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姉の血と汗と涙

作者: 風祭繍

 日本に明治新政府が出来てから、少しの時間が流れたある日のこと。

 小笠原のとある漁村にて。


 少女が海岸を眺めていると、洋服を着た女性が少女の傍まで歩いてきた。

「あ、こんにちは。レディさん」

「ああ。こんにちは。でも、『レディ』にさんをつけるのはちょっとおかしいね。自分で名乗っておいて今更だけど」

「私も、これが慣れちゃった」


 レディと呼ばれた女は日本人である。数年前からこの漁村に時々現れる。何故『レディ』と名乗るのかは、まだ誰も知らない。

 少女の名前は『まつ』と言う。時々来るレディを気に入ってしまい、色々な話を聞きたがる。レディも話し相手が欲しかったので、二人は友達になった。


「今度は、どれくらい居てくれるの?」

「少し長く居る予定だ。でも、東京に行ってくるから、この村に居られる時間は少ないかも」

「ふーん……」


 これまでに、まつが聞かされた話を総合すると、次のようになる。


 この『レディ』と言う女性は、世界の重要な仕事をしている『黒澤冬芽』という男の姉で、御一新の後に家の者達から『好きにしてよい』と言われて弟の後を追った。

 仲間たちと共に、弟が歩いた道を辿りアメリカに着いた。

 弟は弟で自分の仕事をしているのだが、北アメリカのあらゆる場所を移動しなければならない仕事だったので、会うのは大変だったようだ。

 結局、レディも移動の多い仕事を選び、その途上で時々弟に会えたという。

 レディの仕事と言うのは海の中に突発的に発生してしまう『ゲート』と呼ばれるものを調整すること。

 そのための移動手段は巨大な鯨のような何か。生き物と機械を融合させたものだという。

 作ったのはアメリカの仲間『トーマス・エジソン』。黒澤冬芽がアメリカに来た際にちょっとした事件があり、そのことで彼に対する闘争心が芽生えたらしい。仲が良いのか悪いのかはレディにも解らないようだが、レディが冬芽の姉だと知ると、向こうから協力を申し出てきた。

 トーマスはこの仕事でかなりの成果を挙げている。この巨大な鯨は『レヴィヤタン』という名で呼ばれており、レディが乗るものはその12番目の成果らしい。レディは『ジュディさん』と名付けた。

 小笠原に来るのは、この付近の海中に『ジュディさん』の停泊所に適した場所があり、そこを利用させてもらう代わりに、この村に立ち寄って御用聞きの仕事をしている。


「なんで東京に?」

「テカムセの見舞いに行くんだ」


 テカムセと言うのは、黒澤冬芽と入れ替わり、現在『黒澤冬芽』として日本に居るアメリカ先住民の男の名である。これも本名かどうかはわからない。最初に出会った勢力の仲間にそう名乗ったらしい。

 テカムセは新撰組の一員として戊辰戦争に参加し転戦していたが、松平容保から江戸に居るように命じられ、その通りに江戸へ留まった。本人は会津まで供をすることを望んでいたようだ。

 上野の負傷者達を治療していると、彼の力が評判となり医者として仕事をするようになった。


「今は小石川という所に住んでいるらしい。そこで医者をやりながら、我らの仕事もしているそうだ。詳しくは知らないけど。弟の事も含めて、挨拶はしておかないと」

「ふーん」

「ジュディさんはこの辺りで休ませておくから、しばらく海は穏やかだろう。良く分からないけど、そこに居るだけで何かの役割を果たしているみたいだから」

 その時、海面から水が吹き上がった。

「聞こえてるんだ……耳が良いんだね」

「そうなんだよ。最近やたらとしつこく追いかけてくる捕鯨船がいてね。そいつらを追い返すためにジュディさんも耳が良くなったみたいなんだ」

「へえぇ……」


 しばらく話し込んだ後、まつはずっと気になっていたことを聞いた。

「ねえ、こんなに海を自由に行き来できるのに、どうして陸地を歩くことになったの?」

「ああ、それはな。冬芽が見出した日本独特の魔術に由来しているんだよ」

「魔術?」

「うん。まあ、日本独特かどうかは解らないけどね。冬芽が日本の陰陽道から見つけ出したものが、私達の仲間の関心を集めたんだよ。『反閇』と言うものでね。私も詳しくは知らないけど、特殊な歩き方で歩くと、歩いた場所が力を持つ、というものなんだ。冬芽は宮本武蔵の記述にもそれが見いだされると言っていたな。まあ、それを仲間が研究したり解析したりの結果、この旅路が重要視されるようになったんだ。まだ研究中だけどね」

「おおぉー!」


 この話の続きはまた何時か。

 今日も世界は元気です。


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