第14話 わし、孫を自慢したい!
マリティムムでの一件以来、シュエルは今まで以上に魔法の修練に力を入れるようになった。
魔法の師匠として、それは嬉しいことなのじゃ。
嬉しい……はずなのじゃが。
「おじーちゃーん!!見ててね!」
「ピュイ!!」
輝くような笑顔で、わしを呼ぶシュエルとステラ。
その目はやる気に満ちている。
『ヴェントゥス、フュレーレ・エト・スピラーレ・イン・アエテルヌム!ドラコ・カエリ、エクススルゲ・エト・ワストゥム・エクセルチェ!』
澄んだ声が森に響いた。
ステラも「ピュイッ!」と鳴いて、シュエルの魔力を増幅させる。
ドゴォォォォォンッ!!!
爆音と共に大気が唸りを上げた。
風が一点に収束し、凄まじい渦が生まれ、
そのまま爆発的な衝撃波が周囲を飲み込む。
風属性最上級魔法─《テンペスト・インフェルノ》
──そして、できたのは。
クレーター。
「……うそじゃろ。」
わしは呆然とその光景を見つめた。
木々はなぎ倒され、地面はえぐれ、一帯がまるで巨人が拳を振り下ろしたような有様じゃ。
「末恐ろしい子じゃわい…。
この歳で、ここまでの魔法を……。」
師匠として、嬉しさ半分、恐怖半分。
だが、しかし──。
コツンッ。
「いたっ!」
「ピュイッ!?」
わしは二人の頭を軽くこづいた。
「馬鹿タレが! 森を消し去ってどうする! とっとと元に戻さんかい!」
「……はい。」
「ピュイ……。」
しょんぼりと項垂れるシュエルとステラ。
その姿に若干胸が痛むが、ここは心を鬼にせねばならん。
間違ったことは、きちんと叱る。
それが保護者というものじゃ。
はぁ……まったく、誰に似たんじゃろうか。
「アレク様!!!」
空から声が響いた。
見ると、一羽のフクロウが空から舞い降りてくる。
「わっ!? なんすかこれ!?
まさかアレク様がやったんじゃないっすよね!?
いくつになってもあなたって人は!!」
フクロウは着地すると同時に、くるりと宙返りし、
茶髪の少女の姿に変わった。
「コホン。わしではなく、シュエルじゃ。」
「え、えぇぇぇっ!?!? シュエルちゃんが!?」
ノクティの表情が固まる。
その後ろで、シュエルは照れくさそうに頭をかいていた。
「で、なんの用じゃ?」
「あ、そうっす!これ!サエル様からっす!」
ノクティは慌てて一枚の封筒を取り出す。
魔導庁の紋章が刻まれたそれを開くと、それは──。
──九つの杖 定例会議開催の通知書じゃった。
「……また、面倒な話が始まりそうじゃの。」
わしは小さくため息をついた。
◇◇◇
「わぁ!!すごい!!」
シュエルの瞳がきらきらと輝く。
目の前に広がるのは、色とりどりの魔法灯がきらめく街並み、その中心にそびえる白亜の魔導城。
ここは──魔導都市国家『ウルプスマギカ』
魔法使いたちのための国。
魔法を学び、研究し、最先端の知識と技術が集う場所。
空には浮遊馬車が行き交い、
街角では氷魔法で冷やされた果物が並ぶ。
人々にとって、魔法はもはや「力」ではなく「生活」そのものだった。
「行くぞ、シュエル。
わしらの目的地は──あの城じゃ。」
アレクが杖で指した先、陽光を受けて輝く魔導城が、堂々と街の中央にそびえ立っていた。
◇◇◇
城へ着くと、一番に出迎えてくれたのは──。
「師匠、シュエルちゃん。
ようこそ。お待ちしておりました。」
そう言って、丁寧に一礼するディア・コイド。
「久しぶりじゃのう、ディアよ。」
「あ! お兄ちゃん! 久しぶり!」
「久しぶり」と返したディアだったが、次の瞬間、シュエルの肩に乗るステラを見て目を見開いた。
「し、師匠!! なんですかこのドラゴンは!!」
「ん? ああ、シュエルの使い魔じゃ。」
「なっ……! ドラゴンですよ!?
