第16話 弟子達、師匠のために頑張る!
「勝ったよ! おじいちゃん!!」
シュエルが駆け寄ってきた。
顔には疲労の色が滲んでいるが、その表情は眩しく、笑顔だった。
「うむ。よくやったな。」
アレクは優しい眼差しでシュエルの頭を撫でる。
「おじいちゃん……見ててくれた?」
「見てたとも。最初から最後まで、ずっとな。」
その言葉に、シュエルの瞳が潤む。
ただの勝利じゃない。
──初めて、踏み出した。夢への一歩。
「う、うそ…私が…負けるなんて……!!」
アウラが唇を噛み締め、拳を震わせていた。
強気な少女の瞳に、悔しさの雫が光る。
サエルがため息をひとつ。
「お前もまだまだだな。
明日から練習メニューを三割増しにしてやらないとな。」
「そ、そんなぁーー!!」
思わず叫ぶアウラ。
しかし、サエルの手がぽんと彼女の頭に乗せられる。口調とは裏腹にその表情は暖かかった。
アウラの肩が小さく震え、次の瞬間にはぐいっと涙を拭っていた。
パッと立ち上がり、彼女はシュエルに向き直った。
「シュエル!!
今度会った時は、絶対に負けないんだから!!」
「うん! 次も私が勝つよ!」
ふたりは熱い視線を交わす。
笑顔のまま、両者は小さな手をぎゅっと握り合った。
アレクは深くうなずきながら、長い髭をゆっくりと撫で下ろした。
目を細め、遠い日の記憶を思い出す。
「うむ……青春とは、良いものじゃな。」
そんな小さな呟きに応えるように、サエルはふっと笑った。
◇◇◇
「それでは第ニ試合、シモン対ラン、はじめっ!」
第二試合は、ユーリヤの弟子・シモン・タッシャドールと、ウルスの弟子・ラン・ロロトの戦い。
ディアの声が響くと同時に、シモンが杖を構える。
シュバッと音を立て、水が集まり渦を巻き、鋭い槍がいくつも出現する。
『ハスタエ・アクアエ・シムル・フェリテ・ホステム』
水属性中級魔法ー《ウォーター・ジャベリン》
十数本の水の槍が一斉にランへ向かって突き刺さる。
だが──そのすべてを、ランは最小限の動きでかわした。
「ふぅん、なかなか速いな。でも……。」
『テッラ・フィンディトゥル、フラムマエ・ルブラエ・エクススルギテ』
すぐさま炎の陣が足元に展開される。
炎属性中級魔法─《フレイム・バースト》
地面が爆ぜ、紅蓮の炎柱が立ち上る。
だか、それも軽い動きで躱されてしまう。
多種多様な属性の魔法を自在に操るシモンに対し、肉体を鍛え、身体強化の魔法一本で挑むラン。
まるで頭脳と肉体の激突だ。
「そこよ!シモン!」
「今だ!ラン!」
静かに技を技をぶつけ合う弟子たちとは裏腹に、外野はやたらとうるさい。
そんな外野を見てシモンはため息をついた。
「はあ、まったく……。
なんで僕がこんな茶番を?子ども相手に僕が負けるはずないというのに。」
肩をすくめ、嘲るように笑った。
対するランは冷めた目で一言。
「あなたも子どもでしょ。」
「年齢はね。でも僕は違うんです、ここが。」
コツコツと自分の頭を指し、得意げに笑う。
「僕は生まれながらの天才。
頭の出来が違うんですよ。
その証拠に、僕は全属性を扱える。
参考までに聞かせてください。
あなたはいくつの属性を?」
ニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。
「無と風の、二つ。」
「たったの二属性とは!」
大袈裟な身振りで驚いてみせるシモン。
ランの瞳がすっと細くなる。
表情は静かだが、内に宿る闘志が明らかに燃え上がった。
「ムカつくやつ。」
瞬間、彼女は速度を上げる。
「は、速い!」
慌てて防御陣を展開するシモン。
光の結界が瞬時に形を取り、さらにその周囲に土の壁が重なる。
『テッラ・コンスルゲ・エト・プロテガム・メ!』
『ルクス・サクラ・プロテゲ・ノス・アブ・テネブリス』
二つの詠唱が重なり合う。
土属性中級魔法ー《ストーン・ウォール》
光属性中級魔法ー《ホーリー・シールド》
「土と光の二重防御です!
