第6話 わし、感激じゃ!
「師匠!! 生きてたんですね!!!」
騒々しいやつめ……。
「なんじゃ、ディアか。勝手に殺すでないわ!
……何しにきたんじゃ?」
「師匠が手紙を全然返してくれないから心配で来たんです!!」
「……手紙? なんじゃそりゃ?」
ん〜、待てよ。なんとなく心当たりがあるような
……ないような?
「おじいちゃん、この人だれ……?」
シュエルが、不思議そうに首をかしげる。
「ああ、すまん。こいつはわしの弟子ディア・コイドじゃ。」
視線で「挨拶せい」と合図を送る。
「僕はディア・コイド。よろしく……へ?」
間の抜けた声を出して固まるディア。
シュエルとわしを交互に見つめ────。
「え、えぇぇぇぇ!?」
シュエルはびくりと体を震わせ、わしの後ろに隠れてしまった。
全く、騒がしいやつじゃ。
軽く杖で頭を小突く。
「いてっ!その子、なんですか!!」
ディアは痛そうに頭を押さえながら、シュエルを指さす。
「はぁ……わしの孫、シュエルじゃ。」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「うるさいわい!」
ゴツン!
◇◇◇
「ふぅ、やっと静かになったの。」
わしはあれやこれやとうるさい弟子にことの顛末を語り、ついでに、ここに来た目的も聞いた。
どうやら手紙を返さなかったことが原因らしい。
わしの寿命の件は当然知っておったからな。
返事が来ないから死んだのではないかと思って、様子を見にきたらしい。
「まったく、おせっかいなやつめ。」
口ではそう言いつつ、心はほっこりしていた。
「おせっかいって…師匠のせいじゃないですか〜。」
ぶーぶーと不満げな顔を向けてくる。
「それで? 用は済んだんじゃろう? はよ帰れ。」
しっしっと手で払う仕草をする。
「いやですよ。僕は可愛い可愛い師匠の孫と遊ぶんです。」
「……え。」
本気で困惑した顔のシュエルーー。
いや、これは嫌がっておるのか?
神妙な顔つきになっておる。
「お前さん、仕事はどうした。そう簡単に抜けられる立場じゃなかろう。」
「ご安心ください!!」
えっへん!と胸を張る。
────こいつがこう言う時は、たいていロクなことがないのだが、どうせ何を言っても聞かんじゃろう。
「シュエル、悪いがこいつと遊んでやってくれるか。」
若干嫌そうな顔をしていたが、渋々うなずいた。
すまんな……。
◇◇◇
二人は街へ来ていた。
シュエルからの提案でとあるものを求めて。
カランカラン。
「良かったね。お目当てのものが買えて。」
「……はい。」
シュエルは優しく胸に持った紙袋をぎゅっと抱きしめる。
「じゃあ、ちょっと寄り道して帰ろうか。」
「寄り道?」
◇◇◇
「はい、どうぞ!」
「何これ?」
「この街で流行ってるアップルパイだよ。」
ぱくりと一口かじると、口いっぱいに甘酸っぱさが広がる。
「おいしい!!」
「良かった〜。これ、僕のお気に入りなんだよね。」
隣に座るディアはどことなく不思議な雰囲気を放っている。
ただの騒がしい人かと思っていたけれど、つかみどころのない人。
おじいちゃんの弟子────。
「にゃ!!」
突如、猫が現れた。
銀色の毛並みをした野良猫は、尻尾をぴんと立てて駆けていく。
そして、口にはさっきまで隣に置いていたシュエルの紙袋をくわえて────。
「あぁっ!!」
人の波をすり抜け、どんどん小さくなっていく猫。
「追いかけよう!」
そう言ってディアはシュエルの手を引き、走り出した。
◇◇◇
「……あの猫、足が速いなぁ。」
弟子は手を前にかざす。
空中に光が集まり、輝く階段が次々と生まれる。
「失礼するよ!」
「きゃっ!」
ふわりと体が宙に浮いた。
シュエルを抱き上げたディアは、光の階段を駆け上がる。
「にゃぁ!」
猫は屋根へと跳ね上がり、銀の尾を月のように揺らして挑発する。
「あの猫!!」
「ふふ、ずいぶん余裕の顔をしてるね。」
屋根の上での追いかけっこが始まる。
「私も追いかける! おろして!」
「え?」
ディアは一瞬困惑したような顔をしたが、ニコリと微笑み、シュエルを屋根へ下ろした。
「危ないから気をつけてね。」
『ウェントゥス・ケレル、コルプス・メウム・インペッレ』
風属性中級魔法──《エアロ・アクセル》
シュエルはそんな心配をよそに魔法を発動させる。
あたりに突風が吹き荒れ、小さな体が浮く。
猫に向かって一直線に走る。
「えっ……!? うそ!?」
ディアは驚きの声を上げた。
シュエルはあっという間に距離を詰める。
