第17話 わし、孫の本気に驚く。
「それでは準決勝第一試合、シュエル対ラン、はじめっ!!」
風と神速────。
二人の少女の戦いが幕を開けた。
先に動いたのはランだった。
足元に風を巻き起こし、一気に地を蹴る。
『ウェントゥス・ケレル、コルプス・メウム・インペッレ』
風属性中級魔法──《エアロ・アクセル》
瞬間、彼女の姿が掻き消える。
目にも止まらぬ速さで距離を詰め、棍棒を振り抜いた。
「速いっ!」
リーリヤが興奮で声を上げる。
その速度はまるで一陣の疾風。
視線が追いつく前に、衝撃波が地面をえぐる。
だが────。
『ウェントゥス・スピランス、スクートゥム・アイテリス・コンスティトゥイ』
風属性中級魔法──《ウィンド・シールド》
対するシュエルは守りに徹する。
周囲を風が包み、見えない結界が張られる。
「ほぉ、意外と冷静だな。」
腕を組むサエルが感心したように呟く。
「じゃろ? さすがわしの孫じゃ。」
胸を張るアレク。だが、鼻で笑われる。
「待っても無駄。ランの速度には追いつけない。」
ランは静かに呟き、さらに風を纏った。
その足が地面を蹴ると同時に、空気が裂けた。
ゴウッ!!
音速を超えた風が空間を切り裂く。
ランの棍棒が再び振り抜かれた瞬間────。
「なっ……!?!?」
棍棒が、まるで紙のように細切れになった。
「……えっ?」
ランは信じられないというように固まる。
次の瞬間、目に見えない刃が彼女を襲った。
パリィィィン!
ランを守っていた結界が砕け散った。
「嘘だろ!?」
ウルスが思わず叫ぶ。
「……まさか。」
アレクもその目を細める。
「おい、じいさん!! 今の、何すかあれ!?」
ウルスが詰め寄る。
「あれは……風属性上級魔法『テンペスト・ドミニオン』じゃな。」
風の障壁を展開し、通過した物体を無数の風の刃で切り刻む。
防御と攻撃を兼ね備えた設置型の魔法だ。
「それは分かってるっす!」
ウルスが叫ぶ。
「俺が聞いてるのは、あいつが唱えたのは中級だったはずなのに、なんで上級が発動してんすかってことですよ!!」
そう……問題はそこなのじゃ……。
「……無詠唱か。」
低く呟いたのはサエルだった。
「じいさん、流石にそれはやりすぎっすよ……。」
「違う!わしのせいではない!!
断じて無詠唱魔法は教えておらん!!」
「じゃあなんで使えるんすか!! あんな小さい子が無詠唱魔法を教えるなんて!どうかしてますよ!!」
「本当に教えておらん!!
ただ……使っておるところは見ておったから、見よう見まねで覚えたのではないかの?」
「そんなわけあるかぁ!!」
全然信じてもらえぬ……。
いや、本当なのじゃよ……。
無詠唱魔法は膨大な集中力と魔力制御が必要。
子どもに教えたら暴走する危険があるから、絶対にまだ早いと思っておったのに。
……それなのに。
ふと視線をやると、シュエルがしゃがみ込んで自分の影を覗き込んでいた。
小さな手を地面にかざす。
ひょこっ。
影から黒い小さな頭が現れる。
ステラだ。
二人は軽くハイタッチを交わす。
「ああ……そういうことか。」
ステラの力か。
使い魔は主の魔法を補助する。
詠唱の代行や同時発動も、熟練した絆があれば可能。
シュエルは中級魔法を唱えるふりをし、同時にステラが上級魔法を代わりに発動させたのだ。
「末恐ろしい……。」
アレクは深いため息をつきながらも、どこか誇らしげに笑った。
◇◇◇
「え、えーと、気を取り直しましてっ……!
準決勝第二試合、リクト対ウスター、はじめっ!!」
次に戦うのは、灯火の魔女・へクレアの弟子リクトと、白閃の魔剣士・イュースの弟子ウスター。
「お久しぶりです。
リクトさん、お手柔らかにお願いしますね。」
ウスターは魔法使いでありながら騎士でもある。
そのため、彼は礼節を重んじる。
「久しぶり。
悪いけど、うちの師匠が珍しく乗り気でね。
負けるわけにはいかないんだ。」
リクトは微笑を浮かべつつ、杖を軽く回す。
杖の先端に光が灯り、やがてそれが刃を形作る。
ウスターの土俵に合わせて、剣で戦うつもりのようだ。
「へぇ〜意外だなぁ。あのへクレアちゃんが“乗り気”とはね〜。」
カルがニヤリと笑って茶化す。
「……。」
へクレアは何も言わず、ただ試合の方へと視線を向ける。
「まあ、勝つのは俺の弟子ウスターですけどね。」
沈黙を破るように、イュースが淡々と告げる。
その言葉に、カルとルカの視線が一斉に反応する。
「えぇ〜〜? それはどうだろ〜ねぇ?」
「案外あっさり負けるかも。」
カルがにやりと笑い、ルカが頷く。
イュースは肩をすくめて、余裕の笑みを浮かべる。
「見てれば分かりますよ。
まぁ、もし万が一負けたとしても……。
修行メニューが倍に増えるだけですけどね。」
ふっと口角を上げるその表情は、まるで悪魔のよう。
「うわ〜悪い顔してる〜!」
「ウスター、かわいそう。」
皆がワイワイ騒ぐ中ポツリとへクレアは呟いた。
「勝つのは……リクト。」
その瞳は弟子の勝利を確信していた。
◇◇◇
キィィン! キィィンッ!!
