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4.舞踏会

パーティー会場に降りると、ご主人(マスター)が俺を見つけて呼んでいる。

俺が近付いていくとアイシャ様を抱いたまま、にこやかに俺に笑い掛けて来た。

ずっとアイシャ様を抱いてたのか。ラブラブで結構ですな。

俺をギロっと恐い目で睨んで何か言いたそうだが、

青年実業家(ヤロー)共に囲まれて相手しているセラの事を無視してご主人に歩み寄る。

「ベア!どこ行ってたの?」

頬を膨らませて文句を言う愛らしいアイシャ様に謝っていると、ご主人が声を掛けて来た。


「やあ、ベアご苦労様!首尾と状況は後でゆっくり聞くから、

 とりあえずアイシャを頼むよ。ちょっと志保(かみさん)と踊ってくる」

そういうとアイシャ様を俺の手に移す。

「きゃっ!」可愛い声を上げながら俺の腕に抱かさるアイシャ様。

こんな所をモンキーが見たら、嫉妬に狂うだろうな。

「志保!踊ろうか!」

一際派手な一団の中心に居た奥様(マダム)がこちらにやって来た。

「あら、ベア。もう食事は済んだの?」

にこやかに嫌味を言ってくるが気にもならない。

「はい、お陰さまで」

慇懃に礼をしながら答える。

「…まあ良いわ。行きましょう、あなた」

 ああ、行こうか。ベア、レイラの事も見ててくれるかい?」

ご主人の言葉に奥様が声を上げる。

「な!あなた、ちょっと待って下さい!」

「良いから!レイラ、アイシャと一緒にベアと遊んでなさい。良いね?」

「はい、お父様!」

奥様の足の向こうから、赤毛の少女が顔を覗かせている。

「はい、承りました。レイラ様、こちらへいらっしゃいませ」

俺が声を掛けると、にこーっとしたレイラ様が俺の脚に齧り付いて来た。

俺は右手に座らせる様にアイシャ様を抱きなおし、レイラ様を左手で同じ様に抱き上げる。

何か言いたそうな奥様の腕を取り、ご主人は俺達にウインクして

生ピアノの音色が流れるロビーへと歩き去った。


「ベア、どうしたの?恐い顔をして…」

右手のアイシャ様が呟くように尋ねてくる

あれ?奥様への不快感は全く出していないはずだが…?

「なんだか、恐いよ、今のベア…」

アイシャ様が小刻みに震えている。レイラ様は不思議そうに俺達を見詰めている。


そうか、俺はついさっき人を一人殺(バラ)している。

アイシャ様はきっと、その事を察してしまったのだろう。

カンの鋭いお方だからな…


「そうですか?いつもと変わりませんが」

恍けるしかない。アイシャ様には俺の裏側を見せたくは無い。

「ねえ、ベア!姉様!どっか行きましょうよ!」

レイラ様が無邪気にねだる。

「レイラ様はアイシャ様がお好きですか?」

「うん、アイシャ姉様大好き!綺麗だし優しいもん!!」

まだあの奥様の悪影響は受けていないようだ。

よし、俺の守護対象リストにレイラ様を追加しなければな。

俺の頭越しにアイシャ様にキスをするレイラ様。

ついでに俺の頬にもキスをしてくれた。

「あ!」

それを見たアイシャ様が小さく声を上げる。

そして、俺の耳をぎゅっと捻る…

「…アイシャ様、何かお怒りになってませんか?」

ぷいっとそっぽを向き、

「知りません!」

と声を上げる。俺は苦笑しながら、ご主人と奥様が踊っておられるホールへ歩き出した。


ホールの真ん中近くで華麗な男女がピアノに合わせて踊っている。

神崎家当主、神崎正臣氏とその奥方、志保。

二人ともまだ四十歳に手が届いたばかりの若さだが、

すでに王者の貫禄を身に着けている。

そして、二人とも見た目は二十台と言われてもそう違和感の無い外見。

日本人だけでは無く、幾つかの外国の血も入っているせいだろうか。


と、そんな事を考えつつ二人の見事な社交舞踏(ソシアルダンス)を見ていると、

突然後ろから俺のアキレス腱にケリが入った。

「…痛ぇな、セラ」

振り向きもせずに文句を言う。

「もう!勝手に危ない事しに行って!」

俺の腕に抱かれている二人の少女に遠慮してか、ケリも文句も小さめだ。

少女二人は目を輝かせて両親の見事なダンスを見詰めている。

まあ、アイシャ様にとって、今の奥様は義母になる訳だが。

セラが俺の隣に並ぶ。

「…ねえ、貴方って何でもこなすけど、ダンスは出来るの?」

じろっと横目で見下ろすと、セラがクスクスといやらしい笑い方をしてやがる。

「…挑発して踊らそうったって、そうは行かないぜセラ」

「あら、残念!もし踊れるなら私がお相手しようかと思ったのに!」

俺はくくっと笑い、

「さっきからお前にご執心な坊ちゃん方の誰かと踊れば良いじゃない」

と挑発するように言い放つ。

「ふん!だ。私の相手をして頂くには、十五年早いお方ばっかりで恐縮しちゃうわよ」

「…微妙に早い年数だな」

俺達のやり取りを聞いていたアイシャ様とレイラ様がクスクス笑っている。

「お二人とも、良いですか?ベアみたいな無教養で乱暴な男性とお付き合いしてはいけませんよ?

 ご主人様の様な典雅でご教養も有り、女性に優しい男性をお選びになって下さいませ」

「ぷふーっ!!」「きゃはは!!」

俺の両腕の天使たちが溜まらず噴き出す。

俺達の周りに居た客たちが天使の笑顔に気付いて微笑んでいる。

ちょうどその時、ご主人達のダンスが終った。


メイドから飲み物を受け取り、微笑みながら俺達に近づいてくる二人。

アイシャ様とレイラ様を俺から抱き受け、二人にキスをするご主人。

さて、と。

「ご主人(マスター)、少々時間宜しいですか?」

俺がそっと耳打ちする。

「ああ、そうだね。仕事は早めに片付けようか」

愛娘二人を降ろし、

「志保、アイシャ、レイラ。私はちょっとベアとお仕事してくる。

 一時間も掛からないと思うからお客様のお相手を頼む。

 セラ、フォローをよろしくな」

「はい、あなた」「ハイ、お父様!!」「はい、ご主人様」

「では、行こうかベア」

「イエス、マスター」


そして俺達はパーティーを抜け出し、侵入者(やつら)を捕らえてある部屋へ向かった。





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