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一日目

昨日投稿するはずが忘れてました

すみません

「ここは……」


 目を開けるとそこは異世界……なのだろうか?

 あまりにも豪華すぎる場所に剥斗は自分の思考に自信が持てなかった。


 周りは金銀でできていないにもかかわらず全てが輝いて見える。

 まるで本物の神の部屋のようだ、と彼は思った。


「ようこそ起こしいらっしゃいました、勇者様がた」


 今まで気づかなかったが、目の前には美女と言えるほどの美貌を持った少女が立っていた。

 歳は同じぐらいだろうか?だが、しっかりとしている。彼女はその丁寧さと美しさを併せ持ったお辞儀を彼等、勇者に披露した。


 勇者はというとその美しさのあまりに言葉を失っていた。


「ああ、あんたは?」


「私は召喚の巫女、ミーヤです」


「そうか。なら、ミーヤ。ここはどこだ?」


 やはり、この場でも最初に口を開いたのは剥斗だった。というのも、あるもの(一暉)は少女に見とれており、あるもの(明日)は周りの情景に感動しており、またあるもの(京子)は物珍しそうに周りをキョロキョロとしていたからだ。


「ここはナースという世界。あなた様がたは異世界から召喚された勇者でございます、吸血鬼の勇者様」


「吸血鬼の勇者?」


「はい。その流れるような銀髪と血に飢えた赤い眼からそう考えたのですが、違いましたか?」


「銀髪?赤い眼?」


 剥斗は自分の髪を見る。いつの間にか肩までかかっているその神の色は確かに銀髪だった。

 しかし、それでもにわかに自分が吸血鬼だと信じられない。


「自分の種族を確認することってできるのか?」


「そうですね、ステータスと唱えれば」


「ステータス!もしかしたらこれはテンプレパターンか!」


 唐突に目覚めたのはいかにも勇者っぽい一暉だった。先ほどまで見とれていたその目は、今は子供のようにキラキラと輝いている。


 それはともかく、と剥斗はステータスと唱えてみた。


 ----------

 ステータス

 名前:ハギト・イチヤ

 種族:吸血鬼(ヴァンパイア)

 寿命:∞

 称号:勇者

 レベル:1


 生命力:2989

 魔力:2040

 筋力:193

 魔法力:320

 防御力(物):178

 防御力(魔):408


 魔法属性:全属性、夜属性


 スキル:


 種族能力:

 吸血

 眷属化

 眷属強化

 眷属進化

 眷属召喚

 僕化

 不老不死

 魔眼(未覚醒)


 ①吸血


 1:異性である人物のみ吸血可能

 2:吸血される相手は至福の快感を覚える

 3:吸血の持ち主は一週間以内に吸血行為を行わなければ死亡する


 ②眷属化、眷属強化、眷属進化、眷属召喚


 1:死亡した生物(人物以外)を眷属として生き返らせることが可能

 2:死亡から一時間以上経つ死体は生き返らせることができない

 3:血を与えることで生き返らせる

 4:眷属はその種族を血獣族に変える

 5:主人の魔力を得ることによって眷属は強化される

 6:主人のレベルが上がれば眷属のレベルも上がる

 7:主人の魔力をある一定数受け取ることによって進化する

 8:主人と眷属は意思疎通が可能

 9:主人が死ぬ時、眷属も死ぬ

 10:眷属は常に異空間に住まい、主人に呼ばれた時のみ世界に顕現する


 ③下僕化


 1:対象は人物のみ(生死問わず)

 2:吸血、または血を与えることで下僕化する

 3:下僕化された人物はその種族を半吸血鬼(ダンピール)に変更する

 4:主人が死ぬ時、下僕も死ぬ


 ④不老不死


 1:このスキルを持つ者は死ぬことはない

 2:死後一時間で生き返る

 3:寿命がない

 4:歳を自由に操ることができる(実際の歳までの範囲で)

 5:歳によってステータスが変わることはない


 特殊能力:

 寿命変換(ステータス)

 創造魔術


 ①寿命変換

 1:寿命をステータス値に変換する一方通行な能力

 2:ステータス値は生命力、魔力、筋力、魔法力、防御力を含む

 3:変換法則は[ステータス値*消費した寿命]

