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【完結:修正予定】緋色のグロニクル  作者: カジー・K
第6章 魔王編 -ほんとの俺は王子様-
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第86話 落下攻撃

「っし……次行くぞ」


 って……切り替えが早すぎるか?


 荒い息を吐く守だが、別に俺に異を唱えている訳ではないらしい。


「……はい……!」


 うん、そうだ、俺だって疲れてるよ。


 それでも、ここで休んでしまったら、きっと後悔するだろうから。


 住宅街を走り抜ける。


 何処の街でもやっぱこういうのは人気なんだな……。噴水を中央に拵えた広場を抜けた先に並んでいるのは……出店……か?


 買い物客も売り子も逃げ去っちまって寂しい有様だが、そこが平常時であれば賑わいを見せている場所であろうことは一目瞭然だった。


 木材で作られた枠組み、赤や黄、緑に青……色とりどりの布で天井を飾り付けたそれらには、魚や肉、野菜等の食べ物が並んでいる。材料系だ。調理済みの料理をその場で食べる……とか、食べ物以外の品々は、また別の場所なんだろう。


 ああ、つまりここは「今日収穫したものだよー採れたてだよー新鮮だよー買っていきなよー」的な場所ってことだ。


「こういう場所の名前、なんだったっけな」


「市場ですね。ゆっくりとっ、買い物して回る時間、が……欲しかった……ですね」


「ハッ、材料買ってどうするよ。俺たちが求めてんのはッ……出来合いの飯、だろッ」


「僕も手伝いくらいっ、ですけど。レンドウさんもたまに……は、料理した方がいいです、よ。命の大切さが分かりますっ」


「……そォかも、な」


 解ってるつもりだけどな。命の大切さも、儚さも。それを頂いて命を繋ぐことの業も。


 大体、俺には料理って文化がそぐわねーんだっての。


「ん……?」


 ……と、その時、俺の耳が音を……誰かの声を捉えた。


「……や……っ!!」


 やめて。そう、聴こえた。


 思わず足を止めていた俺……それを追い越していた守が、不思議そうな目を向けてきていた。


 女性の声だった。考えるより早く、身体が動いていた。いや、わざわざ明記するまでもなく、男性だろうと助けに向かってたけどな。たぶんだが。


「こっちだ守!」「えっ……?」


 躊躇なく屋台を踏みつけ、そこから更に跳躍。「えっ……」隣の建物の窓枠に足をかけ一気に駆け……上り、また、抜ける。「え~~~~っ……」守が同じようにして、即座についてくることまでは望んでないけどな?


 エスビィポートでシェアを獲得している丸屋根建築……それを足場にすると、どうにもこうにも安定しなかった。真ん中に突き出た棒――家の角みたいだな――へと手を伸ばして、それにしがみ付くようにして、対面へと渡る。そうして見下ろした先に、助けを求めていたであろう人影を見つけるや、空中に身を躍らせる。戦闘に入る心の準備はばっち、り……?


 ――妙、だな。


 助けを求めているであろう、フードを目深(まぶか)に引っ張って顔を隠している人物……それはいい。その人物に庇われるようにしている人物……も別にいい……って、二つに結われた金茶色(きんちゃいろ)の髪。ツインテイルじゃねェか。なら、そいつが庇っているこいつはもしや……いや、それよりも、だ!


 それを襲っている男が……人物が、二人。そう、人物。


 人間なんだ。どう見ても。


「何してやがんだ――この非常時にッ!!」


 緋翼を広げて軌道を修正しつつ、俺は壁を蹴り飛ばし、男の片割れを踏みつけるように着地。足に痛みを感じつつ(しかしバキッという破砕音を立てたのは俺の足では無いみたいだ)、ツインテイルへと手を伸ばしていたもう一人の男へと、先ほど編み出した“拘束術”を……、つまり、漆黒の縄を伸ばした。それは、もはや鞭と言うべきものだった。


