5話:サーラの想い
サーラ視点です。
私はこのドレスフォード家長女エシリア様の専属メイド、サーラでございます。
私がこの家のメイドとして働くことになったのは、10歳の頃でした。
元々私は、このドレスフォード領の中の田舎で一番小さな村に住んでました。私の村は小さかったけど皆が家族のような関係でいつも幸せな毎日を過ごしてました。でも今から約7年前ぐらいでしょうか、ちょうど私が10歳の頃に忘れられない出来事が起きたのです。
* * *
その日は雲一つない綺麗な青空でした。私は親にいってきますの挨拶をして一人で森に行きます。いつも私は森に行き、美味しい木の実やポーションの素材として売れる薬草を採取していました。
結構な量を採取し、そろそろ帰ろうかなと思った頃にはもう外は暗くなりかけていて、私の周りは不気味と思うぐらいしーんと静まり返っていました。
私は村に帰ろうと思い村のほう見ると村のほうだけ真っ赤な空が漂っていました。私は村に何かあったんだと思いすぐに村に戻りました。
私は急いで戻りましたが村はもう火の海で、村の原形を保てていないそんな状態でした。でも私は諦めずどこかに人がいると思い叫びました。
「お母さん! お父さん! みんなー!」
叫んでみましたが返事がありませんでした。それでも諦めず私は走り回ります。走り回って探していると、人が地面に倒れているのを見つけました。私はそこまで駆け寄ると、衝撃のあまり尻もちをついてしまいました。
「ひっ! 顔が……」
顔がぐちゃぐちゃになっていました。私は倒れている人が誰なのか服や身体を調べます。私はその人が誰なのかすぐにわかりました。
「……お、……おとう……さん?」
私は誰か知った瞬間、急に苦しくなりました。うまく息ができません。
なにこれ、どうして? これがお父さん? 誰がこんな事やったの? そんなことを考えていたら頭がぐるぐるしてきます。頭が痛い。
そう考えながら私は遠くを見ていると、遠くに去っていく黒い何かがたくさんいるのが分かります。なにあれ、魔物……? 魔物がこんな風にしたの?
魔物があんなにたくさんの群れで行動することは滅多にありません。
たまたまこの近くに来たの? ……そんなのってないよ。
私はその後必死に生きている人がいないか探しました。私が見つけたのは村の人数分の死体でした。
あまりにも衝撃すぎて無意識のままお父さんに近寄ります。私はお父さんのそばで呆然と座り込みました。私はそうなった原因を知って、大切な者を失ったんだと、もうあの幸せだった頃には戻れないんだと知った時、何かが私の中で崩れたような感じがしました。
あれからまる一日が経ったのか、そんなことを考えて動く気力さえない私はもう死のうかなと思ったのです。そしてふとそこに落ちていたガラスの破片を見つけて首に刺そうとしました。首に刺そうとした瞬間、二人組の男女がいるのを目に入りました。その二人は領主夫妻だったのです。ですが当時の私は誰だか分かりませんでした。
領主夫妻は呆然と座り尽くしている私を見つけたら、すぐに近寄ってきました。領主夫妻は何だか私に話しかけてきましたけど、全く耳に入りませんでした。
すると男性の方が私を抱きかかえてきます。動く気力さえない私はそのまま身を委ねました。
それから高級そうな馬車に長い時間乗り続け、着いたとき私の目の前には大きな屋敷がありました。
そこで私は知りました。こんな高級な馬車に屋敷をもっている人は領主様しかいないと。でも当時の私にはそんなことはどうでもよかったのです。
屋敷に入りまず初めてのお風呂に入りました。とても大きなお風呂に入れられたらしいです。あまり記憶がありません。
その後、豪華な屋敷の中を歩き回り、たくさんある部屋の中の一つの部屋に入れられます。そこで私は着替えさせられました。その服はメイド達が着ている服でした。
領主様と一緒にいた綺麗な女性、多分領主様の妻なのでしょう。その人が私に言います。