猫の体に手が届くその瞬間────。
「にゃっ!」
猫はくるりと方向を変え、壁の配管を伝って地面へ。
「あっ!!」
予想外の動きに気を取られ、前方が疎かになっていた。
「危ない!!」
「えっ——」
目の前には巨大な壁。
「きゃっ!!」
咄嗟のことで魔法を切れず、シュエルは壁に思いっきり激突した。
「シュエルちゃん! 大丈夫!?」
追いついてきたディアがシュエルを引き起こす。
全身ズキズキするが、怪我はなさそう。
それよりも────。
「平気! 猫は?」
「あそこ!」
指差す先、路地裏を抜ける銀色の尻尾。
「僕に任せて!」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる弟子。
「何をするの?」
しっと口元に人差し指をあてるディア。
その姿が綺麗さっぱり消えた。
「えっ……どこ────」
「にゃっ!!」
遠くで猫の悲鳴のような声が上がる。
声の方を向くと、猫を抱き上げているディアの姿。
「捕まえたよ!」
こちらに向けて、大きく手を振るディア。
「やった! お兄ちゃんすごい!」
「いや、そんな大げさな——いてっ!」
猫の爪がディアの手をひっかいた。
するりと拘束を抜け出た猫は、再び走り出す。
「あぁっ!!逃げた!」
「わっ!? ご、ごめん、離しちゃった!」
それからの二人は、もう夢中だった。
魔法を駆使し、何度も捕獲を試みる。
水たまりを飛び越え、狭い路地を抜け——。
いつの間にか二人とも泥だらけになっていた。
ようやく、狭い行き止まりへ猫を追い込むことに成功。
そっと目で合図をし、同時に飛びかかる。
「にゃっにゃあ!!」
暴れる猫をなんとか押さえ込む。
「ふぅ、、やった、捕まえたぁ! はい、これ!」
ディアは猫の口から紙袋を取り返し、シュエルに手渡した。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
シュエルは泥だらけの弟子へ精一杯の笑顔を向ける。
ディアは爽やかに微笑み、頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。
「感謝を伝えるのは、僕のほうだよ。」
「え、、、?」
意外な言葉。
さっきまであっけらかんとしていた彼の表情が、急に真剣になる。
「師匠のこと……。
シュエルちゃんがいなければ、あの人は今頃この世にいなかった。」
ディアはずっと悩んでいた。
師匠に長生きしてほしい。
でも、それを言えなかった。
師匠は人生に満足していたから——。
「……俺、ずっと怖かったんだ。
師匠が満足した顔で消えるのを。」
「ううん。わたしも、おじいちゃんに助けてもらったから……。」
ディアはやわらかく微笑む。
「これからも、師匠のことをよろしくね。」
「もちろん!」
「さ! 帰ろう! 師匠が待ってる!」
二人は手をつないで帰路につく。
最初はぎこちなかった二人の手も、今では自然に握られていた。
穏やかな日差しが二人を包み込む。
◇◇◇
「二人とも、なんでそんなに汚れとるんじゃ。」
帰ってくるなり、泥まみれの二人。
「あはは、いろいろありまして……。」
ごまかすように視線を逸らすディア。
「まったく、手がかかるやつじゃ。」
ため息をつきながら、パチンと指を鳴らす。
ふわっと爽やかな風が二人を包み、
泥の汚れが綺麗に落ちる。
服はまるでお日様の下で干したようにふかふかだ。
「わぁ!」
「さすが師匠!」
「戯けたことを。お前にも教えたじゃろう。
それで、何しておったんじゃ?」
ディアがグイッとシュエルの背中を押し、目で合図する。
「これ……おじいちゃんに!」
シュエルが頬を赤く染め、紙袋を差し出す。
「なんじゃ?」
大切に受け取り、慎重に紙袋を開けると、小さな箱。
中には海のように深い青をたたえたブローチが入っていた。
「これは…わしへのプレゼントか?」
コクリとうなずくシュエル。
なんと……わしのために。
目頭がじんわり熱くなる。
歳をとると涙腺がゆるんでいかんのう。
「ありがとう。嬉しいよ。」
わしはシュエルの頭を優しく撫でた。
第6話ありがとうございました!
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次回、次回の物語は——シュエルがついに 自分だけの使い魔 を手に入れるお話です!
どんな使い魔が現れるのか、シュエルとアレクの関係はどうなるのか……。
第7話「孫は使い魔がほしい!」
次回もぜひお楽しみに!




