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人狼と少女 もう一つの物語(加筆修正版)  作者: 冬忍 金銀花


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7/7

ep.7 北欧エストニアの大惨事……並行世界 

登場人物。

阿部寛 助教授、阿部サワ。阿部平蔵、阿部トミ。三浦直孝 助教授、阿部珠子。


人狼の家族、幸夫、ホロ、キリ。


1927年8月12日(昭和2年)エストニア・サク


*)当日の夜


 タリンから南に十数キロという近くに新しい開拓村が出来上がっていて、ここの村の開村祝いが開かれていた。小さな小屋が出来るまでタリンの郊外から通勤していたというから恐れ入る。それが今では一応スーパーみたいな商品店も造られていて、近隣の村からみれば実に進んでいるとも言えそう。


 タリンから流入してくる人で溢れている、と言うほどまではない、満洲の都市と比較すれば実に長閑な人出だった。それでも開拓に従事してきた村人だけではないから、通常よりもかなりの人たちで溢れ出している。夕方前となるから……もうドンチャン騒ぎの宴会が始まる。


「なぁ寛……あれ。」

「なんだよ……あ? 俺は嫌なんだがな。」

「トミの機嫌が冴えないからさ、頼むよ。」

「アバカン、俺も協力していいぞ。」

「ほら……三浦君くんも……な?」

「大体がトラックしか傭車出来ない親父が悪い、悪路で埃を被らせた親父が悪い。」

「いいさ、タクシーなんて在りはしなのだからな。」

「分ったよ。」


 そう返事をした寛は直孝と一緒に三人の後を追うも? 直ぐ悪友に唆される。直孝が指さす方向に女たちは居ないぞ? 遙か先には飲み屋の屋台が在った。


「珠子に任せておけば大丈夫だろう……なぁアバカン?」

「だな、飲みに行くか!」

「おうよ。」


 父・平蔵の依頼を無視する男の二人は屋台へとしけ込む。花火よりも酒を飲みたい、タリンで飲み足りん酒を飲みたいと言うのが本音である。


 村のクリークにまだ橋は架けられていなくて、浮桟橋が小川の中央に浮き、そこまで橋板が置かれたような橋が造られている。重機が無いからそれでも善いのだろうが、日本の沈み橋よりも格好が善い?

 川縁かわべりには綺麗な花が植えられているも、蕪が花開いた……採種用の畑だったりするのか? 実に合理的な畑の使い方である。


 日本の麦畑は、麦の収穫前になれば空いた場所に芋の苗を植えつけているのも実に合理的な方法だ。田んぼのあぜ道に大豆を植えるのも、農家にすれば大切なタンパク源である。


「なるほどね~こうやって畑地の開墾を優先させたのかな。」

「……だな。川沿いだったら水やりの手間が省けるとでも考えたのだろうさ。」


 お祭り用のお肉が逃げ出して蕪を食べてしまうとか、笑えそうだった。多くの店に豚の肉が吊されていた。その現場を見ても直孝は動じないも、寛は……地面を見つめて通り過ぎる。


「もういいぞ。」

「……あ……あぁ、いや俺には耐性が出来ていなくてな。」

「肉になる前は、な。これが現実よ。坊ちゃんには理解出来ないだろう?」

「いや……豚の頭だけはな、見つめられているようで無理だったわ。アハハ~、」

「可愛いよな。」

「……鼻がか?」


 この二人は直ぐに飲み出していた。


 平蔵が姿を消した事に暢気な二人は気がついていない。また、女たちの三人も花火会場近くの屋台で騒いでいた。道中の埃の恨み辛みは、石に込めて小川に投げ捨てたらしい。


 こちらの女三人も直ぐに飲み出している。音頭取りは珠子であるのは? 己が酒豪であるから直ぐにでも飲みたいんだと。


「奥様、まだ花火が上がりません。」

「そうね、ここは北欧だすからね、……あらやだわ。」


 空にされたワインボトルを逆さまにして言うのだから、サワにしてみれば笑いを誘われたようなもの。珠子にしたら日常茶飯事の事だから気にもしていない。いや? ここは買い出しに走るべきか!