「あなたはこれからドレスフォード家のメイドになってもらいます。辛いのは分かりますが、死のうなどと考えてはいけません。今を乗り越えるのです。辛いときは私がそばにいてあげますから」
するとその女性は私を抱きしめてきました。私はその瞬間いろんな感情が涙になって溢れてきました。夢ではない、本当に家族が戻らない、あの頃のようには戻れない、悔しさと悲しさという気持ちが涙になって溢れてきます。それと同時に抱き締められて感じるこの温かい気持ちと心が癒やされていく気持ちが溢れてきます。
どのくらい経ったのでしょうか。一瞬のような感じもしましたし、すごく長かったような感じもしました。私が泣き止み落ちついてくるとその女性が私の頭を撫でてくれました。
「辛いときがあればいつでも言ってくださいね。いつでも抱き締めてあげます」
「はい」
この人の声はとても癒される。
「メイドについての仕事は私の専属メイドのアレイシアに聞いてくださいね。よろしくお願いね 、アレイシア」
「かしこまりました」
この日から私の新しい生活が始まりました。
* * * *
私が13歳になった頃にはメイドの仕事にはもう慣れて、新しく入ってくる人を教育したりしていました。
そんなある日領主様の妻であるカテリーナ様の専属メイド、アレイシアさんにカテリーナ様の寝室に来るように言われました。
カテリーナ様はついこの間、長女であるエシリア様をご出産したばかりです。今のカテリーナ様は、家族と専属メイドであるアレイシアさんでしか会うことができません。それなのに私をお部屋にお招きして良いのでしょうか。
私は疑問に思いながらカテリーナ様の寝室に入ります。
カテリーナ様はベッドで生まれたばかりであるエシリア様を抱いてしました。とても可愛らしい姿に頬が緩んでしまします。するとカテリーナ様は私が入ってきたことに気づくと、小さな声で衝撃なことを言います。
「サーラ、あなたをエシリアの専属メイドにするわ。エシリアの事をお願いね」
聞き間違いでしょうか。私がエシリア様の専属メイド? そんな事あるはずがありません。まだ私よりも長くメイドとして働いてきた人はたくさんいます。
「わ、私がですか? 何故でしょうか。私よりも長く働いているメイドはたくさんいます」
疑問に思ったことをそのまま伝えます。するとカテリーナ様は私に微笑みながら言ってきます。
「私が女の子を生んだらサーラに専属メイドを任せようとずっと前から考えていたのです。サーラなら私達がいない時、きっと我が子のようにこの子を守ってくれると信じています。だからサーラ、この子の専属メイドになってもらえますか?」
私の事をそこまで考えてくれているとは思ってもいませんでした。私はこの屋敷に連れて来られてから毎日が幸せです。あのとき死にたいと思っていた自分が今ではここまで変われたのは全てドレスフォード家のおかげです。私はここまで自分を変えてくれたドレスフォード家に改めて誓います。
私はこのドレスフォード家のために生きます、と。
「かしこまりました。エシリア様の専属メイドとして、精一杯務めさせていただきます」
私がそう言うとカテリーナ様はふふっと笑いました。
「そう、お願いするわね、サーラ」
私はその日からエシリア様の専属メイドとなったのでした。
* * * * *
エシリア様の専属メイドとなってから4年が経ちました。
生まれたばかりの時は落ち着いていましたが今ではとても元気があって可愛らしいです。
エシリア様はお人形みたいな丸い目をぱっちりしていて、全て照らし尽くすような金色の瞳をしています。エシリア様の瞳はお父様であるルイス様に似たのでしょう。そしてサラサラと透きとおる様に光る銀色の髪は、左右の耳上から後ろの上部分まで編み込んでおり、そこから真っ白いリボンで結んでおられます。そして窓から差し込む日の光にあたっている部分は一層に輝いていて美しいです。
でもそれに比べてエシリア様は勉強がとてもお嫌いです。5歳になるとパーティーを開いてお披露目がありますのに、このままのエシリア様では恥をかいてしまいます。そうならないためにも専属メイドである私がしっかりエシリア様を教育していかなければなりません。
