第18話 孫、決勝へ挑む
決勝戦。
シュエル対リクト。
誰もが息を呑んで試合開始を待つ。
杖を握る二人の弟子──
その視線が交錯した瞬間、空気が張り詰める。
「それでは決勝、シュエル対リクト、はじめっ!!」
ディアの号令と同時に、風がうなった。
最初に動いたのはシュエル。
『ヴェントゥス・コンウェルゲ・エト・フィゲレ・ホステム、ハスタ・カエリ!』
風属性中級魔法─《ストーム・スピア》
鋭い風の槍が音を置き去りにして突き進む。
空気を裂く轟音が広場を震わせた。
『ルクス・サクラ・プロテゲ・ノス・アブ・テネブリス!』
光属性中級魔法─《ホーリー・シールド》
リクトの前に展開された光の壁が、風の槍を受け止める。
火花のような光が弾け、空気が震える。
すかさずリクトが詠唱を開始する。
声は穏やかで、それでいて揺るぎない。
『ルクス・ディヴィーナ、コンウェルテ・イン・グラディオース・サクロース、ホステム・ルーチェ・プリウィフィカ・エト・ウーレ!』
光属性上級魔法─《オーレリウス・ブレイズ》
天を裂くように無数の光剣が出現し、嵐のように襲いかかる。
シュエルはとっさに風の防壁を張るが、その勢いは止まらない。
「くっ……こんなにっ!」
風が悲鳴を上げる。一本、また一本と光剣が貫き、最後の一本がシュエルめがけて一直線に飛ぶ。
「っ!……避けきれないっ!!」
覚悟を決めて、ぎゅっと目をつぶるシュエル。
「ピュイ!!」
その瞬間、耳元で小さな鳴き声が響いた。
熱気が頬をかすめ、光の刃が弾かれる。
「えっ……?」
「ピュイピューイ!」
ステラが影から飛び出し、炎を吐いて光剣を焼き払っていた。
「ドラゴン!?」
リクトの瞳が驚きに見開かれる。
「「「「はぁぁ!?」」」」
そして師匠たちまでもが一斉に叫ぶ。
「あぁ!出てきちゃダメって言われてたのに……!!」
シュエルが慌ててステラを影に戻そうとするが──
。
「ピュイ! ピュイ!」
ステラは押し返すように鳴き、瞳をまっすぐ見据える。
「一緒に戦うの?」
「ピューイ!」
力強い返事。
その姿に、シュエルは思わず笑った。
「もう! 一緒におじいちゃんに怒られようね!」
杖を握り直し、再びリクトへと向き直る。
「あはは……まさかドラゴンの使い魔とはね。」
リクトは苦笑を浮かべながらも、その目は真剣だった。
「なら、僕も出させてもらうよ──
来い、ヤコナ!」
クゥォォン!
毛並みが陽光を反射し、光り輝く、金色の狐が姿を現した。
「行くよ、ステラ!」
『ヴェントゥス・コッリゲレ・エト・ウォルウェレ・イン・カエルム!
イン・ドラコネム・コンウェルテ、エト・ホステース・デーレウィ!』
「ピュィィイッ!」
シュエルとステラの魔力が共鳴し、風と炎が渦を巻く。
風と炎の合体魔法─《イグニス・タイフーン》
灼熱の暴風が咆哮とともにリクトを呑み込む。
「ヤコナ!」
「クォォン!!」
ヤコナの身体が金色に輝き、光の障壁を展開する。
炎が弾け、風が爆ぜ、光がそれを押し返す。
ピキ……ピキッ……。
光の壁にヒビが走り、音を立てて砕け散った。
「やった……!」
シュエルが勝利を確信したその瞬間──。
「すごい魔法だ。けど──ごめんね。」
リクトの声が、頭上から聞こえた。
見上げた空には、光が集い、剣の雨が形を成していた。
『ルクス・ディヴィーナ、コンウェルテ・イン・グラディオース・サクロース、ホステム・ルーチェ・プリウィフィカ・エト・ウーレ!』
無数の光剣が天から降り注ぎ、シュエルの結界を切り裂く。
パリィィィン!!