「お義母さまったら、可笑しい。」

「まだ飲み足りていませんね。もう一本を買って参ります。」

「はい……これでお願いね。」

「ありがとうございます。」

「うふふふ……。」

「……三本ですか?」

「まぁ、私は何も言っていませんわよ?」


「珠子さん、どうして?」

「ふが三つ並びましたから。実に単純な奥様なのです。」

「まぁ、そうなんですのね。」

「珠子さん!」

「はい、直ちに~♡」


 そこに平蔵が一人だけでやってきた。平蔵の後を見ているサワとトミに、


「彼奴らか、向こうで俺の言いつけを無視して飲んでる。大した奴らだよ。」

「まぁ、呆れた。」


 トミの言いたい事は息子の寛がサワを放置している、そういうことらしい。今にして怒るような事でもないと平蔵が言い出す。そこに珠子が戻ってくる。


「奥様、これに。」


 三人が陣取る場所は観光客向けに幾つものベンチが据えられている。当然だな、横には屋台も並ぶから結構な賑わいを呈している。珠子は平蔵向けの肉皿と、上質なワインを四本も買って来ている?


「おう~すまないな。」

「いえ、旦那さまにはこちらをお召し上がりくださいませ。」

「気が利くのね、ありがとう……?」

「いえ奥様。」


 機嫌が良くなったのか、珠子の声に平蔵がトミに代わって返事をすれば、今度は平蔵に代わってトミが返事をしていた。これならば珠子は(邪魔な三人を)放置しても大丈夫だと考える。面倒見を放置して早く直孝の元に行きたいのが見え見えな態度に平蔵は珠子に気を利かせた。


「三浦くんは……あの光る場所に居るはずだ、行ってやってくれ。」

「あ~りがとうございます旦那様。」

「寛に出させていいんですよ。それも置いて行きなさい?」

「……いえ、これは私用ですから。」


 三人で飲んでいても多くを飲んでいた事を思い出したサワは、少し驚いた様子で珠子に声をかけた。


「珠子さん、飲み過ぎですよ。」


 飲み過ぎて暗がりを歩く珠子が転ぶんではなかろうかと心配している。


「はい、まだまだ飲み足りません、若奥様。」

「珠ちゃんは酒豪なんだぞ。誰も勝てないからね。」


 サワの気を軽くいなす珠子に苦言を呈したのは平蔵だったか。珠子の性格を、少し嫌みを混ぜるようにして言い放つ平蔵に、はにかみながら反論を試みている。


「嫌ですわ旦那様。」

「事実だろう?」

「うっ……はい。」


 そう言えばサワと珠子は家飲みだけであり、珠子が酒豪になるのは直孝や寛と出かけた時と、平蔵のお付きで外泊したときだけだ。珠子は……飲むわ飲むわ……。食後の後片付けが不要となれば気兼ね無く?

 それとも気を置くことなく地を出す。些か豪胆な行動に出る珠子に平蔵が気後れをしてしまうことも? 屡々あるようだ。


 トミは珠子と宿泊も兼ねて出て行く事に対して、同性であるから気にもしていない。これが平蔵と珠子の出張だと……平蔵に下心が働くのも仕方が無い。 逆に珠子は平蔵から誘惑されないからと残念がるのが可笑しいか。珠子は寛を好きだから身持ちが堅いのか? 今はもうそれぞれが結婚してしまったから、別な意味で不穏な空気が蔓延りだしてきた。


「まぁ……本当ですか?」


 サワは珠子さんが酒豪だとは知らなかったようで、珠子を見て尋ねている。また、聞かれて「はい、そうです」と答える珠子ではないから、そこはチャンとはぐらかす。


「若奥様、お二人をお願いします。」

「はい、承りました。花火が終わりましたらお迎えをお願いしますよ。」

「勿論です、二人を引き摺ってでも連れて参ります。」


 早く行きなさいと促すのはトミか。


「もう花火が上がりますから行きなさい。」

「失礼致します。」


 結構な程にワインを飲んだ珠子の足取りは?


