三人の魔法工術師 VS 呪いの指輪
ランツ先輩とティリアくんとわたしの三人で、呪いの指輪を「解呪」する……!
マルボーンさんの指から呪いの指輪『独身指輪』を外す。
そうしないと仕事が増えすぎてみんなで過労死(?)しちゃう。
相手は太古の遺物、すごい魔法のアイテムだけど仕方ない。意を決し、呪いの指輪に戦いを挑むことにする。
「わたしとティリアくんで、何を手伝えばいいんですか?」
「俺が指輪の中身の術式を解析する。つまり、呪いに関する魔法術式を一部書き換えでブッ壊す。それで解呪するまで、魔力干渉し続けろ。手数は多いほうがいいからな」
ランツ先輩が一度物事を決断すると、その後の行動はとても早い。
テキパキとわたしたちに指示を出し始める。
「でも、それってどうすれば……」
「ナルは魔力糸を、指輪の内側に侵入させるんだ。全力でな。火事に水をぶっかける要領だ」
「わ、わかりました……!」
とはいうものの、うまくできるかな?
一致団結で呪いをといてやる! と息巻いてみても実際は不安がなる。
そもそも、解呪とは読んで字のごとく「呪いを解く」ということ。
魔法使いの領域で、とても難しい技術のはず。
魔法道具に書き込まれた「術式」を破壊する方法はいくつかある。
神聖教会の僧侶様が「聖なる祈り」で呪いの効果を中和する。
あるいは、王立魔法協会に所属するような本職の魔法使いが、直接的に魔法術式を書き換え、無力化する……と聞いたことがある。
つまりわたしたち『魔法工術師』の領分じゃない。
王国の魔法協会に所属する魔法使い、それも『職階級』に頼んだほうがいいのかも……。
「おいナル。本職の魔法使い……職階級持ちに頼むことを考える前に、まずは自分たちで努力することを考えろ」
ぎく。
先輩には見抜かれたみたい。わたし、すぐに顔にでちゃうし。思わず苦笑してごまかす。
「え、えぇはい」
「鼻持ちならない魔法使いに頼むくらいなら、ボクらでがんばろうよ」
「ティリアの言うとおりだ」
「確かに」
魔法使いは、総じて性格が歪んでいる!
何か頼もうものなら絶対に、こちらを見下してくる。
もちろん全員ではないけれど、ずっとマウントしてくるのは目に見えていた。
ランツ先輩は、実力的には魔法使いにだって負けないぐらいの知識と技術を持っている。
『職階級』というのは、王国の魔法協会が定めた魔法使いの階級もちのこと。
それによって仕事を依頼する際の謝礼金、つまり依頼料が異なってくる。
街を歩いている魔法使いのランク、職階級を見分けるのは簡単だ。
初級の魔法使いには、緑のローブやマントが魔法協会から支給される。
中級の魔法使いになると、真紅のローブかマントが支給される。
上級になると威厳のある紫色を身につける。
上級クラスになると、国全体でも10人かそこらしか居ないらしい。
そして、メタノシュタット王国の『最上位』職階級になると、輝く純白のマントを貰えるのだとか。
誰もが憧れる純白のマントの魔法使い……。彼らは広大な王国全土に僅か4人。
魔王大戦で多大な功績を残した彼ら・彼女らは、スヌーヴェル姫殿下の近衛魔法使いや、魔法戦団を指揮するというレベル。
もう完全に雲の上の人で、遠目に見ただけでも魔法のオーラが違う。
それと、実力はあっても職階級に属さない魔法使い、規格外の人もいる。
そういう人は、黒や紺色、あるいはオリジナルの変なマントを身に付けているアウトロー。
なるべく近寄らないほうがいいらしい。
「でも……。王国が認定した魔法使いさんなら、解呪とか余裕なんじゃないかなって……思ったりして」
「城の王立魔法協会に行けば、暇を持て余した魔法使いや魔女がいるだろうが、どいつもこいつも性格が歪んでやがる」
「まぁ、それは知ってますけど」
わたしを無能認定した人も、かなり歪んでいた気がする。
夢多き少女だったわたしに容赦なく無能! 才能なし! のレッテルを貼った。
「王国軍で共に戦った魔法使い連中は良い奴ばかりだったんだが……。王立魔法協会から派遣されてきた連中は、高慢で、自信家でよ。そのくせ実戦になると腰抜けで……苦労させられたんだよ。だから出来ることなら頼みたくねぇんだ」
どうやらランツ先輩は、王国軍に居た時に相当嫌な思いをしたらしい。
まぁ察しますけれど。
「わ、わかりました」
本職の魔法使いに言わせると、わたしが『魔力糸』を操るのは、感覚に頼った不完全なもの。
手足を動かすのと同じで、なんとなく出来ているだけの魔法の「まねごと」らしい。
魔法はその魔法の「手足」である魔力糸を巧みに操り、現象を自在に励起できる。
それが出来てこそ魔法使いと呼ばれるんだ。
