その11
探偵が澄ましたまま言ってくるものの、警部には未だ幾つかの疑問が残っているようだ。
「じゃあ、福津の野郎も犯人の一味だと? いや、その二人の女も?」
すでに、敬称は略されている。
「だと思うよ、間違いなく」
「ということは……」
船虫警部が独り言を吐いてきたが、これまた一刀両断されてしまった。
「いい? 第三者、ああ、例えば副支店長も言ってたよね? 犯人は二人組の男だった、ってさ」
確かに、そうだった。ましてや、それを確認したのは船虫警部ご本人だったはず。
「そ、そうでした」
と言って、すぐにオツムを下げてきた。
「んもう、眩しいから下げんなって!」
「あ、どうも」
さらに謝る警部殿だったが、ここで自分なりに事件をまとめてきた。
「外部から侵入してきた二人組の犯人と、それを内部から手招きした行員の三人……つまり、犯人一味は五人だった……」
しかし、ここで相手から
「あいや、待たれい!」
いきなり話を中断され、驚く船虫さん。せっかく良い調子だったのに、誠に残念だ。
「え? な、何です?」
「犯人Aは一階にいたとしても、Bは二階だ。福津クンはさ、そいつに強く縛られたら済む話じゃん。別に、わざわざ女の子らと背中合わせならなくもさ。まあ変態ならそれもアリかも、だけど」
「へ、変態かどうかは……い、いや、確かに」
「だから」
その魔性の目が、相手を射抜きそうだ。
「Bの正体はさ、福津クン自身なんだよ! よっしゃあ! これで、木俣だけに、キマ……」
だがお返しとばかり、今度は木俣さんのほうが中途で折られてしまった。
「でも、犯人Bは中年だったと」
せっかくの決め台詞であった。何よりもこの瞬間を大切にしている木俣さんは、もちろん機嫌を損ねてしまった。
「んもう! あのさ、そう証言したのは、こいつら三人なんだよ!」
それを聞いた途端、ベテラン警部が天を仰いでしまった。
「そ、そうだったのか」
「そうだったのだ」
「では、早速福津の野郎を叩いて……」
と、今にも立ち上がりかけた警部を、探偵が手で制してきた。
「待ちんしゃい! まだこれが残っとっとよ」
思わぬ故郷の博多弁を口にしながら、彼女が目の前に置いたもの――脇に追いやられていた“見えない箱”である。
再び登場した、“見えない箱”に目を奪われている船虫さん。
「この中身、何でしたっけ?」
「支店長!」
間髪入れずに、木俣さんから答えが飛んできた。だが、警部は一応頭を下げながらも
「ああ、そ、そうでした。で、でもお言葉ですがね、やはり撃たれた理由は警報ボタンじゃないかと」
まだ持論を崩しはしない。
「じゃあさ、犯人の行動をおさらいするよ」
そう言いながら図面を指差してきた探偵。その考えは、すでに固まっているようだ。
「特にBだ。侵入してさ、すぐにカウンターのゆかりのとこまで行ってるよね? 手前にも女子行員がいるのにさ」
「そうですね。打ち合わせどおり、というところでしょう」
問題はないようだ。捜査のプロも納得している。
「でさ、次の行動は?」
「二階から下りてきた菜美子に近づき、二人目の人質にした……これまたシナリオどおり、でしょうか」
素直に答えながらも、警部は相手の真意がつかめないようだ。まあいつもどおりと言えば、いつもどおりではある。だが、これに探偵が突っ込んできた。
「今、『シナリオどおり』って言ったよね?」
「ええ、確かに言いましたが」
何が引っかかっているのか、これが理解できない相手に向かって
「じゃあ、その菜美子に二階の茶器を片付けるように指示したのは、さて、だあれだ?」
そう無邪気に木俣さんが言ってくるも、警部さんには答えなんて即座にわかっている。がしかし、言葉には詰まってしまった。
「……支店長、です」
「ほうら! 絡んでるじゃん!」
「た、確かに偶然とは思えませんしね。タイミング的にもドンピシャだし……はあー」
仙台空港なぅ。