滅多にお目にかかれない希少な種族ですよ?!」
「わしの孫は天才なんじゃ。」
「師匠…孫バカも大概にしてくださいよ……。」
呆れたようにため息をつくディア。
そんな二人のやり取りに、シュエルはくすくすと笑った。
「ねぇ、そういえばお兄ちゃん、なんでここにいるの?」
「ん? ああ、それは…僕がここで一番偉いからだよ。」
にっこりと笑いながら、さらりと言い放つディア。
「……え、いちばん…えらい?」
ぽかんとするシュエル。
まあ、無理もない。
普段の姿からは全く想像がつかない。
だが実際には、ディア・コイドはこの魔導都市国家をまとめるトップである魔導庁長官。
つまり、この国で最も権限を持つ魔法使いの一人なのじゃ。
……ほんに、師匠としては鼻が高いのう。
ただ、普段のこいつを知っとると、ちゃんとやっておるのか少々不安にもなるが。
「さ、案内しますね。」
そう言って、ディアは軽やかに歩き出した。
石畳の廊下に、靴音が響く。
「そうじゃ、シュエル。
ステラは影に入っておいた方がええじゃろう。」
「なんで?」
「ピュイ?」
「絡まれると厄介な奴らが多いからな……。」
◇◇◇
「こちらでお待ちください。」
そう言い、ディアは扉を開く。
「よう、遅かったな。」
部屋にはすでに先客がいた。
サエルだ。
「なんじゃ? わしが二番手か?」
「そうだな。珍しい。」
優雅に紅茶を飲むサエル。
だが、一つ気になることがあった。
「弟子を連れてこいっていう話じゃなかったか?」
そう。手紙には、それぞれ弟子を連れてくることと記載されていた。
「連れてきたさ。今、屋敷を探索中だ。」
「そうか。それで、なんで弟子を連れて来させたのじゃ?」
「ああ、最近新しく弟子をとった者もいることだし、紹介をと思ってな。
それに、老骨ばっかりじゃつまらないだろ?」
そんな理由かと呆れたその時──。
ガチャッ!
扉が勢いよく開かれる。
「師匠!師匠!
この城すごいわ!って、あれ?この人たち誰?」
快晴の空のような青髪を揺らし、元気な少女が部屋へ入ってきた。頭には三角形の帽子、ローブにはところどころリボンがあしらわれ、実に女の子らしい可愛らしい装いだ。
「アレクだ。私の同僚だ。挨拶しな。」
「コホン!
私は雷光の魔女、アウラ・ストュスよ!
よろしく!」
自信満々に胸を張り名乗りを上げる少女。
「わしはアレクじゃ。
こっちはシュエル。
そんな幼いのに二つ名があるなんて、すごいのう。」
二つ名。
それは力ある魔法使いに魔導庁より与えられる称号だ。
大抵はその者の得意な魔法を示唆するものが多い。いわば、力ある魔法使いと認められた証である。
「そうでしょ!
私は将来すっごい魔女になるんだから!」
ふっと隣からサエルの笑う声。
「自称だぞ。」
あ、そう。自称なのじゃな……。
まあ、威勢がいいのは良いことじゃ。
ガチャッ、再び扉が開く。
入ってきたのは女性と少年。
縦にクルクルとカールした長い茶髪。宝石やフリルがふんだんにあしらわれつつも上品さを醸し出す、貴族令嬢のような礼服に身を包む女性。
少年の方も質の良さそうなローブに身を包んでいる。艶やかな紫の髪、顔には丸メガネ。どこか知的な印象を与える。
「サエルさん、アレクさん!
お久しぶりです!お変わりないですか?」
女性の方が話しかけてきた。
「ユーリヤか、久しぶりだな。」
「ああ、久しぶりじゃな。」
彼女は《指揮者の魔女》ユーリヤ・マッカール
九つの杖の一人であり、現【九つの杖】の中で最年少、サエルのファンでもある。
「それで、そっちがお前の弟子か?」
「はい! シモンです。
とても賢く、わたくしの自慢の弟子です。」
「シモン・タッシャドールです。
よろしくお願いします。」
そう言い、頭を下げる少年。
動作がとても落ち着いていて上品だ。
「お二人のお弟子さんは?」
「シュエルです。」
「アウラよ!」
「まあ! 可愛い!」
きゃーと騒ぐユーリヤ。
「可愛さなら負けてないぜ。」
少し低めの声が部屋に響く。
扉の方を見ると、また二人組が入ってきた。
緑色の髪を後ろに三つ編みで束ねた青年と、金髪のおさげの少女。
「ウルスか、お主にしては早いな。」
「いつも遅刻だからな。」
《創造の魔法使い》ウルス・スーヤ
【九つの杖】の一人で、一流の魔道具職人でもある。九つの杖、いちの遅刻魔だ。
「今日の俺は一味違うんすよ。
と言いたいところですが、今日は弟子のおかげっすね。
こいつが弟子のランっす。」
そう言って、後ろにいた少女の背中を押し、ぐいっと前に出す。
「ラン・ロロトです。」
少女は淡白にそう答え、ペコリと頭を下げる。
「あの、遅刻魔を時間通りに連れてくるなんてな。
優秀な弟子でよかったじゃないか。」
サエルは揶揄うように笑う。
こいつ、本当にいい性格しておるよ。
「むっ!
