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1.北の大地へ

「ベア!セラ!早く来てぇ!」


パッチワークの様な丘を駆け上がり、

13歳になったばかりのアイシャ様が満開の笑顔で俺達を呼んでいる。

歳を追う毎に美しくなるアイシャ様はどこに行っても注目の的だ。

美しく靡く銀髪(プラチナブロンド)、愛らしく大きな紅い瞳、

つんと尖った形の良い鼻梁、ピンク色の可愛らしい唇。

すらっとした細身の肉体には、年齢には不釣合いなほどの豊かな(バスト)

真白く長い手足、俺の両掌で掴めてしまいそうな細くくびれた(ウェスト)

きゅっと上がり、絶妙曲線(ヴィーナスライン)を描く綺麗なヒップ。

しかし、彼女に劣情を催す男はそうは居ないだろう。

その天使の様な、いや女神の様な可憐さと神々しさは

彼女の内面から溢れ出てくるモノだからだ。

「アイシャ様!走っちゃダメですってば!」

セラが叫んでいるが、久しぶりに見る

無邪気なはしゃぎっぷりにやれやれと言った顔で苦笑している。


俺の祖国でもある日本。そして、アイシャ様にとっては、父親の祖国である。

この夏はご主人マスターがイタリアに来るのではなく、

アイシャ様を日本にお呼びになり、道内にいくつか点在する

神崎家の別荘を巡りながら夏の北海道を楽しもうという事になった。

そして、アイシャ様に同行することになったのが俺とセラの二人だった。

付き添いのボディガードが俺だけと決まった時、モンキーは文句タラタラだった。

しかし、モンキーが日本語をしゃべれない事と、俺が日本人という事が決め手となり

ご主人から「今回は諦めてくれ」と電話で直接言われてしまい諦めざるを得なかった。

「お前達が帰って来るまでに、日本語ペラペラになっててやるからな!」

空港まで見送りに来たモンキーが悔しそうにグチる。

「モンキー、がっかりしないで。お土産買ってくるからね!」

アイシャ様に言われて「はい、楽しみにしております」

と顔を溶かしながら答えるモンキー。

コイツは心底アイシャ様に惚れ込んでいるからな。まあ、俺もだが。

「おい、ベア。アイシャ様に何か有ったら…って、解ってるさ、

 お前に何とか出来ない様な事が起こったら、他のどんな奴にだって

 どうにも出来ないことくらいな。だが、頼んだぜ!相棒」

「ああ、任せとけ相棒。それじゃ、行って来る」

「あ、セラ、キミの無事の帰りも心から願ってるぜ、マイハニー」

「…付け足しみたいに言われると気分悪いですね、モンキー。

 貴方にはお土産買って来ませんからね!」

…バカめ、空気読めよモンキー…

「ああ、俺はキミが無事に帰ってきてくれればそれが最高の土産だから

 それ意外は何も要らないさ!」

「え…?」

ちょっと頬を染めるセラ。

ほお…なかなかやるじゃないか、モンキーよ。

「じゃあ、俺のお前への土産も俺のスマイルで良いな?」

「いや、お前はさっきも言ったがアイシャ様の笑顔を持ち帰ってくれればそれで良い。

 ああ、でも一応人形焼とうなぎパイと青柳ういろは欲しいんだが…」

俺たちが行くのは北海道だバカ!しかし何気に日本の土産に詳しいなコイツ…


日本に到着し、一晩横浜の屋敷に泊まる。

横浜…懐かしい街だ。アイシャ様とセラを屋敷に送り届けた後、俺は中華街に向かった。

路地裏に有るちっぽけな中華料理店を見付け、中に入る。

「いラっしゃイませ」

片言の日本語で俺を迎えたウェイトレスに、

「炒飯大盛りとラーメン。あと、陳さんは居るかい?」と聞く。

ウェイトレスが奥に引っ込み、少しすると小柄な中年男が駆け出て来た。

「フーさん!久し振りね!!帰ってきたか!!」

涙ぐみながら俺の手を握りぶんぶん振る陳さん。

「ビール持って来なさい!ワタシの奢りね!!

 あと、今日はもう閉店ね!料理ありったけ出しなさい!

 フーさんはたくさん食べるからね!」

フーってのは、俺の傭兵時代のあだ名だ。

陳さんとは、南アで一緒に闘った仲だ。

一部少数部族への虐待行為を止めさせる為の戦い…

密林(ジャングル)でのゲリラ戦は過酷で悲惨な作戦だった。

雇主(スポンサー)は人命尊重博愛主義の富豪という触れ込みだったが、

その裏には人体及び臓器売買組織と奴隷売買組織が暗躍していた。

俺達は体良く使われて処分される所だったが、

組織の少女が寝返って俺達を救ってくれた。

そして俺と陳さんを含む生き残った傭兵五人で二つの組織を壊滅させた。

五人はいつかの再会を約束し、それぞれの道へ戻っていった…

陳さんと酒を酌み交わしつつ昔話に花が咲く。

途中、俺は陳さんから一つの荷物(ブツ)を受け取った。

今回の警護、日本だからこそ油断は出来ない。

我が祖国は、本当の意味での危機管理なんざ全く出来ていないからな。

この、平和で怠惰な国はいつか突然足元から基盤をひっくり返されるだろう。

その時、日本という国は生き残れるのだろうか。

そんな事を考えながら、俺は陳さんと二人、久々に酔った。



空港に到着したのは夕方だったので、札幌の屋敷から迎えに来ていた

RRロールスに乗り込み直接屋敷へと向かう。

アイシャ様は後席で既にうとうととしている。

北海道か、何年振りだろうな。

まだ日本海側の海岸線や三国峠越えの道が未舗装路だった頃、

ホンダ・XL250Sで初めて来た事を想い出す。

知床岬まで徒歩で歩き、途中ヒグマの親子に出会って睨み合ったのも良い思い出だ。

「何か感慨深そうね」

俺との間にアイシャ様を挟んだセラが聞いてくる。

「ああ、昔北海道には来た事が有ってな」

俺が短く答える。

「ねえ、ベアの家族は今どうしているの?」

眠ったと思っていたアイシャ様が突然聞いてきた。

「俺の家族はもう誰も居ません。俺一人ですよ」

「そうなの、ごめんなさい…」

アイシャ様が目を伏せる。

「でも、今は私もセラもモンキーも、みんなベアの家族だからね!」

ぱっと顔を上げて俺の瞳を見ながら微笑うアイシャ様。

この笑顔の前では、悪魔王(サタン)ですら蕩けるだろう。

「ええ、だから俺は寂しくなんか有りませんよ。さあ、もう直ぐで屋敷です。

 きっとご主人(マスター)が先に着いて、アイシャ様をお待ちしていますよ」

アイシャ様がにっこりと笑う。

ご主人が屋敷に到着したという報告が入ったのは五分前だ。

「うん!明日はフラノとビエイって所に綺麗な丘やお花を見に行くんですって!楽しみね!」

満面の笑顔のアイシャ様を見て、セラと俺も嬉しくなる。

屋敷まであと十キロ程、着いたらきっと豪華な晩餐の用意がされているだろう。

ただ、そこには奥様(マダム)と四女のレイラ様もいらっしゃっている。

アイシャ様に不愉快な想いをさせない様に、出来る限りのフォローをしないとな。

俺とセラは目配せで確認し合い、俺は懐に仕舞ってある、陳さんから貰ったブツを確認した。


さて、気合いを入れなおして行くか!



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