表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある日の話

作者: 沙耶

路上ライブしてる若者を眺めながら、あたしはぼうっと何かを考えている。

その何かというものは、例えば「彼氏のこと」だとか「明日のバイト」のことだとかそんなくだらないもの。未来のことなんてあたしにはわからないの。

若者は何を見ていきてるのかなあ、瞳をきらきらさせて、あたしには見えないような素敵な何かを見て、叫んでいるの。

下手糞な歌。どーせプロになんかなれないし、誰かの目に留まる事だってないんだよ。

世の中そんなに甘くない。

それでも彼らは歌ってるんだよ。


「すごいですね」お世辞……というべきなのだろうか。三人で演奏して歌ってる彼らは顔をふにゃあと柔らかくして笑顔になる。「ありがとうございます!」こんなからっぽの言葉でも、嬉しいのだろうか。

「僕たち、プロ目指してるんです」

三人のうちの一人がハキハキと話し出す。茶髪のいかにもな、でもとても人懐っこそうな男の子。

「東京にいって、バンドとか組んで……デビューするんです!」

恥ずかしいだろ、とか他の男の子も言ったりしている。変声期も終わってないような、若い彼らがまぶしい。

「夢なんですよ、皆に僕たちの音楽を聴いて欲しい!」

こぶしを握り締めて、声を半ば震えさせながら言う。これが若いっていうことなのだろうか。あたしにはもうないものね。

「失敗とか考えてないの?」抑えていた言葉が出てしまう

「考えてますよ」

当たり前かのように返す。あれ? とひょうしぬけてしまった。何も考えていないのかと思ったんだ。

「でも失敗なんか考えてたら何もできないじゃないですか!」




夜の街は、時に明るい。

にぎやかな男女の声や、カラフルな看板とか、くさい煙草のにおいとか。

こういうものがたまにすごく心地よくなる。ああ、あたしだけじゃないんだなって落ち着く。

とぼとぼ靴擦れした脚を引きずりながら歩く。なんていうかみじめだ。

あたしは、「こういう」世界の住民で、表舞台の人間じゃない。

あのネオンは明るいし時にはまぶしいけれど、彼らのようなまぶしさじゃないから。


もう時計の針は2を越している、帰らなきゃいけない。

あたしは明日も、この街に来て、誰かに媚を売って生活をするんです。


「でも失敗なんか考えたら何もできないじゃない」つぶやいた声は、嘆きは、悲しみは、誰にも聞かれずに空気に混じる。

天を仰いで、夜空を眺める。

星とかあんなもの、手に届かないから嫌いだ。むかつくんだ、上からあたしたちを馬鹿にしてるような気がして。


「夢ってなんだっけなあ」




何もかもからっぽのあたしには、やっぱり何もないみたいだ。



涙が頬を伝った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