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人狼と少女 もう一つの物語(加筆修正版)  作者: 冬忍 金銀花


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ep.6 新婚旅行へ向けて……シベリア鉄道の旅

登場人物。

阿部寛 助教授。阿部サワ。阿部平蔵。阿部トミ。三浦直孝 助教授。お手伝いの珠子、後の三浦珠子。


人狼の家族、幸夫、ホロ、キリ。


1927年7月23日 苫小牧


*)いよいよ出発


 寛は? 大はしゃぎだった。平蔵は社員に、家族の全員と金魚の糞の二人をも苫小牧まで車で送らせてもいるが、若い社員の二人は、お小遣い欲しさに文句も言わずに平蔵の言いなりになって、あまつさえ荷物の積み込みさえを請け負っている。平蔵の自宅にも門扉や塀なども存在せず、ほぼ玄関前にまで車を横付けできている。

 平蔵の車は黒くて立派なモノ、今で言えばクラシックカーだ。それとタイムズ紙の社用車のトラックの二台が使われた。




「お前ら、苫小牧の温泉に行かないか?」

「いえ、仕事も面白いですから次の取材もあります。」

「苫小牧の温泉を取材したら良いだろう、序でに俺らを送ってくれないか。」

「経費は?」

「会社に払わせるさ。それにだ、食い物は豪華にさせてやるよ。もう一人の二人で送迎を頼む。」

「船は夕方の出発ですか?」

「そうなるな、苫小牧のカニは美味いぞ~。」

「はい、喜んで♡」


 この若い男に誘われたのが? 社内恋愛中の恋人だった。共に同じ私用に社の業務を利用するのだから、平蔵も文句は言えない。逆に男二人の方が深酒をしそうで事故を起こすかもしれない。平蔵は微笑ましくもありニコリとして許してもいる。


「お前らも?」

「はい♡」x2



 この二台だと乗員の八人は乗り切れないから、若い男でけが荷物扱いとされていた。だ~がまだ狭い、平蔵は無情にも言い放つ。


「もう一人……。」

「……俺が後に行くよ。」


 寛である。トラックの荷台に乗るのも懐かしい~と言いながら、友人の直孝をも引き込んで三人で荷台に乗る。


 平蔵がナメラめんこい女の子に話を聞けば、近い未来に結婚すると言うではないか。荷台の男にしてみれば……祝儀袋に期待を寄せているのは、会長の性格をしっかりと調査していたから?


「明日は日曜日か……百円で遊んで行け!」

「わ~ありがとうございます。」x2


 ¥100円……大凡が一千倍に近いか、現在の十万円? に匹敵する。女の子は見事に敵中し、お目出度の寿退社に阿部家の顔は無かった。


 若い二人が軍用船に多くの荷物を運び込む様子を見ていながら、ロシアの浦塩ウラジオストクに到着するまでは、とあることに誰もが気がつかない。


 軍用船は夜闇に紛れて苫小牧港を出港する。黒い煙が見えないから少し物足りないと言うサワ。ウラジオストクには翌々日の昼過ぎに到着した。


 ウラジオストクは日本海に面した唯一の軍港に、平蔵は石炭を積んで来ている。赤茶けたレンガ積みの倉庫に黒い煙突が立ち並ぶ街並みは、やはり異国という感想しかこぼれてこない。

 シベリア鉄道を走る列車は蒸気機関車だから、平蔵はシベリア鉄道事業にも噛んでいて石炭を運んで来ました~と言えばフリーパスのはず。


 荷物が多すぎるのでは? と言う直孝の感想に寛も同調している。「女は衣装も大事なのです~」と言う女どもは船から荷物を降ろしたりはしないらしい。父の平蔵は仕事だな、積み荷の采配と差配をもやっている。ロシアを相手にするからには俺が十分に気を配る必要がある、と言いながら雑用までを熟す。これがロシアを相手に事業を成功した要点か。


「これで終わりか、助かったよ。」

「ミスターアベ……、」

「次回も頼むよ。」

「ダンケ。」


 どうやら袖の下が口の舌以上に物を言う。石炭の輸出が終われば日本へ送る荷物の采配と、平蔵は休むことを知らない。これがあるから背広を着てきたのかと、ようやく寛は理解した。寛みたいな和服姿では馬鹿にされるのが落ちだな。トミは綺麗な上級婦人の身なりを調え、平蔵に付き従っている。横にいるだけで絵になるというのは平蔵の見栄か?



 サワと他一同は、八月一日の出立までこのウラジオストクで異国情緒を楽しむ。感想は……?


