8話:わたしって才能があるそうです
わたしはサーラに淹れてもらった水を飲みながら木陰で休む。葉が重なり合い光を遮ることによってできるほの暗い空間が涼しくて気持ちいい。
ふぅ〜。ここにいると気持ちが良くて心が安らぐね。
わたしが気持ちよさそうに目を瞑っていると足音が聞こえてくる。わたしの横に座り込むネイド先生がいた。
「ここはとても気持ちがいいね」
「はい、わたしの領地は空気が綺麗なことが自慢なんです。あ、農作物も自慢ですよ!」
わたしの言葉にネイド先生は微笑む。だってここよりいい場所はないはずだ。わたしが知らないだけかもしれないけど。しかもここは、自然に囲まれていて領民ともいい関係を築けている。住みやすくて王城なんかより断然いいに決まっている!
「ははは、エシリア様はとても偉いですね。私がこのぐらいの頃は両親や兄さん達にたくさん迷惑をかけてましたよ」
「わたしだってついこの間、大怪我をして皆に迷惑をかけてしまいました」
あれ以上の迷惑はないだろう。皆にたくさん心配をかけてしまったからね。反省しなきゃ……。
「ルイス様から聞きましたよ。とても酷い状態だったとか」
「そうなんです。頭から血が出たり、腕などが折れていたそうです」
わたしの言葉にネイド先生は目を見開く。
「っ! そんなに酷い状態だったんですか?」
「はい、あまり覚えていませんけどね。もうこんな事が起こらないように気をつけます。それよりネイド先生、もう大分休めたのでそろそろ始めましょう」
「そ、そうですね。始めますか」
わたし達は木陰から出て魔法を撃っても大丈夫な広い場所まで移動する。わたしはネイド先生の前に立つとネイド先生が「では、始めますか」と言う。
「エシリア様は魔法についてどのくらい知っていますか?」
こんなのは簡単よ! ネイド先生の質問にわたしは自身満々に答える。
「魔法の種類は全部で七つあります。そして魔法を使うには魔力が必要です!」
「流石ですね。火、水、風、地、光、闇、聖の七つ魔法属性が存在します。人はそれぞれ自分に適した属性があり、私とエシリア様は光属性が適性です」
「ネイド先生、適性じゃない属性の魔法は使えないんですよね?」
わたしは一応質問してみる。違うと言ってほしいけど、どうせ答えは変わらないだろうな。
「そうです。生まれた時に輝いた色の属性だけが使うことができるんです」
はぁ……。わかってたけども300年でこんな大切な事が変わってしまうなんて未だに信じられないよ。
「そうなんですね……。ネイド先生は昔、適性じゃない魔法も使えていたということを聞いたことがありますか?」
「えぇ、学校でそんな話を聞いたことがありますよ。本当かどうかわからないんですけどね」
本当のことだよ。だって今のわたしがそうなんだもん。
「わたし昔は適性じゃない魔法も使えていたと思うんです。だって昔も使えていないんだったら、そんなことを言う必要ありませんよ」
「なるほど……確かにそうですね。でも、だとしたら何で今は使えないんでしょう?」
それはこっちが知りたいよ。旅にでも出ればいずれ分かるかな? まあ、わたしは貴族だからもう将来が決まってそんな事できないけど。
「それはわかりませんけど、……何かしら理由があると思うんです」
「うーん、私にはそんな事になった理由が想像できませんよ。昔は当たり前にできていたことができなくなるということは、とても重大なことですよ」
確かにそうだ。でも重大なことなのに軽視されているんだよね。どうしてそうなったのよ。
まあ、考えても分からないから今はもうこの話は忘れよう。
「そうですね。重大なことですけど、考えても分かりそうにないですし魔法の練習始めましょう」
「そうですね。話を戻しますが、その七つの魔法の属性にはそれぞれ神達の力が存在しています。火属性には火の神ヴェルクリーデ、水属性には水の女神グレイシオーネ、風属性には風の女神シェアリアス、地属性には地の神レスランティス、光属性には光の女神ルミエール、闇属性には闇の神ベネディクト、聖属性には聖の女神アメスフィーナが存在しています。あと他にも色々な神が存在しますが、それらはあまり口にすることはないでしょう。そして魔法を使うには詠唱が必要です。その詠唱には必ず神達の名前が入るので、しっかり覚えなければなりませんよ」
