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29.休息

「セラ!」

崩れ落ちたセラに俺が駆け寄るよりも早く、セラの頭が床に打ち付けられる寸前に

しなやかな動作で滑り込んだメイド―――神坂家メイドチーフ、ハルさんが、

セラの頭の下に自分の掌を置きつつセラを支えた。

二人とも転倒した格好では有るが、大きな物音もせず、恐らく怪我も無いだろう。


それにしても、セラの体調や状況を解っていながら出遅れちまうとは……

ちっ!俺もまだまだ未熟だぜ!

それにしても、だ……

あの状況で、座っていたドルフィンはともかく俺よりも早く動くとはね……

俺は自分の不甲斐なさに苛立ちながらも、ハルさんの動きの見事さに感嘆してしまった。

「ハルさん、ありがとう」

「いえ、とんでもありません」

セラの下に、自分の体をクッションとさせる様にして滑り込んだハルさんに礼を言って

セラの軽い体を抱き上げると、腰を浮かせ掛けていたドルフィンもこちらへやって来た。

「無理も無いわ……疲れているのよ。

 ベア、セラを部屋で寝かせてあげて。

 後、アイシャ様の事は私に任せて貴方も昼食までお眠りなさいな」

俺の抱いたセラの頬を優しく撫ぜながら、有無を言わせぬ調子で言うドルフィン。

だが、現状そんなに呑気な事を言ってはいられないと考えた俺が

「ああ。セラは寝かせるが、俺は……」

と言い掛けた時、

「ベア、ドルフィンの言う通りだ。

 ここにはドルフィンだけでは無く、ハルを始めとして

 神坂家の腕に憶えの有るメイドを連れて来ている。

 それに、わしも老いたりとは言え、まだまだその辺りの曲者には遅れを取るつもりは無い」

ニヤリ、とした不敵な笑みを浮べた主水さんが、傍らに置いていた愛刀の柄をぽん、と叩いた。

そう言えば、この御仁もタダモノじゃあ無いんだよな……

俺は、脳内に叩き込んだ神崎家関連の要人データベースから、主水さんのプロフィールを再生する。


神坂源次郎主水……趣味は古今東西の武器・兵器のコレクション。

もちろん、ただ集めるだけでは無く、その扱いも一通りマスターするまでを趣味としている。

そして、趣味なんてものではなく、特技……と言うより、達人の域に達しているのが、

真剣による居合の(わざ)だ。薩摩示現流皆伝の腕前から、更に独自に工夫し磨き上げた

その業は、比喩ではなく本当に人間を雑作無く真っ二つにしてしまう。

今までに、主水さんや身辺を襲った曲者が、何人も一刀両断に叩き切られているのは紛れも無い事実だ。


「……解りました。それではお言葉に甘えさせて頂きます。

 ドルフィン、ハルさん、皆さん、よろしく頼む。昼食には、俺とセラ、それにウルフも起きて来る」

俺が主水さんやドルフィン、ハルさん、メイドに向って頭を下げながら言うと

「ええ、任せて置いて。

 ところで、そのウルフ、って方、小耳には挟んだけれど、一体どういう素性の(ひと)なの?」

ドルフィンが笑顔で応えつつ、疑問を投げて来た。

「ああ、ウルフはな、基本は運転手(ショーファー)なんだが……」

っと、これは話しても良いのか?

俺が一瞬、話すべきか躊躇して言葉を止めると

「うむ、鬼無里(きなり)隼人だな。

 ベア、お前と同じ、かつて傭兵として名を上げた男だろう。

 徒手や銃器での戦闘はもとより、(ファング)と名付けた、無名の名刀工が鍛えた太刀や小柄での

 戦闘を最も得意とする、現代のサムライみたいな男だ。

 また、乗り物全般の操縦を得意とし、自転車からジェット戦闘機まで、何でも乗りこなす。

 一時期は中東の小国で外人部隊の空軍に所属し、F-15イーグルを駆りエースとして活躍もしていたと聞く。

 傭兵時代の仇名(ニックネーム)は、ブラッディ・ウルフ……

 敵兵の返り血を浴び、真っ赤に染まる姿から名付けられていたらしいな」

主水さんの口から、なぜそこまで、と驚く程の情報が吐き出された。

「……よく、ご存知ですね」

俺は驚いたと言うより、呆れてしまって苦笑交じりに呟いてしまったが、

「うむ、我が神坂家の情報部は、神崎本家のそれを圧倒的に上回るのでな。

 だが、全てを正臣……神崎家当主に提供する訳ではない事は憶えておいてくれ」

不敵に微笑み続ける主水さんの言葉を聞き、

「キモに命じておきますよ。それでは、失礼します」

そう言うながら背中を向け、セラの体をなるべく揺らさない様に気を付けながら退室した。


「よ、っと」

セラの体をベッドに寝かせ、毛布を掛けてやろうとすると

「……ごめんなさいね、だらしなくて……」

セラがふっと瞳を開け、静かな声で詫びて来た。

「起こしちまったか?気にすんな。

 俺も昼メシまで寝かせてもらうからよ。

 心配は要らないぜ、ドルフィンや主水さん、ハルさんが居るからな」

俺がセラの柔らかな髪を撫ぜながら呟くと

「ええ、そうね……ねえ、ベア。お願いが有るの」

と、弱々しい微笑を見せながら頼むので、

「ああ、何でも言えよ」

と応えた。が、

「……一緒に、寝て欲しいの」

予想もしなかったセラの言葉に、俺は絶句しながら固まってしまった。



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