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25.月下の少年

こんばんは、作者です。

大変お待たせして申し訳有りませんでした!

今宵から「逢魔刻の少年」再開させて頂きます。

頑張って執筆して行きますので、応援とご愛読、よろしくお願い致します。


それでは、どうぞお楽しみ下さいませ。

スースーと寝息を立てだしたアイシャ様からそっと離れ、ドアを締める。

閉じられた深紅あかい瞳から流れ出した涙の跡は、何度拭いても乾かなかったわね……

「お眠りになったか?」

ドアの右横に置かれた椅子に座ったベアが、私に静かに問い掛けた。

「ええ、なんとかね……

 でも、まだショックから抜け出せてはいないから、いつ起おきになってしまうか解らないわ」

もちろん、私は一晩中寝ないでアイシャ様のおそばにいる積りだけど、

とりあえず外で心配しているベア達にお眠りになった事を伝える為に出て来たのだ。

あと、生理現象もだけど……

「それにしても、今夜は正臣様マスターがアイシャ様と一緒に眠るはずだったのにな」

珍しく、ベアがイラついた様な声を上げる。

「仕方無いだろう。まさか神坂のお館様が道内入りするとは思わなかったからな」

と、ドアの左横に置かれた椅子に座っていたウルフが微かに苦笑を見せながら応えた。

ウルフは神崎家の運転手ショーファーとして勤務しだして数年経っているが、

既に日本国内の神崎家の中に独自の情報ネットワークを築いているらしく、

私やベアが驚く程に神崎家内の内情に通じている。

元々、神崎家が日本の出なのだという事を鑑みれば当然なのだけど、ね。


そう、多く存在する神崎家の血脈一族の中でも最も古く、そして影響力の強い一族である

神坂みさか家”の現当主である神坂 主水もんど老が突然北海道入りしたのだ。

今回、神崎家の血縁者で北海道にバカンスに来られる者がいたら合流して宴を開こう、

と提案したのはマスターだけど、思わぬ人が結構向かっているらしい。

その意外なゲストの最たる方が神坂のご老公様という事なのだ。

「どうやら、今回ご老公がいらっしゃったのはマスターのご兄弟に関する件を

 マスターと話し合いたい、という事らしい」

ウルフが、独り言の様に呟いたのにベアが不審そうな顔を見せながら聞き返す。

「マスターのご兄弟?利臣様の事か?」

私はウルフの発言の真意を測りきれず、思わず絶句しながらウルフをマジマジと見詰めてしまった。


ウルフが言う”ご兄弟”……

表向き、マスターのご兄弟は二つ年下に利臣様だけと思われているが。実はもう一人存在する。

マスターから絶大な信頼を受けているとは言え、神崎家に入ってまだそんなに長くないベアにはまだ知らされていないけど……

いえ、もう一人のご兄弟を知っている神崎家の血縁外の人間は、十指に余るほどしか居ない。

モンキーも、ナチュラルメイドリーダーのミクさんですら知らないのだから……

「どうした、セラ?」

ベアの声にはっと我に返ると、心配そうな瞳を私に向けているのに気付く。

「え、ええ、何でも……無いわ」

私はウルフの顔色を伺いながら、曖昧な返事をベアに返してしまう。

「なんだ、お前らしくないな。何か心配な事が有るのなら言ってくれないか?」

真摯な瞳を向け、私を気遣ってくれるベアを騙している様な気分になり、思わず俯いた私を助ける様にウルフが語り出した。

「ああ、セラさんは俺のさっきの発言の意図を図りかねたんだろう。

 マスターのご兄弟、って所をね」

体がピク、と堪えきれずに震えてしまい顔を上げると、優しげに微笑んだウルフと

やれやれ、と言った顔で苦笑するベアの穏やかな視線が見える。

「ま、セラの立場としては苦しい所だろうな、未来ミライさんの話が出ちまうと」

「!知ってたの、ベア!?」

神崎家本家の血筋を引く、正臣様マスター、利臣様以外のもう一人……

神崎 未来ミライ様の名をひょい、と口に出したベアに驚き、私はつい大声を出してしまった。


ガチャ


「あ!アイシャ様!」

その時、寝室のドアが開いてアイシャ様が瞼を擦りながら姿を現した。

「セラ……居なくなっちゃやだ……」

紅い瞳からポロポロと大粒のダイアモンドの様な涙を流し、小さく肩を震わせている私の女神様。

「申し訳有りません……ちょっと、トイレに起きたのでベア達の様子を見に来たのです」

小さくしゃくり上げる銀髪プラチナの天使の様子に胸の奥がキュウン、と音を立て、

私は溜まらずにほっそりとしたその肉体をぎゅっと抱き締めた。

「さあ、一緒に眠りましょう。もう朝まで絶対に一人には致しませんから」

軽いお体をひょい、と抱き上げて寝室に戻る私達に、ベアとウルフが

「おやすみなさい、アイシャ様」

と綺麗に声をハモらせて挨拶をする。

「うん、おやすみなさい、ベア、ウルフ……」

切なく儚げな微笑を私の肩越しに二人に投げるアイシャ様を抱き締めながら、

私は首を擡げて来る嫌な予感を抑えきれなくなってしまう。


神崎 未来、様……


神坂のご老公様は、彼、いえ彼女について一体何を話そうと言うのだろう……

もしかすると、今回のアイシャ様襲撃に彼女が関わっているのだろうか?

私は腕の中で小さな寝息を立てだした女神を見詰めながら、不吉な予感を振り払う。

アイシャ様にはもう、指一本触れさせない。私の命に代えても……

私がアイシャ様をベッドにお寝かせし、毛布をそっとお掛けした瞬間。


コンコン


「!」

突然、窓をノックされ私は飛び上がるほど驚いてしまった。

咄嗟にデリンジャーを引き抜き、ノックのした窓にポイントしてから目を凝らす。

窓の外はベランダになっているけど、アイシャ様をお寝かせする前に調べた時には誰も居なかったし

三階に有るこの部屋のベランダまで登るには、厳しい監視を潜り抜けなければならない筈。

「え……?」

私はベッドの下にある警報スイッチを押そうと手を伸ばした、けど……

ふわっと捲れたカーテンの隙間から窓に映ったのは、小柄な上半身のシルエット。

月明かりに照らされたその影には、煌く銀髪が風にそよいでいる。


「タ……ケル……様……?」


私の呆然とした呟きが聞こえたかの様に、影の唇が微笑んだ。



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