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人狼と少女 もう一つの物語(加筆修正版)  作者: 冬忍 金銀花


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ep.5 新婚旅行へ向けて……

登場人物。

阿部寛 助教授。阿部サワ。阿部平蔵。阿部トミ。三浦直孝 助教授。お手伝いの珠子、後の三浦珠子。


人狼の家族、幸夫、ホロ、キリ。


 前書きと世相


 北海道大学の夏期休暇を利用しての新婚旅行が……なんと北欧旅行であり、最初に訪れる国はエストニアだった。この国は、新しい自由闊達な国を目指して邁進している。ロシアの影響を引き摺れば自由なんて言葉は叫んだだけで殺される。言い換えれば独立戦争ということ。


 ロシアが日本に対する態度は「侵攻する」の一択だ。第二次世界大戦中の日ソ不可侵条約は端から無視するつもりだったし、ヨーロッパの第一次世界大戦が少し落ち着いた時点で、日本侵攻に向けたインフラ整備を始めていた。


 第二次世界大戦は1939年(昭和14年)9月1日からで、まだ日本も安全だったか。南京事件が発生し、日本国内の経済は荒れて、銀行は休業や倒産が発端となり昭和金融恐慌となる。名言は「産児制限は怪しからん事だ、みんなイモを食へ」それに芥川龍之介の自殺。



 八月一日、シベリア鉄道経由による欧州への国際連絡運輸再開(東京-パリ15日間)に、ロシアの思惑は何処に向けていたのだろう。


 

 北欧に区分されるエストニアはロシア領土であり面積は、45,222km2と極端に狭い。約直径二百四十キロがおおよその広さである。九州の面積の36.800km2よりは広いか。


 さて、1927年当時に国際線の飛行機なんて無かったが、福岡から韓国を経由して大連までの路線はありました。よってシベリア鉄道経由で行きます。



1927年6月2日 昭和2年 北海道 


*)阿部寛夫妻の新婚旅行計画と……付き人


 平蔵は多大な軍資金を握っているから、だからスポンサーの呼び掛けに応じる。幸夫に会いたいからエストニアへ行く……平蔵は寛とサワの結婚を急いだ理由がここにある。何かのきっかけがなければ行くと言い出せない。ある意味、平蔵は策士だとも言える。


 そんな平蔵が家族が集まった夕食後に口火をきった。タバコに火を付けてから話し出す予定が、寛により機先を制されてしまう。


「親父、タバコはベランダでな。」


 寛からタバコの喫煙を窘められるも、今宵の平蔵は飲み過ぎも手伝ってか、とても機嫌が良い。


「親に口答えをするな!」

「いいえ、あなたが悪いのです。灰皿なんて何処にもありませんわ。」

「うふふ……お髭が焦げていますわ。灰皿はこちらに用意しております、お義父さま。」

「……。」

 

 平蔵はニコリとしてサワから分厚いガラスの灰皿を受け取る。妻のトミも紫煙は嫌いだからと灰皿は隠している。サワの妊娠にサワるからという理屈だ。サワだって伊達に暇しては居なかった、ちゃんと家族の習性は考えてもいる。横に珠子という先輩がいるのだから、解らないことは直ぐに質問して解決している。


「サワさん、これは……隠していたんですよ?」

「……。」x2


 サワと珠子は見つめ合っているだけで返事はしていない。変に返事をすれば……やぶ蛇となり、トミの矛先が向くことに繋がる。それ程にタバコの煙は嫌いなんだと考えられる。


「寛、サワさん。どうだい北欧へ新婚旅行に行くと言うのは。」

「まぁ~あなた、行きたいですわ?」

「おいおい、俺らが同行したらサワさんが怒るぞ?」

「親父、また何かを企んで~。」

「いやなに、お前らだけで行けるのならば百万は出してやるぞ。」

「お~!! 親父~そんなに善いのか?」


 人間はつくづく金に弱い生き物か、貨幣制度が長きに亘って続いていたのも頷ける。しかし、まだ? 猫を被るサワも温和し大人しを貫いている。だから平蔵の呼びかけにも答えていない。食後からは一言だけというのも何か思惑があるのか?



