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20.襲撃者

XLVに跨り、屋敷から出た俺は何年ぶりかの開陽台にたどり着いた。

「うおお!久しぶりだぜ!!」

展望台に在る売店も昔のまま、全く変わっていない。

展望台に上り、ぐるっと360°見廻しながら

「う〜ん、でっかいどう!」

と、この前来た時と同じように叫ぶ。

俺の廻りの観光客から笑い声を受けつつ、売店で買ってきた地元産牛乳を一気に飲み干した。

その時、駐車場への道を派手な車が登ってくるのに気付く。

「あれは…まさか?」

地を這うような低いフォルム、派手なイタリアンレッド。

ヴォウヴォウと派手な音を響かせ、観光客の視線を一身に集めつつ駐車場にキッと停まる。

そしてドアが上方にすーっと跳ね上がった。

「すげえ!カウンタックじゃん!!」

俺の隣で様子を見ていたカップルの男が歓声を上げる。

そう、やってきたその車はキング・オブ・スーパーカー、

ランボルギーニ・カウンタックだった。

「あのクンタッシ!まさか…」

跳ね上がったドアから長身の紳士が現れる。


「マスター!!」


やっぱり!…何でこんな所に…

と、マスターが助手席側に廻ってバス、とドアを跳ね上げる。

「アイシャ様!?」

そして、黒いミニワンピースに身を包んだ天使がマスターの手を取って降りてきた。

「うわあ…あの娘、すっごく綺麗…」

カップルの娘がほう、と溜息をつきながら呟く。

「何かの撮影か?」

「芸能人かな?」

アチコチから感嘆の声やため息が聞こえて来る。

が、俺は舌打ちしながら階段に向かって駆け出した。

「何考えてんだあの人はぁっ!?」

思わず叫びつつ階段を駆け下り展望台の入り口に着いた時、

上って来るマスターとアイシャ様が俺に気付いた。

「ベア!」

アイシャ様が嬉しそうにダッと駆け出して来る。

「走っちゃダメです!」

俺の方へ走ってくるアイシャ様に向かって俺も走り出す。

「ベア!!」

アイシャ様は近づいた俺に向かって、バッと飛び付いて来た。

「おっとぉ!」

アイシャ様の細くしなやかな身体を抱き止め、勢い余って高い高いをしてしまう。

「きゃん!」

嬉しそうに歓声を上げるアイシャ様を抱き直し、お姫様抱っこにする。

「えへへ、ベア!こんな良い所に一人で来るなんてずるいよ!」

美しい微笑みに思わず頬が緩む。

「やあ、ベア。セラからキミがここに向かったって聞いたら、

 アイシャが行くって言い出して聞かなくてね。

 ま、着いた途端に何か有るかも知れないが、まあ大丈夫だと思って来てしまったよ」


…この人はちょっと豪胆過ぎるぜ、全く…


「マスター、幾らなんでもお二人だけで来られるなんて無防備過ぎます」

俺の言葉に肩を竦めながら、

「まあ、そう怖い顔をしないでくれ。

 直ぐにロナウドの指揮するガードが何人か来る筈だ」

苦笑しながら申し訳無さそうに言われ、俺もそれ以上文句が言えなくなる。

その時、俺の目の端にカウンタックの後ろにピタリと付けて駐車した黒いクラウンが映った。

運転席と助手席にはサングラスにラフな格好の男女が乗っているが、

サングラスの奥の目はピタリと俺達を見詰めて微動だにしない。

俺の中で、危険信号(アラート)が鳴り出した。

「マスター、クンタッシの後ろに付けた黒いクラウン、怪しいです。

 ここでアイシャ様とお待ち下さい」

俺はアイシャ様をマスターに返しながら小さく呟いた。

「あん!」

アイシャ様がちょっと膨れて何か言いたげな表情になったが、

俺とマスターの真剣な表情を見て黙った様だ。

「うん、ちょっと怪しいね。気を付けてくれよ、ベア」

マスターが何気ない風を装いながらクラウンに目をやって答える。

