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第23話 わし、真実を知る。

「ん……」


かすかな声とともに、シュエルのまつげが震え、ゆっくりと瞳が開かれた。


「おお……目が覚めたか。」


思った以上に声が掠れていた。

どれだけ自分が心配していたのか、今さら思い知る。


「……おじいちゃん?」


シュエルはぼんやりとこちらを見つめる。


「魔力が暴走して倒れたんじゃよ。」


静かに言うと、シュエルは薄く息を呑んだ。


「……わたし…封印を……」


シュエルの声が微かに震える。


「気にするでない。

 いまは無理をしてはならん。」


シュエルは弱々しくも、素直にコクリとうなずいた。

その仕草があまりに小さく、かえって胸が締めつけられる。


「眠るんじゃ。

 わしは、ここにおる。」


その言葉に安心したのか、シュエルの瞼が静かに閉じた。


やがて、すう、すう、と規則正しい寝息が部屋に満ちる。


アレクはしばらく動けなかった。

——生きておる。

——戻ってきてくれた。


そっとベッドの端に手を置き、深く息を吐く。


「……ありがとうな、シュエル。」


誰にも聞こえぬ小さな声で呟くと、アレクは立ち上がった。


ステラが心配そうに枕元を離れなず、シュエルの顔を覗き込んでいる。


そっとシュエルの頭を撫で、安らかな寝息をたしかめてから、アレクは静かに部屋をあとにした。


◇◇◇


「へクレア。

 すまぬが……しばらくシュエルを頼めるか?」


アレクが言うと、へクレアは無言のまままぶたを伏せ、ゆっくりと頷いた。


淡い紫の瞳がちらりとアレクを見る。

まるで——何もかもわかっているかのように。


やはり気づいておるな……。


シュエルの呪いの根。

そして——アレクが今からどこへ向かうのか。


だが、へクレアは何も言わなかった。


「……任せて。」


その声音には穏やかさと、底にひっそり潜む鋭さがあった。


灯火の魔女——癒しだけではなく、人の運命すら照らし見るような眼差し。


「恩にきる。」


アレクは深く頭を垂れた。


——わしが行かねばならん。

——この呪いの源を断つために。


杖を握り、ゆっくりと目を閉じる。


風が部屋の中を走り、魔力が空間を歪ませる。

次の瞬間、アレクの姿は光の中に溶けるように消え、静寂だけが、部屋に残った。


◇◇◇


ケントラーレ帝国の帝都。


巨大な城壁が連なり、石畳の大通りには魔導灯が並び、昼夜を問わず煌びやかだ。


わしが住む森も、この帝国の領土に含まれておる。


―だが、こうして帝都に足を運ぶのは、何年ぶりじゃろうか。


王城にほど近い一角。

貴族街の中心に、ひときわ目立つ屋敷がある。


白亜の大理石に金の装飾。門には、その家の紋章である紅蓮の鳳凰が静かに羽ばたいていた。


「何用ですか。」


門番の青年が冷ややかな声音で問いかける。


「この屋敷の主人に会いに来た。」


「お約束はされてますか?」


「しておらん。」


「ならば、お通しすることはできません。」


ぴしゃりと拒まれた。


まったく……だから若造は困る。


わしは静かに、杖を持つ手に力を込める。


魔力をほんのわずか、空気に滲ませた──その瞬間。


「お、お待ちください! アレク様ですよね!?」


門の奥から年配の騎士が転がるように走ってきた。

その慌てた様子に青年は目を丸くする。


「も、もちろんお通しいたします!

 どうぞお通りください!!」


若い門番は、まだ状況が飲み込めておらんようで、

「アレク……様?」と小さく呟いておった。


門が開くと、庭には整えられた花壇と噴水。


屋敷は外観以上に豪奢で、廊下の壁には魔法の絵画が並び、床は磨き上げられた黒曜石の大理石。


案内されたのは、一際広く、豪華だがどこか落ち着いた雰囲気が漂う執務室。


「こちらです。」


◇◇◇


扉を開けると、机に向かい、山のような書類を睨みつけていたサエルが顔をあげる。


「……突然なんだ? 