「あなた~大学は学長に丸投げで済みますわ~?」

「俺は講義があるから、そんな遠くは行けないよ。」

「なに、後期の授業で十分だろう。それ以前に学生に対して全部を教える事が出来るのか?」

「そうですね、教えてみても無理だな。親父はまた民俗学に触手を伸ばすのか?」

「まぁな、金は出すが口は出さないと約束するさ。それに俺の会社を通させて船と汽車を手配出来るから、魅力があるだろう?」

「確かに、俺は雑用抜きで講義に専念出来る訳か。」

「そうだぞ決めるか?」

「そうしたいね、な~サワ?」

「……はい、お願いします。」


 寛は学長に言う必要はなかった、大学関連の連絡は全てが母次第である。寛としては夏期休暇に向けて講義に専念すれば……すれば?


 と言うわけで満場一致で新婚旅行と旧婚旅行が決まったが、寂しい女は独りで泣く……羽を伸ばす……自棄酒を喰らう、どれだろうか。




*)寛vs直孝&サワ


 大学の昼食は教授らも学食で食べる人数が多いし、気が合う学生と教授は校庭で輪を作り酒を飲む~~はないが、討論会が開かれたりしている。ここは寛専用の部屋で起きた事実。


「な~寛~……俺も金出すからよ~……?」

「直孝~お前もか?」

「あぁそうだとも。こんなウマい話はないだろう?」

「新婚旅行はシャンシャン馬で行くのとは違うんだぞ。」


「三番茶ですが、紅茶を淹れました。」


「サワさん、ありがとう。サワさんも賛成してくれるよ、な?」

「うふふ……。そうですね、きっと楽しいでしょうか。」

「おいおいサワ~、こいつは金魚の糞、いや馬牛糞(ばぎゅ~ん)だぞ?」

「アハハ……いいではありませんか。ね~三浦さま?」

「馬牛……糞かよ、もう飲みに誘わないぞ!」

「寛さん、直ぐに謝ってください。」

「知らん。」


 理由はどうであれ新婚旅行は新婚さんと寛の両親と、「俺も連れて行け!」と強引に迫る友人は、三浦助直孝教授と言う金魚の糞だった。今現在の時点では、と条件もついている。「皆さん……私を忘れてはいませんか?」とは誰の言葉だろう。



「サワさん、三番茶って?」

「あらまぁ……薄いでしょうか?」

「色つきだけの紅茶に意味あじはありません。」

「失礼しました。寛さんも同じ三番茶ですのよ?」


 サワが直孝に出したティーカップは洗わないから茶渋がこびり付いていて、色付きだけだと言った直孝は飲み干せば……当然か、茶渋に渋い顔をサワに向ける。


「うふふ……。」


 サワ曰く、寛の紅茶は一番だし、サワは二番だし、三番目は出ガラだな。サワが無意識に直孝へ意地悪をするのは、寛に比してワイルドな直孝を心の奥底で……に気づいていない。



「おいアバカン、お前は味音痴なのか?」

「知らん……ズズゥ……美味いぞ?」

「アバカン……? なんですの?」


 サワが始めて聞くアバカンの意味が解らないから首を傾げている。超~が付く暢気な寛にも「アバカン」という単語は耳に届いてはいたが、気にもならないから馬耳東風か。


「気にするな、俺の渾名らしいぞ。俺も知らなかったがな。」

「まぁ三浦さま?」

「有名になっている、悪いな。」

「はい、もう紅茶も在りませんわ!」


 と、サワは少し頬を膨らませて怒ってみるも、目は……笑っている?


「お前……サワさんがいないと昼飯も食えないのか?」

「喰わないだけだが、文句はあるまい。」

「ないね、」

「だろう?」


「サワさん、こいつは全く変わらないらしい。大変だね。」

「はい、お世話しがいがあるのも楽しいですよ?」

「俺は苦しかったよ。」

「それは俺の分まで喰らうから苦しいんだ、だから馬みたいに腹が出ている。」

「うふふ……。」

「ふん、言ってろ! 馬の腹が下がるのは重力の所為だからな。」


 そう言うから寛とサワは直孝の腹を見つめるも、直孝はサワの腹を見つめる。直孝の感想は「やはり、まだ手を出していない?」


 お昼の時間ともなればサワが二つのお弁当を提げて出てくるし、もう一人は牛の臭いを付けてやってくる。春ともなれば牛のお産で忙しいといいながら、牛の乳を弄る。どうしてかって? 牛の乳の張り具合で出産日の目安を付けるのだそうだ。


 このような直孝の頑張りを認める処か、端から気にもかけない寛に……?


