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人狼と少女 もう一つの物語(加筆修正版)  作者: 冬忍 金銀花


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ep.2 晩稲の寛には過ぎた早稲(わせ)……サワ

  ロシア軍と表だって争いたくない勢力が存在していて、個人単位で情報を得るには大きな軍を諜報して得る方が手っ取り早い。


 そこに情報が入って、真祖の巫女が産んだ赤子を喉から手が出るほどに欲しい人物がいた。


 誰の陰謀だとかは全く分からない事だが、巫女の赤子が空輸される情報が入って、ロシア軍から強奪する計画が立てられる。どのような強奪方法かは分からないが、思わぬアクシデントが起きて並行世界へと飛行船が弾かれてしまう。



1927年1月4日(昭和2年)満洲

    

*)阿部夫妻……ハチャメチャな結婚譚


 寛の嫁は「サワ」という名前で満洲生まれの生粋のお嬢様だ。サワの父もまた満洲鉄道への出資もあり軍需産業でもあるから、寛とサワは直ぐ仲良くなった。名家育ちだからこそなのか、これまた日本には行った事が無いと言い、平蔵と寛にくっくようにして一月に日本の札幌市に嫁いできた。


 どちらかと言えば押しかけ女房のサワが断然強い。


 父平蔵の新年会が行われる満洲に付いて来た寛は、参加する満洲の人にも興味を抱くとか。ま~寛の趣味の延長なんだと思われるが、これまた当然のように新年会にも顔を出している。


 同じように有力企業においても家族同伴が何故か多い? その1927年1月4日にサワと寛は再会した。これはその日の会話である。


 寛と他の人が話している会話を盗み聞きをしているサワ。寛の後で堂々と聞いているから恐ろしい。ある程度の会話を聞いたサワの目は赤く光り出すから、寛の話し相手は怯えるようにして「助教授就任おめでとう」と言って立ち去る。


 助教授就任おめでとうとは、大学の卒業と同時に助教授とは普通ではあり得ない。


 サワが思うに、


「お母様が仰ったように大学へ寄付をしていたのが功を奏したと思うわ。」


 これぞ水を得た魚とはこのサワを言うのか? 大いなるサワの能力が火を噴く。


 思い立ったが吉日よ!……先にあの男を赤いオーラを放って追い出すわ! とは実に強引な性格だ。


「まぁ寛さま、北海道大学の助教授へ就任されたんですか。」

「あ、サワさん。はい口利きでそうさせられてしまいました。どうも教員が不足しているからですかね。」

「まぁご謙遜を。それだって実力の内ですわ。」

「いや~裏口と言われても仕方ありませんわ。いや、入学だったんで、これで表ですかな、アハハ……。」


 入学で裏……就職しても裏だというから、表裏一体ならば表で就職はしましたと言いたいらしい。



 サワの鋭い目で寛を観察すれば……寛さまの視点は私の胸に届いていませんわ。


「とても嬉しいですわ、これで出資が……やっと……お待ちした甲斐がありましたわ。」


 サワの大きい胸を切れ目なく見せるドレスのとある部分を少しも見てくれないからヤキモキしている。そう切れ目が入れられない、句点が入れられない……苦しい想いであった。僅かな時間で逡巡するサワの頭脳は優秀で、ここまで頭をめぐらせて、……やっと……言葉が紡がれた。


