来事に構ってる余裕が無いだけか。
フェリスの両腕が伸びてきて、俺の両頬をがっしりと掴んだ。今度はヘッドバット……? 鼻への痛みはしんどそうだ。達成感とか後悔とかそれ以前に、何も考えられなくなりそう。
違った。彼女は俺と視線を真っ直ぐに合わせたかったらしい。
すぐに反らしてしまいたいが、何故だかそうできなかった。フェリスを見たときに感じる妙な感覚が関係しているのかもしれない。
「嘘。レンドウ、そんなことちっとも思ってない。自分の選択が間違ってたなんて思ってない」
なんで分かるんだよ。……なんて返してしまえば、世界中のあらゆる策士の誘導尋問に引っかかってしまえそうだ。初等教育中の子供にも騙されそうなレベル。
「……………………」
だから、俺は黙っていた。否定も肯定も表さず、ただじっと彼女の目を見据えて、次のアクションを待つ。
「あなたはレンドウなんでしょう? なら、こんなことしちゃ駄目。高潔であり続けないと……」
「は?」
思わず、声が漏れていた。諦めに近い感情とか仄かな打算とか、そういうのが全部宙に溶けるような感覚。
「……?」
むしろ、俺が驚いて声を上げたことに、フェリス自身が戸惑ったようにすら見えた。まさか自分の発言に突っ込まれるとは夢にも思っていなかったという顔だ。
俺の中で、チロ、と何かが鎌首をもたげた気がした。
なんだ? 決定的な違和感を感じた。けど、それが何なのか、いまいちはっきりとしない。
それを明らかにしなければ。
フェリスはさっき、なんと言っただろうか。
レンドウなんでしょう? どういう意味だ。いや、俺の過去、記憶を失う前の俺を知っているってことは聞いたけど。
「……レンドウだからこんなことしちゃ駄目って、どういう意味だ?」
「そのままの意味よ。あなたは族長シャラミドの孫。いつかアニマを背負い立つ後継者で、だからこそ、高潔であり続けなければいけない――」
「いや…………その“高潔”ってなんだよ。周りに汚れ仕事を押し付けて、見ないふりをして、自分だけは…………最後まで綺麗な手を保つことか?」
「違うわ、そうじゃない。とにかく、今回の一般人を傷つけるようなやり方はとても高潔とは――」
「言ってみろよ。どうすれば良かったんだ? 仲間たちが傷ついていく中操られる人間の数もどんどん増えていって、腕を使えなくするか意識を奪うかしないとこいつら全員自殺さえさせられる状況でどうすりゃ高潔にあれたかって! 俺様が! 言ってみやがれ、フェリス・マリアンネ!!」
突き飛ばすように彼女の両腕を払い、倒れそうになった姿をそのまま傍観していてもよかったが、このまま距離が開くのは癪だ。素早く手を伸ばし、彼女の胸ぐらを掴みあげていた。
ああ、俺のクズ指数が上がる。最低の絵面じゃねェか。
「……それは、私には……すぐには思いつかないけど。……でも! レンドウなら! 皆の、私のヒーローだったレンドウなら、きっとどうにかできるから……っ」
……呆れた。
誰の話をしている。
いつの間にか、手を離していた。地面に崩れ落ちるフェリスを見下ろして、俺はどんな表情を浮かべているのだろうか。
こいつ実は太陽でもなんでもないんじゃないか。この場にはただ、明るく振る舞うクズと、見るからに後ろ暗い部分が見えるクズがいるだけじゃないか。
「……お前の行動基準はなんだ? 俺の方こそ、なんだかお前の本心が見えてきた気がするぜ。街の人間を労わる姿勢とか、全部まやかしだろ。さっき零れた言葉が全てだ」
「そんなことない! あなたがレンドウで在り続ければ、街の人が傷つくことが無かったのは事実だから――」
「その完璧超人はどこにいんだよ。ガキの頃の思い出補正で、別人に幼馴染の面影を重ねんじゃねェ!!」
「別……人……?」
「そうだろうが。8年だぞ。8年間も思い出さなかったんだ。そんな記憶なんて一生戻らねェんだよ! ……人が過去を断ち切って新しい人生を歩いてんのくらい気づけ!」
ぺたんと座り込み、俺が大声を上げる度にその肩が震える。先ほどまでの攻勢が嘘のように変遷したフェリスの様子に、俺の醜い部分が快哉を叫んでいた。
「言うことに欠いて「レンドウなら」だと!? どうして俺がいつまでもお前の望む存在であり続けなきゃなんねェんだよ!」
レイスがカーリーを開放していた。もう、自分が止める必要も無いと悟ったのだろう。俺がフェリスを攻め立てる構図の方を、むしろ大生あたりは心配していそうだ。
どうやら、激昂した俺が口を動かしている時、冷静な方の俺が状況を俯瞰してくれるらしい。結構並列処理の才能があるのかもしれない、俺。多重人格の一種だったら泣く。
「子供故の純真さを貫いていたお前のヒーローとやらは、10才の時に死んだんだろ」
……どうして俺がここまで怒り狂っているのか。
「今ここにいるのは……目的の為なら手段を選ばず、お前みたいに雁字搦めになって立ち止まることもない、どこまでも生き汚くなれる“緋色のグロニクル”だ」
その理由を導き出すには、俺という自己が確立された日を、まず紐解いてみる必要があるだろう。
お読みいただきありがとうございます。
正直、こういったシビア……というか、毒のある展開にすることに躊躇もあったんですが……避けては通れないかな、と。人間の心にある歪みを表現したいという思想が私の中にはあるので、こうなりました。
綺麗なだけの世界じゃなくて、歪んだ人間や、凝り固まった思想による問題もある。
ただ、それらを解決していくことまで含めて、書ききれたらいいな~とは思ってます。
……それにしても、元々はメインヒロインにしようと考えていたフェリス・マリアンネとレンドウを険悪な関係にさせるの、我ながらひどいやつだ。