ようこそ、GW限定の『図書館島』へ! ~若者の読書離れ対策~
GW限定の島。
「大丈夫? 手をつなごうか?」
「いい。夫婦でもないのに」
僕の問いかけに、彼女の『さえ』さんは、そっけなく返してくる。
恋人なのに手をつなぐ関係ではないらしい。
夫婦になれるかな、と高校生の僕は考える。
黒いおかっぱ頭で、背が小さくて、顔も可愛い。
…ちょっと照れてきた。
「行くよ、青柳君」
「う、うん。待って」
「GWだけなんだからね、この島にいることができるのは」
ちょっと興奮している『さえ』さん。可愛い。いつもは無口だから余計可愛い。
「早く」
スタスタ、と1人で歩いていく。やはり、早歩き。
「本当に好きなんだなあ、本が」
僕は1人、感心する。
ここは、図書館の島。
本のために存在し、4月に30冊以上読んだ(むろん、マンガは除外)、そんな読書家にしか訪れることができない。
なお、中高生限定。
若者の読書離れ対策で日本の政府が考えた、『図書館島』。
本が好きな人にとっては楽園でしかない。
―1ヶ月前、つまり4月
「すやすや」
「寝るな」
「いたっ!」
図書館にいるのに僕は大きな声を出してしまう。
「叩かなくてもいいじゃないか」
ノートで叩かれた頭をさすりながら、僕は涙目で『さえ』さんに文句言う。
『さえ』さんは感情の少ない顔で淡々と、
「私と図書館島に行く気はないの?」
「本は苦手なんだよ。
ただでさえ本が苦手なのにマンガ禁止とか、酷くない?」
訴える僕。
「あんたが私と一緒に図書館島に行きたいって言うから」
はあ、と呆れられる。
「だって…」
「だって?」
「いや、何でもない」
「あっそ」
キミが好きだから、とは言えない。
この子とは、高校から。それまでは、この子の存在は知らなかった。
可愛い。
いっつも1人で読書してて、なんか神秘的で可愛い。他の人たちは会話か睡眠なのに、この少女だけ淡々と本を読んでいる。それが、ものすごくキュンとくる。
もっと早く存在を知っていたら、『図書館島』にもたくさん行けたのに、と後悔している。
あそこの存在は、前から知っていた。僕には関係ないって思ってたけど。
「…」
何も言わず、右手を差し出してくる。
手をつなげばいいのだろうか、まだ恋人じゃないになんて悩んでしまう。
「見せて」
ぶっきらぼうに。
「て、手相?」
運命の相手かどうかを?
手相はよく変わるらしいから、それで運命の相手かどうかを決めるのは、どうかと。
「読書記録」
「え?」
「早く」
「どくしょきろく。ああ、はいはい、ノートね。
だよねー」
あはは、と笑いながら、ノートを僕は渡す。
読書記録。
『図書館島』に入るには、30冊読んで、それらの感想を書かないといけない。
パスポート代わり。
「まだ10冊」
「凄いでしょ、今14日だから余裕あるよ。
一緒に図書館島に行きたいから」
「わたしは30冊埋まってるよ」
「はやっ」
「ふふん」
「ズルしてない?」
少し怒りのある顔、剣道みたいにパシン、とノートで頭を叩いてくる。
竹刀じゃないけど面はしていない、普通に痛い。
けど、好きな人に叩かれたから嬉しくもあり。
決めた、『図書館島』に行けるってなったら告白しよう。
「さっさと本読め、早く全部埋めろ」
椅子の脚をゲシゲシと蹴ってくる。やはり可愛い。
僕は本が苦手。
でも、この子と一緒にGW、『図書館島』に行けるよう、頑張ろう。
「1冊は1000ページ越えるやつね」
「マジかよ」
頑張らないとヤバいな、おい。あと16日しかないに。
「てか、そんな本あるの?」
「京極夏彦とか?」
「マジかよ」
ヤバいな、京極夏彦。
―そして、GW。
「いやー、よく頑張った、僕」
自分で自分を褒めたい。
「あっ、その栞いいね、名探偵ポアロが描かれてる」
今は、売店で買い物をしている。
本のために存在する島。
けど、本だけじゃなく、栞やブックカバーや、作品に出てくる料理を出すレストランとか、読書家にとっては嬉しいものもある。
値段も高すぎず。まあ、中高生しかいないからね、この島には。スタッフ以外は全員子供。
『さえ』さんは「フンスフンス」と興奮しながら、買い物をしている。
読書家にとっては楽園だしね、この島は。
僕は、『さえ』さんが幸せだったらそれでいいかな。うん、一緒に来れてよかった。
図書館に来る前に告白して、カップルにもなれたし。
実感はないけど。この島が僕たちの初デートだしな。
会計を済ませる。
「じゃあ、メイン行く? 全ての本がある巨大な図書館に」
コクコクとうなずかれる。
全ての本がある。
昔の本から今の本まで、本として出たものは全て。世界中の本で。
「待って」
「はやく」
可愛いなあ、と思いながら、僕は彼女の後を追った。
まだ初日。
『図書館島』の非日常は、はじまったばかり。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!




