28.旧き血脈
新年、明けましておめでとうございます!
昨年は自分の作品をご愛読頂きまして真にありがとうございました。
大変お待たせいたして申し訳有りませんでしたが、本日から復帰いたします。
ただ、ほぼ一ヶ月間留守にしていたので、やる事や片付ける事が山積みとなっていて
中々更新は出来ないと思いますが、出来る限り頻繁な更新を心掛けて頑張りますので、
どうぞ暖かく見守って頂ければ幸いです。
また、評価/感想への返信は順次行わせて頂きますので、少々お時間を下さいませ。
それでは、本年もどうぞよろしくお願い致します!
2009年1月10日 羽沢 将吾
んああ……良く寝たぜ。
腕時計を確認すると、仮眠に入ってから約一時間。
作戦行動中モードに入っている体なら、これだけ寝れば十分だ。
俺はいつもの様に体の各部の状況をゆっくりと確認しながらほぐして行き、
「よし!」
と声を上げながらベッドから立ち上がった。
「さて、と。お次は腹ごしらえだな」
部屋に備え付けられているユニットバスでシャワーを浴び、
自分のバッグから着替えを取り出して身に着ける。
陳さんからもらった超薄型の防弾シャツも、一度弾を受けているので念の為に交換する。
「よし、行くか」
俺はドアを用心しながら開け、廊下の様子を伺ってから部屋を出た。
「あら、もう起きたの?」
廊下を歩いていると、後ろからしなやかな声を掛けられたので振り向くと、
そこには気配から予想した通り、セラがまだ少し眠そうな顔で立っている。
「ああ、ぐっすり眠ったからな。
ってか、お前はほとんど寝てないみたいだが大丈夫か?」
セラはおそらく、タケルさんの事を考えていて眠れなかったんだろうな……
だが俺は、そんな事を匂わせる事も無くいつも通りにセラに声を掛けた。
「ええ、なんだか寝付けなくて……」
少し俯きながら答えるセラに、
「しっかりしてくれよ。
これから更に、アイシャ様を護る為に体力気力が必要になるんだからな」
とハッパを掛けるように、だが出来るだけ優しい調子で言う。
「ええ、ごめんなさい……」
いつものセラなら、
「何言ってんのよ!私がこれ位で参るわけ無いじゃない!」
とか強がって見せるのだが、やはりまだダメだな……
まあ、タケルさんの事だけじゃなく、ロナウドを初めとする
ガードマンの死も響いているんだろうが。
「とにかく、これから飯を食うからお前も来い。
んで、食ったらもう一度横になれ。
例え眠れなくても、横になって目を瞑っているだけでも疲労度は段違いだからな」
「そうね、ありがとう」
俯いたままのセラに向かって俺が笑いながら言うと、セラは顔を上げて弱々しげな微笑を見せた。
俺とセラが食堂に入ると、広い食堂のほぼ真ん中に
神崎本家のメイドスーツよりも一段明るい色使いのモノを身に着けたメイドが数人、
さっとこちらに注意を向けつつ
「お疲れ様です」
と声を掛けてくる。
「ハルさん、ご苦労様です」
その中の、一番落ち着いた雰囲気を持つ和風美人に向かってセラが微笑みかけると同時に、
彼女達の囲むテーブルの中心に、スースーと愛らしい寝息を立てるアイシャ様を
抱きながら座っている、独特の気配を放つ壮年の男性が声を掛けてきた。
「やあ、セラ。そして、お前がベアだな?
今回の警備、ご苦労だな」
その前身から吹き付けるような王者の気配は、
神崎家当主である正臣氏を凌ぐほどだ。
「はい、ありがとうございます、主水様」
セラがかなり畏まりながら返事するのに続いて、
「ありがとうございます。お初にお目に掛かります」
と俺も頭を下げる。
「ベア、セラ、もう起きたの?もっと休んで無くていいの?」
主水老の右手の椅子に座ったドルフィンから掛けられた声に
「ああ、俺は結構寝たんだがセラがな……」
と答え掛けた所で
「ベア!」
とセラから強い調子で咎められて俺は思わず肩を竦める。
くすり、と苦笑いしたドルフィンが何か言おうとした直前、
「セラ、休める時には休んで置けよ」
主水老がセラに向って穏やかに言った。
「は、はい。申し訳ありません」
さすがのセラも、少し頬を赤くしながら畏まってしまう。
「そうよ、セラ。
主水様の仰る通りよ。
なによりも、いざと言う時アイシャ様を護る為にね」
パチン、と魅力的なウインクをしながらドルフィンが発した言葉に
「そうね、ありがとうドルフィン」
とセラが笑顔で返す。
うし、なんとかセラも立ち直ってきたか?
俺は少々安堵しながら、こちらを鋭い目で見つめる主水老に視線を投げた。
神坂源次郎主水……
神崎家の源流となる、もっとも旧い血脈を持つ一族の現当主にして、
唯一と言える神埼正臣氏に対して正面から叱責・意見出来る人物だ。
俺も直接会うのは初めてだが、その強力な力とコネクションは傭兵時代から度々聞いている。
既に六十前後の齢の筈だが、がっしりとした体つきや精悍な顔からは
とてもそんな歳は感じさせない。
主水老に付き従う神坂家のメイドは、数ある神崎分家の中で唯一独立した組織となっており、
主水老専任で神坂家のメイドを束ねるナチュラルメイドマスター・ハルさんは、
現時点で全てのメイドの中で最高の能力を持つとされている。
神崎本家のメイドマスター・ミクさんも高い能力を持つが、
実務・戦闘・マネージメント等、全ての能力においてハルさんが一枚上らしい。
「どうした、二人とも。
食事をしに来たのだろう?
既にハルが用意させておるから、こちらに来て食べるがいい」
主水老から掛かった声に
「はい、ありがとうございます」
と答えてから
「セラ、行こうぜ」
と俺がセラを見た瞬間。
「!おい、セラ!」
まるで糸の切れた操り人形の様に、セラが床に倒れ伏した。