「誰がやったって同じ魔力、出来ねぇ道理は無いさ」
ランツ先輩が言うと妙な説得力がある。なんだかわたしも悔しくなってきた。やってやろうじゃないの。
「ナルルねーちゃん、マルさんを助けよう」
「危険かもしれないよ?」
「平気、みんな一緒なんだから」
「……ティリアくん」
賢くて勇敢なティリアくんも手伝ってくれる。
わたしとティリアくんが指先から出せる魔力糸は弱く細い。
けれど、二人で力を合わせればランツ先輩の半分ぐらいは……役に立てるかもしれない。
「やーん!? みんな、ありがとう! 私、ちょっと泣きそうだよぅ……!」
マルボーンさんが涙をハンカチで拭きながら、ティリアくんに抱きつこうと腕を伸ばす。
「ちょっと失礼」
その瞬間、ランス先輩の目がギン、と光る。
伸ばしたマルボーンさんの右腕を、ランツ先輩は素早く掴むと、有無を言わせずに作業机の横の『万力』にタオルでぐるぐるっと縛り付け固定する。それは一瞬の早業だった。
「きゃーん、これ何のプレイ!?」
「うっせぇ、動くな。少し黙っててくれ」
わたしたち三人は顔を見合わせて頷いた。
マルボーンさんの右中指には、『独身指輪』が禍々しい光を放っている。
身動きの取れなくなったマルボーンさんを、そのまま椅子に座らせた。
「よし、いくぞ!」
「「はい!」」
ランツ先輩は、指先から剣先のように鋭く光る、銀色の魔力糸を伸ばした。
鋭く細い剣のような魔力糸。それはランツ先輩の放つ魔法の波動が「そう見えている」ということだ。
銀色の剣先を、ゆっくりと慎重に、マルさんの中指で光る『独身指輪』の中心、赤い宝石めがけて刺し入れてゆく。
「……っと」
魔力糸の先端でチリッと火花のような輝きが散った。
「侵入を拒む、防御術式が塗布されていやがるな、だが……貫く」
それでもランツ先輩の魔力糸は、防御壁をこじ開けるように突き進んだ。
そして赤い宝石の内側に入り込むことに成功する。
銀色の針のような輝きが指輪の表面から突き刺さり、内部の魔法術式を探り始める。
「……こいつぁ凄ぇ、なんつう複雑な魔法術式だ! 言語は……古代エフタリア系のステルシア語か。なんてこった、複雑で、難解だ……」
真剣な横顔に、早くも焦りの色がにじむ。
「ランツ先輩……!」
相手は伝説級の魔法の遺物なのだから、先輩でも簡単には行かないみたい。
「ナル、ティリア……! 今だ、魔力糸を隙間から差し込め。外部からの刺激に何処がどう反応するか、ブラックボックス・テストの真似事でいい。外部情報伝達術式部分をあぶり出す」
「「はいっ!」」
私達は、指輪に向けて魔力糸を浴びせかけた。
わたしは細い絹糸のような魔力糸を、ティリアくんは緑色の「木の枝」を思わせる魔力糸を伸ばしてゆく。
触れた途端に指輪が怪しく明滅する。
「いいぜ、反応してやがる」
先輩は指輪に刺激を与え、反応の仕方の違いを観ている。
内側の魔法術式つまり「ロジック」の動きを割り出すつもりなんだ。
これが、ブラックボックス・テスト。
未知の魔法道具の動きや特性を、分析する手法。
これなら呪いを発動させている魔法術式が、どの部分に該当するか見つけられるはず……!
「うっ?」
「反発してる……!」
キィイイ! と耳障りな不快な音がしはじめた。
でもこれは本物の音じゃない。魔力の波動の鬩ぎ合いがそう感じられるんだ。
「うそっ!? 弾き返される!」
「ナルルねーちゃん! 防御術式が何層もあって……! 拒んでいるんだ」
指がしびれる、痛い……!
次の瞬間。
バキン、と鋭い音がして、ランツ先輩の魔力糸が粉々に砕け散った。
金属探針のように硬いはずの魔法の刃が、砕けてしまった。
咄嗟にわたしたちも、魔力糸をかき消す。
「痛ッ、くそっ!」
「先輩ッ!?」
「ランツ先輩!」
痛みに耐え、腕を押さえるランツ先輩。
「大丈夫!? ランツ、ナルっち、ティリアくん……! ムリしないで!」
マルさんが悲痛な叫びを上げる。呪いの指輪は外れるどころか、一層強く禍々しい波動を放ち始めていた。
まるで、私達をあざ笑っているみたいに。
「痛てて、対侵入防御、干渉拒否術式が幾重にも施されてやがる。流石は伝説級の魔法道具ってか……」
ランツ先輩が殴られた後みたいな表情で、悔しそうに頬の汗を拭う。
「三人がかりで解呪出来ないなんて」
「ど、どうしよう!?」
わたしたちに、呪いの指輪を外すことは出来ないの?
<つづく>
【さくしゃより】
指輪の呪いは解けるのか!? 最後の戦いに挑む・・・!
ですが、すみません章完結は次回に持ち越しですね(汗
次回は5日となりますっ!
ぜひまた読みに来てくださいね!