爆風が広場を駆け抜け、土埃が舞う──
立っていたのは、リクト。
「勝者、リクト!」
◇◇◇
「はぁ……負けちゃった……」
肩で息をしながら、シュエルはその場にペタリと座り込んだ。
その膝の上には、小さな相棒──ステラがぐったりと乗っていた。
「ピュイ……」
ステラも疲れ切ったように弱々しく鳴く。
その声を聞いて、シュエルは思わず笑みをこぼした。
「うん、頑張ったね……ありがとう、ステラ。」
ステラの頭をそっと撫でる。
炎をまとう小さな体が、まだほんのりと温かい。
「お疲れ様。いい試合だったね。」
リクトが歩み寄り、手を差し出す。
光を受けたその掌は、戦いを終えたばかりとは思えないほど穏やかだった。
「あ、ありがとうございます。」
シュエルは一瞬きょとんとした後、少し照れながらその手を取る。
ぐっと引き上げられ、立ち上がると、互いの視線がぶつかる。
どちらも笑っていた。
戦いの中でしか交わせない、清々しい笑顔。
「次は負けませんから!」
「うん、その時を楽しみにしてるよ。」
小さな弟子たちの戦いは、確かに“成長”という名の勝利を残していた。
◇◇◇
「負けてしもうたか……」
アレクは肩を落とし、しょんぼりと項垂れた。
「おい!じいさん!
しょんぼりしてないで説明しろ。」
サエルが、満面の“いい笑顔”でこちらを見ている。
嫌な予感しかしない。
ゴクリと唾を飲み込む。
「……わし、何かしたかの?」
その言葉に、反応したのはユーリアとウルスだった。
「何かしたか?じゃないです!」
「そうっすよ!なんすかあのドラゴン!!」
二人がそろって立ち上がる。
ああ、これは完全に怒っとる顔じゃ。
「見たらわかるじゃろ。使い魔じゃな。」
「そういうことじゃないです!」
「そういうことじゃないっすよ!!」
二人の声がぴったり揃う。
息ぴったりじゃな、まったく。
「アレクさ〜ん?」
カルが、にっこりと笑いながら近づいてくる。
その笑顔にどきりとする。
「最後に野生のドラゴンが確認されたの、何年前か覚えてる〜?」
「さ、さあ? 五年前とかかの?」
「違う。五十年前。」
すかさずルカが冷静に訂正する。
その一言に場の空気がピシリと張り詰めた。
「五十年前……。あの時は大変だったよねぇ。」
カルが苦虫を噛み潰したように続ける。
「暴れて暴れて、街を一つ燃やしたんだから。
アレクさんも覚えてるよね?」
カルの笑顔がさらに深まる。
目が笑っておらん…。
「当時俺はいっかいの騎士でしたが……」
イュースが目を細める。
「とても苦労した記憶があります。
当時も“現役の九つの杖”であったあなたが、忘れたとは言わせませんよ?」
こちらもにっこり。
その笑みには殺意が見え隠れしている。
横を見ると、無表情のへクレアですら、眉をひそめてわしを見ておる。
わし……そんなに悪いことしたかの……?
「じゃって、五十年前のドラゴンは成体じゃったし!
ステラはまだ子どもじゃし!
そんな危ないもんじゃないと思ってのぅ……。」
「そういう問題じゃねぇ!!」
ドゴォッ!!
サエルの拳が火を吹き、ワシの身体が宙を舞う。
「ぐ、グハッ……!!」
倒れ込んだわしを見下ろし、サエルが怒鳴る。
「ドラゴンを見つけたらまず報告だろうが!!
九つの杖の常識どこに置いてきたんだ!!」
「……落としたんじゃろか……。」
「ふざけるな!!!」
怒号が響いた、その時だった。
ドタドタドタッ!
一人の若い騎士が息を切らせて飛び込んできた。
「九つの杖の皆様!! 緊急事態です!!」
その言葉に場が一気に静まり返る。
「なにごとじゃ!!」
アレクはすぐさま真面目な顔を作り、騎士の方へと向き直る。
内心では「よし、話題が変わった!」とほっと胸を撫で下ろしていたが──。
「……おい。」
サエルの冷たい声が、すぐ後ろから飛んできた。
ジロリ、と突き刺さる視線。
他のものも半眼でこちらを見ている。
わし……悪くない。
悪くないはずなんじゃ……たぶん。
第18話ありがとうございました!
次回——ついにアレク大活躍??
第19話 次回もぜひお楽しみに!
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