 寛さまはへたれだしこれが地なんだと。



 サワの言葉が、間が延びたからか寛は理解が出来なかった。


「はい?」

「いえ、おめでとうございます。」

「ありがとう、でもこれで俺は満洲に来ることがなくなると思えば寂しいよ。」


 この一言で自分サワへのプロポーズがないのだと直ぐにピーンときた。少し秋波を交えた会話で誘ってはいても、予想以上のへたりれにサワは閉口する。


 ここで押えておかないと次はない、サワの尻に火が付く……ブーストx2


「え?……えぇ……そうですわね、これでお別れでしょうか。」

「はい、またお目にかかれる日もございましょう。」

「え……えぇ。そうですわね……、」

「サワさん?」

「いえ、私、急用を思い出しましたわ。少し母を探しに行って参ります。」

「ではまた。」

「はい♡」


 サワは広い会場を駆け足で母を探して回る。


「居ないわ……もう酔い潰れているのかしら。……ねぇ貴女、私の母を見かけませんでしたか?」

「えぇっと~……多分ですが、キッチンではないでしょうか。」

「キッチン??」

「はぁ……要望がこまやかですので……恐らくは、」

「ハッキリ言われたがよろしいですわよ? 口うるさいとね。」

「いえいえ滅相もありませんわ、お嬢様。」

「でもありがとう、助かりました。」

「はぁ……それはようございまし……た?」


 私、サワは血相を変えてなんてしていませんわよ、でも大忙しで事を進めませんと時間がありませんわ。


「お母様にも困ったものですわ。私に……お母様は要望がこまやかです~と言われてしまいましたわ。」


 サワは上機嫌だから母への悪口も気にならない、上の空か? ならば直ぐ横で誰が聴いていても判らない訳だな。


「私は、置いて行かれても一人ででも寛さまを追いかけますわよ、えぇ……お父様が反対しても出て行きますからね、待ってて下さい寛さま。」


「おうぉ、俺に聞かせているんだかね、サワもまだまだ子どもだと考えていたが、いや~親の気持ちは置いて行かれものか?」

「社長……お嬢様は五木田ごきでんですね。」

「五木田はお前だろうが。直ぐに仮祝言の予約をとってこい!」

「はい~喜んで~~~★!!」


 サワと母は姉妹のような関係だから、父親の存在はとても薄い。「頭と同じですわ」とか酷い言われようだ。実は薄いのは「影が薄い」の影か? まだ四十三歳なんだから。


「お嬢様の……バカ~……俺が嫁に欲しかったのに~♡」


 間違いなくサワに心引かれる男ども多い。これが意味する事と言えば……あれだな。五木田は「いつきだ」と読むが、皆してからかうものだから「ごきでん」と呼ばれる。


 サワは寛と別れたあと、独り言を振りまきながら母親の元へとひた走る。誰も気兼ねが要らないのだから……心ウキウキだな♡


「はぁはぁ……お母様、遂に実現しそうですわ。」


「そのキャビアは美味しくありません。イクラに変更なさい。」

「ですが奥様、北海道からの取り寄せ分は、奥様が贈答品に全部……、」

「煩いわね……あらサワ、何かしら。」


「お母様、口うるさいと言われてしまいます。もうシェフに任せてやって下さい。」


「会場は当家ですわ、出来ません。」

「お母様、私、」

「出来ません。それ、そこじゃなくて……?」

「出来ません???……イヤ~……。」

「何か?」

「私、寛さまと結婚しとうございます。出来ませんと言われるのでしたら直ぐにでも出て行きます!」

「まぁ……おめでとう。それでどうしたいの?」


「はぁはぁ……お母様の読み通りに北海道大学に就職なさいました。それで私は寛さまのお手伝いを致します。」


「メイド?」


「いえ奥様、この子はまだ……?」

「嫁に?」


 メイドに緊張が走る。次の一言が生死の別れ目だったりするらしい。シェフの娘が奪われるのか!


「はい、嫁に……。」

「はぁ? いえ……直ぐに?」

「はい。荷物は置いて行きます。」

「そう……案内しなさいな。先に阿部さまの元ですよ、籠絡は任せなさい。」

「はい、喜んで♡」


 キッチンの親子の会話も聞いてみようか。


「ねぇお父さん、奥様とお嬢様の会話は実に不可解でしたわ。」

「あれだから俺らも困るんだよ。何を言っているのかが判らない。

「言えてる~。」

「お前、まだ嫁にいくなよ。」

「お義父さん、俺たち付き合っています!」

「お前……クビだ、出て行け~。」

「ヒェ~、そんな~。」

「私たち……駆け落ちします~♡」x2


「おうおう出て行け! そして二度と戻るな!」


 ここ三浦財閥の本家は人使いが荒いのが有名で、理不尽にクビを切られるのは普通とか。もう従業員は戦々恐々としている。


 サワ母娘は先に平蔵を探している。寛の父、平蔵はサワをとても気に入っている。ここ……問題がありそうだが?


 三浦夫人としても寛さまを強引に落とせる手段は多いに越したことはないからだ。


「平蔵さま、」

「これはこれは……お美しい。」

「……服ですわ。」


 サワは少し拗ねてみる。そんな娘の仕草がはしたなく感じた母は一言。ゴホン……平蔵には聞えていない。


「まぁ……お恥ずかしい。」

「いえいえ、少し寒そうな衣装もですが、う~ん……特に赤い頬がなんとも。」

「まぁ、小父様ったら……、」


 こんなはにかむサワの姿を特に気に入っている。恐らくは阿部夫人に愛想が足りていないのだとしたら? うんうん平蔵もスケベ親父なんだ。


 満洲の事業は両家とも成功し財もそれなりにある。でも鑑みたら日本へ投資をする平蔵の伸びしろは大きいとサワの父・三浦の頭首が言う。これを夕べに聴いていたものだから、それがどうだろうかサワは、新年会に会った瞬間に顔の輝きを見て確信する。……この人は耳たぶが大きい大福さまだわ!


