プロローグ
ピピピッ。ピピピッ。
目覚まし時計が忙しく泣く朝は毎日の始まりだ。それを止めようと宙で手を動かしているのは桐谷剥斗。今年、高校に入学した新入生だ。
彼はバシバシと机を叩き、たまたまそこにあった時計を止める。
「ふはあぁぁ」
被っていた掛け布団を飛ばす勢いで起き上がり、あくびと同時に伸びをする。
カーテンを開け、朝日が窓から差し込む。一瞬ひるんだように目を瞑った後、右手で目を覆い外の様子を見る。
いつも通りの平和な世界……。
自分の部屋を開けて外に出る。
階段の下から何やら騒々しい声が。多分、また妹の美希と父が喧嘩してるんだろうな、と彼は我関せずというふうに声を無視して朝食を食べにリビングへと向かう。
そして、そこには想像通り、美希と父が朝っぱらから言い争っていた。今朝のお題はバイトのようだ。最近バイトを始めた美希を父が叱ったのだろう。だが、まだ構ってもらえてるだけありがたいにだろう。
母は相変わらずオロオロしていた。止めようとしているのだろうが、なかなか話に入りずらいのだろう。
彼はそんないつも通りの日常を見ながらまだ働いない頭を動かそうとコーヒーを飲む。
インスタント以外にもあるが、それはこの家のものなので彼は自分で買ってきたインスタントのコーヒーを飲んでいた。
彼の朝食は他の家族とは全く違う。
他がきちんとした朝食をとってる中、彼の朝食はご飯と味噌汁。たまにご飯がパンに変わることもあるが、その程度だ。
そして、食べる場所も違う。彼は他とは離れたテレビの方で朝食をとっている。決してテーブルに席が残ってないわけではないのだが、それがこの家のルールなのだ。
なぜこんなルールがあるのか。それは、彼がこの家の人ではないからだ。
彼はこの家の母の姉の息子。昔はただ楽しく毎日を家族とともに暮らしていたのだが、事故で母と父を亡くしてから彼はこの家に引き取られ新しい家族の一員となったのだ。
「いってきます」
もう、いってらっしゃいという声は八年聞いていない。
それでも、どこかで見守っているであろう両親に彼はそう言うのを毎日欠かさない。
これが彼のいつもの日常だった。
しかし、その日常は守られるものではなかった。
「な!」
一歩家を出た瞬間、彼の足元に浮かんだのはいくつもの模様や文字のようなものが書かれていた円だった。
踏むのは危険。そう本能が叫んでいたがもうすでに遅い。彼の足はすでにそれを踏んでいた。