このことに関しては前世と変わりはないようだね。よかったよ〜。これで神の名前が変わっていたら叫ばずにはいられなかったよ。
「なるほどなるほど。詠唱はどうするんですか?」
「詠唱はそれぞれの最初に神達が司る力を言い、その後に神の名前を言います。そして最後に何をしたいのかを言うことで魔法が使えるようになります。私がお手本を見せますね」
おぉ! お手本を見せてくれるんですね! 楽しみだ。
わたしは期待の眼差しでネイド先生を見つめる。
「光の力を司る 光の女神 ルミエールよ 我の願いを聞き届け 光を生み出す 力を与え給え」
詠唱も前世と同じだ。よかった。これでわたしが普通に詠唱しても何も問題ないね。
「唱え終わると体中の力が漲ってくるような感じがします。そう感じたら詠唱は成功したということです。それで最後に魔法を使います。光属性の人が最初に覚える魔法です。【ライトスフィア】」
ネイド先生が手を伸ばしそう言うと、手から光の球体が出てくる。この魔法は暗いときによく使う魔法で、自分の周りに光の球体を浮遊することもできるのだ。
「おぉ! 流石です、ネイド先生!」
「これは基礎中の基礎ですよ。光属性の魔法を扱う人で使えない人はいないでしょう。だからエシリア様も使えるように頑張りましょう」
そう言いネイド先生は浮遊している光を消す。
「はい。でも魔法を使うには魔力が必要ですよね?」
「そうです。魔法は魔力がないと使えません。そして魔力があるだけでもうまく使えないんです。うまく魔力を操作して魔力を増やさなければならないんです」
なるほどねー。今の人達はどういうふうに魔法を操作して増やしているんだろう。わたしは疑問に思ったので質問してみる。
「ネイド先生は魔力をどう操作して増やしているんですか?」
「そうですね。その前にエシリア様には魔力の操作をしたことがありますか?」
あります! なんてことは言えない。わたしはついこの間、魔法を勉強をしたことになっている。それに近くにサーラもいるし。
「な、ないですね」
「では、最初は魔力の操作から説明しますね。魔力の操作がうまくなると魔法を撃つときもスムーズに発動できるようになるんです」
確かにそうだ。魔力の操作がうまくなると効率よく発動できるようになるのだ。そして魔力を増やすことによって多くの魔法を撃つことができ、効果の大きい魔法も撃つことができる。
「魔力をうまく操作するにはどうしたらいいんですか?」
「まず体内にある魔力を感じて見ましょう。魔力を感じるのに時間がかかるかもしれませんが、それは頑張るしかありません」
そう言いながらネイド先生は目を瞑り、説明を続けてくる。
「目を瞑り集中することで身体の中にある温かいものを感じるはずです」
ネイド先生の言葉にわたしも目を瞑る。
これは基本中の基本だね。これができないと魔法が使えないからね。ここも前世のとき最初は苦戦したけど、ここからうまく魔力を操作できるかが一番苦労するのだ。前世のわたしも大分苦労したのを覚えている。
魔力の操作がうまくできたら後は魔力を高めるだけだ。これはとにかく辛いだけだ。でも魔力を高めないとすぐに頭がフラフラしてまともに動けなくなるからなぁ。魔法を使いこなすのは大変なことだね。
わたしは色々考えながらも魔力を感じるため集中する。身体の中から温かいものを感じる。
「ネイド先生、身体の中から温かいものを感じました」
わたしの言葉にネイド先生はおぉと感嘆の声を漏らした。
ふふん! すごいでしょ! こんなのは朝飯前よ!
「すごいですね、エシリア様。普通はここで苦戦する人が多いんですよ」
「ありがとうございます!」
褒められて顔が綻んでしまう。もっと褒められたい!