 私は忙しいんだ。」


苛立ちを隠そうともしない。

だが、いまのわしに遠慮している余裕はない。


わしは悠々とソファに腰を下ろす。

肘掛けに腕を置き、真正面から告げた。


「シュエルの出生について、知っとることをすべて話せ。」


「は? 面倒だ。帰れ。」


いつもなら引いておるわしじゃが、今日ばかりは違う。

孫の命がかかってるんじゃ。


「誤魔化されぬぞ、サエル。」


低く抑えた声で言い放ち、じろりと睨み据える。

その視線に、サエルの手が一瞬止まった。


観念したように書類の束を机へ静かに置き、アレクの正面のソファに腰掛ける。


いつの間にかメイド達によって用意されていた紅茶が甘い香りを漂わせている。


サエルは小さくため息をつき、カップに口をつける。


どんなに疲れていても、仕草ひとつひとつが優雅だ。貴族の血というものか。


「で? 話せと言うからには……何があった。」


わしは息をひとつ吐き、喉の奥で重く言葉を押し出した。


「シュエルの“呪い”が発動した。」


サエルの表情から一瞬、色が抜ける。


「……そうか。」


短い返事。


だが、それはただの驚きではない。

何かを遠い過去を思い出しているような、そんな表情だった。


サエルは指先でカップの縁をなぞりながら、視線を伏せる。

ようやくその重い口を開いた。


「どこから話すべきか…。

 お前、ルエーシュ王国は知っているか?」


「ああ、魔法嫌いの国じゃろ?」


ルエーシュ王国。


魔法を忌み嫌い、魔法使いを虐げる国。

この世界で唯一、魔法を持たぬ国である。


「二ヶ月ほど前のことだ。

 時占いの魔女様と一緒にルエーシュ国へ行った。

 ある事件を止めるためにな──」


サエルはカップから目を上げ、重い視線をこちらに向ける。


その瞳に、何かを押し殺したような悲しみが宿っていた。


その国には、一人の魔女がいた。

ルエーシュ国第一王女。

シュルレリア・ルエーシュ──。

16歳の少女だ。


彼女は魔法の才に恵まれ、魔力に愛された魔女だった。


だが、国民は彼女を許さなかった。

悪魔だ魔王だと呼び、姫でありながら不幸な人生を送っていた。


国王と王妃も……最低の人間だったらしい。

娘を罵りつつも、その魔法を他国への兵器として利用していた。


それでも彼女は国のために魔法を使った。

彼女に8歳下の妹がいた。


たった一人の妹。

彼女を唯一、家族として支え続けた。

そんな妹を守るために―。


そんな時、隣国の軍事国家ミリタリス国がルエーシュ国へ宣戦布告をした。


国の軍だけだ到底太刀打ちできない。

腐った貴族たちはこう考えた。

もっと強力な力が必要だと──。


そして、禁忌に手を出した。


「ネファスの秘技を行ったんだ。」


サエルが重く言い放つ。


「なんじゃと!?

 あれは危険すぎる!

 固く禁じられておったじゃろう!!」


ネファスの秘技。

生贄を捧げ、魔法使いの魔力を増幅する禁断の魔法。


「そうだ。だから私たちが派遣された。

 だが間に合わなかった……。」


奴らはネファスの秘技を発動させた。

あろうことか、魔女が唯一大切にしていた妹に。


「まて、なぜ妹なんじゃ?

 あれは魔力の強い魔女でないと意味がないはずじゃろう?」


「運がいいのか悪いのか、妹にも魔女になれるほどの魔力があった。」

 

そこで腐った貴族どもはこう考えた。

力の強い魔女が二人に増えれば、国の力を倍増できると。


「最低のクズどもだ。」


そのことを知った魔女は怒り狂い、その強大な魔力を暴走させてしまった。


その結果、ルエーシュ国は滅んだ。


重苦しい空気が流れる。

わしはふとあることに気づく。


「まさか……その妹が、シュエルなのか?」


「……。」


沈黙がすべてを語っていた。


なんということだ……。


「つまり、シュエルのあの呪いは……」


空気が重く沈む。


「十中八九、ネファスの儀の影響だろうな。」


禁じられた魔法。解き方は誰も知らない。


「それで、時占いの魔女様は……。」


「ああ。あの時の私達には他に選択肢はなかった。

 朽ちかけた老木が、新芽を守れるなら本望だと言い、命を代償に呪いを封じたんだ。」


その封印が、今、解き放たれてしまった


わしは深い谷に突き落とされたような気分だった。


「最後に聞かせてくれ、姉の魔女はどうなったのじゃ?」


サエルは視線を落とし、静かに告げた。


「国を滅ぼした"魔女"は死んだ。」

第23話ありがとうございました!


次回は第24話!

シュエルの呪いを解くことができるのか!?


次回もぜひお楽しみに!


もし少しでも気に入っていただけたら、

ブクマやコメントで応援してもらえると嬉しいです!


毎週、火曜、木曜、土曜、日曜の午前中8時に投稿中です!

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