甲高い音が連続して響く。
光と鋼が火花を散らし、ぶつかり合う。
二人の魔剣士が、己の誇りを懸けて舞っていた。
「……はあっ!!」
ウスターが踏み込み、刃を横薙ぎに振る。
その剣には、イュース仕込みの強化魔法が乗っていた。
瞬間、地面が砕けるほどの踏み込み。
だが――。
「遅いよ。」
リクトの剣が輝きを増す。
ウスターの剣をしっかりと受け止めて、弾き返す。
キィィィィィン!
火花が散り、二人の間に風が巻き起こる。
「……さすがイュースさんの弟子。」
リクトは小さく笑い、杖を軽く払う。
瞬間、光の剣が三本に分かれ、まるで意思を持つようにウスターへと襲いかかる。
「なっ……!」
一瞬驚いたウスターだったが、すぐに剣を持つ手に力を込める。
その瞬間──彼の剣が閃いた。
白閃流──《ブレイド・リヴァリエ》
一瞬で三本の剣を弾き飛ばす。
だが────。
「くっ……。」
ウスターの視界がかすみ、がくりと膝をつく。
「そこだ。」
リクトは低く呟き、間合いを一気に詰める。
光の剣は輝きを増し、閃光が爆ぜる。
パリィィィィィン!!
ウスターの結界が砕け散る。
「勝者、リクト!」
ディアの声が響くと同時に、リクトは深く息をついた。
「完敗です。」
ウスターは潔く膝をつき、剣を地に突き立てた。
敗北を潔く受け入れるその姿は、敗者というよりも戦士の風格に満ちていた。
リクトはそっと手を差し伸べ、魔法をとなえる。
『ルクス・ディウィーナ・プルガ・ウェネヌム・エト・コルプス・サンクティフィカ』
光属性中級魔法ー《ピュリフィケーション》
淡い光がウスターを包みこむ。
その瞬間、ウスターを襲った異変が取り払われる。
「ありがとうございます。」
ウスターが微笑むと、リクトは少し気まずそうに頭をかいた。
「ごめん。
毒の魔法、ちょっと大人気なかったかな。
師匠に絶対に勝てって言われててさ……。
正直、純粋な剣だけじゃ勝てなかったから。」
「いえ。気にしてませんよ。
第一、リクトさんにはもっと色々な魔法があったでしょう。
俺の得意な剣術勝負を受けてくださった以上、負けたのは俺の実力不足です。」
二人は笑い合い、互いの手を強く握り合った。
敵として戦い、戦士として認め合う。
その姿を見て、ディアは小さく微笑んだ。
「……いい試合だったな。」
審判としてではなく、一人の観客として、心からそう思えた。
◇◇◇
だが────。
そんな美談で終わらせてはくれない、無粋な者たちがいた。
「いやぁ〜、惜しかったねぇ〜?」
「俺の弟子が勝つって、あんなにドヤ顔してたのに。」
カルとルカが、ここぞとばかりにイュースを煽る。
その表情は満面の笑み。
だが、言葉の棘は刺すように鋭い。
イュースは穏やかに微笑んでいた。
――が、その眉はぴくぴくと震えている。
「ま、まぁまぁ! 勝負は時の運って言うじゃないですか!」
ユーリヤが慌てて取りなそうとするが、イュースの微笑みが──ゆっくりとウスターの方へ向く。
「ウスター。」
「は、はいっ!」
「明日からお前の訓練メニューは今の三倍だ。」
「えっ……。え、えっと……イュース団長、それは……?」
「何か問題でも?」
にこり。
まるで見るもの全てを凍てつかせるような笑顔。
「ひ、ひぃ……っ!?」
ウスターの顔が青ざめた。
そんなやりとりを見ていたアレクは小さくため息をつく。
「お気の毒様じゃ……。ウスター、次に会う時は別人になっておるかもしれんな。」
そう呟きながら、密かに手を合わせた。
──ウスターの魂に、黙祷を。
◇◇◇
そして、ついに────。
最強の弟子を決める決勝戦の幕が上がる。
シュエル対リクト。
少女達の、騎士達の熱い戦いに決着のときがくる。
──が、その裏で。
「ふふふ……ここで勝った者が他の者を“いじり倒す権利”得るのじゃな。」
もう勝った気でいるアレク。
「はぁ?」
「そんな権利ないっすよ!」
「そうですよ!あくまでもシュエルちゃんが頑張っただけじゃないですか!」
「そんな意地汚いことしてたらシュエルちゃんに嫌われちゃうよ〜」
「そうだそうだ!」
「流石にそれは人としてどうかと思いますよ。」
それに口々に反論する九つの杖達。
全力を尽くす弟子達とは裏腹に師匠たちのくだらない争いにも決着の時が訪れる。
そして今――
アレクとヘクレアを除く残り六人の九つの杖の心は、完全に一つとなっていた。
頼む……アレク、負けてくれ……!
あいつにだけはいじられたくない……!!
あいつに偉そうにされるのは我慢ならない!!
第17話ありがとうございました!
次回——次は決勝!
第18話 次回もぜひお楽しみに!
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