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第1話 政略結婚のはじまりは

「リーゼお姉様っ!」

「マリアンネ! ここに来てはいけないって何度も言ったでしょう!」

「ですが……お姉様だけこんな場所に閉じ込められてるなんて。私、お父様から鍵を盗んできて……きゃっ!」


 少女の小さな腕が、がたいのいい男に掴まれる。

 マリアンネは自分が男に引っ張られながらも、牢に閉じ込められた姉の手を必死に離すまいとぎゅっと手を離さない。


「マリアンネっ! 手を離しなさい! そうじゃないとあなたの腕が……!」

「嫌です! お姉様も一緒に……」


 固く結ばれた姉妹の手が、男の手によって脆くも引き離される。

 少女の体を軽々と抱えた彼は、低い声で呟く。


「いけませんな~マリアンネ王女殿下。陛下の部屋から牢の鍵を盗んでお姉様を助けようとなさるなんて」

「離してっ!」

「さあ、温かいお部屋へ戻りましょうね」


 マリアンネがジタバタと抵抗するも、大人の男である彼から逃れることはできない。

 涙を目にいっぱい溜めた少女に、リーゼが叫ぶ。


「大丈夫よ! 私のことは心配しないで!」

「リーゼお姉様っ!」


 男が冷たい牢からマリアンネを連れて立ち去ると、リーゼはか細い声で呟く。


「絶対……絶対にマリアンネを助けて外へ出る……」



 リーゼが王女という身分にも関わらず、こうして牢に閉じ込められて虐げられているのには、理由があった──。


 500年以上の歴史があるこの国、セレスティア王国では王女は「聖女」として王国の象徴となる。

 聖女は国民から信仰される存在であり、聖女の力は癒しの力として不思議な力を宿していた。

 そんな王国でリーゼは「聖女」としての力が無かった。

 一方、妹マリアンネは「大聖女」と言われるほどに癒しの力が強く、彼女が触れるとたちどころに傷が治る。


 国王と王妃はマリアンネを優遇し、力なきリーゼを徹底的に虐げた。

 マリアンネが五歳になった時には彼女に「穢れ」が移らないよう、リーゼを王宮地下の牢に閉じ込めてしまう。


 リーゼは小さなパンの欠片とわずかな水分しかもらえず、やせ細っていった。

 姉をなんとか救いたいマリアンネは、何度か脱走しては姉に食べ物を届けていたのだが、ついに今日そのことが国王にバレてしまったのだ。


「マリアンネ、お前があいつに近づいて穢れでもしたらどうするつもりなんだ!」

「お父様……でも!」

「お前は私の言う通りに動いて、『大聖女』として国民の前に立っていればそれでいいんだ! 癒しの力を使って王家のために働け!」


 父親である国王にそう告げられたマリアンネは、唇を噛みしめる。




 そうして姉妹が別々に育って10年が経った頃、リーゼのもとへ突然男がやってくる。


「おい、陛下の命令だ。ついてこい」

「え……?」


 リーゼは怪訝な顔を見せるも、どうすることもできず男について行く。


 男に連れられるままに向かった先は、マリアンネの寝室だった。

 中に入ると、マリアンネがベッドで眠っている。


「マリアンネ……?」

「遅いぞ!」


 国王はそう言いながらリーゼの髪を掴んで乱暴にする。


「いたっ!」

「おい、マリアンネに何をした」

「え……?」

「マリアンネが昨日から目を覚まさぬ。お前が何かしたのではないか!?」

「目を、覚まさない……?」


 リーゼが妹のもとへ駆け寄ろうとするも、国王に腕を掴まれてしまう。


「いたっ!」

「言えっ! マリアンネに何をした!!」

「何も、していません」

「そんなわけがあるか! 医者がマリアンネは病のようだと。それも治療薬のない、不治の病だ!」

「不治の病……」


 国王の言葉を聞いたリーゼは、必死な形相で国王に掴みかかって叫ぶ。


「マリアンネは! マリアンネは助かるのですか!?」

「知るか! お前のせいで病になったんだ!」


 言い合いをするリーゼと国王に医者は弱々しい声で告げる。


