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その2

 第一報を受けてやってきた、四恋署よっこいしょ刑事課の面々。陣頭指揮を執るのは、我らが船虫ふなむし警部である。そして、すでに周囲は、野次馬で埋め尽くされていた。


「中の状況は?」


 早速、彼は先着している警察官に尋ねている。


「はい。犯人の男二人が、女子行員二人を人質にして立て篭もっています」


 この時、磯目いそめ刑事が一人の中年男性を連れてきた。


「警部。この方が、ここの副支店長の糸島さんです」


 紹介されたのは、案外貧相で小柄な男だ。おまけに女子行員を中に残したまま己だけが逃げてきた、見かけ同様、その中身も貧しい。


「これはどうも。四恋署の船虫です。ぜひ、その時の状況を教えてください」


「あ、はい」


とは返事しながらも、ショックのせいか、相手はなかなか言葉が見つけられないでいる。それを見た船虫が、気を利かして自ら先導してきた。


「なんと申せばいいのか……支店長さんが犯人に撃たれたとか」


 この言葉に中年男がうつむいて吐いてきた。


「え、ええ、そのとおりです。お、おそらくは、亡くなられたかと」


「ご心中お察しします」

 警部も頭を下げている。その分、別の意味で周りも少々明るくなった。


「それと、中にはまだ二人の女子行員がいると」


「は、はい。新宮しんぐうゆかりと苅田かんだ菜美子という、ともに二十代の二人です。それから、先ほど確認したんですが」


「何をです?」


「実は、行員が一人見当たらないんです」


 寝耳に水の船虫さん。つい、声を張り上げてしまった。


「な、何ですって?」


「福津圭介という、外回り担当の男なんですが」


「連絡は?」


「はい、携帯電話にも何回もかけましたが、それも繋がりません。ちょうど帰ってくる時間でしたので、おそらくは、何も知らずに裏口から入ったのではないかと」


 ここで、苦虫が船虫――いや、船虫が苦虫を噛み潰したような顔をしてきた。


「くそっ、三人か……」


 銀行内同様に、本来の雲行きも怪しくなってきた。

 この時、磯目刑事が


「では警部、そろそろ……」


 そう言って、メガホンを差し出してきた。


「ああ」

 警部が、それを口に近づける。


「コホン。あーあー……本日は晴天なりー」


 皮肉なことに、この時小粒だが雨が降りだし、その頭をさらに光らせてきた。


「は、犯人に告ぐ! これ以上、馬鹿な真似はやめるんだ!」


「んだんだ!」


「すでにキミらは包囲されている!」


「あ、包囲の、包囲の、包囲!」


「もう、だ、誰だ!」

 要らぬ合いの手を入れられ、思わず横を睨む船虫さん。そして、その目に映った――


「き、木俣さん! な、何でここに!」


 これに右手を挙げている、瓶底眼鏡。


「チャオ! 警部殿!」


「チャ、チャオ……」


 釣られて手を挙げる、素直な彼氏。

 木俣さんは挙げている右手を下ろし、その掌を見せてきた。


「ささ、どうぞ先を!」


「え、ええ。では失礼して」

 軽く頭を下げた後、再び船虫さんは警部の顔に戻り、


「早く人質を解放しろ!」


 そして、すぐ隣の様子をチラリと見た。が、探偵は上を向いたまま、口笛なんぞを吹いている。

 これに安心した警部が、先を続け


「おまえたちの親御さんも、きっと悲しんでるぞ!」

 だが、銀行には何ら変化も見てとれない。そして同様に、探偵も下手な口笛を吹いたままだ。


「と、とにかく速やかに出てくるんだ!」


 図らずも、己の語彙不足を露呈した格好になった船虫さん。しきりに、毛もない頭を掻いている。


「もう、終わり?」


 見ると、隣の木俣さんが、指でOKサインを作っている。


「え、ええ。一応は」


 彼女も、それに頷いているのだが、


「うんうん。じゃあ」

 何と笑顔のまま、メガホンを奪い取ってしまった。

 そして銀行とは逆に周囲へと目をやって――


「えーご町内の暇を持て余している皆々様。世の中、一寸先は闇でございます。そうです、大事になってからでは遅すぎるのです! そのようなことになる前に、是非、我が木俣探偵事務所までご相談を! 必ずお役に立つことをお約束いたします! お困りの時は、是非、是非、この木俣探偵事務所までご連絡を! 木俣、木俣でございました! ご静聴、誠に有難うございました!」

 まるで選挙演説さながらである。その証拠に、わずか数人ではあったが拍手まで送っているのだ。


「ハイ、返すね」

 メガホンを手に受けた船虫警部は、大きく口を開いたままだ。一方のタダで宣伝できた探偵の顔は、すこぶる満足気だ。そして、そのまま首を傾け、


「じゃね! ハゲムシ殿。再見ざいちぇん!」


 その去り行く痩身な彼女の背に向って、溜め息をつく船虫さんだった。


「はあー な、何人だあ?」


――宇宙人に決まっている。


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