 4:一秒に最大寿命を十年消費できる

 5:変換されたステータスは一日で元のステータスに戻る


 ②創造魔術


 1:鑑定(物)が含まれる

 2:鑑定した物を魔力を消費して創造することができる

 3:鑑定していないものは創造できない

 4:魔道具なども創造可能

 5:鑑定したものは脳内に存在する創造魔術用の情報スペースに保存されるため一度鑑定すれば何度でも創造可能


 ----------


 ステータスにはご丁寧に能力の説明も付いている。

 これを書いたのはシロだろうか?と一瞬考えたハギトだが今はそれを機にする必要はないと考え、自分のステータスを真剣に読み取った。


 ステータスの名前の欄にはハギト・イチヤと書かれていた、これは、両親が死ぬ前に名乗っていた旧姓、一夜から来たのだろうと推測した。

 本人的にはこちらの名前の方が気に入っているので文句はなかった。


 次に種族。彼は確かに吸血鬼になっていた。

 あまり実感がわかないのは自分の姿を見れないのもそうだが、それ以上にほとんど変わったところがなかったからだろう、と彼は内心考えた。

 それだけでなく、吸血鬼は本当に不老不死なようだ。実際に種族能力に載ってあった。

 弱点はないらしく、俺は死んでも一時間すれば生き返るらしい。ただし、それは死ぬだけの話。

 ここはファンタジー世界、つまりは未知の世界である。死ぬことはないかもしれないが、存在を抹消されれば生き返ることも不可能だろう。


 しかし、問題はそこではない。

 特殊能力、つまりは勇者として送られて来た際にもらった能力に問題があった。

 創造魔術と寿命変換。


 創造魔術はたしかに使いやすそうな能力だが、これはあまり見せびらかせる能力ではないと剥斗は断言した。

 何せ、この能力を使えばお金という者は彼の前では無意味に等しくなるからである。

 彼の能力はすなわちどんな物でも作るれるということ。つまりは、お金でもなんでも、いちど鑑定してしまえば無限に作ることができるということだ。

 しかし、なんらかの対価があるに違いない。

 推測の域は出ないが、彼は魔力を大量に消費する能力であると考えている。


 しかし、それを補うことができるであろう能力が一つ。寿命変換だ。

 ハギトの今の寿命はない。つまり、無限ということ。そのため、変換は無限にで来てしまう。

 これが普通の人であれば対価は相当な者だっただろうが、彼にして見れば無限にある寿命は対価としてあまり意味をなさない。

 この能力は強すぎる、と彼以外の誰が見てもそう思うだろう。

 しかし、これよりも魔王が強いという考え方もあり得る。もしそうだとすれば、魔王とはどのような存在なのだろうか?そもそも、魔王とは戦わなければいけない存在なのだろうか?


 それを判断することは今の彼にはできなかった。

 なので、彼は今を優先した。


「たしかに、俺は吸血鬼みたいだな。それも、称号の欄に勇者って書かれてある」

「僕のところにも勇者って書かれてますね。ちなみに、僕は人族、普通の人だそうです」

「私は獅子人ってあるわ。だから尻尾があるのかしら」

「私は小人族だそうです……こっちに来ても小さいです……」


 話したのは最初から順にハギト、イツキ、アス、キョウコだった。

 ハギトは吸血鬼、イツキは人間、アスは獣人、キョウコは妖精の勇者だった。


「やはり、皆さんは勇者様方なのですね」

「らしいな。そう称号に書いてある」

「なら、確認は終わりましたので、『王の間』に集まってもらいましょう。その際、代表となる者が一人いればいいのですが……」


 そこで言葉を切り、ミーヤはハギトを見た。

 この場で一番落ち着いており、頭の回転が早く、状況を冷静に見れるのが彼だったからだろう。そして、そんな彼に代表として王と話してもらえれば、と思ったのだろうが、それはすでに遅かった。