これならどこからきてもあなたを止められる!」
「ほお、二重詠唱か。」
アレクは息を呑む。
あの歳で二重詠唱を使いこなすとはな……。
だが──。
彼女は止まらなかった。
彼女の棍棒が二重の結界を粉砕する。
そして、砕け散る土壁と光の破片の中、ランの姿が消える。
「っ?!どこにっ!?」
焦るシモン。次の瞬間、背後から声がした。
「ここ。」
ドスン!
振り下ろされた棍棒がペンダントの結界を粉砕し、シモンの頭に直撃した。
「うそだ!?」
見事な一撃だった。
「ランの方が、強い。」
ランは冷たい瞳で見下ろす。
そのまま、とどめに“軽く”もう一発。
「いったぁぁ!?」
頭を押さえ、情けない声を上げるシモン。
「……間抜けな声。」
ふっと笑うラン。怒りはすっかり消えていた。
清々しい笑顔を浮かべながら、勝者は背を向ける。
「次こそは負けない!!」
「次もランが勝つ。
中途半端より、一つの魔法を極めた方が強い。」
ぐぬぬ……と唸るシモン。
実際、ランは身体を強化する魔法だけで戦っていた。
本来なら少し身体能力が上がるだけの魔法。
だがそれを極限まで鍛え上げた結果、恐ろしく速く、重い攻撃を繰り出した。
「う、嘘…早すぎる……!?」
呆然と呟くユーリヤ。
「どーだよ、俺の弟子!
身体強化に加えて風魔法で速度ブーストしてるんだ。
速度だけならイュースを超えてるんじゃねぇか?」
鼻高々に笑うウルス。
「ふん。仮にも俺は『九つの杖』の一人。
その上、身体強化魔法で俺に勝てるものはいないよ。」
イュースは鼻で笑いながら腕を組む。
「まあ、確かに身体強化でイュースの右に出る者はいないけど、『神速の魔女』の名に恥じないスピードだったんじゃない?」
ケラケラと笑いながら、カルが軽口を叩く。
「……神速の魔女?」
怪訝そうに首を傾げるユーリヤ。
「あれ?知らないの?」
カルがきょとんとした顔をした。
「先日、あのランに『神速の魔女』って二つ名が与えられたんだ。」
静かに補足するルカ。
「なっ、言っただろ!俺の弟子は天才なんだ!」
ウルスが胸を張る。その顔があまりに得意げで、
ユーリヤは小さくため息をつく。
「あなたの弟子ってのが癪に障るけど……
優秀なのは認めるわ。」
◇◇◇
「それでは第三試合、アイシャ対リクト、はじめっ!」
ディアの声とともに、戦いの幕が上がる。
第三試合は、カルとルカの弟子・アイシャ・ルート。対するは、へクレアの弟子・リクト・パールス。
リクトは柔らかな印象の少年だった。
見た目の年齢はシュエルと同じくらいの八、九歳ぐらい。
淡いオレンジ色の髪はゆるくカールし、陽の光を受けてキラキラ輝く。
大きな瞳に長いまつげ、どこか無邪気な笑顔の少年。
「はあ……まったく師匠には困ったものですよね。
こんな小さな子たちと争えだなんて。
私達の年齢、考えてほしいものですよ。」
アイシャは肩をすくめた。
彼女はいつも自由奔放な師匠達に振り回されていた。
リクトは軽く首を傾げ、にっこりと笑う。
「そっか、君は今年で十八歳なんだっけ?
成人だよね。でも、それをなんでボクに言うの?」
「え?そんなの決まってるじゃないですか。
大人って意味では同じじゃないですか。
あ、でも私と違っておじ──」
言い終える前に、空気が裂けた。
バシュッ!!
次の瞬間、アイシャの身体は地面に叩きつけられていた。
ペンダントが砕け、きらりと光の粒が宙に散る。
「……何か言ったかな?」
先ほどと同じ笑顔。
だがそこには確かな圧があった。
「なにも……言ってないです。」
こうして、第三試合は始まってすぐに幕を閉じた。
◇◇◇
あっという間に準決勝が始まる。
シュエル対ランの戦い──。
「おじいちゃん、頑張るね!」
シュエルは自信満々にそう言う。
「うむ。応援しておるぞ。」
アレクも優しい笑顔で送り出す。
「ラン! 次も勝つんだぞ!
勝って勝って優勝するだ!」
まるで自分が戦うかのように、ウルスは熱意に燃えていた。
「うん、勝つ。」
ウルスとは対照的に冷静なラン。
だが、その心には静かな炎が燃えていた。
風vs神速──。
少女達の熱い戦いが、いま幕を開ける。
第16話ありがとうございました!
次回——次は準決勝!
風vs神速
決勝へ進むのはーー!?
第17話 次回もぜひお楽しみに!
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