依頼主の本質
その翌日、春子は望美の家まで来ていた。昨日の放課後も、同じように家まで送ってきている。
もちろん、いつ犯人が現れても、対処できるように、だ。
家の前で待っていた春子に、望美はおはようございます、と小さく会釈した。
「おはよう!今日から―――昨日からかな?―――毎日、私が送り迎えするから、安心してね!」
そう言った春子に、なぜだか望美は少し微妙な顔つきになった。
春子がきょとんとしていると、望美は「あの……他の2人の先輩は……」と言った。
春子はあぁ、と頷くと、「来ないよ」と言った。
それを聞いた望美は、不満を隠そうともせず、
「どうしてですかぁ?」
「え?だって、私1人いれば十分だし……それに、あの2人にはあの2人の仕事がちゃとあるしね」
そう言うと、望美は唇を尖らせた。
春子は、そんな望美に思わず苦笑してしまった。
―――確かに、あの2人は黙っていればなかなか格好いいもんなぁ……。
口を開けばちょっと―――いや、大分変ってるけどけど。
それを思うと、春子は少し笑えてきた。
「―――原田さんはどんな人か、ですか?」
「うん、できれば教えてほしいんだけど……」
放課後、部活動として大和と夏樹は聞き込みをしていた。
平並学園の高等部と中等部は、渡り廊下を渡ればすぐに行ける距離にあるため、自由に行き来することができた。
大和と夏樹も、その渡り廊下を歩いて中等部に聞き込みに来ていた。
高等部にある"探偵クラブ"は、平並学園の全生徒の間で有名なクラブなので、聞き込み何かは別段珍しくない。
もっとも、聞き込みをしているのは専ら大和だけで、夏樹はそれを聞いているだけなのだが……。
「原田さんねぇ……」
そこらにいる適当な女生徒に尋ねてみたのだが、その生徒はどうも答えることを渋っていた。
「……何か、答えられないことがあるかな?」
大和がそう言うと、女生徒は諦めたように肩をすくめ、
「彼女、あまり好かれてないですから」
「好かれてない?」
大和と夏樹の2人は、少し驚いた。
昨日見た限りでの望美は、とても礼儀正しい、ただの娘に見えたからだ。
しかし、話を聞いて、2人はさらに目を丸くした。
「彼女、すごい男好きで、男癖が悪いんですよ。1か月に2、3人は相手が変わっていますから」
目の前の少女は、吐き捨てるようにそう言った。
「しかも、人の彼氏を奪っちゃうこともあるし……」
援助交際なんて噂もありますよ、と彼女が言うと、2人は唖然としてしまったのだった……。