「なぁアバカン、ここは札幌よりも下なのか?」

「まだインフラ整備が遅れているだけさ、直ぐに背の高いビルが建つよ。」

「寛さん、ジロジロと見られるのはもう耐えられません。」

「サワさん、アバカンに言っても遅いよ。こいつはもう民族学にスイッチが入っている。珠子と一緒に? どうだい。」

「はい、三浦さま。同行いたしますわ。」

「アバカン、またホテルでな。」

「あぁ……。」


 寛が浦塩ウラジオストクに興味を引くには物足りないだろうが、どうしても裏通りに行ってみたいらしい。大した収穫はないにしても、中央アジアの国々から連れて来られた人たちの営みは、やはり見るものがあったという。


「あいつ……目の付け所が違うんだろうよ。俺にはスラム街にしか見えないな。」

「はい、酷く同意します。」x2

 

 シベリア鉄道は、モスクワ と ウラジオストク間の9,289キロを五日程度で走り抜く。一日につき平均が二百キロならば意外と遅いとも感じてしまう。



*)シベリア鉄道


「アバカンは先に上がれよ。」

「いいぜ、直孝は疲れるな。」

「いいんだよ、これをやる為に付いて来たんだから。」

「なお~お尻を押し上げてよね。」

「おもた……柔らかいな……。」

「もう……馬鹿!」


「おい直孝、トランクを積んで足台を作れよ。」

「あ~なるほど、……これでいいか、サワさん。」

「はい、寛さんは手を引いて下さいな。」

「あぁ。お袋も早く。」

「はいはい、どうしてホームが無いのかしらね。」

「金が無いんだろう?」

「まぁ、可笑しな例えです。」


 汽車に乗るにもタラップが用意されてはいない、ま~異国だからと納得するしかない。乗車口の扉下に足を掛ける金具はあるも、婦人がこの高さに脚を上げたら恥ずかしいだろう。直孝は荷物を汽車の床まで上げるから寛はせっせと座席まで荷物を運んでいる。


 荷物が多すぎるのでは? と言う直孝の感想に寛も同調している。起きて居る時は六人が集まりお喋りが出来るも、夜となれば?

 座席……兼……二人で向き合うベッドというから、必然的に三組に別れてしまう。男三人は酒飲んで終わりか、でも……トミ、珠子は良かったがサワだけは開け広げられた空間に眠れない。


 サワの目線は?

 車窓から見る風景は緑の大地と湖、岩肌などが見えるから退屈はない。二日目は我慢、三日目はもの凄く我慢した。四日目……もう諦めの心境だったらしい。車内を歩いていたのは……サワの夫の寛は……アハハ~だ、方々に行っては多くの人たちに話しかけているよね~。だからサワは放置プレイに? もの凄~く不機嫌極まりない。だって三浦夫妻の間に割って入れない雰囲気が出ていたらしいし、両親にはまだ気兼ねをしているから寄りつけないでいた。


「私、次の駅で飛び降りてもいいよね。」


 この一言は直孝によって寛に運ばれて? 寛は車内で得た情報を、サワを相手にした「民族学」の講義を始める。サワには理解出来ない「宇宙人の言葉」であっても? 好きな人の声が耳元で聞えるから喜んでいる。


「寛、モスクワは危険だから寄らないぞ。」


 平蔵としては目立ちたくはないから騒がずに過ごしたい、なのに息子は正反対に旅の道連れを探し出しては話しかけている。退屈な汽車の旅に目先が変わって楽しいのも? 旅の醍醐味だろうか。


「はい、解っています。」


相手も喜んで寛の相手をしてくれるとか、妻のサワからみたら……つまらない。だから皮肉の一つでも言いたいか?


「嘘仰い……!」


 もしも、平蔵の懐を知り得た人物がいたら、直孝夫妻から「お見舞い申し上げます」と言われかねない。そこは「お悔やみ申し……」という事も考えられる。だから駅構内で長い時間を過ごして、レニングラード(現在のサンクト・ペテルブルグ)行きの列車に乗り換えるだけだった。