「あ、あの……オーヴァリア皇国の宮殿の薬室にはあると噂が……」


 国王が怖いのか、医者はおどおどしながら発言した。

 医者の言葉を聞いた国王はさらに機嫌を悪くして声を荒らげる。


「オーヴァリア皇国だと!? あの残虐皇帝の国か!? そんな国からどうやって……」


 その瞬間、国王はにやりと笑ってリーゼを見る。


「いや、ちょうどいい『駒』がいたな。お前、マリアンネのために残虐皇帝に嫁いで奪ってこい」


(私が、残虐皇帝に嫁ぐ……?)


 リーゼの心の中に絶望の色が広がっていく。


 オーヴァリア皇国は昨今残虐皇帝によって領土を広げている新興国であり、戦争に負けた者や裏切者は容赦なく斬られたり、属国にした国に酷い扱いをする野蛮な国とリーゼは聞いていた。

 そんな国に、しかも皇帝に嫁げと言われて、リーゼの足は震えだす。


「聖女を嫁がせると言えば、向こうも受け入れるだろう。そうやってお前は皇帝に取り入り、色仕掛けでもなんでもして薬を手に入れて来い!」


(怖い……でも、薬がないとマリアンネが……)


 静かに眠って目を覚まさない彼女を見て、リーゼは目をつぶる。


(私が行かなければ、マリアンネは死ぬ。たった一人で私のもとへ来てくれていた……)


 マリアンネの温かい手がリーゼの中でよみがえってくる。


(死なせない! マリアンネを、死なせたくない!)


 リーゼは全ての恐怖を振りきって、覚悟を決めた瞳で国王に宣言する。


「その薬、私が持ってきます! たとえ、どんな手段を使っても!」


 こうして、リーゼは妹のために薬を手に入れることを決心した──。



 リーゼの嫁入りは残虐皇帝ことジークハルトからの色よい返事によっていとも簡単に成立した。


(こんなにうまくいくなんて……)


 そんな風に思ったリーゼは侍女によって花嫁支度を進められていく。


(こんなに綺麗な衣装、初めて……)


 セレスティア王国の王宮での扱いは酷くとも、リーゼも他国から見れば聖女の力を持った王女……ということになっている。

 それなりの衣装をあつらえて、リーゼは半日かけてオーヴァリア皇国へと向かった。


「ようこそ、おいでくださいました。リーゼ様」

「お、お出迎えありがとうございます」


 皇帝の側近がリーゼの迎えを担当し、彼女をジークハルトのもとへ案内した。

 廊下をかなり進んだ先の部屋にリーゼは通される。


「どうぞ」

「ありがとうございます……」


(婚姻の儀をすると聞いていたのだけど……違うのかしら?)


 通されたのは至って普通の部屋で誰かの執務室なのか机や本棚などが置かれている。


 すると、その時、部屋の後ろから「誰か」が入ってきた。

 そして、リーゼをここまで案内した彼が「誰か」に告げる。


「ジークハルト様、こちらが先日お話したリーゼ様です」


(ジークハルト様……まさか、皇帝陛下!?)


 黒髪を揺らし、その奥にはアメジストのような瞳が覗いていた。

 彼はリーゼを見据えると、笑みを見せて告げる。


「よし、気に入った! リーゼ、俺と結婚しよう!」

「……へ?」


(あの……すでに結婚は決まっているのですが……)


 ジークハルトの言葉に戸惑いを隠せないリーゼだったが、その時ジークハルトの側近が冷静な声で告げる。


「ジークハルト様、すでにあなた様はリーゼ様と結婚することになっております」

「え……? セレスティア王国の王女様が留学に来るって話だった……よね?」

「いえ、『結婚』をすることになっております」

「それ誰が決めたの?」

「あなた様です」

「え……?」


 ジークハルトは首を傾げた。


(大丈夫なのでしょうか。こんな人に嫁いで……?)


 リーゼは自分の結婚生活が心配になった──。

第1話をご覧いただきありがとうございます!

頑張るリーゼと彼女を大好きすぎるジークハルト様が書ければいいなと思います!

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