表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

第4話 わし、走る!

「おじいちゃんの目、きれい!」


サファイアの瞳が不思議そうに覗き込んでくる。


実はわしの目は左右で色が違う。

右目は金色、左目は水色だ。


「そうじゃろ? かっこいいじゃろ?」


「うん!かっこいい!」


冗談で言ったつもりだったが、褒められるとやはり嬉しいもので、年甲斐もなく、頬が熱くなるのを感じる。


「さ、今日の授業を始めるぞ。」


「はーい!」


わしはその熱を誤魔化すように、話題を変えた。


「今日は魔法の発動方法を教えようと思う。」


「はい!よろしくお願いします!」


「まず、魔法を発動させるには魔力と呪文の詠唱が必要じゃ。」


「呪文?」


「そうじゃ。魔法にはそれぞれ呪文というものがあってな。

 そうだな、見た方が早いかもしれん。」


わしは杖を構え、魔力を込める。


『ヴェントゥス スルゲ エト ウォルウェ』


その瞬間、空気の流れが変わった。

足元の枯れ葉が宙に舞い、柔らかな風が小さな渦を巻く。


「これが風属性初級魔法、ウィンド・ワールじゃ。」


シュエルは大きく目を見開き、まるでその渦に引き込まれるかのように手を伸ばす。

指先が竜巻に触れる直前で、ハッと手を引っ込めた。


「大丈夫じゃよ。

 この魔法は初級のもので威力もほとんどない。

 今回は特に弱めておる。触っても怪我などせん。」


シュエルはこくりと頷き、恐る恐る風に触れる。

指先にひんやりとした風が絡みつき、髪の毛がわずかに揺れた。


「すごい!!私もやってみたい!!」


サファイア色の瞳がキラキラ輝く。


「そうか、ならばやってみなさい。

 この杖を使うのじゃ。」


わしは一本の木の棒を取り出す。


シュエルの瞳と同じサファイアの宝石が埋め込まれた杖。


わしがシュエルのために用意した特別な杖だ。


杖がなくても魔法は使えるが、杖があると使いやすさが格段に違う。

魔力を一点に集中させる役割を杖が肩代わりし、流れを整えてくれるため、発動が安定するのだ。


「わぁ!ありがとう!!」


シュエルは嬉しそうに杖を受け取り、前方に構える。


「呪文は『ヴェントゥス スルゲ エト ウォルウェ』じゃ。

 ゆっくりでも構わん、正確に発音するのじゃ。」


「はい!」


『ヴェントゥス…スルゲ…エト…ウォルウェ』


鈴のように凛とした声が響き、空気が小さく舞い上がり渦を巻く。


アレクが発動させたウィンド・ワールよりずっと小さいが、魔法は確かに発動した。


「……まさか、一発で発動させるとはな。」


わしは唖然とする。

本来、魔法は何度も練習して初めて使えるものだ。


「おじいちゃん!できたよ!!」


「よくやったな。シュエルは筋がいいようだ。」


嬉しそうに駆け寄るシュエルの頭を優しく撫でる。 


わしの孫、天才かもしれん。


「おじいちゃん!次は?」


「そうじゃの、次はウィンド・カッターじゃ。」


◇◇◇


草木は生い茂り、森は薄暗かった。

木々の間から差し込む光はまばらで、足元に斑点のように落ちる。


シュエルは一人、森の奥へと進んでいく。


今回、一人で森に入るのは、彼女への課題だった。


シュエルは筋が良く、風の初級魔法を、たった一日でマスターしてみせたのだ。


だから、応用として与えられた課題が素材採取。

今回の試練である。


「ウィンクルムの花……。」


おじいちゃんが言ってた。

魔法には“媒介”が必要だって。

媒介は魔法の発動を助けてくれて……。

花とか宝石とか……色々なものがあるんだよね。


今日はとある魔法……。

その発動に必要なウィンクルムの花を探すの!


「おじいちゃんはピンクの花って言ってたけど…。

 どこだろう……。」


シュエルは小さくつぶやき、落ち葉を踏みしめながら枝や葉をかき分けて進む。

その声も、鳥のさえずりも、森のざわめきにかき消される。


だが、花はなかなか見つからない。


呼吸は次第に荒くなり、額に汗が滲む。


「…どこにもない……。」


目頭が熱くなる。


だめ……絶対にやり遂げるんだ!

