第24話 わし、目を疑う。
「ん……んん。」
眩しい日差しにまぶたを押され、シュエルは目をこすりながら起き上がった。
ふと違和感を感じ、そっと視線を下へ向ける。
「キャァァァッ!?」
シュエルの隣で、小さな少年が丸くなって眠っていた。
艶やかな漆黒の髪。
頭にはちょこんと小さなツノが二本。
腰にはトカゲのような尻尾。
見知らぬ少年がそこにいた──。
「だ、だれなの……!?」
震える声に反応して、少年が目を覚ます。
「ん、んん〜……」
ゆっくりと瞳が開く。
夜空みたいに深く、星のようにキラキラと輝く瞳。
……この感じ、どこかで……?
「シュエル! 元気になったんだね!!」
少年がぱぁっと笑い、一直線に飛びついてきた。
「え、えぇ!? ちょっ……!?」
容赦なく抱きしめられ、シュエルはなすすべなく、もみくちゃにされた。
「ま、待って! 待ってってば!!」
必死で押し返し、なんとか引き剥がすことに成功する。
少年はきょとんと首をかしげていた。
「……あなた、誰なの?」
息を整えながら問い詰めると、少年は逆に不思議そうな顔をする。
「何言ってるの、シュエル。ステラだよ?」
「ええええええっ!?」
◇◇◇
五日が経った。
ヘクレアのおかげで、シュエルの体調は随分と安定してきた。まだ眠り続けておるが、じきに目を覚ますじゃろう。
しかし、手放しで喜べる状況ではない。
呪いを解くすべはいまだ見つかっていないのだ。
「はぁ……」
アレクは椅子にもたれ、重く息を吐いた。
刻一刻と死へと近づいていくシュエル。
何としてでも救う手立てを見つけねば……。
サエルの力も借りて調べてはいるが、成果は乏しい。
「どうしたものか……」
窓際に立ち、ぼんやりと外の景色を眺める。
焦りと無力感が胸の奥で渦を巻く。
──その時。
「キャァァ!?」
甲高い悲鳴が響いた。
「何事じゃ!?」
嫌な予感を抱えながら、全速力でシュエルの部屋へと走る。
……なんじゃ、前にも似たようなことがあった気がするのぅ。
そんなことを思いながら、扉へ手を伸ばした。
◇◇◇
ガチャッ。
「シュエル! どうした!」
勢いよく扉を開けた瞬間、シュエルが飛びついてきた。
「おじいちゃん!!」
目を覚ましたのか──。
胸の奥がじんわり温かくなり、思わず目頭が熱くなる。
よかった。本当に……よかった。
「おじいちゃん! ステラが! ステラが!!」
感極まりかけたわしを現実へ引き戻したのは、シュエルの悲鳴だった。
「落ち着くのじゃ。ステラがどうしたと――」
言いかけたところで、全てを察した。
ベッドの上に、見知らぬ少年がちょこんと座っていたのだ。
夜空を宿した瞳が、困惑したようにこちらを見返してくる。
ま、まさか……。
「ステラ……なのか?」
震える声で問うと、少年は首をかしげながら答えた。
「そうだよ? さっきから、おじいちゃんもシュエルもどうしたの?」
声変わり前の高い声が、場違いに部屋へ響く。
アレクは言葉を失った。
その様子を不思議に思ったのか、少年──いや、ステラは自分の身体を眺め、ようやく異変に気づいたようだ。
「……ん? え? んんん? えぇぇぇぇええええっ!?」
少年の絶叫が部屋中に響き渡り、壁がビリビリ震えた。
◇◇◇
「それで……本当にあなたはステラなの?」
一度落ち着くため、アレクたちは食卓に移って朝食をとっていた。
温かいスープを飲み干したシュエルが、不安げに問いかける。
「う、うん。ボクだよ!」
パンをかじる手を止めて、少年──いや、少年姿になったステラが返す。
本人もまだ状況を飲み込めていないようだが、様子を見るに間違いなく“ステラ”だ。
と、その時。アレクの脳裏にひとつの可能性がよぎった。
「……そうか。アミキティアの腕輪の影響かもしれんの。」
「これのこと?」
シュエルが腕にはめられた銀のリングを見せる。
魔力の暴走を抑えるため、増えすぎた魔力をステラへ流す役目を持つ腕輪だ。
「ああ。前に言ったじゃろう、精霊は主人と共に成長するとな」
「うん!」
「呪いの影響でシュエルの魔力量は跳ね上がった。
つまり“成長”したということだな。
それに加えて腕輪を通して膨大な魔力がステラへ流れ続けた。
その結果、人型を取れるほど力が強まったのじゃろう」
「「なるほど……」」
二人の声が綺麗に揃った。
そして次の瞬間、目を合わせた二人の瞳がキラキラ輝き出す。
「ってことはさ! 私たち……強くなったんだよね!?」
「ボクたち、もしかして……サイキョー!??」
「今ならさ、すっごい魔法使えるかも!」
「やってみようぜ!!」
キャッキャと盛り上がる二人。
「バカもん!!」
アレクのゲンコツが、二つの頭に同時に落ちた。
「いたっ!」「いてて!」
「あれだけのことがあったばかりじゃろうが!
