ある日の話
路上ライブしてる若者を眺めながら、あたしはぼうっと何かを考えている。
その何かというものは、例えば「彼氏のこと」だとか「明日のバイト」のことだとかそんなくだらないもの。未来のことなんてあたしにはわからないの。
若者は何を見ていきてるのかなあ、瞳をきらきらさせて、あたしには見えないような素敵な何かを見て、叫んでいるの。
下手糞な歌。どーせプロになんかなれないし、誰かの目に留まる事だってないんだよ。
世の中そんなに甘くない。
それでも彼らは歌ってるんだよ。
「すごいですね」お世辞……というべきなのだろうか。三人で演奏して歌ってる彼らは顔をふにゃあと柔らかくして笑顔になる。「ありがとうございます!」こんなからっぽの言葉でも、嬉しいのだろうか。
「僕たち、プロ目指してるんです」
三人のうちの一人がハキハキと話し出す。茶髪のいかにもな、でもとても人懐っこそうな男の子。
「東京にいって、バンドとか組んで……デビューするんです!」
恥ずかしいだろ、とか他の男の子も言ったりしている。変声期も終わってないような、若い彼らがまぶしい。
「夢なんですよ、皆に僕たちの音楽を聴いて欲しい!」
こぶしを握り締めて、声を半ば震えさせながら言う。これが若いっていうことなのだろうか。あたしにはもうないものね。
「失敗とか考えてないの?」抑えていた言葉が出てしまう
「考えてますよ」
当たり前かのように返す。あれ? とひょうしぬけてしまった。何も考えていないのかと思ったんだ。
「でも失敗なんか考えてたら何もできないじゃないですか!」
夜の街は、時に明るい。
にぎやかな男女の声や、カラフルな看板とか、くさい煙草のにおいとか。
こういうものがたまにすごく心地よくなる。ああ、あたしだけじゃないんだなって落ち着く。
とぼとぼ靴擦れした脚を引きずりながら歩く。なんていうかみじめだ。
あたしは、「こういう」世界の住民で、表舞台の人間じゃない。
あのネオンは明るいし時にはまぶしいけれど、彼らのようなまぶしさじゃないから。
もう時計の針は2を越している、帰らなきゃいけない。
あたしは明日も、この街に来て、誰かに媚を売って生活をするんです。
「でも失敗なんか考えたら何もできないじゃない」つぶやいた声は、嘆きは、悲しみは、誰にも聞かれずに空気に混じる。
天を仰いで、夜空を眺める。
星とかあんなもの、手に届かないから嫌いだ。むかつくんだ、上からあたしたちを馬鹿にしてるような気がして。
「夢ってなんだっけなあ」
何もかもからっぽのあたしには、やっぱり何もないみたいだ。
涙が頬を伝った。