「それ、僕がやるよ!」


 手を上げて自ら名乗り出たのはイツキだった。


「僕の名前はれ……じゃなくて、イツキ・蓮華です。よろしくお願いします、ミーヤさん」


「……では、イツキ様が代表ということでよろしいのですね?」


 そう言って彼女は勇者として召喚された他の三人、特にハギトの方を見る。

 だが、ハギトは厄介ごとを免れたことに内心歓迎しており、満面の笑みで「はい!」と答えた。

 他も、ハギトと同じく面倒ごとを回避できるのであればと頷く以外の選択肢はなかった。


「……わかりました。では、イツキ様と他の勇者様方。どうぞこちらへ」


 どこか不満げな表情だが、それを感じさせないほどの美貌がそれを隠してイツキに心の内を悟らせずに『王の間』へと向かった。




『王の間』と呼ばれている部屋は即ち謁見場であった。

 余人の勇者を率いたミーヤは彼女の背丈を三倍にしたほどの高さを誇る門を三度叩き、確認を取る。


「『第二王女』のミーヤです。勇者様方を連れて参りました」


「入って良いぞ」


 確認が取れたことで門は開く。

 この門は魔道具の一種であり、王か、王が『王の間』の中から許可した時のみ開くようになっている。


『王の間』に一歩入れば、そこにはずらりと貴族たちが並んでいた。

 ミーヤはこれが何かを知っている。貴族たちは皆、勇者を品定めしているのだ。そして、どの勇者に子供を継がせようかと思考を張り巡らせるのだった。

 この行為をあまり好いていなかったミーヤは怪訝そうに眉間にシワを寄せるが、王の御前ということもあり彼女はすぐに顔を戻した。


「ああ、俺たちはどうすればいいんだ?」


 小さく耳打ちしたのはハギトだった。

 こういう場など現代の高校生が経験するはずがなくみんな戸惑っているだろうと彼は自らミーヤに謁見の簡単な作法を聞いた。


「右の膝を床につけて左手を胸に持って行き、右の手を拳にして床につけてください。


 ハギトは言われた通り、謁見場の中央でその姿勢を作る。そして、それを真似するようにイツキたちも顔を伏せた。


「フム。面をあげよ」


 王に言われ、ハギトたちは立ち上がった。


「代表の勇者は誰だ?」


「あ、僕です」


「名は?」


「イツキ・レンゲと申します」


「フム。他の勇者様方の名は?」


「俺はハギト・イチヤだ」


「私はアス・ユウキよ」


「わ、私はみ、じゃなくて、キョウコ・ミチナガです!」


 イツキのみ丁寧に敬語を使った自己紹介を行い、他は王の御前としてはあまりに不敬だった。

 しかし、王自身はあまりそのことに気にしておらず、気にしているの周りにいる貴族たちのみだった。


「わしの考えじゃとイツキ、貴殿は人族の勇者ということだな?」


「はい」


「……」


 王はその返事を聞き少し黙り込んだ。

 だが、すぐに会話を再開させた。


「そしてハギトよ、貴殿は吸血鬼か?」


「ああ、そうだ。隣のキョウコは小人族、その隣のアスは獅子人だ」


「そうか」


 すると王は満足げに背もたれに背を預けた。すると、今度は隣に立っていた髭を生やした威厳のある顔立ちの男が一歩前に出て口を開いた。


「我々は貴殿たち勇者様方に魔王の打倒をお願いしたい。魔王打倒のためとあれば、我々は如何なる手助けをもする所存である。なので、頼む!どうか、どうか力を貸してはくれないだろうか!」


 ―――一人称ハギト


「どうか、どうか力を貸してはくれないだろうか!」


 召喚されてすぐに王との謁見場に向かった俺たちの前で、この男は全身全霊をかけて助けを求めて来た。

 その表情から見えるのはただならぬ覚悟。全てを捨ててでも頼む覚悟だった。


 だが、だからと言って、俺はそれを簡単に了承するわけにはいかない。なにせ、これを引き受けた途端自分に降りかかる危険(リスク)が大きすぎるからだ。

 これがまだ知り合いならまだしも、赤の他人を命がけで助けられるほど俺の心は広くない。

 だから、俺はここは丁重にお断りしようと思った、のだが―――


「わかりました。僕が必ず助けましょう」


 このイツキとかいう高校生はバカなのだろうか?

 命の危険があるというのにこんなことを気軽に了承してしまうほど頭が悪いのか?

