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その7

「ああ、わかりました」

 頷きながら、警部が最後の人物にも質問を始めてきた。


「まだ、名前は伺っていなかったですね?」


「そうでしたっけ? まあ、いいですが……えっと、福津圭介と申します」


「確か外回りのご担当と。それで、その時の状況を教えてください」


「ええ」

 彼は積極的に図を使ってきて


「外から戻って、この裏口から中に入りまして」


「はいはい」


「着替えようと男子ロッカーに入ろうとした時に、犯人の一人がやってきました。裏口のドアの閉まる音でわかったと思います」


「ああ、なるほど。で、犯人の特徴などに関しては如何でしょう?」


 これは、なかなか難しい質問であった。相手が目玉を動かしながら、同時に口をすぼめている。


「特徴ねえ……何しろ、顔全部がストッキングで覆われていましたから」


「年恰好は?」


「強いて言うならば、僕と同じくらいの年……ああ、二十八ですが」


「ほう、有力な証言ですね」

 警部は目を輝かし、再び苅田菜美子のほうに確認した。


「今福津さんが言われた男を、犯人Aとでもしましょうか。それで、あなたの傍にいたのはこのAです? それとも、もう一方のB?」


 間髪入れずに、彼女が出した答えは


「Bです。福津さんが戻られた時も、まだ横にいましたから」


「そいつも三十前後だと思われます?」


「いえ、話しぶりやら振る舞いから、中年のような気が。もちろん、加齢臭を嗅いだわけではありませんが」


 これに思わず、己の肩辺りを嗅ぐ船虫さんである。そして無臭とはいえなかったが、それほど臭くもないのに安心して、先を続けてきた。


「わかりました。ではこの辺で一応まとめてみますから、おかしな点があったら仰ってください」

 そのスピードこそ違え、三人がしきりに頷いている。


「犯人が二人侵入して、その内のBが新宮さんに金を詰めるように指示した。そして、Aが支店長に発砲した……」

 この時、三人ともうつむいてしまったが、船虫警部は構わず


「それから、二階から下りてきた苅田さんをBが脅した。そして、その後に戻られた福津さんも、Aに捕まってしまった……苅田さん、こんな所でいいですかな?」

 

 いきなりこう振られた菜美子だったが、そこは落ち着いて一つばかり頷いた。


「ええ、よろしいです」


 そして彼女に続いて、あとの福津もゆかりも否定はしなかった。


「僕も、いいと思います」

「は、はい」


 これに満足した船虫さんが、さらに


「では、ここから先はどうなりました?」


 答えてきたのは、やはり菜美子だった。


「最初に私が二階へ連れて行かれ、応接室で縛られました。それからすぐに、福津さんも新宮さんも犯人Bによって部屋に連れてこられました」


「そうでしたか。で、その後に銃声を聞かれた、と」


 三人ともが縦に首を振っているのを確認して、警部殿がようやく話を閉めにかかってきた。


「いや、貴重なるお話を有難うございました。また後日お伺いするかもしれませんが、宜しくお願いします」


 こう述べて、彼が頭を下げてきた。

 するとスピードを合わせ、一斉に三人が手をかざしたのだった。


 行員たちを解放した船虫警部は、一人そのまま部屋に残り、事件についてあれこれ考えている。

 その時ドアが開き、添田ほか鑑識課の連中が顔を覗かせてきた。


「警部。二階と三階は終了しましたので、先に署に戻ります。一階のメンバーも、そろそろ終わる頃だと思います」


「そうか。添田君始め、皆もご苦労さまでした」

 笑顔で労った警部が、彼の例の鞄に目をやった。


「階段から転げ落ちるなよ」



 鑑識課が姿を消してすぐに、警部の携帯電話が音を奏でてきた。流行のアニメソングのようだ。


「はい、船虫ですが」


 電話の主は、先に署に戻った部下の沖網おきあみ刑事からでる。


「警部。殺された男の身元がわかりました」


「おお、そうか! それで?」


「ええ。名前は中間俊太なかましゅんた、年齢は二十八才、住所不定でおまけに無職です。そしてこいつが、何と前科三犯でした」


「そうか! で、何をやらかしたんだ?」


「三犯とも窃盗です」



 電話を切った後、彼は脳をフル回転させ始めた。外こそ薄いものの、中身は案外濃いのである。


「福津が言ったとおり、まさに二十八だったな。となると、予想どおり、逃げたほうが中年になるのか」

 そして迅速に対応した自負によるのか、こうも吐いている。


「まあ、時間の問題だな」


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