8.寝物語
ピリリリ…
目を覚ましアラームを止め、時刻を確認する。
午前一時四十分。
大きく息を吸い、時間を掛けて吐き出す。
脳細胞に酸素を行き渡らせ、思考回路をチェックする。
よし、正常だ。
俺はゆっくりと体を起こし、各部を確認する。
異常個所、なし。
バッと立ち上がり、洗面台に向かう。
冷たい水で顔を洗い、歯を磨く。
さて、そろそろセラと交代してやらないとな…
スーツを着てパーティ会場に向かう。
会場に入ると、人数はまばらだがまだまだ続いている。
ピアノの付近にはご主人の姿も認められた。
「タフな人だな…」
苦笑交じりに呟いた俺の背後から声が掛かる。
「おはようベア。よく眠れた?」
俺は苦笑を浮かべたまま振り向いた。
「アイシャ様、お休みになったのでは?」
そこには、アイシャ様が半分眠っているレイラ様の手を引いて立っていた。
その後ろには、セラがやはり苦笑を浮かべながら立っていた。
「おはよう、ベア」
「ああ、おはよう。お疲れ、セラ」
アイシャ様が俺に抱きつく。
俺はアイシャ様とレイラ様を抱き上げ、少し怖い顔をした。
「ダメじゃないですか、もうとっくにお休みになっていなければ行けない時間ですよ」
アイシャ様が俺の頬にキスをする。
「だって、レイラと一緒に寝てたら怖い話になって、
二人でキャーキャー言ってたらセラに怒られたんだもん!」
俺の耳に唇を寄せて囁くアイシャ様。
レイラ様はすーすーと寝息を立てだした。
「よくマスターがお許しになられましたね?」
その問いにはセラが答えた。
「せっかくアイシャ様とレイラ様が仲良くしてるんだからさせておきなさいって。
眠くなったら寝れば言いと仰ってたわ」
ふう、と溜息をつく俺。
「じゃあ、セラと一緒にお眠りなさい。セラ、交代しよう」
セラが肩を竦める。
「ダメよ。アイシャ様がベアと一緒に寝るって頑張ってたんだもの。
私はまだ全然大丈夫だから、お二人をお寝かせしてあげて。
アイシャ様、ベアとなら良いですよね?」
アイシャ様がにっこりと微笑む。
「はい!ねえベア、何かお話して!そうしたら私もレイラもすぐに寝ちゃうよ」
やれやれ、仕方の無いお姫様だ。
「じゃあ、お部屋に行きましょう。この北海道に今でも棲んでいるっていう
ニングルという小人のお話をしてあげましょう」
「え〜!ホント!?」
すっかり眠っていたと思ったレイラ様が嬉しそうに声を上げる。
「きゃ!レイラ寝てたんじゃないの?」
アイシャ様がちょっと驚く。
「えへへ、姉様とベアの声を聞いていたら目が覚めちゃった。
ね、ベア、はやくお話しして!」
俺とセラが同時に苦笑する。
「はい、それではベッドに行きましょう。
セラ、悪いが頼む」
「はい、行ってらっしゃい。
アイシャ様、レイラ様、お休みなさいませ」
セラが二人にお辞儀をする。
「セラ、お休みなさい!」「「お休みなさ〜い!」
俺は二人を抱いてアイシャ様の部屋へと向かった。
部屋に入り、二人が羽織っていたガウンを脱がせる。
アイシャ様は濃紺の可愛らしくも艶っぽいネグリジェを着ていた。
まだ十三歳だと言うのに、ネグリジェの下の胸は美しく豊かに盛り上がり、
その先端には薄桃色の形の良い乳首が透けて見えている。
ウエストはきゅっと引き締まり、なだらかなカーブを描く優雅な腰は
つん、とした大きなヒップへと繋がっている。
白い肌には染み一つ無く、まさに背中から羽が生えていても何の違和感も無いだろう。
俺は目の前で俺を見つめる純白と濃紺の天使にしばし見惚れてしまった。
「ベア、どうしたの?私何か変かな?」
アイシャ様が頬を桃色に染めながら聞いてくる。
おっと、俺とした事が…
「いいえ、なんでも有りません。
さあ、レイラ様もこちらへ」
とたとたと俺の目に来るレイラ様。
美しい赤毛は少しくせが有り、所々ぴょん、と跳ねているが
それがまた可愛らしさを強く出している。
アイシャ様に良く似た面立ちに悪戯っぽい微笑を浮かべている。
二人のガウンを畳んでソファに置き、自分のジャケットを背もたれに掛ける。
キングサイズのベッドに収まった二人の枕元に座り、俺はニングルの話を始めた。
「…そして、チュチュは永い永い、冬の眠りに就いたのです」
俺が話を結んだ時、二人は愛らしい寝息を立ててぐっすりと眠っていた。
美しくも可愛らしい美形姉妹の寝顔を見つめていると胸の奥が暖かくなってくる。
この愛らしい寝顔を奪おうとする様なヤツは許さない。
俺は二人を起こさないようにそっと立ち上がり、電気を消した。
「ん…ベア、大好き…」
アイシャ様の声が聞え、起こしてしまったかと様子を見たがどうやら寝言の様だ。
俺はアイシャ様の頬にそっとキスをして、部屋を出た。
さあ、俺の女神を護る為にするべき事が幾つかある。
俺は自分の頬を張り、気合いを入れなおして再びパーティー会場へと向かった。