 男の足に見事命中したそれは、どうやら人を転倒させるのに十分なほどの威力を持っていたようで、安心安心。


 そして、それだけでは終わらない。鞭の接触点、つまり男の右の足首……そこで連結された緋翼を、俺の元へと返還する。


 やっぱ、トロールとは丸きり重さが違うわ。クッソ軽く感じられるな。


 緋翼を吹かし過ぎただろうか? 驚くべき速度で引き寄せられる男は、そのまま俺にぶつかりそうになる。その身体をどこでもいいから適当に引っ掴んで、後ろへといなした。いや、投げ飛ばした、の方がしっくりくるか。


 だってのに、後ろからは悲鳴すら聴こえなかった。ちらりと見やれば、男に起き上がる様子はない。


「よっっっわ……」


 ちゃんと倒せているみたいだが……。


「お前ら、大丈夫かよ」


 近寄りながら、ツインテイルに、そして傍らで荒く息を吐いている人物――恐らくこいつは――に問う。「フェリス、だよな?」


「ええ、そうよ。……なんとか大丈夫。助かったわ」


「あ、ありがとうございます」


 返事こそしたものの、フードは頑なに取らないフェリス。何、その下は今見せられないの? 本当の顔、化け物の本性が露わになってる時間帯とか?


「……あ、日光対策か、それ」


「……それも多少あるけど、他の理由の方が大きいかな。とにかく、私は顔を晒せないの。でも、説明してる時間は……」


「ジェノが、怪鳥(フェレスベル)に挑みかかって、でも連れていかれちゃって……っ!」


 ツインテイルと、そうまともに会話したことがないんだよな。ヴァリアー襲撃時の初邂逅の折、一瞬で倒しちまった記憶しかない。いや、嘘。足にナイフを刺されてたような気もする。


 カニ野郎と会話してた時は、年相応の喋り方をしていたような気もするんだが。ヴァリアーに捕縛されて以来、なんというか……弱っているきらいがあるんだよな。当たり前っちゃ当たり前か。んで、フェレスベルって?


「あの、巨大な鳥のことじゃないですか?」


「うおっ……」


 いつの間にか後ろにいた守だった。どうやら、倒れた男たちに手を当てて、状態を確認しているらしい。命に別状はないだろ。


「そうです、あの巨大な鳥の魔物!」


 フェレスベルっていうのがあの手の魔物の通称ってことか。トカゲに羽が生えてたら、とりあえずドラゴンに分類しておくみたいな感じ?


「ジェノは今、捕らわれのお姫様……いや王子様ってことか。じゃあ、この男たちは何だったんだよ。人間にしか見えないんだけど?」


 火事場泥棒? 泥棒ではないか。火事場で女性に襲い掛かるとか、そんなクズが存在するのか。……人間って、はぁ。


「待って。その人たちは……多分、操られていたんだと思う」


 なん……だって?


「操られ?」


「不自然なほど喋らなかったし、目も虚ろだった。そういう魔法に心当たりがあるの」


「ああ、またそのパターン。近くに術者がいるってことだな」


 俺の物わかりの良さが意外だったのか、フェリスは驚いたように一瞬止まった。


 ふんっ。こういう時は起こったことを、人に言われたことをさっさと受け入れちまうのが一番の時間短縮だって、分かってきてんだよ。伊達に死線を潜ってきちゃいない。


 どうせ原理の分からない力は全部ひっくるめて“魔法”ってことになんだ。だったら、考えたって仕方ねェ。原理なんて知らなくても、止め方さえ分かりゃあいい。


 ものの作り方まで知らずとも、ぶっ壊すことくらいは出来ようさ。


「……ええ。この手の術者は、大抵本体がひ弱なのが通例ね。あと、操る対象を視界に納めていないといけないから、すぐ近くにいたはずだけど……」


「はあ!? じゃあ今も……」周囲に視界を巡らせる。「どっかからこっちを見てるってのか……」


 なんか少し気持ち悪いな。


 いや、普通に気持ち悪い。


「そうと決まった訳じゃないわ」フェリスが素早く言った。「私の知らないタイプの魔法があるのかもしれないし、術者だって諦めて、もうとっくに逃げ出してるかもしれないし」