「トミ、珠子に飲ませていないのか?」


 平蔵はトミに尋ねるも返事はサワが答えている。


「いいえお義父さま。恐らくは二本分は飲んでおられます。」

「あれで?」

「はい、真っ直ぐに歩けるなんて凄いと思います。」


 珠子は三人から見えないような距離まで歩けば走り出して、それで転けてワインを放り投げていた。


「ゥギャ~……転けたわ!」


 珠子の大きな叫び声は花火の音で掻き消される。愈々の花火が上がりだした。


 バァーン、バァーン……次々と大輪の花火が開く。


 日本ほど優れた花火ではなくても見学者は感嘆の声を上げている。思えば打ち上げ花火とは、下からと横から見るものだから火薬玉にも向きがあるのだと考えていた。そうでなければ丸い環のような花は開かない筈だし、丸ではなくて横だけに広がる花火では興が逸れる。

 花火はドーナツのように大きく開くから綺麗なんだが、コッペパンのように横に開けば見劣りしてしまうか。


 平蔵は、もう少ししたら目の前の麦畑に幸夫が、半々の確立で家族揃って出てくると聞いてきた。なのに平蔵は今になってもトミに隠し事をしている。何故に?


「しかしだ、何処から火薬を支給されたのかね~。」

「まぁ……今でも仕事をしている気でいるのですか?」

「いや、だって、あんなきな臭い国際関係で火薬は大切な戦争道具なんだぞ。こうも簡単にポンポンと打ち上げおって軍も黙っていないだろうに。」

「そうよね、ロシアの兵隊さんは居ませんでしたわ。」

「そこなんだよ、俺は理解出来ない。」


 色々と締め付けの強いロシアよりも緊張している方は平蔵の方であり、ソワソワとした平蔵の気持ちが酒の酔いと共に言葉数が多くなってきた。


 色めき立つサワは、寛さんなんて忘れたわ!




*)平蔵の……密会の相手は


 平蔵の密会の相手はモンゴルで会った老人とばかり考えていた。それが声を掛けて来たのは若い農夫に扮した軍人のように思えた。言葉使いが農夫とは違う、と思えたからであるも、事実は元農夫であって今は市井に紛れた義勇軍だと説明してきた。

 エストニアでクーデターを狙う市民団体、そう言う説明が妥当な程の、今立ち上がったような軍だそうだ。平蔵は聞き逃しているのか、今日は「1927年8月12日」であるも、エストニアの独立戦争とはとっくに過ぎていた、と言う事に。


 エストニアは「1918年2月24日」に独立宣言を発表している。1927年現在の国名は「エストニア共和国」でいいのだろうか。


「僕たちはロシア軍に反抗する組織です。」

「そうですか、ロシア軍はこちらも侵攻する予定でいるのでしょね。」

「ま~当たらずとも遠からず、そんな事です。」


 会話を続けていたら平蔵としては、この若い男が農夫か元軍人かさえも解らなくなってしまう。


「それで幸夫は、倅は来ているのですよね、早く会わせて下さい。」

「はい、もうすぐ来る筈です。もう暫くお待ち下さい。」

「いったいどれくらい待てばいい、時間は、あと何分だい!」

「ま、ま、待って下さい。僕らと幸夫さまは別々の場所から来る予定でして、僕らとしましては幸夫さまを迎えに来ているんですよ。」

「迎えは俺だけでいい、俺は幸夫を連れて帰るぞ。」


 見かけ倒しのワインボトルと空のワイングラスを前にして、平蔵と若い男の話は平行線を辿るだけだった。


「もうすぐ合図となる東洋の花火が上がります、僕は幸夫さまを迎えに行きますのでお別れします。」

「俺は付いて行くぞ。」

「どうして無理なんだい……、」

「物理的に無理なことですから。」

「すみません、これからお迎えの準備をしたいものですから。」


「お前に付いて……?」

「必ず会えますから……、」


 消えていく前の一言は平蔵に勇気を与える。



 お祭り気分の村人たちは肩を組んで歌ったりステップ踏んで踊ったりしている。だから真っ暗闇ではないのだが青年が消えた辺りだけが暗い。


「……もう着かれました……、」


 青年は平蔵前から消え失せる、最後の一言は暗闇から聞えてきた。


「もう着いているのか……。」


 平蔵は青年が言った言葉を思い出しながら夜空を見上げている。


「ねぇ貴方……弟さんの顔は判りますの?」

「あぁ……ホロが探すんだよ。」

「うん、貴方に似た人、必ず見つけるわ!」

「バブー!」


 平蔵が思いあぐねている横を三人家族が通り過ぎていく。


「先ずはトミと合流しようか。」


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