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10.出逢

翌朝、俺は起きてきたセラと交代して休憩に入り、

朝飯をしっかり食った後札幌の町に出掛けた。

とりあえず、神崎家のスペシャルブラックカードは持っているが

地方のバイク屋じゃ使えないかも知れないので現金も四十程持ってきた。

まあ、新車じゃなくても良いからこれで足りるだろ。

俺は目処を付けて置いたバイク屋を数軒回る。

しかし、250じゃやっぱ俺の体格じゃ小さいんだよな…

まあ、仕方ないから二軒目で見つけたホンダのXLR250にするか、

と思いつつももう一軒だけと思って行ったバイク屋で、俺は思わず固まってしまった。

そこには、俺の想い出のバイクが有ったからだ。


ホンダ・XLV750R…


俺がかつて自衛隊員だった頃の愛車。

コイツに乗って、色んな所を走り回ったっけ…

今では他人の管理する実家のガレージに眠ってる筈だ。

いや、もうとっくに処分されちまったかな…?

もちろん中古車だが、相当綺麗な状態だ。

値段もそこそこ、ただ、車検は、と…

おっ!今年の12月まで有るな!

「いらっしゃい、そのバイク程度いいですよ」

店主らしき中年男が声を掛けてくる。

「これ、車検有るんなら登録も簡単ですよね?

 今日、出来るかな?」

「うーん、でも一応納車整備とかしないとね…

 もし現状保証無しで良ければ、もうちょっと値引きできるし

 登録も今日の午後には出来るけどね」

「オッケー、じゃあ買います。エンジンは直ぐ掛かるよね?」

店主はキーを捻りチョークしてセルを廻した。

ドルルルルン!

750ccの空冷Vツインエンジンが直ぐに目を覚ます。

「問題ないよ。エンジンオイルとデフオイルも交換したばかりだしね」

俺は満足し、表示価格から三万円引いてもらって金を払った。

登録は自分でやる事にして、その場で直ぐに乗り出す。

メットとグローブも在庫の物を安くしてもらって買った。

そのまま札幌の陸運事務局で神崎家の名義に変更し、屋敷に帰る。

屋敷のガレージに入れて全体のチェックをしていると、

レイラ様がととと、とやって来た。

「うわあ!カッコ良い!ねえ、これベアのおーとばいなの?」

目を輝かせるレイラ様をひょい、と抱き上げてXLVのシートに乗せる。

レイラ様は歓声を上げて大喜びする。

「ねえ!私を乗せて走って!お願い、ベア!」

俺は少し考えたが、ちょっとマズイだろうと思いレイラ様を諭した。

「今はまだちゃんと整備してないので、また今度お乗せしますよ。

 それに、マスターのご許可も頂かないとダメですね」

「え〜!乗りたいよ〜!」

ぷん、と膨れるレイラ様。

俺はレイラ様を抱っこして、

「今度、絶対に乗せてあげますから今日は我慢してください。

 また、マスターに二人でお願いしましょう」

とあやした。

「…は〜い、解りました…

 でも、絶対約束だからね!」

レイラ様が笑顔になる。

「はい、約束です」

俺とレイラ様は指切りをした。


「レイラ!レイラ!どこに居るの!?」

おっと、奥様がやって来たか。っと、マスターも一緒だな。

「まあ、レイラ!ガレージは危ないから来てはダメです!

 …あら、ベア、なあにそのオートバイは?朝は無かったと思ったけれど?」

奥様が冷ややかな視線を向けてくる。

「お!XLVか!こりゃレアなバイクを買ってきたな、ベア」

マスターは目を輝かせる。

「はい、今回はバイクが必要になると思いまして先ほど購入して来ました」

マスターに報告する。

「そうか、経費で買ってきたんだろうね?」

俺は頭を振る。

「いえ、個人的にも欲しかったので自腹です。

 後日、俺の名義に変更しますので」

「なんだ、律儀だな。別にそんなの気にしなくても良いのに。

 後で領収書を提出してくれ、経費で落とすから」

せっかくのお言葉なので、俺はありがたく受ける事にした。

「それでは。午後からアイシャ様のお供をして出掛けて来ます」

俺の言葉に頷くマスター。

奥様は既にレイラ様の手を無理矢理引っ張って屋敷の中へ戻ってしまっている。

「ああ、アイシャを頼むよベア。それじゃ、気を付けて」

マスターも屋敷に戻る。

俺はXLVの整備を再開した。


昼食後、セラと俺はアイシャ様に付き添って美瑛・富良野へと向かった。

マスターが同行できないのでアイシャ様が少し愚図ったが、

今夜は一緒に眠ると言う事でなんとか納得したようだ。

アイシャ様とセラはRR(くるま)だが、俺はXLVに乗って出掛ける。

アイシャ様が後ろに乗りたがったが、危ないからと言う事でマスターから却下された。

一連の騒ぎが収まったらアイシャを乗せてやってくれ、とマスターは後でそっと俺に言ったが。

久し振りにバイクで走る北海道は気持ち良く、最高の気分だ。

札幌からまずは富良野のラベンダー畑へと向かう。

ほとんど花は終わってしまっているが、それでもまだ少しは残っている。

ラベンダーの紫の花を見て歓声を上げるアイシャ様。

観光客がアイシャ様の美しさに思わずカメラを向けるが、俺とセラでそれを阻止する。

ぶつぶつ言いながらも、俺の厳つい外見とセラの美しさに渋々と引き下がっていく。

富良野を出て、美瑛へと向かう。

アイシャ様は売店でセラに買ってもらったラベンダーソフトクリームを嬉しそうに舐めている。

車の後ろに付いている俺はその様子を微笑ましく見詰めていた。


美瑛の町まで入る手前で俺が先頭に出る。

俺は以前美瑛に来た事があるので、複雑な美瑛の丘を走る道を良く知っているからだ。

なだらかなパッチワークの様な丘を越えながらゆっくりと走る。

バックミラーに、車の中ではしゃぐアイシャ様の姿が見える。

俺は少し広くなっていて、丘をばっと見渡せる場所に停まった。

車から降りてきたアイシャ様がタタッと丘を駆け上っていく。


「ベア!セラ!早く来てぇ!」


アイシャ様が満開の笑顔で俺達を呼んでいる。

「アイシャ様!走っちゃダメですってば!」

セラが苦笑しながら叫ぶ。

丘の上に立ち、赤く染まりだした空を見上げるアイシャ様。

俺は一瞬、その背中に白い羽が見えた様な錯覚に陥った。

「天使だな、本当に…」

俺の呟きにセラが微笑む。

「そうね、あと五年もすれば女神になるのよ」

ふっと俺も微笑む。

その時、アイシャ様の向こうから人影が現れた。


「セラ!」

俺は叫び様に全力疾走で丘を駆け上り始める。

セラが何かを叫んでいるが聞き取る暇は無い。

くそっ!誰も居るはずが無いのに!!

アイシャ様まで百メートルほどの所で、人影がこちらを見た。

人影は少年だった。


キラキラと光る銀髪(プラチナ)、美しい輪郭。

夕日を背にしている為に良く見えないが、端正な顔に微笑を浮かべている様だ。

細身の身体にラフなTシャツとジーンズをまとい、アイシャ様の隣に並ぶ。


「…あなた、だあれ?」

おずおずと尋ねるアイシャ様に少年が答えた。


「僕はタケル。キミは、アイシャだね…?」


その時俺は気付いた。

その少年がアイシャ様によく似ている事に…




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