「それでも、近くにいる可能性もあるんだろ。だったら」


 俺が探し出してやるさ。


「視力には自信があんだ」


「レンドウさん、僕も……」


「お前はここでこいつ等を守っててくれ。もしヤバそうだったら、また大声出すからさ」


「……わかりました」


 よし。


 人を操るだなんて、いかにも悪そうな奴がいたもんだ。それもうこの事件の黒幕……か、それに限りなく近い立場で確定じゃねェのか。すぐにとっ捕まえてやる。


「待って……レンドウ」


 すぐにでも走りだす所だった俺だが、フェリスに呼び止められた。


「――なんだよ?」


「操られている人は一般人だから……。あんまり傷つけないようにね」


 なんだ、そんなことかよ。


「解ってるって。俺、そういう奴に見える?」


 問いかけると、フェリスはふるふると首を振った。


「ううん……。気を付けて」


 それには答えず、首肯するに止めて、俺は建物の外壁を駆け上った。


 迷いのない俺の動作に呆気に取られる視線をいくつか感じるも、それほど気にならなかった。むしろ高揚感、みたいな? 見せつけてやろうぜ、この俺の身体能力を。


 ――さて。


 今この広大な街のどこかに、その術者が潜伏している訳だが。そいつは先ほどまで俺たちを視認できる位置にいたと思われ、また、今は逃走中だとも考えられる。


 俺は何の考えも無しに、なんとなく建物の上に乗っかってる訳じゃない。高いところが好きだからでもない。好きだけどさ。


 さっきのフェリスの話に、引っかかることがあったんだ。


 操られている人間は、喋らない……喋れない。そう言ったな。


 それはおかしくないか。だって俺は、様子のおかしい奴が、ペラペラペラペラ喋ってんのを目撃してんだぜ。それをどう説明するか。


 それは、あの男こそが特別だったからじゃないのか。そして、都合のいいことに、俺はそれをすぐに確認する術を持っていた。


 あの警備隊の格好をしていた男には、俺の攻撃によって……いわば、緋翼のマーキングが施されているのだ。故に、神経を研ぎ澄ませれば、その位置を割り出すことができる。


 それが今も移動を続けているとなれば、最早怪しさは最高潮だろう。


「――最初に遭遇してたのが黒幕だったとか、陳腐にもほどがあんぜ」


 そうして、屋根から屋根へと飛び移り、俺は眼下にそれを発見する。


「なァお前、おいッ!!」


 その男が、視界の中で急激に大きさを増していく。


「――な……!?」


 こちらを見上げた男の驚愕たるや、いかほどのものだろうか。想像するだけで、いい気分だぜ。


 避けられる訳にもいかねェし、今度は多少俺自身も怪我を負うことは避けられないかもな。それでもいい、特大の一撃を、いますぐこいつに……!!



 ――ブチ当てることは叶わなかった。



「ぐぎっ!?」


 ――半端ない衝撃だった。


 男を守る様に、何かが俺に横からぶつかって来たのか。俺にとっても、そいつにとっても大ダメージだったろう。


 道の脇に積まれていた木箱を粉砕しながら、俺の体は収納された感じになったのか。外界の様子が分からん。だが、これはまずい。


 一刻も早く体勢を起こして、ここから出なければ……追い打ちが来る。


 しかし、予想に反して、飛んできたのは攻撃ではなく、言葉だった。


「おやおや、誰かと思えば……吸血鬼レンドウ君じゃないか。さっきぶりだね」


 いや、もしかすると、攻撃だったのかも知れなかった。


 それも、特大の、だ。


「……気に入らねェな。一方的に、名前を……知られてる、っつゥのは」


 つゥ、の部分には痛みに呻いてる意味もあった。


 木のささくれが身体に突き刺さってくる。不快なちくちくだ。身体を起こして、男を睨みつける。そんな俺のすかした態度は……余裕は。長くは続かなかった。


「あはっ。これは申し訳ない。どうやら僕が黒幕だってことにはもう。……気づいちゃってるみたいだしねぇ」


 そう言うと男は、顔を隠すように目深に被っていた帽子を取ると、後ろへと放り投げた。露わになった薄青の髪がばさりと揺れる。生ぬるい風が吹き荒れた。血なまぐさい臭い。


「精々驚きたまえ。僕の名前はエイシッド」


 それを聴いた瞬間。


「エイシッド・ゲルームだ」


 俺は。


「以後よろしく。……いや、今日で終わりかな、君は?」


 死、ね。


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