それならわたくしの弟子だって有能ですのよ!」
なぜか張り合うユーリヤ。
「いや、絶対俺の弟子の方が上だな。
魔法はもちろんだが、家事まで完璧にこなしてくれるんだ。
負けるわけない!」
「それはあなたが何もできない、何もしない無能なだけでしょう!」
二人は同世代で、いつも張り合っている。
仲良しはいいことじゃな。
わしとサエルのように…仲良し……じゃよな?
「なになに〜? 揉めてるの?」
「なに?」
ひょこっと現れたのは黒髪の少年二人。
紺色のローブに身を包んでいるが、顔は瓜二つで見分けがつかない。
「あ、カルさん、ルカさん。お久しぶりです。」
「おひさしぶりっす。今、どっちの弟子が優秀かって話をしてて。」
彼らは《双影の魔法使い》カル・ロッパと『ルカ・ロッパ』
【九つの杖】の一人で、幻影魔法のスペシャリストだ。二人は少々特殊で、二人で一人の存在である。
「ふ〜ん。それならもちろんボクたちの弟子でしょ。」
「オレたちの弟子が一番優秀。」
うんうん、と頷き合う双子。
「弟子っていないじゃないっすか。」
呆れ気味に返すウルス。
そう、双子の後ろには弟子と呼べる存在もそもそも誰も部屋に入ってきていない。
だがその時──。
「ちょっと!! カル様、ルカ様!
置いてかないでくださいよ!」
赤髪を肩の位置できりそろえた、おとなしそうな女性が慌てた様子で部屋に入ってきた。
「ほら、ちゃ〜んの連れてきてるよ。
会ったことあったっけ?
ボクたちの弟子、アイシャ・ルートだ。」
「アイシャ、ちょうどいい。
みんなに有能って証明してやれ。」
「あ、アイシャ・ルートです。
お久しぶりです。って、え?ルカ様?
有能って、なんですか?!」
その後も自分の弟子が一番だと言い張る四人。
仕方ないのう。
わしは四人に言い放つ。
「やめんか。1番有能なのは、わしの孫であり、弟子でもあるシュエルじゃ!!」
はぁ、と背後でサエルの大きめのため息が炸裂する。
「孫っすか?」
「え? そんな小さな孫なんていた?」
「いつの間に?」
男三人はきょとんとした顔をする。
これは語ってやらねばな、そう思ったその時──。
ガチャッ。
「遅れてすみません。
少し騎士団で揉め事がありまして。」
騎士二人が入ってきた。
お揃いの礼服に身を包む二人組。
桃色の髪の男性は《白閃の魔剣士》イュース・ロフ
【九つの杖】の一人にして、魔導庁直属の騎士団団長を務める男。
そして後ろの紺色の髪の男性が、イウスの弟子で騎士団副団長のウスター・ドローニ。
「いや、問題ない。これで七人か。
ヤツはどうせ不参加だろう。
なら、これで全員だな。会議を始めよう。」
会議室の扉が静かに開く。
サエルの号令に従い、九つの杖たちは会議室へと集まった。
そこには九つ椅子が置かれた円卓。
六人が各々の席に腰掛ける。
そして、七つ目の椅子には、いつの間にか音もなく部屋に入ってきた金髪の女性が腰掛ける。
彼女は《灯火の魔女》へクレア・トト
八つ目の席はサエルが先ほど言っていた”ヤツ”だが、基本的に不参加なので今日も空席のままだろう。
九つ目の席は以前《時占いの魔女》の席だったが、後継者は未だ選ばれておらず、こちらも空席。
こうして、最強の魔法使い達、九つの杖がほぼ揃った。
定例会議が静かに始まる。
議題は────
「やっぱりボクはアイシャが一番優秀だと思うんだよね。」
「うん、アイシャ優秀。」
「いーや!うちのランっすね!」
「シモンも負けてないです!」
「優秀な弟子の話かい?なら、うちのウスターも負けてないよ。」
「待つのじゃ!誰がなんと言おうと、わしの孫、シュエルが一番優秀じゃ!」
──議題は、弟子自慢だ。
そっと頭を抱えるディア・コイド。
彼は九つの杖に次ぐ権力者、魔導庁長官として会議室に控えていたのだが、何も言えず、ただ空気となっていた。
最強の魔法使いが集まっていったい何を話しているのやら……。
もっと話すべき議題があるはずなのだが……。
そして、ディアはポツリと呟いた。
「アレク師匠…僕もあなたの弟子ですよ。」
第14話ありがとうございました!
次回の——「もういっそ、実力で決めろ!」
第15話「孫、おじいちゃんの為に頑張りたい!」
次回もぜひお楽しみに!
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