 隣を見ると、キョウコもアスも「ありえない」と表情が訴えていた。というか、それがまともな反応だと俺は思うぞ。

 俺なんか呆れて何も言えない。


 だが、イツキ(ばか)の一言のせいで断りにくい雰囲気となってしまった。

 あのクソ野郎(イツキ)、絶対に後でぶん殴ってやる。


 俺は密かに拳をギュッと握り、イツキ(バカ)の背中を存分に睨みつけてやった。






 王からの説明を受け終わった俺たちは従者を選ばなければいけなかった。

 理由は、この世界に不慣れな俺たちに世界の常識というものを教えるためだという。他にも、この世界についてを教えるためだというのだが……


「僕は君を従者に選ぼう!」


 イツキが選んだのはこの国の第三王女だった。

 こいつ、絶対に顔で選んだだろ。

 第三王女は絶世の美女だ。だが、王女というのは普通、常識的に考えて庶民とは真逆のような生活を送っているはずだ。そんな王女がこの世界の常識について知ってるとは思えない。


「あいつはバカのようね」


「そうなのです。ただの変態バカです」


「俺も同感だ。てか、あいつは俺の隣で小言をぶつぶつ言ってると思ったら、ただ妄想をつぶやいてる変態だったし」


「うわあ、ないわー」


 俺たち三人はイツキに冷たい視線を向けた。


 現在、俺たちの前には何人もの女性と男性が立っている。

 中にはいろいろな人たち、イケメンからブスまで、幼女から婆さんまで、貴族のような格好の下奴らからメイドや執事のような格好をした人たちがいた。

 俺たちはこの中から一人以上を選んで獣者にしなければいけないらしい。

 多分、俺たちの監視も兼ねているんだろうな、というのは俺の推測だ。


「で、キョウコはどうするんだ?」


「私ですか?私は……一人は決めたのです」


「一人?」


「はい!あの子です」


 そう言ってキョウコが指差したのは小学生ぐらいの女の子だった。

 自己紹介の時にあたふたしていてドジっ子属性が垣間見れたから名前は覚えている。確か、ニンサだったような気がする。

 選んだ理由は友達として良さそうだから、と言ったところか。だけど、本当にあの子を選ぶのであれば、もう一人絶対に従者として選んだほうがいいのは明白であり、彼女もそのことに関しては理解しているようだ。


「もう一人は、あのメイドにしたほうがいいんじゃないか?」


 俺が選んだのは四十代後半のメイド。

 無表情だが、手が荒れていることから本物のメイドだということはわかる。そして、何より面倒見が良さそうだからだ。


 こいつの前では口が裂けても言えないが、こいつは小学生のような危なっかしい。

 今までの言動を見ていると、余計にそう思えてくる。

 そんな奴を一人にするのはあまりにも無情なので、俺なりに考えた結果、子育てのしたことあるようなメイドを一人つけてあげようと思った。


「わかりましたです。そうするです」


 キョウコはトコトコと選んだメイドに歩み寄り、二人を連れて謁見場から出た。

 今はもう夜らしいので、どこかの部屋に向かうのだろう。そこで食事でもとって寝るのだろう。

 ちなみに、イツキは未だにメイドを誘う、というよりはナンパしていた。

 見ている限りだと、この場に従者として出てきていた第二王女にはあっけなく振られたそうだが、まだ立ち上がる気力は残っているらしい。


「あんたはどうすんの?」


「俺は……どうしようかねぇ」


 現実問題、俺はこの場にいるこいつらの中で誰を決めればいいのかよくわからない。

 何人か目星はつけてあるものの、実際に選ぶとして誰を選ぶか……。


「私はもう決まってるわ」


「誰にすんだ?」


「メリンダっていうお婆さんよ」

 メリンダというお婆さんは俺の候補の中にもいた人だ。

 お辞儀が丁寧で、老メイドという雰囲気が気に入ったのだ。


「じゃあ、先に上がるは」


 ゲームしてるわけじゃないのに、なにが先に上がるだよ。


 アスはメリンダを誘って謁見場を出る。

 そして、残ったのは俺とイツキだけだった。


 この場のルールで彼ら従者候補たちは自ら動いてはいけないという決まりがあるらしい。が、その視線の向く方向はルールにはない。なので、正直言って視線が痛い。

 イツキの方はあまり気にしていない様子だが、あれはただ単にバカだからだろう。一瞬、あいつが羨ましいと思ってしまった。


「最後は、君に決めた!」


 ポケ〇ンじゃないんだからその決め方はやめろ!