でもエシリア様が遊んでいるときのあのニッコリとした顔や勉強をしなければならないときの眉をきゅーっと顰めた顔を見れば、そんな事はどこかに飛んでいってしまします。そう、とても遠くの方に……。
だからあのときも今日の分の勉強が終われば遊んでもいいですよと言ってしまったのです。そんなことを言わなければエシリア様があんな大きな怪我をすることもなかったはずですのに。
全て私の原因です。私が止めていれば。近くにいてあげられていたら。今ではとても後悔しています。
エシリア様が転び落ちて、生きているのか分からないぐらいの大きな怪我をしたと他のメイド達から聞かされたときは一瞬で頭の中が真っ白になったような感じがしました。私は目の前の現実が受け入れられない、嘘だと言ってください、というような顔をしていた気がします。
また私は大切な者を失うのか。また私がいない所で消えていくのか。そんな考えが脳裏をよぎります。
その後、私はベッドで横になっているエシリア様を見たら泣いてしまいました。
とても酷い状態でした。頭から血が出て腕などが折れていました。私が止められなかったせいです。
私は泣くのを止めることなくカテリーナ様やルイス様に謝ります。でもカテリーナ様は自分が悪いからサーラのせいではありません、と言ってきました。カテリーナ様が階段を下りているエシリア様に声をかけたせいで転んでしまったようです。
それからカテリーナ様と私でずっとエシリア様の横で泣き続けました。
その後私は、ずっとエシリア様の横にいました。カテリーナ様がエシリア様が目覚めるまでそばにいてあげて欲しいと言われたので常にエシリア様の部屋で過ごすことになりました。
私はエシリア様の親と言ってもいいほどずっと一緒にいて、エシリア様のことなら何でも知っていると思います。そう思っていたのです。それなのにエシリア様に不思議なことが起きたのです。
ちょうどエシリア様が怪我をしてから一週間ぐらいでしょうか。私はエシリア様の腕を冷やす為に水を汲みに行っていました。そして私がエシリア様の部屋に戻ったときにそれは起こりました。
一週間全く動くことなく折れたままの身体で呼吸しかしていない状態で眠っていたエシリア様は、何故か何事もなかったかのように普通にベッドから起き上がっていました。私はポカンとエシリア様を見つめてしまいます。身体が全てきれいに治っています。エシリア様、腕など折れていた部分はどうされたのですか、と聞きたくなりましたがそんな事はすぐにどうでもよくなりました。
私はエシリア様が目覚めてくれたこと、無事に身体が治ってくれていたこと、全てに関して嬉しくて大声で名前を叫んで抱きついてしまいました。
本当によかったです。いつ目覚めるかも分からない、もしかしたらこのままもう目を覚まさないんじゃないかと思っていたのです。
そんな私を見てエシリア様は驚いています。抱きついても痛くないということは、本当に治ったということなのでしょう。私は嬉しくて強く抱きしめたらエシリア様も手を後ろに回してくれます。
抱きしめていたら廊下から足音が聞こえました。扉が開き入ってきたのはカテリーナ様とルイス様でした。二人はエシリア様が無事に目を覚ましてくれたことにとても喜んでいます。
カテリーナ様達がエシリア様に近づいてきたので私は壁まで下がります。
その後はもうエシリア様とカテリーナ様の会話にすごく感動しました。エシリア様はどこか変わったような感じがします。見た目は変わりませんが大人のような雰囲気が出ているような気がしたのです。
こうして私の大切な者が無事でいてくれたことにまた希望を見出せます。
そして私は人生で最大の決意をします。
もう絶対に大切な者を失わないためにも常にエシリア様のそばにいなくては!
サーラの感情はカテリーナのおかげで何とか落ち着きました。
生まれたばかりのエシリア登場です。
怪我をして一週間後エシリアは平然とした顔でベッドから起き上がりました。
なんか最後ふざけてしまいました。こんなはずでは……。