「なぁ寛、ホルスタインの乳はデカいぞ?」

「知らん。」

「なぁなぁ……嫁さんはどうなんだ?」

「知らん。」


 と、まぁ~寛に下ネタは存在していないらしい。そこは……サワも大いに困惑してもいる。下世話な直孝はホルスタイン同様に気になるらしい。


「三浦さま、もっと言ってやってくださいな、嫁は大事にしないようと。」

「ブっ……おいサワさんや、逆じゃないのか? 嫁御は大切にされてナンボだろう?」

「だって……ほら、こうやって雑談してもね、チ~ッとも焼いて下さらないのですもの。」

「寛?……あ~確かにな。こいつに本を読ませたら何も聞えないからな~。」


「煩い、聞えているよ。」


「サワさん、今日も行こうよ、な?」

「はい、お供いたします。土曜日ですから是非に。」

「いいね~。で、アバカンは置いて行くのが善いよな!」

「はい、それで……?」


「……。」


 寛にすればサワと直孝の声は聞えるも話の内容は聞えていない。暢気と言っても大きな的外れに、もう例えようがない。寛の直ぐ横で語る浮気話も聞えていない。土曜日の夕方は居酒屋に行きたいと言い出したのはサワであるも、相手は寛ではない、友人の直孝にであった。酒を飲むのも真面目に飲む寛に意地悪をしたかったというサワに直孝が同情したもの、いや只酒に同乗したんだろう。




 本を読む阿部助教授は留守にする間の、学生の自習に向けたキャリキュラムの構築に忙しい。だから?


「直孝も講義はいいのか? 夏期休暇の前後は留守にするのだぞ?」

「あ~……馬に任せるよ。」

「三浦さま? 牛はどうされますの?」

「学生に任せていたら馬は喰われるだけだろう、いいのか?」

「馬術部に頼むよ。なに、大丈夫さ。餌付けは焼き肉だな。」


 ま、牛の出産がヨーロッパ旅行と被れば、馬も同様に農家に任せるという。馬術部の連中はみな、農家の出身だしお産の経験も豊富だとも。全てが寛にとっては言い訳に聞えるから、イザ難産となれば直孝は「親を呼ぶだろう」と勝手に決めている。通常お産だったら経験済みの上級生が取りあげる事が出来る。



 こうやって新婚旅行は新婚さんと寛の両親と、「俺も連れて行け!」と強引に迫る三浦助直孝助教授が金魚の糞となる。


 阿部トミは鶴の一声で直孝と寛の長期休暇を学長に従えさせるし、他の教授陣も学長に追随しておけば間違いはない。学長はトミという口うるさいババァがいなくなれば? 競馬場へと通う。夏休み中に北海道で開催されるのかはまた別の問題。金も出す阿部トミに誰もが口答えが出来ない。大学の予算申請は各教授が上げる、学長が受理し教授会に諮られて、最後は学長が「俺の存在意味だ!」と言ってババを引く。




*)新たな伏兵がいたようだ


「皆さん……私を忘れてはいませんか?」


 お手伝いさん兼秘書の珠子さんが行き場を失って独り泣く。強かな女性は外堀を埋めるというような実力行使に出る計画は、先ずはトミ奥さまの籠絡から始めた。トミは北欧旅行が出来るからと雲に乗る心境が続いている。別名、上の空とも言うように、言葉使いがやや変?


「トミ奥さま、私も結婚してよろしいでしょうか?」

「まぁ~珠子さん、決まったのですね、良かったわ~おめでとう。」

「はいありがとうございます。相手はこれから、……ねじ伏せますので。それで先に奥様の了解を得たいと考えました。」

「あらら、お相手は誰を?」

「三浦直孝助教授さまです。これからの有望株ですから直ぐに捕まえたいのです。」

「いいわよ、珠子さんもエストニアへ行きたいのですね?」

「はい♡」

「でもサワさんを泣かせたら怒りますわよ?」

「はい、そこは絶対に、守ります。」

「いいわ、おめでとう。」

「はい、つきましては……、」

「何か小細工が必要ですの?」

「いえ、このまま勤務させてください。まだまだ家庭に籠もりたくはありません。」

「いいわよ? 家庭と仕事は両立させて頂戴。」

「はい奥様。」


「いいかしら、サワさんを泣かせたら怒りますわよ?」


 サワにさえ気がつかなければ寛に迫っても構わない、と、暗に仄めかす。これでも母親かい?