少しは自重せんか!!」
「「はーい……」」
二人はしょんぼりと肩を落とした。
◇◇◇
「おじいちゃ〜ん! 見ててね!」
「すっごい魔法、使うからな!!」
朝食を終え、三人はの庭へと移動した。
危険だからと何でもかんでも禁止にするのは良くない。
わしの目が届く範囲で、無理のない範囲ならばと、魔法の試し打ちを許可したのだ。
そんなわけで、庭には期待に胸を弾ませる二人が並んでいた。
『『スピリトゥス・ウェンティ、アウディ・ウォケム・メアム。イン・ホク・スパティオー、ソルス・エゴ・レグノー』』
二人の詠唱が重なった瞬間、空気が震える。
風属性上級魔法─《テンペスト・サンクトゥム》
周囲の風が意思を持ったかのように巻き上がり、渦を描き、雲を押しのける。
差し込んだ陽光が庭を明るく照らした。
「ほぉ……見事なもんじゃ」
わしは思わず感嘆の声を漏らす。
二人の魔力は、明らかに数日前よりも桁違いに強くなっている。
「やった〜!!」
「っしゃあ!!」
無邪気に跳ね回るシュエルとステラ。
その姿を見ていると、自然と頬がゆるむ。
「本当だねぇ! すっごいじゃん、二人とも!!」
どこか鈴の音のように澄んだ声が届いた。
「あっ! ルクス!」
光をまとった小さな精霊が姿を現す。
「久しぶり、シュエル!元気になったんだな!
あの時は……ほんとに、ごめん!!」
ルクスは頭を深く下げた。
「ルクスのせいじゃないよ!」
シュエルはすぐに首を振り、優しく笑う。
「そうだ。あれはボクも止められなかったし、
お前だけの責任じゃねぇよ!」
ステラも肩をすくめた。
「……って、え?もしかしてステラ!?
人型になったのか!?」
ルクスは驚愕の声を上げる。
「ああ!そうだ!
オレ、強くなったんだ!」
ステラが自慢げに答え、ルクスは目をぱちぱちさせる。
「ま、まじか……こんな数日で……?」
「すごいだろ!? ボクは最強になったんだ!!」
えっへん、と胸を張るステラ。
「あはっ、なんだよそれ!」
ルクスが笑って肩を揺らす。
「あははっ! もうっ、ステラってば!」
つられてシュエルも笑い出した。
三人は楽しげに魔法を唱え、庭を走り回る。
──その姿を、わしは少し離れた場所からそっと見守った。
この幸せが、ずっと続けばいい。
だが、呪いは確実に進行している。
わしは拳をぎゅっと握った。
この子らの笑顔を奪わせてたまるか。
なんとしても、呪いを解いてみせる……。
静かに、強く、胸の内で誓った。
第24話ありがとうございました!
次回は第25話!
次回もぜひお楽しみに!
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