「次は何をすればいいんですか? わたし早く魔法を使いたいです!」
「まだですよ。まず魔力をうまく操作できないと魔法が発動しません。魔力を一箇所に集めるようにするんです。一箇所に集めると集めた場所から少し光の粒子が見えるようになります。その魔力を放つようイメージをしながら魔法を使うことでそこから魔法を撃つことができます」
なるほどね。今は一箇所に集めて放つようなイメージか。
わたしの頃はもう体全体に魔力を高めて解き放つようなイメージだった。確かに一箇所に集めた方が魔力も増えて効率がいい。これも時代の変化だね。魔法のレベルが落ちたから少しでも早く効率よく撃てるように誰かがこのやり方を見つけ出したのだろう。
「やってみます! えーと、魔力を一箇所に集めるような……」
わたしは目を瞑り集中する。体中にある魔力をちょびっとだけ自分の手に集めてみる。わたしの手が微かに光っている。
おぉ。これはすごいよ! 一箇所に集めることによってそこの部分の魔力が高まっている。でも魔力が少ない人は一箇所に集めるため他の部分の魔力がなくなるから、腕を切り落とされたりしたら魔力が一瞬でなくなっちゃうな。今は昔と比べて平和だけど戦争時代だったらすぐに切り落とされてしまいそうだ。わたしみたいな優秀な聖女だったら腕を再生させたりするかもしれないけど、魔力は戻らないからね。
「ネイド先生、できました! どうですか?」
わたしは魔力をうまく操作できたことを報告する。するとネイド先生はとても驚いた顔をする。あれ? 早すぎたかな?
「……驚きました。完璧ですよ。1日でこんなにも、うまく魔力を使いこなせるとは。エシリア様は才能がありますね。将来は魔術師の団長にでもなれるのではないですか?」
やったぁ! 褒められたよ。わたしって才能があるんだって! まあ前世の記憶があるから当たり前なんだけどね。でもそんなことは誰も知らないから、わたしの才能てことにしよう! でも魔術師の団長になる気はない。団長になったりしたらほとんど王城で王族たちと一緒にいなきゃいけないからね。
「ありがとうございます! ネイド先生、 魔法を使ってもいいですか?」
「詠唱はわかるんですか?」
「はい! この前書斎で魔法の本を読みましたから」
「もう魔法の本も読んでいたのですね。エシリア様は勉強が好きなんですね」
ギクッ!
あのとき以外、自分から勉強したことなんてない。でもネイド先生に良いところを見せたいから、わたしは胸を張ってできる子ですよとアピールしておく。
「そ、そうなんです! 勉強が大好きで魔法の本も歴史の本も読んだんですよ!」
わたしの言葉に木陰で待機してわたし達を見守っているサーラは目を見開いた後、やれやれといった顔をする。や、やばい。サーラがいることすっかり忘れてたよ。一瞬サーラと目があったがわたしはすぐに目を逸した。後で何か言われそうだ……。
「歴史の本もですか!? あれは書いてあることが難しい言葉ばかりで学校で教えてもらいながら読むんですよ。やはりエシリア様は偉いですね。この歳で勉強が好きなんて素晴らしいですよ」
は、はい。ネイド先生なんかすみません。
わたしはネイド先生に申し訳なくて心の中で謝る。でも、半分は本当のことだよ。魔法の本も歴史の本も読んだもん! 勉強は大嫌いだけど……。
「あ、ありがとうございます。これからも頑張ろー。……そ、そんなことより魔法を使ってみますね」
わたしは話が逸れる前にやろうとしていたことを試してみる。
「光の力を司る 光の女神 ルミエールよ 我の願いを聞き届け 光を照らす 力を与え給え 【フラッシュ】」
わたしの手から一瞬で放たれる強烈な光に目をギュッと瞑る。いつ使ってもこの魔法は眩しいな。どうして自分が使った魔法なのに自分も眩しくなるんだろう。これじゃ意味ないよね。
そんなことを考えていたら放たれた光が消えていく。光が消えたと同時にゆっくり目を開く。
「おーフラッシュですか。魔法も問題ありませんでしたね。ここまでスムーズに行くとは思いもしませんでしたよ。学校が始まっても大丈夫そうですね。むしろ最初の方は退屈しそうですね。魔法は魔力が高ければ高いほど強力な魔法を撃てて多く魔法が使えますから日々の努力は大切ですよ」
ネイド先生に合格を貰えたよ。よかったぁ! 魔法に関しては完璧だった。まあ前世で魔術師の団長よりわたしの方が魔法に優れていたからね。
わたしが喜んでいるとネイド先生が言う。
「これからどうしましょうか。エシリア様がこんな早くに魔法を使いこなすとは思わなくて随分早く終わってしまいましたよ。う〜ん、……まあひとまず休憩しましょうか」
ネイド先生の言葉にわたしは了承する 。早く終わり過ぎちゃったな。どうしよう。
わたしはどうするか考えながら休憩に入った。
エシリアは魔法に関しては完璧のようです。
ネイド先生も教えることがなくなってしまいました。
これからどうするのか……。