 ……ゴホン! と咳払いをするのはサワの母であり、平蔵がサワを美しいと言うものだから注意を母の方に引きつける為だ。


 平蔵が改まってサワの母を見れば間髪を入れず……まぁ~ド直球だこと。


「これはこれは、あな……」


 平蔵が三浦夫人を見るやいなや言葉を発するも途中で切られてしまった。


「いえサワを寛さまに嫁がせます。」


 まぁ~ド直球だこと、誰かとは大違いね。


「はい~喜んで~♡」

「……?」x2

「すみません、場にそぐわない言い方でした。」


「よろしいですわよね?」

「お義父さま、よろしくお願いします。」

「ですが、まだペーペーの教員ですよ?」

「いいんです、私、寛さまの帰国に併せて渡航致します。」

「……う~寛を探してきます、暫くお待ちを。」

「はい。」x2


 父の平蔵から寛を見てみれば、倅の気持ちは手に取るように理解している……晩稲すぎるのだと。倅とてもサワを好きだとも考えている。だから問題点は頭ごなしに押さえつける……これしかないのだと。


 言う事を聞け~と、平蔵は寛を見つけて強引に引き摺る。


「チョイと話があるから来い。」

「クっ、クっ、苦しいです~。」


 鳩が豆鉄砲を喰らったような声を上げるのは、こんな強引な父親を見た事が無いから戸惑う。


「いいから来い。」

「歩きますから襟を掴んで引き摺るのはやめて~……。」

「サワさんを前にしてチャンと言えよ。」

「はい、サワちゃん……?」

「今じゃない。違う、莫迦か!」

「えぇ……っ?」


 晩稲の寛には過ぎた早稲のサワだった。


「寛、お前の嫁を決めたぞ。喜べ!」

「え~そんな~。」

「ほら、言え!」


「あ、サワさん?」

「はい……♡」

「サワさん、ふつつか者ですがよろしくお願いします。」

「まぁ……寛さま?」

「……はい、お願いします。」


 寛としても直ぐに受け答えが出来ている、と言う事は寛も満更ではない。北海道大学でも勉強熱心だったから、まだまだ青くて若いだけか。


「寛さま、ふつつか者と言うのは私の方ですわ。」

「いや~俺は基礎柱のようなモノでして、サワさんには大黒柱をお願いします!!」

「キャッ♡」


「サワ……もう敷いてしまったのですか?」

「お母様……意地悪です。」


 この男の何処がいいのかしら?……この父にしてこの子ありと言う? ほどとは程遠い容貌にがっかりのサワの母であった。壮年を過ぎてなおも日本へ投資を続け、昨年よりも勢いを増すであろう平蔵は、目の輝きはランランと光っている。対して寛は研究肌の少し根暗のようだと感じてしまった。


 大病したら人生観が変わります、首つり自殺をしてロープが切れたら、更に大きく人生観が変わります。もっとも、長く入院して楽してー……は誰だろうね~♡


 見た目が変わったとしてもだ、男はそれこそ、死に目にでも遭わなければ頭の中身は大人になっても変わらない。でも女の子は違うぞ、姿も変われば身も変わる・性格だって変わってしまう生き物。だから、寛は他人の値踏みは確かなものだし、逆にこの女性・サワの母は評価を落としてしまう。



 サワに付いての評価は甘いのかもしれない。幼い時の想いが邪魔をするのか、長い付き合いからから鈍ったままで今日にいたる。だとしても、事実は寛には過ぎた女性であった。とても活動的な笑顔が絶えない美女なんだから。


「ハッハッハー目出度い、婚約発表もしてしまおうか。」

「お父さん……恥ずかしから止めてくれ。」

「私、お父様を呼んできます。」

「あ~台所に行かれましたよ。先ほどすれ違いましたから間違いありません。」

「えぇ~?……寛さま、ありがとうございます。」


「もう父まで……私が恥ずかしいではありませんか。母と同じキッチンで何の用がおありなのかしらね。」


 台所では理不尽な命令が飛び交っていた。そこで活動的なサワの父は、先行して婚約発表を目論んでいるの? 奇怪しいとは考えないサワが可笑しい。サワもサワの母も何も告げていないはず、だが?


「旦那様、ウェディングケーキなんてありませんよ。」

「直ぐ作れ、いや買ってこい。」

「無理です、まだお店も休暇中で、」

「極上のシャンパンも出せ。」

「年末に飲んで終われました。」

「そうか……二次会を開く、準備せよ! 今宵は娘の婚約発表だぞ!」


「はい~喜んで~♡……、」x10

「お前たち、駆け落ちは延期してくれないか。」

「では私たちも……併せて……お願いします。」

「いいだろう……同居な。」

「う~……はい。」x2


「厨房だけですが。」と娘が言えば何も聞えないシェフだ。



 サワ曰く、


「これで煙たくて煤色の満洲から脱出が出来るわ。」


 サワ曰く……煤色で煙たい人物とは誰だろうか、恐らくは周りのご令嬢たちだと言いたいのか? いやいや五木田などの男たちも含まれていた。猫なで声で近寄られたら鳥肌が立つからキモイ。


 羨む令嬢らへの苦言ばかりが述べられたから……以下省略。


登場人物。

阿部寛 助教授・二十二歳。阿部サワ・二十歳。三浦直孝 助教授・二十二歳。阿部平蔵。阿部トミ。


お手伝いの珠子・二十六歳。阿部幸夫。及び老人と謎の女の子のホロ。

 


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