「少し早いですが休暇をお願いします。」

「いいわよ、頑張ってね♡」


 珠子としてみれば浮気も出来る訳だから、サワさんを泣かせないくらいは? 実に簡単だと言う。珠子が独り言を言う……、


「私は結婚しました、とサワさんに言えばきっとガードは緩くなるはずだわ。」



 しかし珠子の踏ん切りの良さに脱帽するトミもまた考えている。直ぐ子宝に恵まれるのではなかろうかと。いやそこではない、珠子はきっと寛に触手を伸ばしてくると確信している。これを察知したサワは焦りを覚えて寛に迫るだろうと考えている。珠子は当て馬でしかないようだと考えたら?……トミも中々の策士だろう。



 トミは珠子が好きなのは寛だと感づいている。だからトミは寛は遣らないぞと、常に珠子を引き連れて隙を与えない作戦を採っていた。寛と珠子が添い遂げれば寛が負けるのは必至、だからと母が今では一人息子を守っていた。トミだってそうとうなワル? いや「あくが強い」と言える性格だ。


 平蔵とトミは実に仲が良いのは、平蔵がトミよりも優れているからではない、夫を立てるトミこそが素晴らしいのだから。亭主に妻の臍繰りをも蓄えさせる程に強かだな。



「ウフフ……寛さまがダメならば奥の手を使うまでですわ。私だってホルスタイン同様に大きいのですから。」

「うぎゃ~珠子さん、俺は~うぎゃ~~♡」



「ねぇあなた。珠子さんがですよ、もし三浦助教授と結婚しましたら、一緒に連れて行ってくださいな。」

「あ~三浦くんか。珠ちゃんも長く独りだと寂しいだろう。連れて行くのはいいんだが三浦君の方はいいのか?」

「はい、問題ありません。旅費もしっかり出せますので逆に負担が減りましたわ。」


 1927年6月10日……一人の男が落ちた……嫁を娶らされた。汲汲の式が挙げられて新婚旅行がエストニアと決まる。


「珠ちゃんは……お前みたいに三浦くんを襲ったのか?」

「まぁ嫌ですわ。私はそのようにはしたなくありません、フン!」

「お前が色々と教えたのか。まぁいい、アハハ……。」

「失礼しちゃうわ。熱燗抜きです。」

「わ~お、珠ちゃんの後釜はどうする。」

「サワさんに頼みますし、珠子さんはこのまま私の秘書として続けさせて雇います。」

「そうか、目出度いな。」



 1927年6月20日……電撃婚。泊まり込みだった珠子さんが抜ける阿部家の、新しいお手伝いさんの採用無し、サワさんが家事を引き受けると申し出た。


 三浦家の結婚式に参列した農家に「瀬戸家」の顔があって、この夫婦と三浦助教授はとても仲が良い。




1927年7月25日


*)いよいよ出発


 こうして男三人と女三人の新婚旅行と旧婚旅行が始まる。併せて帰国する頃には三浦家の家が完成していると言うから恐ろしい。中古物件のリフォームだろうから無理でもない。阿部家においても増築はほぼ出来上がったようなもの、トミは帰国後が楽しみで仕方が無い様子。


 平蔵もまた、東京から黒いシルクハットと背広を取り寄せている。長い列車の旅は「草臥れる」と言う事に注意が疎かになっている。一方の寛は?


「これぞ民族衣装だぎゃ~。」

「まぁ寛さん。和服はとてもお似合いですわ?」


 寛の服装に一つだけ似合わない部分があったのか、サワは「?」を付けて寛を見ている。サワも含めて他の三人は動きやすいカジュアルな服装で臨んでいる。直孝曰く……、


「衣装は違えど……親子やな~♡」


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