帰って、おじいちゃんに褒めてもらうんだもん!


ふと、風がそよぎ、少女のほおをなでる。


「今何か……。」


風に呼ばれている。

なんとなくそんな気がしたシュエルはその風を追いかける。


生い茂る草の間からかすかな光の筋が差し込んだ。

シュエルは迷いなくその草をかき分けた。


草の緑の中から鮮やかなピンク色が顔を出す。


「あった……!?」


慎重にゆっくりと花を手に取る。


◇◇◇


花を手にしたシュエルは、胸が弾むのを感じながら足早に帰路に着く。


帰り道は清々しく、あんなに不気味だった木々も、今は優しく光を受け止め、任務を終えた少女を讃えているかのように見える。


「ふふ、早く帰っておじいちゃんに褒めてもらうんだ!」


シュエルは思わず口元に笑みを浮かべ、るんるんと歩いた。


その足取りは軽い。


「あら、お嬢ちゃん。

 そんなに楽しそうにどこへ行くつもり?」


口調は柔らかいのに、どこか冷たい声。

木陰から細身の女が現れた。


長い黒髪が風に揺れ、アメジスト色の目は怪しく光っている。微笑んでいるのに、その唇の端から漂う不気味さに、シュエルは思わず立ち止まった。


周囲の空気がひんやりと重くなる。


葉のざわめきも、まるで女の存在に怯えているかのように感じられた。


「……だれ?」


「私?誘惑の魔女っていうの。

 あなたの師匠を倒して新しい九つの杖になる魔女よ?」


にっこりと微笑む。

だがその笑顔の奥にどす黒い何かを感じる。


逃げなきゃ……!


シュエルは本能的にそう感じた。

腰に下げていた杖を構え、力強く唱える。


『ヴェントゥス・スルゲ・エト・トラヘ!』


風属性初級魔法──《ウィンド・カッター》


風が一点に集まり、小さな鎌の形を成す。


その鎌は誘惑の魔女めがけて飛んでいった。


直撃した。


だが──魔女は微動だにせず、無傷でそこに立っている。


覚えたての魔法で、太刀打ちできるはずもない。


シュエル自身、それは理解していた。

魔法発動と同時に、一心不乱に逃げる。

小さな手足を必死に動かし、森を駆け抜ける。


パリィィン!


背後で何かが砕ける音がした。


しかし、必死に走るシュエルには届かない。

耳をつんざくのはただ、心臓の高鳴りと、地面を蹴る足音だけ。


「ち、手間取らせやがって…逃すわけないでしょ。」


森の影の中で、魔女の低い声が響く。

シュエルは胸の奥で恐怖を感じつつも、手にした杖と花だけを頼りに、必死に前へと進むのだった。


◇◇◇


パリィィン!


ガラスが砕けるような甲高い音が森に響いた。


「まさか……!?」


血の気が一気に引き、全身から嫌な汗が吹き出す。


それは──シュエルにかけていた防御魔法が破壊された音だった。


そんなはずはない。


この森には危険な獣も、敵も存在しないはずだ。


ならば、いったいなぜ……!?


嫌な予感が頭をよぎる。


「ええい!つべこべ考えてる場合ではない!!」


アレクはすぐに転移魔法を発動する。


あらかじめシュエルにかけておいた魔法で、危険があればすぐ駆けつけられるようにしていたのだ。


しかし、結果は────。


「妨害されたじゃと……!?」


ありえない。

理屈では説明できず、思考が一瞬止まる。


だが、揺るがぬ事実はひとつ。

シュエルに危険が迫っているということだけだ。


アレクは杖を握り、力強く駆け出した。


身体強化の魔法を限界まで自身にかけ、何倍もの力で体を動かす。


風を切る速度で森を突き進む。


しばらく身体を動かしていなかったからか、久々の全力疾走に身体が悲鳴を上げる。


だが、そんなことは可愛い孫の危機には関係ない。


不意にアレクの右目がキラリと光った。


「誰だか知らんが、わしの孫に手を出すとは、

 よい度胸じゃのう!!」

第4話ありがとうございました!


もし少しでも気に入っていただけたら、

コメントやレビューで応援してもらえると嬉しいです!


次回――ついに世界最強の魔法使いの実力が明らかに!!


第5話 わし、怒る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