*)きな臭いレニングラード


「わ~兵隊さん!」

「社長……荷物を検査されても大丈夫でしょう。」

「珠子さん、ま~なんとか誤魔化すまでだな。」

「はい。」


「な~寛。思った以上に緊張が走っているな。」

「えぇ、そのようです。今日はホテルに宿泊だけですか。」

「三浦君、君らも温和しくしてくれると嬉しいんだが、出来るよな。」

「勿論です、目を付けられましたら大変でしょうか。な~アバカン?」

「親父、俺もか?」

「他に誰がいると言うんだ。お前が一番危険だろう、違うか?」

「寛さん、出歩くのは止めてください。勝てないでしょう?」

「あぁ……、」



「寛はサワさんをチャンと見ているんですよ。ま~た放置していたら、?」

「お母さん、ここで立ち話は出来ませんね。ホテルは……行き先を尋ねて来ます。」

「直孝、行くぞ。」

「あなた……気をつけて。」

「あぁ。」


 二人は当たり障りのないような人を見つけてホテルの場所を聞いてきた。


 ロシアは二年ほど前に遷都していて、首都モスクワの前がこのレニングラードだった。旧称はペトログラードという。フィンランドに近いから緊張が高まっているという。


「違うぞ寛、国境は目と鼻の先だからロシアも気が気ではないのさ。」

「だからモスクワに逃げたちでも?」

「だろうな。意外とロシアは弱いんだよ。」

「ですね、気候が大きく影響しているのですから、ウォッカが悪いのでしょう。」

「だろうな。」


 この頃はレニングラードの市街地がそのまま国境線という程に近かった。モスクワに遷都したてだから、追い打ちを心配しているとも考えられる。


 翌朝になり汗を拭き拭きしながら荷物を運ぶ男の姿が滑稽だった。列車にも無事に乗る事が出来て、ナルバまで行って下車する。ここで一泊するのは用心の為である。レニングラードからタリン行きの直通列車で行くのが危険だと聞いていたから。ナルバからの鈍行列車に乗れば恐らくは検問もなにもないらしいと。




1927年8月10日 エストニア・サク


 お昼過ぎにホテルに着く。


 家族の全員が無事にタリンに着いた。あの老人と会う約束は十二日の夜だ。旅も順調に進んで二日前に到着も出来て、平蔵は大して飲まないのに食事中にダウンしてしまう。気苦労が凄まじいのか、みんなして心配すれば?


「ちょっと疲れただけだ。気苦労が絶えなかったから、労れ!」

「チェックインがまだなんですよね。」

「あなたがお昼から飲むのが悪いんですよ。」

「煩い、黙れ。」

「お義父さま、お水を頂いて来ますか?」

「珠子さん、頼む。」

「はい社長。」

「あなた、今は仕事中ではありませんわ、寛さん……行きなさい。」

「ぅへっ、待ってろ親父。」

「奥様……ありがとうございます。」

「いいのよ、貴女は荷物の番をお願いします。」

「はい~~~?・?」

「荷物なら俺が……?」

「そこで伸びている荷物よ、お願いね。」

「はい、奥様。」


「サワさん、行くわよ!」

「はい、喜んでお供いたします。」


*)何処行くの……ちょっと街の観光よ。


 賑やかな通りには洒落たレストランが出店を開いているというから、行きたくて堪らないトミは亭主が動けない事を利用して、サワとやってきた。女の二人で密談をするというから不思議。


 観光名所の通りだ、まだまだ旅行者を楽しませる何かがあるのだと言うトミ。


「お義母さま、あれではないのですか?」

「シャンシャン馬……アレだわ!♡ サワさん、乗るわよ、行くわよ、突撃よ!」

「もう~お義母さま~転びますよ~……転けろ!」

「キャン!」

「ほら転んだ~……はしたないですわ。」


 トミは年増でもあるがこんな異国に来れば……美人さんだ、直ぐに助け起こす紳士が来てくれる。もしこれがサワだったら……、「私、ここで暮らしますわ!」と、言うだろう。白馬に跨がった王子さま。


「ちょっと~はしゃがないで下さいね。」

「はい、すみません、……です。」


 馬で警邏する都市だったとか知らなかった二人だ。



 シャンシャン馬ではないのだが、お姫様が乗る馬車を夢想してきたトミの希望が今叶った。ガタゴトと大きな車輪が音を立てながら街の中を通る。


「おらおらおら……其処退そこのけ、姫さまのお通りだぞ!」

「まぁお義母さまったら、可笑しいですわ。」

「日本語だから善いのよ、気にしたら旅の気分も台無しになります。」

「はい、私も底抜けに楽しみたいと思います。」


 二人してキャッキャキャッキャと騒げば、


「お義母さま、貸衣装のお店に行きましょうよ。」

「在ればいいわね……う~ん……気分は貴族さま!?」


 衣料店へ入って散財したらしいが、これも地域浮上への貢献だろう。旅に行けば必ず地元で買い物をしましょう……♡ 貴族服なんてものは借りればよいものを、日本で着るような服でもあるまいに、どうして二人は買ってしまったのだろうか。


「お義母さま、お義母さま。明後日は大きな花火大会が開催されるんでって!」

「舌……噛みましたね。勿論よ、化粧をして行きますわよ。」

「はい、女は化粧しての……戦争です!」


 サワに対して心に穴を開けた寛の悪行に、サワの心に、トミは罪滅ぼしをして開いた穴を塞ぐ。先を見越してトミは秘密兵器を持参している。


「サワさんには朝顔の浴衣がとてもお似合いですよ。」

「まぁ……お義母さまったら。」

「寛に耐性はありませんから……迫りなさい?」

「はい、喜んで~♡」


 行き先の小さな街まではダサい貴族服を着込んでいくも、早めの夕食を済ませれば悔しがる珠子さんが出来上がっていた。


「直孝さん、私にも浴衣が欲しい~……ね~直孝さん、」

「無理~♡」


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