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帝迅市粗譚  作者: 西おき
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早朝 ―― 小餅

 テイジン市は今日も雑多な人種、文化を内包して、朝をむかえる。

 

 朝もやのかかる街を小餅(こもち)は今朝の賃金を握りこんで歩いていた。

 新聞配達と、目覚めに自信のない人間を起こして回るのが小餅の仕事だ。その稼ぎはわずかだけれど、十を過ぎたばかりの小餅には毎日金を払ってくれる人があることがありがたい。

 さまざまな人が住む街だから、ときにあわやと思う事態もある。しかし、小餅は自分は人運に恵まれていると感じていた。



「小餅、朝ご飯を食べてお行きよ」

 湯気をもうもう立ちのぼらせる屋台のひとつから白髭の店主が顔を覗かせ小餅を呼び止めた。

「水餃子麺があるよ。働きもんには特別賃金、俺さんのおごりだよ」

 手招かれた小餅はにっこり微笑んで屋台へかけよった。

 小餅が屋台の席にとび乗って座ると、店主は鍋からスープをなみなみ注いだ器を小餅の前に置いてくれた。

 たくましくのぼる湯気にかじかんだ手をかざして、ほんのりとしたぬくもりに頬を緩めながら小餅はスープの匂いを吸い込んだ。

 透明なスープをれんげですくい、息を吹きかけすすればまたたく間に食道を滑り落ちていくスープで体がぽーっと温かくなった。

「しみるーっ」

 きゅうっと目をつむる小餅の頭を白髭店主は満足そうに笑って撫でた。

「どうだい、俺さんの水餃子麺は。雉打ち鶏からとった出汁が濃厚で最高だろう」

 白髭店主は毎日同じことを聞く。

 小餅もいつものように満面に微笑んだ。

「さいこう」

 白い息をふうふう吹きながら麺をすする小餅を見守る店主の眼差しはあたたかい。

 店主のやさしさが詰まったスープで小餅が心も体もぽかぽかさせていると、朝仕事を終えた男たちが一人二人と屋台に滑りこんできた。

 

 薄もやに包まれながらテイジン市の一日が今日も始まる。





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