「とりあえず、俺が囮になって気を引いてみますから

 お二人は売店にでも入って様子を見ていて下さい」

俺の言葉に頷きながら、アイシャ様を抱いたマスターが売店へと歩み去る。


こういう時は正攻法だな。

俺は自分のXLV(バイク)に戻り、メットとグローブを付けてエンジンを掛け

駐車場の出口に向かってゆっくりと走り出した。

すると、ミラーに映っているクラウンから二人が降り、マスターの居る売店へと向かう。

俺はXLVをUターンさせ、急いで戻り始めた。

俺に気付いた二人の内、男が女に何かを指示して俺に向かって腕を上げる。

「サイレンサー付きの(ガン)だな!」

自分自身で確認する様に叫びつつ、車体を左右に揺すって的を絞りにくくする。


パシュ!


くぐもった音が響き、俺の直ぐ近くをピューン、という音がして弾丸(タマ)が掠める。

ブレーキターンをしつつXLVを停め、転がしたままダッと駆け出す。

男が再び引き金を引く前に、男の周辺に観光客が居ない事を確認してから

俺は腿から引き抜いたセラミックナイフをほぼノーモーションで二本投げた。


パシュ!


男が引き金を引いた次の瞬間、男の股間と右肩にセラミックナイフが付き立つ。

ピュン!

サっと頭を横にズらした俺の耳を弾丸が掠めた。

「ぐっ!」

苦鳴を上げながら倒れこむのを堪えた男の顎に俺の膝がヒットする。

「がはっ!!」

男は凄まじい勢いで後ろ向きにもんどりうって倒れ、動かなくなった。

「アイシャ様!マスター!」

仰向けに倒れ、血に染まった顔を晒す男を見て悲鳴を上げている観光客には目もくれず、

俺はもう一人の女とマスター達の姿を探す。

「きゃあっ!!」

その時、売店の中からアイシャ様の悲鳴が聞こえてきた。

「アイシャ様!!」

大声を上げながら売店に飛び込むと、

「ベア、アイシャを頼む!」

というマスターの声と共に俺の目の前に黒白の天使がふわ、と舞って来る。

「ベアぁ!!」

悲鳴に近い声で俺を呼びながら宙を舞う天使をキャッチしつつ体勢を立て直すと、

マスターが女の脇腹に見事な水平蹴りを叩き込むシーンが目に入った。

「がっ!」

女が苦鳴を上げつつ吹き飛び、入り口のドアに激突して崩れ落ちる。

が、その手に握った銃は離さずに保持し、俺の抱くアイシャ様にポイントした。

「貰ったわ!!」

口から血を流しながらも勝ち誇った表情でアイシャ様に向けて引き金を引こうとする!

「させるか!!」

俺は叫びながらアイシャ様を抱きかかえ、女に背を向けてしゃがみ、丸くなった。


パシュ!

ビシ!


サイレンサーのくぐもった音に続き、狙い違わず俺の背中に弾丸が命中した!

「べア!!」

俺の手の中のアイシャ様が俺にぎゅっと抱き付きながら悲鳴を上げる。

ビシ!バシ!

続けて二発、背中に衝撃を感じる。

俺はしゃがんだ時に足首のシースから引き抜いたナイフを振り向き様に女に投げた。

「かふ!」

俺が女の額を狙って投げたナイフは、顔を捻って避け様とした女の左目に突き立つ。

「くああ!!」

悲鳴を上げながらのた打ち回る女をマスターが抑え、鳩尾に突きを入れて失神させた。

「アイシャ!ベア!大丈夫か!?」

マスターの声を聞きながら立ち上がり、

「アイシャ様も俺も無事です」

と笑いながら返事をすると

「でも!ベアに弾が当たってたよ!!」

と半泣きのアイシャ様がぎゅう、と俺に齧りつく。

「ええ、でも防弾を着けてましたからご心配なく」

アイシャ様に微笑みながら答えると、

「…良かった…」

と言いながら、腕の中の天使はわんわんと泣き出してしまい、俺は途方に暮れてしまった。



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