 イツキが最後に決めたのはこれまたどこかのお嬢さんだった。

 多分、貴族の令嬢かな?雰囲気が煌びやかで、お辞儀が丁寧というよりは優雅さを持っている。


 さて、残ったのは俺か……。


 俺は周りを一度見渡す。

 この中から決めるとしたら……。


「はあ、しょうがない……」


 俺はある手段をとった。

 それは、試験だ。


「みんな、俺が指を鳴らしたらお辞儀をしてくれ」


 そう言って俺は指を鳴らす。


 お辞儀のほとんどは優雅さの方に重点を置いたものだった。だが、中には相手に丁寧にお辞儀をしようとした人たちがちらほらいた。

 俺はその中から一人を選んだ。


「えーっと、名前は確かライヘル、だったか?」


「私ですかな?」


「ああ、あんただ。あんたが今日から俺の従者だ。いいか?」


「わかりました……ですが、どうして私なのでしょうか?」


 老執事。それがこいつにあったあだ名だろう。

 白髪の老いた執事。どこか聡明な雰囲気を感じる。

 そんなライヘルが言った言葉は謁見場にいたみんなが思っていることだろう。

 あまり答えたくはないが、答えなければ納得しなさそうなので、しょうがなく俺は答えた。


「理由か……まず最初に、俺は名字持ちを全て候補から外した」


 それを聞いたみんなは一瞬ざわついた。


「名字持ちは多分高位の人たち、または権力を持つ人たちのことだと俺は推測した。俺が欲しいのは庶民的な考えを持った人たちだから、そいつらは外させてもらった」


 この世界の常識を知るのに必要なのは権力者たちの考えではなく、庶民的な考えだ。

 権力者たちの常識でもいいのだが、俺は権力者ではないので必要はないのだ。

 まあ、俺に権力者たちはほとんど群がってこないが。

 理由は多分、俺の種族だろうな。


「正解でございます。しかし、ならなぜ我々にお辞儀をさせたのですか?」


「簡単だ。お辞儀に優雅さがある者と丁寧さがある者がいたからだ。俺が欲しいのは優雅さを持った貴族の子供ではない。従者として俺を手助けして、同時についてきてくれる人が欲しいんだ。それに、きちんとした従者が欲しいんだから、できるだけ丁寧なお辞儀をしたやつを選ぶのが当たり前だろ?」


「そうですか。では、最後にもう一つ質問させてもらってもよろしいでしょうかな?」


「ああ、いいぞ」


「では。なぜ、私のような老いた爺を選んだのでしょうか?若い者を選ばないのですか?私より若い者の中にはもっと丁寧にお辞儀をしたものがいたはずですが」


 確かに何人かいた。その人たちは完璧な執事、多分、執事の中の執事のような人たちなのだろう。

 だが、そんな若い奴らでもこの老いぼれた執事に勝てない部分が一つだけある。それは―――


「経験だ。お前の方が長く生きてるからな。人生の経験なら、誰にも負けねえだろ?」


「……伊達に八十年以上も生きてはおりません故、負ける気がしませんな」


「なら話は終わりだ」


 そう言い、俺は老執事の前に手を差し出す。

 だが、ライヘルは俺の手を取らなかった。代わりに、その立派なちょび髭で見えなかった口を開いた。


「一つ、私の願いを聞いてくれますでしょうか?」


「なんだ?」


「私の娘も一緒に連れて生きたいのです」


 娘、ねえ。

 俺はこいつの後ろにいる少女を見つめた。

 歳は十四歳、日本でなら中学生の少女だろう。

 そんな子がライヘルの娘。たぶん、孤児か何かだろうか?なら、納得できる。


「いいぞ。俺はお前に払える金はないからな、少しのわがままぐらい聞いてやるよ」


「ありがたき幸せ。このライヘル、命を消すってでもハギト様に支えましょうぞ」


 俺はその言葉を聞きながら、謁見場を出る。

 今日の夕飯を思い浮かべながら。


次の話の投稿は高い確率で来週中になると予想されます

書く速度が遅くてすみません

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